Lメモ・ショートショート集2「くちづけよりも熱い鉄拳」 投稿者:T-star-reverse
 やっほー、てぃーくんだよ!

 今日も、僕が遊んでて、見たこと、聞いたことをみんなにお話するよ。

 それじゃ、最後まで聞いてね!



Lメモ・ショートショート集2「くちづけよりも熱い鉄拳」



 こないだ僕が、美術教室の辺りを歩いてた時のことなんだけど……
 突然、声が聞こえてきたんだ。
「あーあ……完全にのびちゃってるや。ひどいな」
「ひどいってなによひどいって!ひどいのはそっちじゃない!」
 なにか言い争ってるみたいで、僕が声のする方……美術教室の中に行くと、
たくさんの机の向こう側に、二人、実際言い争ってるのが見えたんだ。
「おいおい、殴ったのは理奈ちゃんじゃない」
「あなたねぇ……いいかげんにしなさいよ。これ以上私を怒らせる気?」
 そう言って、「理奈ちゃん」って呼ばれた方の女の人が、向かい合った
男の人に一歩踏み出した。
 んで、その男の人はっていうと、その間に一歩どころか五歩くらい下がる。
 そしてそのまま、一目散に逃げてった。
 理奈ねーちゃんも、その後を追いかけていった。


 ……で、誰もいなくなったみたいなんで、僕もどっかに行こうとしたけど、
何か気になったから、試しに教室の中に入っていったんだ。
 そしたら……
「ちぃっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「うわっ!!」
 突然、床から誰かががばりと起きあがって、思いっきり叫び声をあげた。
 だけど、顔面が血塗れだった。
「知らないねーちゃん、鼻血出てるよ」
「……しくしくしくしくしくしく……」
 僕がそうやって教えてあげただけなのに、その女の人は突然泣き出した。
 よく解らないんで、僕はただその女の人の肩を叩いてあげるしかなかった。



「……に、してもだ!」
 鼻血も止まって、ようやく落ち着いたその女の人……坂下好恵ねーちゃんは
血だらけの顔をタオルでふきながら僕に言ってきた。
「なんであたしがこんな目に遭わなきゃならないっ!?」
「……さあ」
 僕は、そう答えるしかなかったけど、好恵ねーちゃんは特に僕の答えを
気にした様子はこれっぽっちもなかった。
「あたしはただ、美術の課題提出が遅れたから、それを出しに来ただけだ!
それが、なぜあの兄妹の喧嘩に巻き込まれなきゃならないんだっ!?」
 そして、がくりと肩を落とす。
「……はふ……なんか、滅茶苦茶プライド傷ついたんだけど……」
「……なんで?」
 僕がそう聞くと、好恵ねーちゃんはうつろな目をして答えた。
「ただの音楽教師と倫理教師に、格闘部の副部長が一撃だ……なあ、
あたしっていったい何なんだ?」
「……それ以前に、なんで音楽教師と倫理教師が美術室にいたのかが
とっても気になるんだけど……」
 僕の疑問に答えてくれる人は、誰もいなかった。
 好恵ねーちゃんがあまりに可哀想だったので、僕は背負った鞄から、ひとつ
「あるもの」を取り出した。
「好恵ねーちゃん、立ち直れるように、これ、あげる……」



 それから、しばらくしてからのことだけど……
「好恵さんっ!目を覚ましてくださいっ!!」
「……あれ?」
 保健室の前を通りがかったとき、そんな声が聞こえた。
 ドアが開いてたんで中に入ってみると、一つのベッドの側に、何人かが
集まっている。
「……とりあえず、彼女はもう三日も眠ったまま。それは間違いないわ。
原因は枕みたいなんだけど……どうやっても外れないのよね」
「そんな……坂下さん、どうして……?」
「好恵……何があったって言うのよ……」
 そんな声がしたから、僕は保健室の中に入って、かるーく声を掛けた。
「ねぇねぇ、好恵ねーちゃんを起こしたいの?」
 軽く声をかけたんだけど、部屋の中にいた人は、だいぶ驚いたみたい。
「な、な、なっなっなっ、何だお前はっ!?」
「僕はてぃーくんだよ。よろしくね!」
「てぃーくん……あんた、好恵の起こし方知ってるの?」
 そう聞いてきたのは、髪が黒くて長い女の人だ。
「うん。知ってるよ」
「それじゃ、その枕のことも知ってるんですか?」
 と、これは松原葵ねーちゃん。ティーに聞かされてるからよく知ってる。
「うん。だって僕が渡したんだもん、その枕」
 僕がそう言うと、場は一瞬凍り付いたような気がした。



