Lファンタジア2・第4話「ざわめく夜道の刺客たち」  投稿者:T-star-reverse
<これまでのあらすじ>

 美加香の新料理を食べて気を失った風見ひなた。
 目が覚めると、そこは異世界だった!
 しかも彼はその世界では王子でかつ勇者という、お約束な身分であった。
 が、しかしながらその運命に逆らうように本の世界へ戻る方法を探して
旅を始めた矢先、いきなり騒動に巻き込まれて幾星霜。
 今では家出娘(理奈)のお守りという有様。
 はたして彼は無事に目的を達成できるのか?
 そしてこの世界の正体は?



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 本。
 本の山。
 いや、本の断崖と言ったほうが正確だろうか?
「……確かに、大きい図書館だなぁ」
 感慨と皮肉を込めて呟いた言葉は誰の耳に届くこともなく。


 足手まとい……でもないな。とりあえず理奈ちゃんと行動を共にすることに
なった僕は、彼女に連れられて自治都市らいすりばーの図書館まで来ていた。

 らいすりばー。

 その名が示す通り豊かな穀倉地帯を持つ、国と言っても差し支えない都市。
 政治上の影響力は、他のどの国よりも大きいと言われている。
 生産力。
 技術力。
 魔法力。
 どれをとってもその都市は抜きんでて高い水準を誇っていた。
 機械の国と称されるにーどる国にしろ、技術力に関してはらいすりばーより
わずかに高いという程度にすぎないのである。

 以上、らいすりばーの解説終了。

「……というわけなのよ、わかった?」
 図書館での調べ物を一時断念した僕と理奈ちゃんは、喫茶店で休んでいた。
 ついでに彼女からこの国について聞いていたわけだが、それがさっきの
僕の説明そのまんまである。
「ん……わかった」
 僕は曖昧に頷きながら、目の前に置いてある紅茶を飲んだ。
 それを見ながら理奈ちゃんも、特大チョコレートパフェに手を伸ばした。
「…………」
「……? なに?」
 僕の視線に気がついて、スプーンを持ったままきょとんとする理奈ちゃん。
「いや……太らないのかなぁ、と思って」



「普通、そういうことはレディーに聞かないの」
 僕の顔面に氷の塊を叩き込みながら赤くなってそう言う理奈ちゃん。
 当然僕の顔面も血で赤く染まっているが、それは関係のない話である。
「あ、そうそう。この店『エコーズ』もらいすりばー……ここが本店なのよ」
「へえ」
「まあ、ここは喫茶店だけど、他では酒場とか宿屋とかやってるらしいけど」
 ……なるほど。
 ニードルで冬弥先生がやってた酒場も『エコーズ』というわけか。


 とりあえず顔面の止血を終えた僕は、ふう、と考えをまとめてみた。
 ひとつ、僕はまだこの世界から帰る方法を見つけていない。
 ひとつ、僕はこの世界において勇者である。
 ひとつ、理奈ちゃんは家出同然で僕についてきている。
 ひとつ、だから英二さんは理奈ちゃんを追っかけているはず。
 ひとつ、よくわからないが草が僕ら両方を狙っている。
 そーいや、葵ちゃんもここに戻ってきてるんだろーしな。
 待てよ、彼女がここの国に「戻って」来るってことは、もしかして……。
「理奈ちゃん」
「何?」
 僕はふと思いついて聞いてみた。
「ひょっとして、この国の王族って来栖川一族?」
「王族ってのは正確じゃないわね。自治都市だから。でもまあそんなとこよ」
 ……なるほど。
 らいすりばーって国名は、今まで土地の食料の生産性の高さから来てると
思ってたけど、実際の所は……。
 来(らい)
 栖(す)
 川(りばー)
 ……ってことか。

