Lメモ・日常の切れ端:3「誰かが不幸ならもう一人不幸な者がいる」 投稿者:T-star-reverse
 りーふ学園は今日も平和である(決して平穏ではない)。
 柏木梓は、いつものように敵から必死で逃れていた。
「はあ、はあ、はあ……」
 手近な教室に身を隠し、息を潜める。
 一瞬の緊張。
「……ふう」
 敵の気配が近くにないことに安心する梓。
 だが次の瞬間、校舎が激しく揺れたことでその安心は打ち破られた。
 バリーン! ガシャーン! パリン、グシャガシャーン!
 何かが割れる音がしたかと思うと、続けざまに破壊音がする。
 梓がゆっくり振り向くと、そこには棚から飛び出した各種薬品のビンが
粉々になっていて、混濁によって怪しげな煙を上げているところだった。
「…………っ!!」
 梓は無言で毒づくと、すぐに息を止めて窓から飛び出した。
 そこに、もうひと揺れ。
 聞き慣れた爆発音がびりびりと鼓膜を揺するのを感じながら、梓は、彼女の
敵に発見されたことで再度無言で何かを罵る。
 それが何に対してのものであるか彼女自身も解らぬまま、着地と同時に
再度逃走をはじめる梓。
 二人の敵は、互いに妨害しながらも絶妙なコンビネーションで梓を追う。
 梓は逃げながらぼやいた。
「なんで今日に限ってっ!?」


Lメモ・日常の切れ端:3「誰かが不幸ならもう一人不幸な者がいる」


 そんな状況から、若干時間を遡る。
「うーん、なんか落ち着かないなー」
 その日たまたま吉井は一人だった。
 岡田と松本が、インフルエンザで学校を休んだのである。
 いつも三人で居る彼女たちは、たまにこういうことがあると困惑するのだ。
 そう言うわけで、彼女がなんとはなしに廊下を歩いていると。
「はあっ! せっ! だぁっ! おらおらぁっ! ずぉりゃあっ!!」
 突然、窓の外からそんな声が聞こえてきた。
 吉井がひょいと窓から顔を出すと、彼女の目に赤いものが飛び込んできた。
 それは、見る見るうちに彼女に近付いてくる。

 ぐぎぼっ。

 やたらと鈍い音を立てて、赤いもの……サンドバッグは彼女に衝突した。
 ついでに窓枠を砕き、彼女ごと廊下の壁に激突する。
「……痛ひ」
 と吉井が言う間もなく、周囲にサイレンが鳴り始めた。
 そして、言い争う声が聞こえてくる。
「――ジンさん、校舎破壊の容疑であなたの身柄を拘束しますっ!」
「俺はただ特訓してただけだっ! サンドバッグは飛んでっちまったがな」
「――問答無用! ファイア!」
「拘束じゃねぇのかっ!! おもしれぇ、やってやるぜっ!!」

 そして、校舎は衝撃に激しく震えた。



「やっぱりあいつらかっ!!」
 梓は、いつものジンとDセリオの戦いを横目に見ながら走っていた。
 今日に限って、いつもの校庭ではなく中庭でドンパチしている。
 その影響で、先程梓は化学室から脱出せざるを得なかったのだが。
「このままじゃいつまで経っても逃げ切れないっ!」
 梓はそう判断すると、再び校舎の中へ飛び込んだ。
 敵もその後に続いて校舎に入る。
 廊下を曲がり、階段を駆け上がり、敵二人の視界から逃れたところで
近くの部屋のドアを開け、中に躍り込む。
 ドアを閉め、怪しまれないよう鍵を掛けずに陰に隠れ、気配を消す。

 たたたたたた……

 その足音が過ぎ去った事を確認し、梓はゆっくりとドアを開けた。
 顔を出し、左右を見回す。
 いない。
 今度こそ梓はふう、と息をついた。
「なんとか撒けたか……」
 梓はゆっくりと廊下に出ると、くっ、と伸びをする。
 そしてさっさと帰ろう、と思った瞬間、大事なことに気がついた。
「しまった! 鞄まだ教室だ!!」


