ある日、夕日が沈むころ、道端で。 葵が一人、しくしくと泣いていた。 「……っ…………ぐすっ…………ううっ」 ただそれだけのこと、それが、その事件の始まりであった。 Lメモ「青い瞳の挑戦者」 時は進み、次の日の放課後。 廊下を歩いていたRuneは明らかな殺気を感じ、その場を飛びすさった。 ざくっ!ざくっ!ざくっ! 「…………」 さっきまでRuneが立っていた場所に、数本の矢が突き刺さる。 一瞬、レミィか?と思いかけたRuneだったが、矢を見てすぐに、 その考えが間違っていることに気づいた。 一目見て、あきらかに弓道部の矢でないからだ。 それよりも彼の目を引いたのは、矢が刺さった廊下である。 矢が刺さった地点に細かな振動が走ったかと思った瞬間、刺さった矢が その刺さった跡と共に消滅したのだ。 残ったのは、Runeと、マルチたちが掃除した綺麗な廊下だけだった。 それから時間をおいて、別の場所。 アフロ髪の手入れをしていたTaSは、嫌な予感がして後ろに飛び退いた。 ……どすん! 「……危ないデスねぇ」 目の前に落ちてきたサンドバッグ(40s)を見て、そう呟く。 そして、何事もなかったかのように、再び髪を梳かしはじめた。 「……さっきからうろちょろと……誰だ?」 Runeが、物陰に隠れているであろう「誰か」に呼びかける。 その言葉を聞いてか、その人物はRuneが予想したとおりの場所から ゆっくりと姿を現した。 「……Runeくん、君は許されざるべきことをした」 そう言って姿を現したのは、T-star-reverseである。 あちこちの部活で活動しているのを、Runeも見たことがあった。 しかし、直接顔を合わせるのはこれがはじめてである。 「ティー先輩?……自分があなたに何をしたって言うんです?」 「私には何もしていないかもしれないが……松原さんを泣かせた罪は重い!」 そう言い放ち、T-star-reverseはRuneに飛びかかった。 心当たりを思い出す前に攻撃され、一瞬混乱したRuneであったが、 とりあえず目の前の障害を排除することに決める。 とりあえず、飛びかかってきたT-star-reverseの攻撃をかわしつつ、 一撃で相手を倒すべく魔術の構成を編む。 T-star-reverseは何も持っておらず、素手で攻撃してきている。 ならば、と言うことで、Runeは編んだ魔術の構成を拳にまとわせた。 「……我掲げるは降魔の拳!」 そして、無防備な鳩尾に向けて不可視の拳撃を放つ。 その一撃でT-star-reverseは昏倒し、決着が付く、とRuneは考えた。 しかし、その予想は一瞬で覆された。 「……なっ!?」 Runeはすぐに自分の失策を悟った。 無生物を透過し、生命体にのみダメージを与えるはずが、手応えはない。 つまりは、相手が生物ではないということだ。 「人形かっ!!」 「ご名答」 魔術の反動で生まれた隙に、T-star-reverseの人形……傀儡が仕掛ける。 しかし、Runeも素人ではない。その攻撃をなんなく受け流し、そして カウンター気味にボディブローを叩き込んだ。 「ぐっ!」 その一撃は、人形の腹に言葉通り「突き刺さって」いた。 たまらず離れ、ひびの入った腹部を押さえてうめくT-star-reverseの傀儡。 「人形のくせに痛みを感じるんですか?」 意地悪く尋ねるRune。 「生憎……私自身がコントロールしてると、痛みも共有しましてね…… ついでに言うと、人形が活動停止になるまで、コントロールは外せません」 痛みに耐えつつも、はっきりとした発音で答える。 生身なら、ナイフを腹に深く刺された以上のダメージを負っているはずだ。 それでもまだ支障なく動けるT-star-reverseの精神力に、Runeは 内心賞賛の声をあげた。 戦いは、まだ続く。 一方、それと同じ頃、別の場所で。 「……TaSくん……」 「ハイ?」 背後からおもむろに掛けられた声に振り向くアフロ髪の男、TaS。 その眉間に、拳が叩き込まれた。 拳の衝撃で後ろに倒れかけるも、なんとか踏みとどまる。 そして、突然殴りかかってきた相手を見やった。 T-star-reverseである。 「ハイ!ダレかと思えば、ティーサンじゃありませんか。アフロ同盟に 入ってくれる気になったんデスか?」 殴られたことには頓着せず、あくまで陽気に挨拶するTaS。 「……違いますよ……」 その反応にしばし呆れたT-star-reverseではあったが、すぐさま 気を取り直してTaSに言い放つ。 「TaSくん……松原さんを泣かせた罪、贖って貰います!」 「What?……何のことだかワカリマセン……」 「問答無用!」 そう言って、T-star-reverseが次々と拳を繰り出す。 