・ToHeart2とそれ以外の何か。参入L『ShiningShootingStars』 投稿者:てぃー


 朝からの快晴が丸一日続いたあとの、降り注いできそうな星空だった。
 夜。大半の人間が眠りにつき、一部の人間が修羅場モードで三徹に突入し、
また一部の人間が夜ごとの悪夢に悩まされている、そんな頃。
 現在進行形で眠気に反逆を企てている一部の人間の一人が、校庭に立っていた。
 傍らにラジカセと目覚まし時計、そしてくたびれた猿のシンバル人形を置き、
それらお手製不思議観測装置と共に、愉快そうに空を見上げる個性的な髪の少女。

「さあ、今日こそUFOとかUMAとか、まるっと見つけちゃうぞっ」

 えいえいおーと一人で気合を入れて、片手に持っていたタマゴサンドをぱくり。
 お味に満足、満面の笑みを浮かべて、彼女は観測を再開する。

 目的は、未確認物体の発見・観測、できれば捕獲・観察、大丈夫そうなら解剖・捕食。
 とにかく変で不思議で面白おかしいモノを見つけること。
 それが彼女、ミステリ研究会会長・笹森花梨の目的であった。
「でも、その辺全然面白くないのよねこの学校」
 自分の通う学校の日常風景を思い出し、溜息をつく花梨。

 朝、登校途中だと、アフロが空を飛んでいたことくらいしか事件はなかったし。
 授業中だと、担当の先生が校長先生に一撃で仕留められて自習になっちゃうし。
 昼休みには、特定の種類のサンドイッチだけ、誰かがより分けてくれるし。
 放課後だって、どこだかの部室が大爆発を起こしたっていうだけだし。

「アフロはアフロであって未確認生物じゃないし、屋上にトランポリンがあったし、
校長先生は見かけによらずすっごく強いみたいだし。タマゴサンド美味しいし、
爆発だって、事故か、そうじゃなかったらみんなつまらないトリックじゃない」

 だから私が不思議を見つけて、みんなにドキドキワクワクをあげなきゃ!
 ――という使命感に溢れ、花梨は夜の校庭で空を見上げていた。
 ここ数日の観測は空振りに終わったが、なんだか彼女には確信があった。
 今夜こそきっと何かが起こる。起こるといいな。ま、ちょっとは覚悟しておく。
 そんな予感を脳内で確信に変え、四切れ目になるタマゴサンドを手に取った瞬間。

 ザザ――ザザザザザッ、ザ――
 ジリリリリリリリリリリリ――
 シャンシャンシャンシャン――

 ラジカセが砂嵐を増幅し、目覚ましに仕込まれた磁石が回転をはじめ、猿人形が激しく
手に持ったシンバルを打ち付けてかき鳴らす。慌ててタマゴサンドを喉に詰まらせる。
「んがんぐっ!? ……な、なにごとっ?」
 花梨が慌てて空を見上げると、そこに輝く星が三つ、もつれ合うようにして天空から
飛来してくるのが見えた。三条の光が螺旋を描き、彼女を目掛けて突っ込んでくる。
 さすがのミス研会長もこれには驚き、慌ててバッグから魔法瓶を取り出した。
 おぼつかない手許で外蓋を外し、内蓋を捻り、ひっくり返した外蓋に中身を注ぐ。
 こぽこぽ、と音を立てて注がれるホット玄米茶を、注ぐが早いか一気にあおる。
 こくこく、と喉が鳴ると、ぷはあーと大きく息を吐いて、目許に浮いた涙を拭う。
「……びっくり。タマゴサンドが喉につかえて死ぬかと思っちゃったよ」
 は、とそこで我に返り、慌ててもう一度空を見る花梨。
 だが、既にそこに先程の流星は見あたらず、不思議観測装置も反応を停止していた。
 沈黙が、夜の校舎を包んでいた。