 僕は頷くと、なんとはなしに窓の外に目を向けた。

 そこには、なにか黒いモノが張り付いていた。


Lファンタジア2・第4話「ざわめく夜道の刺客たち」


「ところで理奈ちゃん」
「なに?」
 僕は前に向き直ると、理奈ちゃんにこれからのことを相談してみた。
「図書館で収穫がなかったわけだけど、これからどうするの?」
「そうねー、兄さんのこともあるしあまり同じ所に長居はできないし……」
 と、理奈ちゃんが俯いて考え始めた瞬間。
「うっうっうっうっうっ……」
「うわぁぁぁっ!?」
 突然足下から泣き声がし、僕は驚いて立ち上がった。
 さっきまで僕が座っていたテーブルの下から、女の子が顔を出していた。
「無視するなんて酷いじゃないですかぁぁぁ!」
 雛山……理緒ちゃんだ。
 どうやら、こっちの世界でも貧乏らしい。
 喫茶店に似合わぬ、着たきりっぽい服装がそれを物語っている。
「どうでもいいですけど、さっき窓に張り付いていたあなたが一体どうやって
僕の足下に瞬時にして現れるんですか」
「そんなのどうでもいいの」
 よくはないと思うが。自分で言っといてなんだけど。
 そのうちにテーブルの下から這いだして立ち上がり、ぱんぱんと裾を払う
彼女に向けて、理奈ちゃんの誰何の声が飛ぶ。
「……で、私たちに何か用なの?」
「あ、そうだったそうだったっ!」
 理緒ちゃんは何かに気づいたように突然ぱしんと両手を叩き合わせると、
僕と理奈ちゃんを交互に見て、ずいっと理奈ちゃんに向けて身を乗り出した。
「あなたたち、冒険者でしょ?」
「……まあ、一応」
 一瞬きょとんとしたが、すぐに何事もないかのように答える理奈ちゃん。
 それを聞いてほっとしたような声をあげる理緒ちゃん。
「よかったぁ。違ったらどうしようかと思った」
「それで、だったらなんの用なんですか?」
「うん、話せば長くなるんだけど……」

 彼女の話はその言葉通り、無意味やたらと長かった。
 要約するとこんな感じである。

 理緒ちゃんの家は貧乏である。

 以上。

「そんな身も蓋もない言い方しないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 僕の服の裾を掴んでがくがくがくと泣きながら揺する理緒ちゃん。
 丁度僕の顔の部分に前髪が刺さってやたらと痛い。
「それで、あなたのお母さんの治療代を稼ぐために賭け試合に出る
あなたの恋人を、試合の日まで護衛してればいい訳ね?」
 顔面血塗れで朦朧としている僕に代わって理奈ちゃんが確認を取る。
 ひっくひっくと泣きながら頷く理緒ちゃん。
「お願いしますぅ……うち、貧乏だからお礼はあまりできませんけど、
治療費を稼いで余ったお金を報酬にしますからぁぁ」
 ぺこぺこと頭を下げる理緒ちゃん。
 その様子を見て、理奈ちゃんが僕に確認する。
「この仕事、受けるわよ。いーわよね?」
「勝手にして下さい……」
 貧血で倒れている僕は、本気でそう答えるのだった。

 ……僕、主役じゃなかったっけか?



「はいお待たせ、タコヤキラーメンです」
 それから僕たちは、理緒ちゃんの案内で護衛相手である猫町櫂の屋台へと
足を運んでいた。屋台脇のテーブルにかけつつ、僕らは一息ついた。
 出された料理に口を付けつつ、僕は理緒ちゃんに尋ねた。
「それで、試合っていつなの?」
「明日の昼」
「それまたずいぶんと急な話よね」
 理緒ちゃんの答えに、理奈ちゃんの感想が続く。
 こくりと頷きながら、理緒ちゃんはずずずとスープを啜った。
 そしてどん、とどんぶりをテーブルに置きながら口を開く。
「お母さんの具合が急に悪くなっちゃったから、できるだけ早いうちに
まとまったお金が必要になっちゃったの……それで、beakerくんに頼んで
なんとか猫町くんが試合に出られるようにしてもらったの」
「それだけじゃ、別に護衛とか頼まなくても……」
 理奈ちゃんのもっとな意見。僕もそう思う。
 ただの賭け試合なら、試合中に反則こそあれ、試合前に相手をどうこう
しようなどとは普通しないだろう。
 だが理緒ちゃんはうつむき加減で口を開く。
「うん……でも、昨日も……」
「いいよ。それ以上言わなくても」
 ぽん、と突然理緒ちゃんの頭に手が置かれる。
 いつの間にやら彼女の後ろに櫂の姿があった。
「あれ、櫂くん?」
「昨日のことは昨日のこと。心配しなくても僕は平気ですから」
「なにかあったんですか?」
 僕はレンゲでスープをかき回しつつそう聞いた。
 理奈ちゃんもじっと櫂を見ている。
 櫂はぽりぽりと頭を掻きつつ、不承不承口を開いた。
「いや、たいしたことじゃないんですよ。ただ、試合が決まったあとに
数人、屋台に火をつけようとした奴がいたもんで」
「ふーん」
 僕は納得して頷くと、テーブルに手をついて立ち上がった。
 理奈ちゃんも同じように立ち上がっている。
「それって、今僕たちを囲んでる奴らみたいな?」
 僕の言葉に、理緒ちゃんだけが驚いたような顔を見せる。
「え? え?」
「まあ、そういうことですね」
 櫂もどこから取り出したのか、両手にトンファーを装備している。
 そうこうしてるうちに、理奈ちゃんがよく響く声で呼びかけた。
「こそこそしてないで、出てきたらどうなの?」
 その声を合図にしたかのように、まあ出るわ出るわぞろぞろと。
 チンピラらしき者の数、ざっと10人。
「誰に頼まれたんです?」
「答える必要はねーな」
 櫂の誰何の声に、冷笑で答えるチンピラの一人。
 そのやりとりを合図にして、敵味方入り乱れた乱戦が――