しかし、こともなげにその全ての拳撃をかわすTaS。 決して鋭くはない拳ではあるが、見事な回避力である。 「せめて、理由くらい教えてくれたっていいじゃないデスか」 「しらじらしい……そうまで言うなら、私を倒してから聞くことです!」 そう言って、さらに攻撃を仕掛けるT-star-reverse。 「なら、仕方ありまセン……本気で行きますネ」 TaSが精神を集中させ、自分の周囲にたくさんの光の珠を浮かべた。 そして、その光の珠が二人の周囲をゆっくりと漂いはじめる。 構わず攻撃を続けるT-star-reverseの連撃をかわしつつ、TaSは おもむろに反撃に転じた。 体を沈め、肩をT-star-reverseの鳩尾にぶつける。 そして光の珠が追い打ちに飛ぶ。 珠が全て鳩尾に集中して……貫いた。 「!?」 驚くTaSの前で、T-star-reverseの姿をしていたものが、ゆっくりと 元の姿を取り戻していく。 ……それは、穴の開いた扇子であった。 「人形デスか……」 そう言って、彼がT-star-reverse本体を探そうとしたその瞬間。 ぐしゃっ! 彼の目の前に、人の姿をしたものが叩きつけられた。 間髪入れず、声が聞こえた。 「我は放つあかりの白刃!!」 魔術による攻撃が、それにとどめの一撃を加えた。 だんだんと元に戻っていくのをみて、これも傀儡だろうと予想がつく。 それはというと、原形をとどめないほどボロボロになったカンペンである。 「そこにいるのは誰だ?」 「……誰デス?」 ほぼ同時に、その場にいた二人はお互いを確認した。 「お前は……TaS」 「Runeサン……」 「二人とも、待っていましたよ」 そして、二人は同時に上を見上げた。 ……そこには、T-star-reverseが本を片手に立っていた。 「……さて、どうして私が君たちを襲ったか、ですが……」 T-star-reverseがおもむろに話し始めた。 「どうしても思い出せませんか?」 「松原サンを泣かせタ……とか言っていまシタガ」 「それこそ心当たりなどない……あの青い人にはここしばらく会ってな……」 「【音矢よ砕け(シェセル・ゲメゲム)】!」 Runeの言葉を遮るように、T-star-reverseの持つ本から矢が飛んだ。 帽子のつばで影になっている眼鏡が鈍い光を放つ。 「……彼女を……松原さんを……」 すでに起動状態にあった本が、ゆっくりと開かれる。 「青い人と呼ぶなっ!……【おお太陽よ真美は魂を監視する心臓なり】!」 その瞬間、本から飛び出した「何か」が、二人に向けて矢を乱射する! RuneとTaSは、それを避けながら、昨日の事を思い出していた。 昨日放課後、ある場所で。 「やあ、そこにいるのはRuneサンじゃないデスか」 TaSが、たまたま通りがかったRuneに声を掛けていた。 「ん……お前は……TaSとかいったか」 「そうデス。知っててもらえて光栄デス」 忘れようにも、アフロな髪型はそう簡単に忘れようがないだろう。 「何か用か?」 「イエ、空を見ていただけデス」 「空か……ふむ」 一瞬無言で空を見上げるRune。すぐに沈黙を破る。 「青い空だな……こうやって見てると……」 「何デスか?」 「いや、ここまで見事に青いと、あの青い人が思い出されてな」 「青いヒト……葵サンの事デスか?」 「他に誰がいる?」 TaSは少し考えたが、確かに彼女以外は思い浮かばない。 「ナルホド」 そう言って頷いた。 そして、そのまま別れたのだが―― 「昨日の話を聞いていた?」 「思い出したようですね……そうです!私と……松原さんが!」 T-star-reverseが手を振り、なにやら呪文を呟く。 「清濁混じりし人の世の水よ その力を示したまえ……」 すると、何もないところから水が姿を現しはじめた。 水が人の形を取ったようなその「水霊」は、二人に向かって水泡を飛ばす。 「葵サンも?」 TaSが水泡を避けつつ聞き返す。 T-star-reverseも、懐から毛糸やらサイコロやらを取り出しながら答えた。 「そうです!私があなた達の話を聞いたとき、松原さんは泣いていました! あなた達の話にショックを受けたに違いありません!」 「それは言いがかりだ」 「第一、ワタシは青いヒトとは一言も言ってないデス」 「とにかくっ!私は松原さんの涙の代償として、あなた達を倒します!」 本を開いて呪文を唱えると、毛糸が、サイコロが、T-star-reverseの姿を 取り始めた。そして、その二体の傀儡が二人に襲いかかる。 「我は放つあかりの白刃!!」 Runeの魔術が水霊に襲いかかる。 水霊は目の前に水鏡を生み出し、その斬撃を無効化した。 「小癪なっ!」 