『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』第二十三話 〜Luck! Back! Attack!〜 投稿者:T-star-reverse


 私は幸運だ。
 なんだかとってもそう思う。
 私が仕えるのは素晴らしいお方なのは、幸運と言うよりは幸せで。
 今、私の周りにいる大勢のいい人たち。
 この人たちと仲良くなれたのは、幸運といえるんだと思う。

「みなさん、お疲れさまですー!」


『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』
 第二十三話 〜Luck! Back! Attack!〜


 珍しくいつもの甲冑ではなく特注の制服に身を包んだアレイが、お盆に飲み物を載せてくる。
 それを受け取るのは、矢島と橋本を始めとした暑苦しい男子の一団……薔薇部である。
「いやー、ありがとうアレイちゃん」
「うーん、この炎天下歩き回ったあとのジュースは格別だなあ!」
 わいわいと楽しげに騒ぎながら、中庭自動販売機の辺りでたむろする彼らであるが、どうしてか、
ここまで一度も戦闘に遭遇することがなかった。
 まあ、暑苦しい薔薇部のメンバーにわざわざ近寄ろうとする物好きがいないのもあるだろうが。
 本当の理由は、別の所にある。
「……それにしても、みなさんあまり好戦的じゃないみたいですねぇ」
 紙パックのカフェオレなど飲みつつ、のんびりと感想を漏らすアレイ。
 それもそのはずこのアレイ、薔薇部の面々と合流するまで、他の参加者と何度もすれ違ったりして
一触即発とも言える状況にはあったのだが、普段から甲冑を着込んでいるアレイのこと、
素顔で制服を着ているこの姿が、エントリーヒロインであるところの“アレイ”と一致する者は、
学内でもかなり限られるところであるらしく、その度に何事もなく通り過ぎていた。
 そしてようやく薔薇部と合流してからは、学内を練り歩いているにもかかわらず、本気で他の
エントリーヒロインや敵と遭遇することがなかった。
「はふぅ〜。なごみますねぇ」
「なごんでばかりいても、優勝は出来ませんよ?」
 突然の声。
 アレイがきょろきょろと周囲を見渡すと、背後の自動販売機の下にギャラがいるのを見つけた。
「あ、ギャラさんこんにちは〜。ぺらぺらですね?」
「ええ、ぺらぺらですとも。そして科学も魔法も私の存在を理解は出来ませぬ! たうっ!」
 かけ声と共に、ギャラの姿が厚みを取り戻して自販機の前に悠然と佇む道化師の姿を形作る。
 そして、にやり、と笑みを浮かべ、アレイに向けてぴしっ、と指をさす。
「ルミラさんから、あなたのことをよろしく頼まれました。そこでいい情報があります」
「ルミラさまからっ!? 心強いです! ……そ、それでその情報とは?」
 わくわくどきどきと胸を弾ませて尋ねるアレイ。尊敬するルミラが絡むといつもこんな具合である。
「ふふふ、慌てる(ピー)はもらいが少ないと言います。道々お話ししましょう。
 ……それでは、薔薇部のブラザー諸君! いざ、行きましょうぞっ!」
「おーっ!!」
 なんだか盛り上がる中庭の風景であった。



「……ねえ」
「……なによ」
「……あたしたち、いつまでこうしてるの?」
「……私に聞かないでよ」
「……二人とも、静かにして」
 岡田、松本、吉井の三人組は、不本意ながら身を伏せてじっと息を殺していた。
 何故かといえば、彼女たちのすぐ近くで思いっきり修羅場が展開されているからだ。
 岩下信と、藍原瑞穂と、SOS。
 具体的に言うと、教室の壁一枚分。
「……ひぃぃぃ、岩下くんの声、怖いよぉぉ」
「……うう、誰よこんな教室に隠れようなんて言いだしたのはっ」
「……柏木さんがやられて、食堂も安心できないって言ったのはあなたじゃない」
 喧々囂々。ただしぼそぼそ。
 限りない緊張感は、彼女たちが背を預けている壁の向こうからもびりびりと伝わってくる。
 彼女たちも言いたくはないだろうが、まさに『脇役の出る幕ではない』といったところか。
「……でも、吉井が主役の作品ってあったわよね」
「……それを言ったら、岡田だってヒロイン扱いのSSがあったよー」
「……松本だって、コミケで販売されたSS本に主役のやつがあるじゃないの」
 少し声が大きくなる三人。
 しかしその瞬間。
「……だったらどうだというんだっ!?」

 びくっ!!

