===テニス大会エントリーLメモ てぃーくんVersion=== 投稿者:T-star-reverse
 ずいぶん前の話……とはいっても、こうやって人に話せるんだから、
よく覚えてはいる事だけど。
 その日、僕はいつものように良太くん達と遊んだ後に、なんとなく
学校が見下ろせる場所にある丘に一人で行って休んでいた。
 どうしてそんな所に行ったのかはよく覚えてないけど、今思えば、
そこがなにか大切な場所だったような気がする。
 一人で、座ってた。
 青く晴れた空を見上げて、そのままごろりと仰向けに寝転がる。
 そして、いつしかそのまま眠ってしまう。
 気持ちよかったんだろうと思う。
 そこに行くと、いつもそうだった。眠ってしまえた。
 どんなに落ち込んだときでも、辛いことがあったときでも。

 その日も、目が覚めたときにはすでに日が傾きかけていた。
 悩みや心配事、そういうことはその日はなかったけれど、それでも
目が覚めたときにはいつも通り気分がすーっとしていた。
 さあ帰ろうと、無意味に勢いよく跳ね起きてぐっと伸びをする。
 ……その時、ふと気がついたら後ろに誰かが座っていた。

「はるかねーちゃん、おはよ!」
「おはよ」

 はるか先生だった。
 にこ、とはるか先生は今とちっとも変わらないいつもの微笑みを浮かべ、
僕に向かってゆっくり口を開いた。

「てぃーくんは、いつも元気だね」
「うん! 元気だよ!」

 ……確かに、元気だった。
 元気すぎるくらい元気だったと言ってもいいと思う。
 それを聞いて、はるか先生は僕の頭をよしよしと撫でてくれた。

「はるかねーちゃんは? 元気?」
「元気だよ」

 言葉の調子からは元気と言うよりは気怠いという雰囲気ではあったが、
それはいつものことなので、僕は素直に満足して頷いた。
 そのとき耳に、学校で鳴ったであろうチャイムの音が届く。
 それはたぶん、最終下校時刻を告げるチャイムだったんだろう。
はるか先生はそれを聞いて、僕に家に帰るよう促した。

「ほら、遅いよ。帰ったほうがいいよ」
「はーい」

 僕は返事と同時にくるりと振り向いて丘を駆け下りようとした。
 けど、その一瞬前にがしっ、と手を掴まれた。
 はるか先生である。
 表情からは慌てているようには見えなかったけど、その握る力の強さから
ちょっとだけ慌てていたみたいである。
「あー」
 一瞬、目線を外すはるか先生。

「いつもの近道、工事してたから川沿いに行ったほうがいいよ」
「ん、ありがとはるかねーちゃん!」

 そう言うと、ぱ、と手が離れた。
 僕はそのまま丘を駆け下りて、よく通る近道を外れて川沿いの道まで出た。

 そこで、ふと耳に水音が届いた。

 ぽちゃん、ぽちゃん……と、規則正しい水音である。
「あれ?」
 道は川沿いの土手の上にある。
 僕は疑問の声をあげつつ上から川べりを見下ろしてみた。
 そこに、彼女……笛音ちゃんがいた。
「笛音ちゃん、なにしてるの?」
「……あ……てぃーくん……」
 そう言って振り返る笛音ちゃんの顔は、なんだかすごく悲しそうだった。
 悲しい顔を見るのは好きじゃない。
 だから僕は、逆に明るく呼びかける。
「もうそろそろ家に帰る時間だよ」
「……うん……でも……」
 聞いてみても、歯切れの悪い答えしか返ってこない。
 なんだか心が少し痛かった。
「どうしたんだよ。OLHにーちゃんと喧嘩でもしたの?」
「……ちがうけど……」
「よかったら話してみなよ」」
 僕は、笛音ちゃんに笑顔を分けてあげるような気持ちで、にこっと笑って
そう言った。すると、笛音ちゃんは少しづつ話してくれた。

 OLHにーちゃんが笛音ちゃんたちのためにテニス大会に出ようとして
いること、でもそのパートナーに笛音ちゃんたちを選んでくれなかったこと。
 一度はそれに納得したけど、やはりOLHにーちゃんが他の人と大会に
出るのが何だかとても悲しいこと。
 そんなことをゆっくり、少しずつ話してくれた。

 僕は黙ってそれを聞いていた。
 そして、笛音ちゃんが一通りの事を話し終わったとき、僕は口を開いた。
「ふーん。テニス大会にね」
「……わたしも……お兄ちゃんといっしょにでたかったな……」
 涙声でそう小さく呟く笛音ちゃん。

 ……泣き顔は……見たくないよ……。

 僕は、そんな笛音ちゃんから少し目をそらすと、少し考えてみた。
 昔の僕はとにかく、悲しい雰囲気にいるのが嫌だった。
 だから、僕はもう夢中で笛音ちゃんの手を取って、こう言った。

「だったらさ、僕と一緒に出ようよ」
「……え?」
「テニス大会」

 笛音ちゃんは一瞬きょとんとした顔をする。
 僕は、それから一息に言葉を続けた。

「それでOLHにーちゃんに、笛音ちゃんだってちゃんとOLHにーちゃんの
役に立つんだって所を見せようよ」

 そう言って、すぅ……と息を吸い直す。
 僕の言葉がゆっくりと笛音ちゃんに伝わっていったのか、その表情は
だんだんと明るくなっていく。
 僕は嬉しくなった。
 暗い雰囲気がどこかに行ったのもだけど、笛音ちゃんの笑顔を見れたことが
とっても嬉しかった。

「……うんっ!!」

 掴んだ手をぎゅっと握りしめて、笛音ちゃんは大きく頷いた。
 元気のいい返事に、思わず顔が笑顔になった。

「よおし、どうせだったらOLHにーちゃんも倒して、優勝しようね」
「うんっ!!」

 こうして僕たちは、テニス大会にエントリーしたんだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 やっほー、てぃーくんだよ。
 テニス大会にエントリーした時の様子。
 一応僕の回想って事になってるみたい。笛音ちゃんと一緒だね。

 ところで……結局、近見で工事なんてやってなかったんだけど、
はるかねーちゃん、何であんな事言ったのかなぁ?