VSジン・ジャザムLメモ「ふぃじかる・れじすと」  投稿者:T-star-reverse
 じゃりっ……。

 彼の足下の砂が擦り合わされ、乾いた音を立てる。
 目的地に着いた彼は、バイザーに隠れた瞳を目の前の人物に向けた。
「お前が俺を呼び出すなんて珍しいじゃねぇか」
 時は放課後、場所は校舎裏。
 彼……学園内でその名を知らぬ者はないと言われる男、ジン・ジャザムは
軽い笑みを浮かべながらそう言った。
 その視線の先に……一人の人物がいる。
 黒い帽子に眼鏡。表情はにこやかではあるが、どちらかと言えば読めない。
「……まあ、科学部の方はあまり行きませんからねぇ」
 T-star-reverse。
 元仙人であり実年齢不詳、傀儡を操って部の掛け持ちをする兼部王である。
「で、今日はなんだってんだ? 科学部の用事か?」
 ジンの質問に、ゆっくりと首を振る。
「いえ……今日は格闘部の一員として」
「ほぉ」
 ジンの目がぎらりと光る。
 その瞳は、闘いの予感に震える獣のものである。
 その目をまっすぐに見据え、相変わらず微笑みつつティーは続けた。
「ジンさん……あなたに勝負を挑みます」
 その言葉に、ジンはにやりと壮絶な笑みを浮かべた。



「勝負の方法は簡単です」
 ティーが淡々と説明をする。
 場所を移して、ここは格闘部道場。
 ティーとジンの二人は、その中央で対峙していた。
「ジンさんが私を倒せばジンさんの勝ち、攻撃に耐えきれば私の勝ちです」
「妙にまどろっこしいな。お前は攻撃しないつもりか?」
「そう言うわけでもありませんが」
 疑問の声をあげるジンに対し、曖昧な返事をするティー。
「ただし、時間制限はありません。ジンさんが負けを認めるか、私が気絶、
ないしギブアップするまで勝負は続きます」
「ずいぶんとこちらに有利じゃねえか?」
「そうでもありませんよ。武器の使用は禁止させてもらいますから」
「気にくわねえな。まるで俺が武器に頼ってるみてえな言い方じゃねーか?」
「さて……ね」
 軽くはぐらかすと、ティーはすっ、と間合いを取った。
 そして、ゆっくりと構える。
「それじゃ……始めましょうか?」
「望むところだ!」



「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、らぁ!」
 開始の合図と同時にダッシュで間合いを詰め、左拳を振り下ろすジン。
 その拳は、ブロックしようとした腕をすり抜けて腹部に突き刺さった。
 その手応えに、にやりとして口を開くジン。
「おいおい、口ほどにもねえんじゃ……」
 だがその表情は瞬時にして真剣になり、慌てて左腕を引き間合いを取る。
 一瞬後、ティーの手には破り取られたジンの左袖口があった。
「惜しいですねぇ。もう少しで左腕を極められたのに」
「……効いてねぇ……ってか?」
「いえいえ、多少は……ね」
 そう言ってぱ、と手を開くティー。
 掴まれていた布がひらひらと落下する。
 ジンはゆっくりと構えを取ると、ぐっ、と右拳を握りしめた。
「……甘く見てたのはこっちかもしれねぇ。悪いな」
「いえいえ、できればもう少し甘く見たままでいてくださいよ」
 相変わらずにこにことした表情で答えるティー。
 だがジンはそれには答えず、ゆっくりと『力』を解放していく。
 みしみしと彼の足下がきしむ音がする。
 それを聞き、ようやくティーは表情を引き締めた。
 そして、異様に低い体勢の構えを取る。
「……アマレスか?」
「いえいえ」
 聞いてはじめて、ジンは思い至った。
 数々の猛者達が覇を競ったグラップラー大会。
 ティーはあの大会に出場していなかった。
 以前、部活で共闘したことはあるが、それとはかなり状況が異なる。
 つまり、このような身一つの闘いに置いては未知数の部分が多いのだ。
(相手のことがわかんねぇってのがこうまで闘い辛いとはな……)
 内心ふう、ため息をつくと、ジンは改めて決意を固めた。
(いいだろう。相手が誰だろうが負けるつもりはねぇ。行くぜぇ……)
「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」
 咆吼と共に、ジンは一気にティーに向けて間合いを詰めていった。


 がっ!