 特に始まるようなこともなかった。

「冷血……グレネードっ!!」

 どかーん、と一撃で沈黙するチンピラたち。
 弱すぎるぞ、おい。



 そんなこんなで日が暮れて、屋台を畳んで帰途につく僕たち一行。
 夜空に浮かんだ月が、なにやらぼーっとした雰囲気で道を照らしていた。
「そういえば、明日の対戦相手って誰なの?」
 理奈ちゃんが思いだしたように櫂に聞く。
 そーいや、それ聞いてなかったな。
 櫂はんー、と少しなにかを思い出すような素振りを見せてから答える。
「確か……夢幻来夢とかいう格闘家だったかな。最近売り出し中で、
まだ詳しい情報は解ってないらしいけど」
 ふむ。
 こっちの世界は元の世界とリンクしている。とすれば……。
 かなり厄介な相手である。
 相手が名もなき相手ならば、櫂が負けるようなこともない、
僕か心配する程のこともないのだが、対戦相手も名のある戦士だとすると
話はまた違ってくる。
 しかも、よりにもよって格闘専門の来夢とは。
 本業が屋台引き……というのもまぁ語弊があるが、戦闘専門じゃない櫂には
ちょっとばかり厳しい相手かもしれない。
 しかし、そうなるとなおさら。
 どうして櫂が狙われるのかが解らない。
 そうやって僕が悩んでいると――。


 ぱんっ。


 乾いた音。
 続いてきんっ、という金属音が響く。
 それが、櫂がトンファーで銃弾を防いだ音だと理解するまでに少しかかる。
「誰だっ!?」
 櫂が叫ぶ。
 だが、返答はない。
 沈黙が夜闇にまとわりつくかのように続く。
 ……これは、さっきのチンピラのレベルじゃないな。
 呼ばれたから出ていくような輩は、所詮それまでの相手である。
 一番嫌なのはこうやってこちらに姿を見せない相手だ。

 ぱん、ぱんっ。

 さらに2発。
 だがやはりどちらもトンファーに弾かれる。
 僕らは理緒ちゃんを三方に囲んで身構えた。
「出てこい! 卑怯者!」
 櫂の言葉に、一瞬びくり、と闇が蠢いたように見えた。
 そして、どこからともなくおどろおどろしい声が響きわたった。
「ふふふ……さすがだな。では、こちらを狙ったらどうかな?」
 その言葉と同時に、黒いモノが夜空に飛び上がり、上空からゆっくりと
手に持った拳銃の銃口を理緒ちゃんに向けて撃った。

 ぱんっ!