・ToHeart2とそれ以外の何か。参入L『ShiningShootingStars』


「聞いて聞いて! 昨夜、流れ星が三つ、学校の近くに落ちたんですって!」
 ――ことのはじめの大半に、彼女の噂がそこにある。
 長岡志保がLeaf学園二年教室に持ち込んだその話題は、未だにその噂を知らなかった
大半の生徒達に、ホットで新鮮な刺激を与えるべく一人歩きを始めるのだ。
「流れ星!? なにそれ、隕石なんか落ちてきたら、クレーターとかできるんじゃ?」
「いや、裏山とか、目立たないところに落ちたのかも知れないぞ」
「バカだな、そんなの、耕一先生あたりが受け止めたに決まってるじゃないか」
「おー、それっぽい」
 それはたちまち尾ヒレを育て、噂という名の既成事実として学園中を駆け巡る。
 だが、そういった噂にまったく興味を持たない生徒もまた存在する。
「……聞きなさいよ」
「やだね、かったりぃ」
 藤田浩之もまた、そういった噂とはめっきり縁のない生徒の一人である。
 アンタに聞かせるためにこのネタ持ってきたんだからね、とぶーたれる志保をよそに、
怠そうに机に突っ伏したまま、浩之は視界に入った女生徒に大声で呼びかけた。
「なー、委員ちょー、次の授業休講にならねーかなー」
 いいんちょー、と呼ばれたその女生徒は「私は委員長じゃありません!」といったん
憤慨した後に、一度気を取り直して、そしてまた器用に、まったく同じように憤慨した。
「そんなの知るか〜っ!」

 彼女の名は小牧愛佳。二年クラスの副委員長である。
 不動の二年委員長、いいんちょこと保科智子の陰に隠れてちょっと目立たないが、
こと複数のクラブや教職員との折衝、という事になると、彼女の存在は大きくなるのだ。
(ちなみにいいんちょ、と短く切ると智子を、委員ちょー、と長く伸ばすと愛佳を指す)
 単に智子だと怖いから、ダメで元々の無理難題は愛佳に押しつけられるとも言うが。
「小牧さん、藤田君らの言うことまともに聞いたらあかんよ」
 怒濤のツッコミを浩之の後頭部に叩き込んで顔面を机に叩き落とし、智子はぽん、と
愛佳の肩を軽く叩いた。ちょっとびっくりした表情を見せる愛佳。
「正直、小牧さんのおかげで大分助かってるから。あんま無理しないでな」
「大丈夫ですよ。無理なら無理、ってちゃんとお断りしますから」
 にこ、と笑顔を交わし合う委員長二人。と、そこで教室に乱入してきた生徒が一人。
 それだけ急いで来たのだろう、靴底を摩擦熱で焦がしながら、急ブレーキをかける男。
 YOSSYFLAMEが調息もそこそこに顔を上げ、クラス全体に驚くべき事実を伝えた。
「次の授業、先生が急用で来れなくなって、休講だってよ!」
 一瞬の沈黙。そして爆発したように教室中に騒ぎが広がる。
 やれ部活だ、やれ見学だ、さあここで一勝負、とあちこちで思い思いの行動が始まる。
 そんな中、教室の中で唯一大ダメージを負った人物の周囲に人が集まる。
「……浩之ちゃん、大丈夫?」
「返事がない、ただの屍のようだ」
「死んでねえ……」
「無事みたい。良かった」
 今日も二年生はそれなりに平和だった。
 ごく一部、深刻そうな顔をして外を見つめる、宮内レミィを除けば、だが。



 ――昼休み。
「一つ人の世ジンギスカン♪
 二つ不埒なジンギスカン♪
 三つ浮世のジンギスカン♪
 ひつじひつじ〜、ひつじ侍〜♪」
「阿呆な歌はやめい」
 『リネット』校舎屋上の片隅に、集った生徒が十数名。
 弁当箱を取り出しながら楽しそうに変な歌を口ずさむ柚原このみを、彼女の幼馴染みの
一人で、隣に住んでいるという河野貴明が軽く小突いた。
 空は昨日から晴れ通しで、まさに絶好のお弁当日和。大きなビニールシートが敷かれた
その上に、次から次へとお弁当と人が乗り込んで行く。
「ほらほらタカ坊、そんなところで遊んでないで詰めて詰めて」
「そうそう。せっかくのいい天気なんだし、早く準備して食べましょ」
 向坂環、来栖川綾香。

「こんな日は特にすごく、とってもよく届くから」
「お洗濯物も特にすごく、とってもよく乾きます」
 月島瑠璃子、HMX−12マルチ。

「瑠璃ちゃん、あっこにマルチおるよ。もっと仲良くしたったらええのに」
「う〜、なんか見てて苦手やよ、あの子」
 姫百合珊瑚、姫百合瑠璃。

「――人数分の割り箸と取り分け皿を用意しておきました」
「えっ!? あ、あの、私もお箸とお皿、用意してしまったんですが」
 HMX−13セリオ、HMX−16Iイルファ。