 真正面から激突する二人。
(受け止めやがった!?)
 鬼化したエルクゥは、パワーや体力は当然のことだが、体重もかなり増す。
 ましてやサイボーグであるジンは、元々の重量自体半端ではない。
 それを、いくら重心を落としたとはいえ生身で受け止めるなど、普通ならば
考えられないことであった。
 ジンが一瞬のショックから立ち直る前に、ティーが足払いを仕掛ける。
 だがジンもいつまでもそのままではいない。バランスを崩しはしたものの
転倒することなく耐えきり、一旦間合いを取る。
(組み合いは不利か……だったらっ!)
 低い姿勢からスタンディングポジションに構えを戻したティーめがけて、
ジンは思い切り右拳を叩きつけた。
 今度は腕を十字にクロスさせてきっちりそれを防いだティーではあったが、
さすがに今度は表情を歪め、間合いを取ろうと後ろに飛びすさった。
 だがそれを許すほどジンも甘くはない。好機と見て一気に畳みかける。
 左右の拳が雨霰とティーの身体に降り注ぐ。
「おらおらおらおらぁ!」
 ティーも懸命にブロックするが、拳速に追いつけず次々と有効打が入る。
「……らぁ!」

 ごっ。

 鈍い音と共に、ジンの左拳がティーの顎に炸裂する。
 その一撃をきっかけに、拳撃が一旦止む。
 ティーがゆっくりと前に倒れ込む。
(ふぅ、よーやく倒れたか……)
 それを見て一瞬気を抜くジン。
 だが、その耳に不自然な音が届く。

 ふぅぅぅぅぅぅぅっ……!

(これは……呼吸音っ!?)
 その音が何であるかに気づいたジンは慌ててガードを上げるが一瞬遅く、
ティーの浴びせ蹴りのかかとがジンの胸部に炸裂した。
「がっ!」
「油断大敵……まあ、確かに結構痛かったですけど」
 立ち上がりながら淡々とそう言うティー。
(エルクゥの拳をあれだけ受けて『痛かった』で済ますかよ、おい……)
 改めて目の前の相手の頑丈さに舌を巻くジン。
 だがそれに反し、心の中にふつふつと沸き上がってくる感情もまたあった。
(面白ぇ……これだけ強い奴と闘りあえる機会に恵まれるとはなっ!)
 心から迸る闘いへの期待でジンの全身が震え出す。
「それじゃ、今度はこちらから行きますよ」
 ティーがすっ、とジンに向けて掌底を放つ。
 だが……。
「遅い!」
 軽々とその掌底をかわし、カウンターで裏拳を放つジン。
 が、その裏拳は無意味に空を切った。
(なっ……!?)
 その攻撃の隙でがら空きの顎に、ティーのアッパーがカウンターで入る。
「ぐっ!」
 だがジンも負けてはいない。攻撃を喰らいながらも強引に両拳を合わせて
ハンマーの如くに真下に叩きつけた。

 だぐんっ!

 掌底から体勢を低くしてのアッパーを打ったモーション、ねじられていた
脇腹にアームハンマーを叩き込まれ、さすがに転倒するティー。
 それでも受け身を取り、すぐに間合いを取って起きあがる。
「……やりますねぇ」
「それくらいの攻撃を単発で喰らっても、俺は倒れねーぞ」
 ティーのタフさは先程からジンが思い知っている程だが、一方のジンもまた
機械化されているため、並みの攻撃など痛くも痒くもないのである。
 だが、双方とも攻撃が決して弱いわけではない。
 お互い、確実にダメージは与えているのだ。
 そして再度対峙する二人。
 ゆっくり、ゆっくりと間合いを詰めていく。
 息が詰まるほどのプレッシャーが場に満ちる。
 そして、互いが互いの攻撃範囲に入った瞬間。

「うぉぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 静の場が、瞬時にして動の場に裏返る。
 それからしばらく、打ち、防ぎ、掴み、払い、投げ、受け……と、息をも
つかせぬ様々な攻撃・防御のやりとりが繰り広げられた。



