Lメモ「ダークを操るろくでなし」 投稿者:T-star-reverse
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、せやぁっ!!!」
 息をもつかせぬ連打から、鮮やかな蹴りが相手の頭部に命中する。
 その勢いもそのままに相手は吹き飛び、重力のままに床に叩きつけられた。
「はぁ、はぁ、はぁ、こ、これでどう……?」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、相手がむくりと起きあがる。
 そして、何事もなかったかのように、再び構えをとる。
 それを見て、吹き飛ばした方は思わず叫んでいた。
「……い、いい加減にしなさいよっ!!」



Lメモ「ダークを操るろくでなし」



「な、何なのよあんたのその打たれ強さはがはごほげほっ!!」
 完全に息が切れているうちに叫んだため、後半むせる。
 苦しそうにむせる彼女は、格闘部の来栖川綾香である。
「……そんなこと言われても困るんですけど……」
 ぽりぽりと頬を掻きながらそう言ったのは、T-star-reverseであった。
 閉じているような瞳はそのままに、眉だけをひそめる。
「平気なように見えても、結構痛いんですから」
「あ……当たり前よっ!」
 そうじゃなきゃやってられない、というような感じでそう言う綾香。
「……いつも思うんだけど……」
 不意に横合いから声がする。
 二人がそっちを向くと、そこには坂下好恵が座っていた。
「あんた、人形のほうじゃないわよね?」
「違いますよ。人形だったら一撃で壊れます。ほら」
 と、ベンチの上に置いてあった本を手に取ると、すぐそこに落ちていた
ボールペンを傀儡に変える。
 好恵がその傀儡の胸部に正拳を叩き込むと、傀儡はあっさりと砕け散った。
「確かに……ね。購買部のもよく壊し……もとい、壊れちゃうし……」
「……そーやって、腹いせに壊さないでくださいよ……」
「それはそれとして……」
 綾香が、T-star-reverseに向かって疑問の声を投げかける。
「どうしてあたしが相手だといつまでも起きあがってくるわけ?
好恵や葵が相手のときは、もっとあっさり倒れてるじゃない」
「あっさり……?」
 ジト目で綾香を見る好恵。
「二時間半ぶっ続けで殴り続けてやっと倒したのを、あっさりって言う?」
「……と、とにかく、どうしてなの?」
「私もまだ格闘技のことはよく解りませんが……たぶん、戦闘スタイルの
違いだと思います」
「戦闘スタイル?」
「はい。坂下さんの場合は一撃一撃の威力が高くて手数がさほど多くない。
来栖川さんの場合は、コンビネーションが多いため、総合ダメージは一番
高くても、一撃一撃のダメージが坂下さんや松原さんより低いからかと」
 ふと考え込んで、何かに気づいたように顔を上げる綾香。
「ってことは……」
「はい?」
「消火器で後頭部を殴られたりすると、一撃で倒れるわけ?」

 ごぐしゃっ。

 その質問に対して、T-star-reverseの返事はなかった。
 なぜか消火器を両手に抱え、ぶつぶつと何かを呟いている太田香奈子が
なぜか頭から血を流して倒れているT-star-reverseを踏み越えてどこかへ
歩き去っていった。
「……」
「……」
 しばらく言葉を失っていた綾香と好恵だったが、綾香から口を開く。
「倒れるみたいね」
「そーだな」
「葵を呼んであげよっか」
「そーだな」



 これは夢だ。
 彼は、ぼんやりと頭の中でそんなことを考えていた。
 ただ、それは解っていたのだが、だんだんとその意識が薄れていく。
 現実と、夢の区別が曖昧になる。
 そして、彼の意識は夢を現実として認識するようになり、そして……
 彼は、夢の中で目を覚ました。

 ……彼は、何も出来ずにその場に倒れていた。
 何が起こったのか解らない。
 自分の身に降りかかった事が、昔覚えた、役に立たない数学の公式のように
はるか昔のことのように思い出せなかった。
 そして、彼の意識は目の前で繰り広げられている悪夢に向けられる。

 彼の想い人……松原葵が見るも無惨に傷つけられていた。
 服などは、ほとんどその原形をとどめていない。
 彼女の躰のあちこちに内出血が見られる。
 そして、彼女は彼の目の前に倒れた。