 以下山田ミチル、吉岡チエ、玲於奈、薫子、カスミ。
「しかし、これだけ綺麗どころが揃ってて、半分近くが同性あ……あでででっ!」
 最後に向坂雄二が姉の環にアイアンクローを喰らいながらどうにか参加する。
 知り合いが知り合いを呼び、一部の淘汰された面子(男子生徒)の屍を越え、
膨れあがった昼食お弁当隊がわいわいと楽しく談笑しながら、食事をすすめてゆく。
「ほいたら、長瀬のおっちゃんも、誠治にーやんなら相手にとって不足なしゆーてな」
「で、どうなんスかねぇ、あの二人の進展具合とか、そーゆーのは?」
「私が知るところによりますと、これ以上はない程にベストパートナーかと」
「そう、暖かく、優しく包んでくれるの。すぐそばにいるだけで感じられる」
 数カ所で平行して話題が展開する。珊瑚が工作部に勧誘された話をしてみせれば、
吉田チエ、通称よっちが、このみと貴明との関係に対して疑問符を投げつける。
 イルファが環と綾香のコンビネーションの華麗さを説明すれば、瑠璃子が晴れの日の
太陽と空気の暖かさを淡々と語る。
 普段からこれだけ大勢で昼食を取っているわけではないが、たまたまの今日という、
この希有な盛り上がりを、それぞれが十二分に楽しんでいる。

 だがしかし、ほどなく、たくさんあったはずの弁当も残りが少なくなった頃。
 視界外に打ち捨てられていた、一部の恋愛過激派男子生徒が息を吹き返した。
 則ち、月島拓也。ハイドラント。悠朔。
「瑠璃子にお弁当を食べさせてもらうのは僕だけに許された特権だぁぁ!」
「綾香! 金貸せ! 腹が減った! ちょうど口を付けたばかりのその弁当を寄越せ!」
「ハイドラントに恵ませるぐらいなら私が責任を持って処分する! さあこちらに!」
 昼食が始まる前にもあった同じような台詞と行動が、デジャヴのように繰り返される。
 そして次の瞬間、立ち上がった二名と投げつけられた一名の存在もまた同じく。

 突進してくる三人の要注意人物に対するどの行動よりも早く、雄二が吹き飛んだ。
 立ち上がる環と綾香。環の左腕が何かを投げたあとのように残心している。
 拓也の電波集中、ハイドラントの音声魔術、朔の抜刀、そのどれもを阻害する、
絶妙なタイミングで跳ね飛ばされる雄二。回避のワンアクションが命取りになった。
 がっ、と拓也の顔面に環の右手が掛かる。同時に朔の顎に綾香のつま先が食い込む。
 みしっ、ばきっ、という生温い音ではなく、グシャ、バグン、と滅びの音がする。
 血の泡と涙を垂れ流しながら崩れ落ちる両脇の二名を華麗に無視し、ただ一人の生存者
ハイドラントが、一心不乱に綾香食べさしの弁当箱に向けてルパンダイブを敢行する。
 綾香と環の視線が交差する。一瞬の意思疎通。そして二人は同時に跳んだ。
 華麗な弧を描いた軌道で、綾香の跳び蹴りがハイドラントを襲う。が、そこはさすがに
雄二という名の犠牲を生んだあとの先程の奇襲とは訳が違う。身を捻ってかわされた。
 だが、そこに追撃で環の手が伸び、空中で捕らえられるハイドラント。
 逆さまに抱え上げられた状態で、綾香がさらに両腕を極め、両脚を差し込んで固定。
 そのままどこかの超人ツープラトンの形で落下すると、被害者は血を吐いて撃沈した。
「お掃除完了」
「悪いわねー、いつも手間かけちゃって」
 ぱちん、と愉快そうにハイタッチを決める環と綾香に、ガクガクブルブルと震えるしか
ない唯一の男子生存者な貴明であった。
 それでもまあ、そんな感じで昼休みは大方平和だった。
 屋上の片隅で深刻な表情をして、周囲の景色を見つめている姫川琴音を除けば、だが。



 下校途中の湯浅皐月と伏見ゆかり、那須宗一の三人の目前を、二台の風が通り抜ける。
 翠銀矢の閃光と、蒼眼鏡の閃光。
 あまりの勢いに呆然とするゆかりを余所に、宗一と皐月が面白そうに言葉を交わす。
「へえ、河島先生のサイクリング・テクニックに競える人がいるんだ」
「人事みたいに言ってー。ミルトでなら宗一だって追いつけるでしょ?」
 学園教諭の一人、河島はるかの天然自転車操輪ぶりは、それなりに有名である。
 校舎の内外に関わらず縦横無尽に走る姿は、昼寝をしている様子の次によく見られた。
 それに付いていける奇特なドライバーは、深紅のハーレーを乗りこなす運送屋をはじめ
として片手の指で数えられるほどしかいないのではないか、と言われていたのだが。