「……なるほど、話は分かったわ」
 僕が説明を終えたあと、そう言ったのは、きれいな黒い長髪をした
来栖川綾香ねーちゃんだった。
「それじゃ、起こす方法はそれしかない訳ね」
「うん。誰か男の人がキスすればいいんだよ」
 その言葉に、綾香ねーちゃんと葵ねーちゃん、それに保険医の相田響子
ねーちゃんの視線が一人に集中する。
 ……beakerにーちゃんに。
 ちなみにbeakerにーちゃんは、僕のせいで好恵ねーちゃんが眠り続けてる
事を聞いた瞬間に、銃を抜こうとしたみたいだけど、慌てて止められてた。
「き……キス、ですか?」
 僕は、こくん、と頷く。
「ほらほら、さっさとしなさいよ。どーせ、初めてでもないんでしょ?」
「そっそっ、それはそうですけど……っ」
 顔を真っ赤にして、それでも覚悟を決めて、beakerにーちゃんはゆっくり、
好恵ねーちゃんが寝ているベッドに近付いていった。
 そして、そろそろと顔を近づけていった……

 けど、その瞬間。

「一撃・必殺ッ!!」
 眠ったままだったはずの好恵ねーちゃんが、裂帛の気合と共に右拳を
思いっきり突き上げたんだ。
 当然、それはbeakerにーちゃんに炸裂。
 哀れ、beakerにーちゃんは保健室の天井に突き刺さっちゃった。
 そして、目が覚めた好恵ねーちゃんは、僕を見るとぐっ、と右手を握り、
不敵な笑みを浮かべて見せた。
「ありがとね、てぃーくん。おかげで吹っ切れたわ」
「どーいたしまして!」
 けどその時、、僕の後ろから、綾香ねーちゃんが呆然として聞いてきた。
「てぃーくん……あんた、起こす方法キスしかないって……」
「うん。起こす方法はそれしかないよ。でも、自分で起きれるし」
 そう。この枕は、夢の中で……矛盾してるみたいだけど、不眠不休で、
訓練や、遊ぶことができる、ティーが作った宝貝だった。
 欠陥は、普通に起こせないことと、寝てる間に枕を壊されると、
夢の中から帰ってこれないこと……まぁ、そうそう壊れたりしないけど。
「……じゃ、なに?好恵は、夢の中で特訓してたってわけ?」
「……そうだ。おかげで、今までよりずーっと力がついたような気がする」
 そう言うと、好恵ねーちゃんは、綾香ねーちゃんにニカリと笑いかけた。
「今度やるときは、あんたに負けないくらいにね!」
 それを受けて、綾香ねーちゃんもふふっ、と笑う。
「楽しみにしてるわよ、好恵」
 葵ねーちゃんも、二人を見つつ目を輝かせていた。
「私も……頑張りますっ!!」



 こんなわけで、今回の騒動は一段落ついたんだけど……
 beakerにーちゃんが忘れられてたみたいで、しばらくの間、保健室に
突き刺さったままだったんだって。
 第二購買部では、捜索願を出す直前まで気づかなかったみたいなんだけど。
 ……ま、僕には関係ないね。



 おしまい。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



T「T-star-reverseです。てぃーくんのショートショートシリーズ第2弾!
 お楽しみ頂けましたでしょうか!?」
て「てぃーくんだよっ!いきなり次の日に二話を書くとは……以外以外」
T「はっはっは、少しは見直しましたか?」
て「……自分の首、締めてると思わない?」
T「……うん。少し……」
て「まぁ、気にしない気にしない。それじゃ、次回作もお楽しみにねー!!」