Lファンタジア2・第3話「ゆく道すがらの逃亡者」  投稿者:T-star-reverse
 これまでのあらすじ。

 ……数々の苦難を乗り越え、ようやく魔王を打ち倒した勇者風見ひなた。
 だが、その魔王すらを配下の一人とする大魔王がその背後に存在していた!
 魔王との戦いで大切な仲間を失い、心も体もぼろぼろに傷ついたひなた。
 そんな彼が再び立ち上がるきっかけとなったのは、助けを求める少女の声。
 今、再び立ち上がった勇者ひなた!
 その先には、今まで以上に困難な道が待っているであろう。
 彼は向かう。運命の地、ギ○ガの大穴へ。
 たとえ再びこの地に戻ることがなかろうと、それが勇者の定めだから。

 急げひなた! 大魔王を倒すのだ!
 
 ぐずぐずしていると、大魔王の恐るべき呪いを受けた公女が、公女が……



 アフロになってしまうのだっ!(ばばーん!)



「何恐ろしい事口走ってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


Lファンタジア2・第3話「ゆく道すがらの逃亡者」


 ごめすっ。

 そんな擬音が頭から聞こえてきたかと思うと、一瞬だけ目が覚めた。
 だが、驚いた表情の女性の顔が見えただけで再び眠くなってきた。
 なんだろう。
 今度の眠気は妙に深いような……。
 あ、なんか河の向こうにお花畑が見える……。
 ああ、みんながこっちに向かって手を振ってるな……。
「あああっ! なんか知らないけどいっぱい血が出ちゃってる!!」
 懐かしいな……みんな元気にしてたんだろうか。
「に、兄さんっ! 兄さーん! ちょっと来てぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 ……うるさいな。
 ……それにしても久しぶり……みんなこんな所にいたんだ……。
 ……でも変だな。なんで従妹の日陰ちゃんだけいないんだろう……。
「ああああ、そういえば兄さん今日王城からの使いが来てどっかに行ってた!
こ、こんなに血がいっぱい出てるの、どうすればいいのぉぉぉぉぉぉっ!?」
 …………ぷちっ。
「うるさいって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 僕は。
 自分の中から沸き上がる不思議な力に身を委ねながら。
 心地よい感覚に包まれながら、再び夢の世界に落ちていった。



 ぱちっ。
 そんなような音が聞こえるような感じで僕は目が覚めた。
 抜けるような青空が眩しい。
 掛けられた布団もそのままに上半身を起こしてみる。
 そして、周囲を見渡す。
「……ひどいな……」
 そこは、惨憺たる有様であった。
 かつては立派な館であったであろう建造物が見るも無惨に倒壊している。
 そしてその中央に僕がいる。
「えーと……」
 とりあえず、ゆっくりと立ち上がる。
 布団の横に置いてあった上着と靴を身につけ、僕は瓦礫の中に立ち上がる。

 ぶみ。

 柔らかい感触がした。
 僕は、ゆっくりと視線を下に向ける。
「……」
「……」
 そこにいたものと、目があった。
 とりあえず、僕はなるほど、と納得する。
「うん、すごくリアルで豪華な敷物だ」
「人踏んづけといて第一声がそれかいっ!!」
 涙をだくだくと流しつつ跳ね起きる敷物。
 僕は当然その場所からは退避している。

 よくよく観察してみると……なんだ人じゃないか。
 それも、当然というかなんというか知った顔である。
「緒方……理奈?」
「そーよっ! あんたこの有様、どうしてくれるのよっ!!」
 半分錯乱状態なのか、初対面の相手に名を呼ばれても気にした様子はない。
 と、いうことは。
「なるほど」
 僕はそう言って手をぽんと叩いた。
「ここは、あなたの家だったんですね」
「そーよっ! このままじゃ明日から寝る場所どうするって言うのよ!
兄さんいないからこのままどこかに行く訳にもいかないしっ!」
「ふむふむ、なら……」
 僕はゆっくりとした物腰で、がしっ、と理奈先生(まあこの世界では
理奈ちゃんと呼ぼう)の肩を掴んだ。
 そして、一息に言う。

「資本主義社会の中でも不公平な財力を転がして得た利潤を振りかざして
こんな一般庶民は夢見ただけで不敬罪とかそーいう理不尽な罪状でもって
強制連行されつつ家財没収してさらに雀の涙でも集まればいちおう財産って
感じでどんどん収入が増えて中では豪奢な食事を一口食べてあと捨てるっつー
風な贅沢三昧酒池肉林でそのうち領主権限で住民から血税を搾り取るだけ
搾り取って馬鹿でかい墓まで建てそうな神経した奴くらいしか建てそうにない
この無意味に広くてでかい家は壊した方がいいので気にしないで下さい」

 ……別に僕は今の社会に文句はないぞ。
 と、その言葉を聞いた理奈ちゃんは、何故かしくしくと泣いていた。
 泣いたまま疑問の声をあげる。
「……どうして? どうしてそこまで兄さんのこと知ってるの?」
「……本気でそこまでやっとったんかい」
 思わずこけそうになる体を制御しつつ、僕は気になったことを聞いてみた。
「ここ、どこです?」
「緒方公領……たった今あなたが壊したのが邸宅よ」
 ……なるほど。
 どうやら彼女は、簡単に言えば貴族のような身分らしい。