 しまった!
 上から来るとは思っていなかった僕は一瞬反応が遅れた。
 それは理奈ちゃんも同じらしく、慌てて振り返る。
 そこには、理緒ちゃんをかばって被弾した櫂の姿があった。
「猫町くんっ!」
「くっ……ちょっとドジっちゃいました」
「私なんか、私なんかかばわなくても……」
 そんな二人のやりとりに気を引かれながらも、僕は敵の姿を追う。

 ぬるりとした黒い全身。
 月明かりを遮る黒い翼。
 手には黒光りする拳銃。

 ラルヴァ!

「ククク……猫町櫂、キサマのカラダ、モライウケルゾ」
 ちっ!
 僕は心の中で毒づくと、ハンマーを手にラルヴァとの間合いを詰める。
「La La 星が今運命を……」
 理奈ちゃんも呪文の詠唱に入っている。
 ラルヴァは拳銃を投げ捨てると、爪を構えて迎撃の構えを見せた。
 僕はハンマーを振りかぶると、そのまま前蹴りを叩き込んだ。
「ウゴッ!?」
 不意をつかれてまともに喰らうラルヴァ。
 そこに、呪文の完成した理奈ちゃんの魔法が放たれる!
「……無数の光輝く……シャイニング・スター!」
 魔力によって発生した冷気を帯びた光の珠が、ラルヴァに叩きつけられる。
 瞬時に氷漬けにされたラルヴァは、悲鳴を上げる間もなく僕のハンマーで
粉々に砕け散ったのであった。



 ……そして翌日。
 理緒ちゃんをかばって銃弾を受けた櫂は、命に別状こそないものの、流石に
その状態で試合に出るわけにもいかず、自宅で療養中。
 理緒ちゃんは櫂の看病をしている。 
 そして、僕はというと……。

「青コーナー、風見ひなたっ!!」

 櫂の代わりに賭け試合に出てたりするのだ……。

「なんやお前、猫町とかいう奴やないんか?」
「生憎と、彼は事故で怪我してしまいましてね。僕が代理ですよ」
 目の前で腕を組みつつ似非神戸弁を操る来夢の訝る声に答える。
 苦笑しつつも僕は袖口からいつものハンマーを滑らせた。
 この賭け試合、凶器の使用は刃物と銃火器を除いて特に禁止されていない。
 だからこそトンファーを得物とする櫂が試合に出てたのであろう。
 ……まあ、ああいう性格でもあるし、使えなくても出てたんだろうけど。

 装甲言ってる間に、相手も名乗りを受ける。

「赤コーナー、夢幻来夢っ!」

 名乗りを受けると同時に、ゆっくりと片手を上げる来夢。
「まぁええ。誰が相手やとしても……」
 そしてそのまま、掲げた手を僕の方に向ける。
 一見女性のような整った顔立ちに野性的な笑みを浮かべ、言い放った。
「勝つのは俺やっ!」



 数瞬後。



「……ずいぶん呆気なかったわねー」
「言ってなさい、戦ったわけでもないのに」
 リングサイドからつまらなさそうに言う理奈ちゃん。
 僕は僕で、胸元に仕掛けてあったトゲ無しスパイク・ボールを取り外す。
 目の前には、来夢が大の字になって倒れている。

 ……まあ、しくみとしては単純なことだ。

 試合開始と共に僕が大きくハンマーを振りかぶる。
 そうしたら、先手必勝+隙ありといった感じで来夢が全速力で詰めて来る。
 そこでハンマーから手を離してスパイクボールのロックを外せばはい完了。
 真正面から顔面にカウンター一発KO、って仕組みである。
「ずっこいわねー……」
「お褒めにあずかり光栄」
「褒めてないわよ」

「勝者、風見ひなた!」

 お気楽に言い合う僕らを後目に、レフェリーの宣告が空に響いた。



「風見くん、すっごーい!」
「実力の桁が違いますね」
 理奈ちゃんと一緒に観戦していた理緒ちゃんと櫂が、僕を尊敬のまなざしで
見つめてきたりした。これはこれでなんとなく居心地が悪い。
 ……最近、妙に良識派じゃないか、自分?
 と、そこで僕は理緒ちゃんの隣にいる男女のペアに気が付いた。
 僕のことを観察するような目で見つめている。
 と、僕の視線に理緒ちゃんが気が付いて、その人物の紹介をしてくれた。
「あ、風見くんは初めてだったね。この人が試合を組んでくれたbeakerくん」
「beakerです。よろしく、風見ひなたくん」
 軽い笑みを浮かべ、片手を差し出すbeaker。
「風見です。よろしく」
 一応はさわやかに返事して握手を返す僕。
 だが、内心では他のことに気を取られていた。