 当のはるかはと言えば、特にそれに気づいているわけではなかった。
 今日はいい天気だから、自転車で走ると気持ちがいいかも、と言うだけのことだった。
 だが、いつものように自転車で走っていたら、追いかけられていたのだ。
 ――気づいてないけれど。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ――」
 一方で、下校途中、後方からやって来た謎の自転車に抜き去られたことで、プライドを
刺激されたその生徒、十波由真(仮名)は、なんで自分はこんなところにいるのだろう、
と息を切らして後悔していた。
 頭に血が上り、前ゆく銀色の自転車を追いかけたところまでは、なんとか覚えている。
 が、その後、お世辞にも道とは言えないアスレチックな道程を抜け、既に限界は突破
してしまっている。脳裏に浮かぶのは、はるか昔の自分自身の声。
『わたし、バディアル唱えるー』
『バディアル唱えるー』
『ディアル唱えるー』
『バディ唱えるー』
『ディ唱えるー』
「るー」
「……かどるとっ!?」
 と、由真が我に返った次の一瞬、突然目の前に現れた謎の人物に驚いた由真は、
鮮やかな軌跡を描いて高々と宙を舞っていた。掛けていたメガネも宙を舞う。

 呆然と、空を見上げる由真。
 叩きつけられたはずの全身は、草地に落ちたせいかそれほど痛んだりはしない。
「死んだか、うー」
「死んでない」
 呼びかけてくる声に、特に意識もせずに返答を返す由真。
 ぼーっとしたまま、空の青に心を馳せる。
「では起きて挨拶をしろ。挨拶はるーだ。るーは原初にして究極の挨拶だ」
「……るー?」
 口に出してみて、うん? と首を傾げる由真。声がするのは気のせいじゃない。
 誰かが、わたしに、話しかけてる。
「しかし、うーは変な顔だ。白地に青い縞模様が入っているぞ」
「人の下着を勝手に顔にするなっ!」
 がば、と身を起こし、慌てて捲れ上がっていたスカートを直す由真。
 そこには、驚いた表情の少女がしゃがみ込んで、由真の顔を見つめていた。
 んー、と少しだけ顔を傾けて、その少女は口を開いた。
「両親に感謝しろ。うーは、さっきの縞々よりも格段に美形だ」
「人の顔をぱんつと同列に扱うなっ!」
 顔を真っ赤にして怒鳴る由真。
 そんな彼女を前にして、褒めたのに何故怒る? と不思議そうな表情を見せる、その
少女の名前は、ルーシー・マリア・ミソラと言った。
「よし、うーにはとくにさしゆるす。るーのことは、るーこ・きれいなそらと呼べ」
「わ、訳の解らないことを言ってるんじゃ……」
「美空なめんな」
 ごちん、と謎の力が由真の頭部に激突し、由真の意識が遠くなる。最後に由真が見た
るーこの顔には、くっきりとタイヤの縞模様が残っているように見えた。



「らん♪ らんらららんらんらん♪ らん♪ らんらららん♪」
 巨大な虫がやって来そうな鼻歌を奏で、一人の女生徒が学校の敷地内を歩く。
 学校の敷地内、とはいっても、何故か喫茶店があったり骨董品店があったりする。
 その女生徒、草壁優季の目の前で、一人の少女が勢いよく飛び出してきた。
「いってきま……ってわきゃあっ?」
「きゃ……」
 まさにその骨董品店から飛び出してきたその少女、名をスフィー・リム・アトワリア・
クリエールといい、これでも魔法の国グエンディーナの第一王位継承者である。
 とはいえ、それも異世界の話。この学園に置いては、ただの魔法が使えて年齢可変の
ホットケーキ大好き少女に過ぎない。ちなみに現在の外見年齢は12才程度だ。
 慌てて飛び出してきて、ぶつかりそうになって転んだスフィーを助け起こす優季。
「あの、大丈夫ですか?」
「うりゅ〜、ありがとぉ……ん?」
 手を借りて起きあがって、さあ気を取り直して再出発、と一歩を踏み出したところで、
スフィーは何かに気づいたように優季をじっと見つめ、首を傾げた。
 突然見つめられ、狼狽える優季。
「な、なんですか?」
「うーん……なんかすっごく微かだけど、魔法の残り香がする」
「え、魔法……ですか?」
 きょとん、とした表情を見せる優季。だが、スフィーはそれ以上何かを言おうともせず
急がなきゃ! と踵を返して駆けていってしまった。取り残される優季。
 呆然としていると、ぽん、と突然背後から肩を叩かれた。
「さっき唱っていたのは君かい? どう、アイドルとかやってみない?」
「え、あの、その……」
 振り返った優季の前にいたのは、敏腕プロデューサーにして音楽教諭、緒方英二。
 突然づくしの出来事に、優季はどうしよう、と溜息をつくのだった。