 やめろっ!やめてくれっ!
 声に出して叫びたい。
 今すぐに飛び起きて助けたい。
 しかし、彼の体は彼がいくら動かそうとしても、ぴくりとも動かなかった。

 彼女が、血と涙と汗で飾り付けられた顔で彼の方を向く。
 そして、血の色で染められた唇が彼の名と、呪詛の言葉を刻む。

 たすけて……くれないんですね……

 彼は、絶叫した。



「…………っ?」
 彼が目を覚ますと、世界は闇に包まれていた。
 慌てて体を起こすと、世界に光が戻ってきた。
 顔にかかっていた濡れタオルが体の上に落ちる。
「あ、目が覚めました?」
 彼の耳に声が届く。なぜだかは知らないが、快い声ではある。
 彼は、後頭部に走る痛みに顔をしかめながら、自分が居る状況を確かめる。
「ティー先輩、大丈夫ですか?」
 どこかの更衣室だろうか。まわりにロッカーが立ち並んでいる。
 彼はどうやら、長椅子の上に寝かされていたらしい。
 きょろきょろと周囲を見回すと、一人の女の子の姿があった。
「まだ、痛みますか?」
 どうやら、何らかの理由で気を失っていた彼を、その女の子が介抱して
くれていたらしい。彼女は、換えのタオルを絞っていた。
「……せんぱい?」
 何も答えない彼に、彼女が怪訝な表情を見せた。
 彼は、無言ですっと立ち上がると、一言だけ、こう言った。
「ありがとう」
「えっ……?あっ!」
 彼女が知っている「彼」とは違う様子に彼女が驚いている間に、彼は
部屋の外へゆっくりと歩いていった。



「あ、ティー、目が覚めたの?」
 彼が更衣室から外に出ると、長髪の女が声を掛けてきた。
 しかし、彼が彼女と目を合わせた瞬間、彼女の表情が変わった。
「……あんた、本当にティーなの?」
 その問いに答えるのも面倒くさく、彼は無言のまま彼女に近付く。
「違う……みたいね……」
 それを敵対行動と判断した彼女はゆっくりと構えを取る。
 そして、一気に彼との間合いを詰め、ハイキックを相手の頭部に放つ。
 しかし、ゆらり、と彼が体を動かすと、わずかに蹴りが外れる。
「見切られた!?」
 しかし、彼女の攻撃は続く。右足が、左足が、次々と跳ね上がり、彼に
致命的な一撃を当てようと襲いかかる。
 しかし、そのことごとくが目標に触れることなく床につく。

 ばんっ!

 外れた蹴り足が床に叩きつけられる音が響き、びりびりとその足が痺れる。
「くっ!!」
 彼女は、自分の動きに違和感を感じていた。
 攻撃が、当たらない。
 それだけでなく、先ほどから動きの反動が自分に戻ってきている。
 仕方なく、彼女は通常攻撃をあきらめ、間合いを取った。
「これなら……どうかしら?」
 そして、目前の彼に対して魔術の構成を編み上げる。
 たとえ本当に彼が本物だったとしても、彼なら致命傷にはならないだろう。
「光よ!」
 振りかざされた彼女の右腕から、光熱波が放たれる。
 彼は避けるそぶりもなく、ただ一言、何かを呟いた。
「……□■□■……」
「!?」
 この世のものではないような奇妙な発音に彼女が戸惑っているうちに、
その目の前では、彼女の常識を覆す出来事が起こっていた。

 魔術が、戻ってくる。
 いや、それだけなら何も驚くべきことではない。
 ただ、光熱波が冷気を帯びたものに変化していることを除けば。
「まさかっ!!」
 魔術が、より威力の高い魔術によって跳ね返されることはある。
 魔術が、なんらかのアイテムによって、そのまま跳ね返されることもある。
 しかし、放たれた魔術を、その構成に干渉して、効果すら変えて返すなど、
そんなことは、出来ないはずであった。
 防御の構成を編む間もなく、彼女を、極寒の冷気が包み込んだ。



「……あ、あれ?」
 綾香は、自分の身に何が起こったのか解らなかった。
 確か、目の前で魔術を反射されて……
 目の前。
「……えっ?」
 気づけば、彼女の前に一人の男が背を向けて立っていた。
 彼女がよく知っている男だ。
 どうやら、彼がかばってくれたらしい。
「大丈夫か?」
「……え、ええ。サンキュ、ハイド」
 その男、ハイドラントは目の前のT-star-reverseの姿をした者を睨む。
 T-star-reverseの姿をした者は、平然とその視線を受けていた。
 ハイドラントが口を開く。
「まったく……新しいダークの反応があったんで来てみれば……」
「…………」
 T-star-reverseの姿をした者が「ダーク」という言葉に反応する。
 声を低く落とし、凄みのきいた声で問う。
「……答えろ、貴様、何者だ」
「……T-star……」
 ぼそりと名乗るT-star-reverseの姿をした男、T-star。
 その様子からは、感情が見えない。
「T-star……か。reverseの文字を取っただけ?ふざけるなよ」
「……ふざけちゃいないさ」
 T-starは、わずかに肩をすくめると、再び口を開いた。
「私の能力は見たんだろう?」
「……反転能力……か」
「それだけじゃないがね。たとえば……」
 T-starは、目を閉じると片手を差し出した。
「日陰が常闇から伸ばす指」
 その声で、粗雑な構成ではあるが、魔術が発動する。
「タマンカマの鏡よ!」
 ハイドラントの防御魔術が、あっさりとその構成を霧散させた。
「……綾香の構成を真似たか」
 別にどうということはないといった感じで、T-starは彼に言う。
「……さて、久々に起きたんで、目が冴えてしょうがない。通してくれ」
「ティー先輩!」
 その時、不意に後ろから声がした。
 