 岩下の声がひときわ大きくなり、三人の身体がびくりとすくみ上がる。
「……ちょっと、あたしもうここでこうしてるの耐えられないわよ?」
「……あたしも……っていうかトイレ行きたい……」
「……こうなったら、隙を見て一気に駆け抜けて逃げ出しましょ」
 顔を見合わせて頷く三人。
 そして、三人はゆっくりと廊下の様子を窺い始めた……。

 ちなみにたくたくは買い出しを命じられたものの、修羅場を前に戻れず、やはり立ち往生していた。



 ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 がらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらがらら!

 どごんどごんどごんどごんどごんどごんどごんどごんどごんどごんどごんどごんどごん!

 するするするする。
 
 車の限界近い排気音。屋台の車軸ががたつく響き、そして電柱と気弾の雨霰。
 爆走する車FENNEKの窓が開き、そこから一本の棒のようなものが顔を出した。
 加速でしなり、カーブでしなり、その細さがいかにも心許ない。
「……セリオさん、いつもその釣り竿持ってるの?」
「――はい。暇なときはよく屋上で糸を垂れてます」
 そんな会話を聞き、セリオをよく知らないメンバーは苦笑する。
 しかしセリオの場合、それでも何かを釣るのだから凄いのだ。

 狭い車内から、手首のスナップを利かせてロッドを返し、釣り竿の先から針を飛ばす。
 針の近くについている重りが、糸を引きずって空気という漁場の中を泳いでゆく。
 そして、その糸が電柱にくるくると巻きついていく。
「――えっ!?」
「嘘ぉっ!?」
 からめ取られた電柱が、その力の向きを変えて沙織と電芹に襲いかかる。
 直撃こそしなかったものの、バランスを崩した両名からの攻撃は一旦止むことになる。
 これが、セリオの策の第一段階。
「――まだです」
 一旦行き過ぎた釣り糸を手動リールで一気に巻き上げ、今度は屋台そのものに電柱を向かわせた。
 よく見れば屋台そのものにも特製の鉢巻が巻かれている。ように見える。
 なので、一般的に言うと“のれん”と呼ぶべきものは、この時点で鉢巻に姿を変えた。
 ――そうすれば、弁償しなくてすみます。
 セリオの釣り糸によって操られた電柱が、屋台めがけて一直線。
 これが、セリオの策の第二段階。
「ディアルトくん、こらえてよっ!!」
「……行きますッ!!」
 今の今まで出番がなかった近接戦闘用メンバー、好恵ととーる。
 二人の一撃が、なんとかその電柱をはじき飛ばし、セリオの釣り糸を切り裂いた。
 しかし、屋台に乗ったまま、相手の攻撃をはじき飛ばした衝撃で、屋台のバランスが崩れる。
「――今です。引き離して蒔きましょう」
「了解っ!」
 FENNEKの声と共に、屋台と自動車の距離がぐんぐんと開く。
 そして、車が曲がった角を、遅れて屋台が曲がったとき。
 そこに、自動車の姿は影も形も排気音も無かったのであった。



 絶望が、彼女を包んだ。
 夢も希望も、何も残らなかった。
 そして彼女は、悲しみにまみれて混沌の海へと沈みかけた。
 だが、しかし。
 彼女は立ち上がった。
 どん底に沈んだ自らの身を、自分自身の手で引き上げたのである。
 彼女は言う。
 このままじゃ終われないと。
 彼女は叫ぶ。
 絶対に終わらせないと。
 だから彼女はぐーパンチを天に向けて掲げた。
「りべんじよっ!! この詠美ちゃんさまは最強のくいーんなんだからっ!!」
 ……前途は、多難である。