 放課後の校庭は、まるで宝島。
 ただし、目的は転がったボールではなく、昨晩学校に落ちてきたという隕石である。
 隕石を見つけて持ってきた者には懸賞金! という告知を、オカルト研究会や工作部、
生物部や科学部といった数多くのクラブや個人が出したからさあ大変。
 学園は、まるで新大陸ゴールドラッシュの如くに盛り上がりを見せていた。
 ちなみに、授業が休止となった大半の理由は、すべてそれが原因だったりする。

「ゲーック! 俺ぁ今日一日学園中を見回ったが、んなもん、近くにはねェよ!」
「またまた。最強の強化兵・御堂さんなら、隕石を見つけるなんて造作もないでしょ?」
「そりゃまあ、なあ。だが生憎、それらしい場所はねえぜ」
「なんだ。無理に褒めて損しました」
「なんだと、おいコラ」
 用務員御堂と、隕石を探す生徒の一人、神海がそんなやりとりを交わしていると、
そこに横から一人の少女が口をはさんできた。
「ねーねー、そこのおっちゃん」
「あン?」
 おっちゃん呼ばわりされた御堂が不機嫌そうに声のした方を見ると、そこにいたのは
豊かな髪を背中の辺りまで三つ編みに留めてある、という特徴的な髪をした少女だった。
「昨日落ちてきた隕石って、本当に三つあったの?」
「って話だがな。俺が実際に見たわけじゃねえから、はっきりした事は言えねえがよ」
 そっか、ありがとおっちゃん、と軽い謝意を表して去っていく少女。
 おう、と軽く返す御堂に、神海がそそくさと去りながらぽつりと呟いた。
「それじゃ私も失礼しますね、おっちゃん」
「テメェが気安く呼ぶンじゃねえ!」
 だきゅーん、だきゅーん、と抜き撃ちに放たれた銃声が、辺り一面に響き渡る。

 見れば校庭の向こう側では、いつもの重兵装バトルが繰り広げられていたり、
同人漫画家とアルバイトADが何故かボクシンググローブをはめて遠い目をしていたり、
訳の解らない騒動が、本当にいつものように繰り広げられている。

 それをさらに遠くから眺めながら、貧乏貴族とその郎党が集会を開いている。
「いい、何が何でも隕石を見つけるのよ! かつての栄光を取り戻すために!」
「隕石には、良質な魔力がぎっしり詰まっていることが多いというからな」
「金になるなら文句はねーけどなー」



 御堂に話を聞いたその少女は、物陰にしゃがみ込むとうふふ、と笑みを浮かべた。
「そっかー、本当にたまたまだけど、昨日ここに来たのは私だけじゃなかったんだねー」
 そう呟いたと同時に、彼女の腰のポケットから飛び出す小さな妖精が一人。
「なんや、なんかバレると都合の悪いことでもあるんか?」
「いやー、聞いた話によると、グエンディーナの王女とかこっちに来てるらしくて」
「あー、そら不味いな。きっと向こうから連絡行ってるで」
 サイズの違う顔を突き合わせ、困ったモンだと息を吐く。
「ま、目立たなきゃ見つかったりしないだろうし、対策は目一杯遊んでから考えよう」
「せやなー。せっかく羽伸ばしに来て、なにもせんうちから捕まったらかなんしな」
 そうと決まれば、と駆け出す少女、それを追いかける空飛ぶ妖精。

 魔法の国グエンディーナと並ぶ、シエンツァという国がある。
 彼女は、その国の王女様にして、街いちばんの何でも屋。
 お供に妖精ロロ連れて、今日も元気に駆け回る、誰が呼んだかまじかる魔法ウィッチ。
 そんな彼女の名前は、テネレッツァという。



 いつの間にかやって来た。
 どこからともなくやって来た。
 あなたの隣にこっそりと。
「……ついニ、やって来たネ」
「……来てしまいましたか」
「ああもうっ、よく考えたら、なんであたしが探さなきゃいけないのよ……」
 世界が認識した新しい仲間達を加えて――。
 学園は、とりあえず、今のところは――まあ、平和だった。