「葵!」
 綾香が、その声の主に声を掛ける。
「……そうか、彼女は葵というのか」
 表情のない顔に、わずかに穏やかさが浮かぶ。
 それを見て、ハイドラントが言う。
「……T-starとか言ったな。お前はまだダークとしては不安定らしいな」
「不安定……そう。私が居るところは、いつだって不安定なんだよ……」
 その言葉に、怪訝な顔を浮かべるハイドラント。
 綾香と葵はというと、ダーク同士の会話についていけずに呆然としている。
「それは、あなたも同じじゃないんですか?」
「……!」
 T-starの言葉に、一瞬ぴくりとするハイドラント。
 それを見て、ふふっと笑いながら目を伏せるT-star。
「まったく……さっきまで目が冴えてしょうがなかったのに、あなたが来て、
そして彼女が来て、丁度場のバランスが取れたみたいだね……」
 中途半端に敬語が入り交じった口調で、T-starがぼやく。
 その言葉に、ハイドラントが言う。
「バランス……そうか、お前の目的は……」
「全ての釣り合い、光も闇も、善も悪もない……それが私の理想……
結果がそれであれば、手段は問いませんよ。ねぇ?」
「……いいだろう。T-star……」
 頷くハイドラント。二人の視線が交差する。
 この瞬間、T-starはダーク十三使徒の一員となった。

「ただし……今回は実害がなかったからいいが……」
 ハイドラントが、そう言って身を翻す。
「綾香に髪の毛一本でも傷をつけてみろ。絶対にお前を消滅させるからな」
「いいでしょう。私もまた眠りますよ」
 T-starは続ける。
「……ただ、reverseはreverseで、私とは別物です。……それは忘れずに。
では……綾香くん、葵くん、ごきげんよう……□■□■……」
 ハイドラントが消えるのと、T-starが自分に反転能力を使うのは、
ほぼ同時だった。
 ゆっくり倒れる、T-star-reverseの姿をしたもの……。
「……ティー先輩!」
 葵がT-star-reverseの姿をしたものに駆け寄った。



 T-star-reverseは、ゆっくりと目を開けた。
「……あれ?」
 気がつけば目の前に葵がいた。
「松原さん……?」
「ティー先輩、ティー先輩ですよねっ!?」
「そうだけど……え、どうかしたの?」
 こんっ。
 軽く頭を小突かれるT-star-reverse。
 見れば、綾香が彼の頭を軽く叩いていた。
「女の子を心配させるな、ってことよ」
「はぁ?」
 T-star-reverseは訳が分からず、ただ間抜けな声を上げるだけだった。



 ……そして、格闘技練習場の屋根の上。
「導師、どうでした?彼は」
「切り札として使える……まあ、逆に言えば、今は切り札にしか使えないな」
 苦笑すると、ハイドラントは傍らに控える葛田に向かって言う。
「なにしろ、普段はダークとは無縁の男だからな。……彼は」
 そして、指示を出す。
「出来る範囲でいい。彼のダーク化のきっかけを探せ」
「御意」
 そう言って、葛田は姿を消した。
 一人残されたハイドラントは、ぽそりと呟いた。
「……駒がだんだんと揃ってきたな……」
 そして、彼もまた、姿を消した。



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 ども。T-star-reverseです。
 とりあえず、ダークモード・T-starのお話です。
 なんか、魔術とかつかってますが気にしないでください。

 えーと、ハイドラントさんと葛田さん、出演してもらってます。
 ダークと言えばこのお二人は欠かせませんね。
 ……と、いっても、このお話でダークなのって、夢の中だけなような……

 ……そうそう、綾香さんのあの扱いは、勘弁してやってください、ハイドさん、悠朔さん。

 とりあえず、ダーク化の鍵は……夢の内容の通り葵ちゃんなんですけどね。

 で、気絶したときにあーいう内容の夢を見ても覚醒します(笑)

 と、言うわけで、今回はこの辺で。相変わらず感想は無し。
(我ながら情けない……いつか、いつか書かなきゃっ!)

 駄文、失礼しました。