Runeは真後ろにいた傀儡に肘を叩き込み、一撃で元の毛糸に戻した。 TaSの光の珠も、水鏡に映し出された水霊の幻影によって無効化される。 「面倒くさいデスねぇ……」 そう言って、こちらも傀儡を頭部への一撃でサイコロに戻す。 「脆すぎだな」 冷たく言い放つRune。 そしてそのまま、その拳を水霊に叩きつける。 その一撃は、水鏡ごと水霊を無に返した。 「……痛いじゃないですか。けど……」 そう言いつつ、T-star-reverseはゆっくりと本を懐にしまい込んだ。 そして、構えを取る。 「もとより、それで勝てるとは思ってませんから」 「生憎と、それで勝てるとも思えないが?」 RuneがT-star-reverseの構えを一瞥し、冷たく言い放つ。 明らかに格闘……あるいは戦闘の力量不足が見て取れたからだ。 それでもRuneは本気で構えを取る。 相手を侮って命を落とした奴など、掃いて捨てるほどいる。 彼はそれをよくわかっていた。 TaSはいつもの通り、軽い雰囲気でいた。 視線の間で火花が散る。 「!」 「!」 双方共に、一撃を放とうとしたその瞬間! 「あれ、みなさんここで何をしてるんですか?」 不意に後ろから掛けられた声に、T-star-reverseは驚いて振り向いた。 「ま、松原さん?」 「あ、ティー先輩。それにRuneさんにTaSさん、こんにちわ」 いつの間にか、そこには葵が立っていた。 RuneとTaSにも、何ら気兼ねなく挨拶をする葵。 「……」 「……」 無言でT-star-reverseを見つめるRuneとTaS。 頬に一筋の汗をかきつつ、T-star-reverseは恐る恐る口を開いた。 「……ねぇ、松原さん。一つ聞いていいかな?」 「なんですか?」 「昨日、そこの木の根元あたりで泣いてなかった?」 「あ……み、見てたんですか?」 恥ずかしそうにうつむく葵。 「ムエタイの研究で、足にテープだけ巻いて走ってたんです。そしたら うっかり木の根っこに足の小指をぶつけちゃって……」 それだけ聞くと、RuneとTaSはゆっくり、そしてしっかりと T-star-reverseの襟首を掴んで、ずるずると引きずりはじめた。 「……知っているか?冤罪というのは、補償を受ける権利があるんだぞ」 「いい迷惑デス……」 眼鏡の影でしくしくと涙を流し、無言で引きずられるT-star-reverse。 それを、不思議そうに見る葵。 「あの……」 「あ、いーのいーの。キミはそこにいてね」 「そうデス。これから三人でちょっと話があるデスね」 ……そして、そこには誰もいなくなった。 次の日、しっかり「補償」をさせられたT-star-reverseは、珍しく欠席 したそうである。 【おまけ】 その事件があった次の日、事件の場所にRuneがやってきた。 「それにしても解せない……あの状態で、あいつに勝ち目はなかったはず。 それでも勝負を挑んできたとは……愛のなせる業か、それとも……うん?」 独り言を呟きつつ、彼は何かに気づいた。 地面の上に、何かが無造作に落ちていた。 まず目に付いたのは、おにぎりである。 それから、となりにウィスキーのビンが置いてあった。 「……なんのつもりだ、あれは……」 そう言ってそれを冷ややかに見つめるRune。 そして、その目がさらにもう一つの物体を発見したとき、彼は駆けた。 「ZABADAKのアルバムぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」 かちっ。 その音が聞こえた瞬間。 学園の一角に、爆音が響きわたったという。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ども。T-star-reverseです。 今回は「青い人」という会話をして松原さんを泣かせた二人に鉄槌! ってな感じですが…… 今回は誤解ということでした。(笑) でも、やっぱり彼女を「青い人」と呼ぶのはやめてくださいね。 お願いします……特にRuneさん。(笑) では、感想です! Lメモ私的列伝vol.1 「剣士達の黄昏編」 ……確かに、イデオン・ソードも剣(ソード)ですね……(笑) けどその論理だとトール・ハンマー(銀英伝)が鎚(ハンマー)になります。 ……このツッコミ禁止ですか?(笑) シネマLメモ「フェイス/オフ」予告編 映画とは……ひょっとしたら学校祭に放映されるとか……。 だとすると、公開は夏休み明けですね!(笑) Lファンタジア第一話「飛び起きれば勇者だった」 勇者ですか。ペソギソになるよりは数段まし……と思わなくもないです。 ……このままでは、智波さんが可哀想です。せめて頭に「超」をつけて パワーアップさせてあげた方が……(笑)