 当然、取りに行く途中で見つかった。


「くそぉ、しつこいっ!」
 梓は、三たび敵に捕捉され、追撃を受けていた。
 途中宇治丁の援護があったものの、彼も今は灰となってしまっている。
 追手から逃れるため、再度校舎に躍り込む。
 そして先程と同じルートで廊下を曲がり、階段を駆け上がる。
 そこにある部屋の扉を……。
 開けなかった。
 先程は開いたはずの扉に、鍵が掛けられていたのだ。
 慌てて体当たりをするが、何かでおさえてあるのかびくともしない。
 彼女は、背中を冷たいものが走るのを感じた。

 ぽん。
「!」
 その時、彼女は突然背中を叩かれた。



 またも時間をちょっとだけ遡る。

「……ううん……」
 瓦礫の中、奇跡的に傷ひとつなく吉井は目を覚ました。
 すでにジンとDセリオの戦いの主戦場は余所に移っている。
 ゆっくりと体を起こすと、彼女は一歩足を踏み出した。

 もさっ。

 なんとも言えない感触がした。
 吉井は、恐る恐る足元を見てみる。
 黒かった。
 ……黒い恐怖、という言葉がある。
 それが指すものは千差万別であろうが、彼女が感じたものがそれだった。

 わさわさわさわさわさ……

 足下の黒いものは激しく動き出すと、彼女の足下から突然抜け出し、
その姿を形作った。
「Hey! 人のアフロを踏むなんて酷いデース!!」
「……」
 それは、アフロマスターTaSだった。
 声もない吉井。
「デモ、お陰で目が覚めマシタ……ソウダ、お礼にアフロをあげまショウ!」
 そう言って、アフロの中からさらなるアフロを取り出すTaS。
 パッと見、アフロが分裂したようにも見える。
「……」
「さあ、ドウゾ!」
 TaSがそう言って、彼女の目の前にアフロを差し出した瞬間。
「っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 まるまる5行に渡る悲鳴を上げながら、吉井はダッシュで走り去る。
「あ、待ってくだサイ! まだお礼ガ」
 そう言ってそれを追いかけるTaS。
 彼の手からこぼれ落ちたアフロヅラも、がさがさとその後に続く。

 吉井は走った。
 走った。
 走った。
 彼女の記憶にある中でも、これほど一生懸命に走った記憶は数少ない。
 そうだ、小学一年でかけっこで一位を取ったときにこんなに走ったっけ……
 あ、あと小4で、見たいテレビに間に合わなくなりかけたときも……
 そうそう、中2で告白した人にフられたときもやけになって走ったな……
 はっ。
 そこで吉井は気がついた。
「……走りながら走馬燈を見ちゃったわ」
 どうやら精神的にかなり追いつめられているらしい。
 丁度扉の開いていた部屋に入り、大急ぎで鍵を閉める。
 ドアの隙間をガムテープで塞ぎ、たまたまそこにあった卓袱台やポット、
タンスや畳や消火栓でドアを塞ぐ。
「……消火栓?」
「……おい、なんのつもりだ?」
 ハイドラントが吉井に聞く。
 積み上がっている家具の一番上にでんと鎮座しているのは確かに彼である。
「……なんでそんなところから見下ろすんですか?」
「貴様が上げたんだ、馬鹿者」
 ハイドラントは姿勢を変えずにぶつぶつとぼやく。
「まったく、さっきも梓が飛び込んできたかと思えば出て行くし、今度は
どこぞのオオムラサキが入ってきてドアを塞ぐし、なんなんだ一体」
 オオムラサキ……
 その呼び方に多少思うところはあったが、吉井は説明しようと口を開いた。

 どごぉん!

 衝撃音が走った。
 そして、吉井の口はそのまま開きっぱなしになる。
「?」
「あ……あ……」
「なんだ?」
「……あああああ……」
「「あ」がどうしたって?」
「あああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「だから「あ」がどうしたって聞いてるんだっ!」
 怒鳴るハイドラント。
 次の瞬間。
「アフロはイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ドアの隙間から、アフロが部屋の中に侵入していた。



「!」
 梓が慌てて振り向くと、そこには黒い毛玉……もといTaSが立っていた。
 彼女は一瞬ほっとすると、厳しい表情になって聞いた。
「ねぇ、この中に隠れたいんだけど、どうにかならない?」
 それを聞いてTaSも、うーん、といった表情をする。
「ワタシもこの中に用があるんデスガ、生憎と開かないデス。そこで梓サン、
一撃加えてドアと壁との間に隙間を開けてくれマセンか?」
「それでどうしようって?」
「隙間さえ空けば、あとはこのアフロで内側から扉を開けられマス」
 その言葉に、梓は1も2もなく頷いた。
「解った! ……はあっ!」
 気合が迸る。
 解放された鬼の力が、一振りの鎚となって扉の中央に突き刺さる。

 どごぉん!