 そう。

 beakerの隣にいる女性は誰なんだろう、と。

「しくしくしくしく……」
 なんだかしらないが突然泣く見知らぬ女性A。
 それをよしよしと慰めるbeaker。
「あ、そうそう、それでね、beakerくんが風見くんに用事があるんだって」
 理緒ちゃんが思いだしたように僕にそう伝えてくる。
「用事?」
「ええ。先ほどの戦い、あなたの実力を見せてもらいましたが、なかなか。
……そこで、今度私の行商の護衛を頼みたいんですよ」
「ヤです」
 beakerの言葉に、速攻で首を振る僕。
 そのあまりのスピードに、彼は目を白黒させた。
 所在なげに視線を彷徨わせ、いたたまれなく両手をぱたぱたと動かす。
「え、いや、ですから」
「却下します」
「報酬も……」
「無駄です」
「すでに……」
 ……え?
 淡々とやりとりを進めていた僕は、beakerの言葉によってはっとなった。
 ばっ、と振り向くと、そこにはきょとんとした理奈ちゃんの姿。
「どうかしたの?」
 何事もないかのように聞いてくる理奈ちゃん。
 だが、かつて師匠について過ごした修行の日々を甘く見てはいけない。
 あの無表情な柏木家の三女の表情を読み切れるほどに鍛え上げられた瞳が
普段とは違うその様子をしっかりとらえていた。

 がしっ。

「……これは何ですか?」
「あ、あは、あはは」
 微妙に目をそらして冷や汗を垂らしつつも、見事な愛想笑いを浮かべて
ごまかしをかけようとする理奈ちゃん。
 さすがに上っ面の保持に長けるアイドルである。
 だが、僕が掴んだ右手には、高そうな時計としめった布が揃っていた。
「これは何ですか、これはっ!?」
「あのね、ひなたくんが疲れてるだろうから、ちょぴっと眠ってもらおうか、
って思っただけなの。ええ。それだけよ」
「時計はっ!?」
「ま、前からつけてた……」
「嘘ですっ!」
「ほらほら、暗いとこでも光って小説が読めるのよ」
「ごまかさないでくださいっ!」
 そこまで叫んで、僕はへなへなと脱力する。
 はあ。
 所詮、貴族か。
 欲しいものがあると、すぐに手に入れようとするのだ。
 その辺、やはり世間知らずなのである。
「わかりましたよ……やればいいんでしょ、やれば」
「よかった……」
 だが、そう安堵の声を上げたのは理奈ちゃんではなくbeakerだった。
 実にほっとした感じで続ける。
「もしダメだったら、英二さんの所に代金を取り立てに行くなんていう、
命を懸けた大商談を挑むハメになるんですから……」
「……ってーか、どんな商談だ、それ」
 僕はあきれながらも、彼に問いかける。
「それで、どこまでの行商なんです?」
「ええ。ぶれーどまでですよ。とびっきりの商品が手に入ったので、なるべく
早いうちに持っていきたいんです」
 ぶれーど……か。
 どこかで聞いたことはあるが、確かまだ行ったことはないはずである。
 この機会に行ってみるのも悪くはないだろう。
 上手くいけば、元の世界に戻るヒントも見つかるかもしれない。
「了解。……で、出発はいつです?」
「今すぐです」
「へ?」
 思わぬ返答に、思わず間の抜けた声を出してしまう。
 だが、beakerの顔は真剣そのものだった。
「言ったでしょう? 早いうちに持っていきたい、って。
 ですから善は急げ。さあ出発です!」

 ……いやはや、まったく。

 こうして、僕は一路ぶれーどへと向かうことになったのである。



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連戦連勝! 無敵街道をひた走る勇者ひなたん!

だが、戦闘以外ではいろいろ負けている気がするのは気のせいか?

そして、彼を追う謎の影!

それでは次回を、お楽しみにっ!(なるべく早くします。いやホント)

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ひなた
LV 8
HP 254/254
MP 68/78

理奈
LV 7
HP 119/119
MP 147/147