 ……が、しかし。
 実際の所、僕はどうしてこんなところに居るんだろうか?
 僕はとりあえず立ち直ったらしい理奈ちゃんに聞いてみた。
「青いのとか、その取り巻きとか知りませんか?」
「知らないわよ」
 すげない返事。
 どうやら本当に知らないらしい。

 さてどうしたものか、と僕が考え込もうとしたその時。

「いたぞっ!」
「囲め! 逃げ道を作るなっ!」

 そんな声が聞こえたかと思うと、ばらばらと十数人……いや、数十人の
人影が、瓦礫と化した邸宅の周囲を取り囲んだ。
「な、なに、なんなのよっ!」
 まともにうろたえる理奈ちゃん。
 僕は僕でなんとなく記憶に引っかかるモノがあった。
 ……ふむ。
 そうして、ぽん、と手を叩く。
「ああそうだ、僕、青いのの一行に引っ張り回されてる途中、突然襲われて
こいつらに崖から落とされたんだっけ」
「あなたの関係者ッ!?」
「とんでもない。こーいうエキストラと関係持つのはもうこりごりです」
 ……なんとなく美加香の顔が思い出されたがすぐにそれを打ち消す。
 そこで気づく。
 そーか、こいつら「草」か。
「緒方理奈公女……そして風見ひなた! 我々についてきてもらおう!」
「なんで私までっ!?」
「元々そっちの方に用があるみたいですがね、順番からして」
 悲鳴を上げる理奈ちゃんに、冷静に返答する僕。
 そして、軽く袖口を広げながら僕は彼女に聞いた。
「……で、どうします? おとなしく付いていくんですか?」
 すると彼女は、ふぅ、と軽く溜息をついてから途端に冷静になった。
「……そんなわけないじゃない。……私を誰だと思ってるのよ」
 冷たい威圧感。
 さっきまでの彼女とは違う、洗練された雰囲気。
 ……アイドルの顔……だろうな。
 僕は元の世界の彼女を思い浮かべつつもゆっくりと頷いた。

「それじゃ、突破しますよ?」
「望むところよ」

 僕たちのその言葉に、いきり立つ「草」のメンバー。
「なるほど、刃向かうつもりか……ものども、かかれっ!!」
「イー!!」
 練習でもしたのか、某悪の秘密結社の戦闘員よろしく揃って奇声を上げる。
 そして一斉に僕らに飛びかかってきたが……

「あなた、そっち半分ね」
「はいはい」

 僕らは一瞬背中合わせになると、そのまま前方の敵に照準を定めた。

 そして、一閃。

「サウンド・オブ・ディスティニー!!」
「冷血グレネード!」

 必殺技が炸裂し、敵は完全に沈黙する。
 やっぱり雑魚は雑魚だった。



 ……それからしばらく後のこと。
 僕と理奈ちゃんは、街道を並んで歩いていた。
 駄目もとで僕がこの世界の住人でないことを説明してみると、意外と
あっさり信用してくれた。
 その上で、僕のこれまで遭遇した出来事を説明する。
 彼女は面白そうに笑っていた。
 笑い事でもないんですけどね、僕のことだし。
「それで、これからどうする気よ?」
 その言葉に、僕はべつに、とだけ答える。
「あてはありませんしね。ゆっくり元の世界に戻る方法を捜しますよ」
 嘘である。
 元に戻る方法を見つけるためなら多少の無理ならするつもりである。
 と、理奈ちゃんが足を止めた。
 そして、一人でこくこくと頷く。
「じゃ、私もあなたについてくわね」






 ……はい?

 僕は、耳を疑った。
「今、なんて言いました?」
「あなたについてく、って言ったのよ」
 平然と繰り返す理奈ちゃん。
 その表情が、にっこりと微笑みの形に変化する。
「今まで兄さんに閉じこめられてたみたいなものだし、いい機会だもの」
「だからって……」
「家はあなたが壊しちゃったし」
 ……言い返せない。
 微笑みから放出される圧倒的な威圧感が、僕の意識を圧迫する。
 うーむ、これがトップアイドルの迫力か。
 元の世界に戻ったらもう少し敬意を払っておこう。
「……解りましたよ。好きにして下さい」
 僕が諦めたように言うと、理奈ちゃんはうんうんと頷いた。
「素直で大変よろしい」
 芝居がかってそう言う理奈ちゃんに、ため息をつくしかない自分。
 と、その瞬間にぽん、と手を叩く理奈ちゃん。

「あ、そうそう。兄さんが追っかけて来ると思うから気をつけてね」





 ……はい?

 再度、僕は耳を疑う。
 だがそのことについて問い質す前に、理奈ちゃんはさっさと先に進む。
「ほらほら、早く行きましょ! この先に大きい図書館があるのよ。
そこなら何かいい手が見つかるかも知れないわ!」

 そんな彼女の声を聞きながら。

 僕は、こんな理不尽な目に遭わなきゃいけない僕の運命を呪うのだった。



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こうして第一の仲間を得た勇者ひなたん!

だが、そんな彼に草が、そして緒方英二の魔の手が迫る!

それよりなにより、今回登場人物少なかったなぁ……。

では、また次回をお楽しみにっ!

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ひなた
LV 4
HP 177/177
MP 48/60

理奈
LV 3
HP 84/84
MP 94/116