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 流れる時は例外なく消耗を促す。
 互いにスタミナも限界に近付いていた。
 そんな中、ジンが一気に間合いを詰めた。
「これで決めてやるっ!」
 気合と共に振りかぶられる右拳。
 ティーは、それを迎え撃つべくこちらも右腕を大きく引く。
 そして、その二つの拳が。


 交差する。


「なっ!?」
 だが、どちらの拳も相手に命中することはなかった。
 拳がすれ違った瞬間にジンが体勢を入れ替え、ティーの右腕を掴んで
そのまま一本背負いに持っていったのである。
 拳を放った勢いがそのまま投げの勢いに転化される。
 ティーの身体は宙を舞い、そして……。

 ずごがぁん!

 道場の壁に大穴を開け、隣接した部屋に転がり込んだ。
「あつつ……」
 さすがにこの衝撃は堪えたらしく、呻き声を上げながら起きあがるティー。
「ちっ……まだ起きあがるのかよ」
 それを見て舌打ちをするジン。
 ティーはゆっくりと起きあがると、周囲の様子を確認した。
 灯りは点いている。壁にはロッカーが並んでおり、人がひとりいる。

 そう、人がひとりいた。

 驚きに目を見開いて、白い布のようなもので胸元を隠している。
 小柄な体躯から伸びた手足は眩しいほどに白く、美しかった。
「ティー……せんぱい?」
「松原……さん?」
 ティーの頭の中を様々な思考が駆けめぐる。
「あの、私、道場使えないって綾香さんに聞いて……」
 ロッカー、葵ちゃん、壁、格闘部、道場、着替え、下着、更衣室……。
「それで、今日はトレーニングルームで汗かいたので着替えを……」
 そして。
「あの……」


 ……ぱた。


 思考がオーバーフローしたティーは無言で倒れてしまうのだった。



「……俺の負けだな」
 呆然としている葵に状況を説明し、失神したティーを任せたジンは、
沈む夕陽に目を向けてそうぽつりと呟いた。
「結果はどうあれ、俺の力だけであいつを倒した訳じゃない。俺もまだまだ
未熟ってことだ……」
 そう言い放った瞬間である。
「やたっ! よっしー、今の聞いたわね! あたしの勝ちよっ!!」
「ちくしょーっ! 絶対こっちの勝ちだと思ったのにーっ!」
 突然そんな声が背後から聞こえた。
 ジンが驚いて振り向くと、そこにはなにやらはしゃぐ綾香の姿と
悔しがるYOSSYFLAMEの姿があった。
「な、何だお前ら!」
 ジンがそう聞くと、綾香がぱたぱたと手を振りつつ説明する。
「んーとね、ティーとあなたとどっちが勝つかってよっしーと賭けてたのよ。
で、ティーに賭けてたあたしの勝ちって訳」
「くっそぉ……ジンさんが勝つとおもったんだけどなあ」
 その言葉に、す……と目を細めるジン。
「賭け……だと?」
「うん」
「ほほぉ、賭けなぁ……」
「ええ」
「…………」
 俯いてぶるぶると手を震わせるジン。
 だが、我慢はそれほど長く続かなかった。
 ただでさえ格闘オンリーで重火器をぶっ放していないのだ。その反動で
彼がこうも簡単にキレたとしても誰が責められよう?
「……ねぇ、よっしー」
「ん?」
「やばいんじゃない?」
「……かも」

 がこん!
 がこん!
 がこん!
 じゃきん!
 じゃきん!
 じゃきん!

「てめーら、いっぺん死んでこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぃっ!」


 哀と悲しみのナイトメア・オブ・ソロモン。


 その爆炎の中……。



 終幕。


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 T-star-reverseです!

 というわけで、VSジン・ジャザム、いかがだったでしょうか?
 久々のシリアスバトルの原因は、やはりグラップラーに出られなかった
反動でしょうか(笑)。
 ああ、Lファン2とか色々残ってるのに普通のL書きたくてしょうがないぞ
自分っ!(笑)
 とりあえずこんなとこで。

 では、また次回! それではっ!