 鉄製の扉がひしゃげ、すかさずその隙間からアフロが侵入する。
「アフロはイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 そんな声が聞こえた。
 梓がその声に気を取られた一瞬である。

 ぎぃ……。

 ひしゃげた扉が音を立てて開く。
 と、同時に、梓の口にはハンカチが当てられていた。



 迫り来るアフロ。
 吉井は、その恐怖に立ち向かうべく消火栓を振り回していた。

 がごっ! げん! ずがっ! ごん!

「いでっ! やめろ、やめろっ! やめっちゅーに!」
 パニックに陥った吉井に足を掴まれ、ハイドラントは、部屋のあちこちに
腕やら頭やらをしこたまぶつけていた。
 周囲からはアフロが音もなくじわじわと忍び寄ってくる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 たまらず、アフロの真っただ中にハイドラントを鬼畜ストライクの如く
投げつける吉井。声にならない悲鳴を上げ黒い海へ沈んで行くハイドラント。
 それでも勢いを失わないアフロが一気に迫ってくる。
 周囲を囲まれ、もう逃げられないと悟ったとき。

 吉井は気を失った。



 翌日。

梓:エーテルで眠らされ、一度は敵の手に落ちてしまったが、結局は敵の
仲間割れによって九死に一生を得、元気に登校。

かおり&登:千日戦争の型に陥ってしまい、欠席。

丁:無事復帰。梓と一緒に登校できた。

吉井:欠席。アフロにならずには済んだらしいが、ショックで寝込む。

岡田&松本:インフルエンザも完治し、登校。

ジン:怪我の治療のため千鶴さんの料理を食べる。二重の意味で敗北。欠席。

Dセリオ:今日も元気にサウザンドミサイル。


 そして、屋上では。
「導師、その頭どうしたんです?」
「……プアヌークの邪剣よ」
「なぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 そんなほのぼのした会話と。
 そんな光景を見つめる、TaSの姿があったとさ。

 めでたしめでたし。


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最近の古き良き風潮に合わせ、感想でーっす。

アフロ作各位>
えーと、もうノーコメントにさせてください(笑)

昌斗さん>
プール編、久々ですねぇ。
二年生ってあれから何人くらい増えましたっけ?(笑)
で、嗚呼、脱出できなかったしくしくしく。

beakerさん>
タヌキの着ぐるみで首をつろうとするへーのきさんの姿が目に浮かぶ(笑)
TaSさんが突然のように出張ってきてるのがなんとも。
今まで何をしていたのでしょう?(笑)
(D姉のアフロについては却下却下却下ぁぁぁっ!!)
(ああ、月のない夜に襲ったりしないから安心してね(笑))

FENNEKさん>
うーむ、主食はガソリンですかぁ。
と言うことは吐く息には窒素化合物が大量に含まれているんでしょうか?
地球に優しい回答ぷりぃず(笑)

ハイドさん>
いや、丁度私いなかったし、気にしなくていいから(笑)

よっしーさん>
リーずさん役得(笑)
……っていうか、誰が潜在的ナンパ属性じゃあああああああっ!!
あと、日陰ちゃんとのデート達成、おめでと(笑)

八塚さん>
うーん、自分が役得かな?(笑)
ゆかりんの相手がよっしーさんだというのはすぐ解りました(笑)
自分の能力紹介にはこういう話が良いんでしょうね。

猫町さん>
見事に料理の鉄人式(笑)
試食が誰なのかが気になるところ。
猫町さんの料理……ひょっとして……(←考えているらしい)

ひなたん>
もう完全復帰だねぇ。おめでとう……かな?
相変わらず上手いですねぇ。私の目標はひなたんなんですよ(笑)
それじゃ、Lファン2も起動ですっ!(笑)