Lメモ・ショートショート集3「意地を断ち切る猫の門」 投稿者:T-star-reverse
 あははははっ、てぃーくんだよ!

 今日も、僕が遊んでて、見たこととか聞いたこと、みんなに教えるよ。

 よかったら、最後まで聞いてってね!



Lメモ・ショートショート集3「意地を断ち切る猫の門」



「あれ?あんなとこにあんなものあったっけ?」
 僕は、それを見て、はじめにそう思ったんだ。
 なにしろそれは、中庭のど真ん中に突然現れたんだからね。
 見たところそれは門みたいだった。
 気になって、僕がそれに近付いていくと……
「…………」
 不意に、後ろから呼ばれたような気がして、僕は振り返った。
「わっ!!」
「きゃ……」
 けど、思ったより近くに人がいて、僕は驚いちゃった。
 そこにいた人も、僕の突然の声に驚いたみたいで、声を上げたけど。
「あーびっくりした」
「…………」
「私もびっくりしました、って?あ、ごめんなさい」
 その女の人……初めてここに来たとき、ティーに連れられて挨拶まわりを
したときに会ったから知ってる……来栖川芹香ねーちゃんは、僕の前に
ゆっくりしゃがみ込んだ。
 それで、ちょうど目の高さが同じになる。
 芹香ねーちゃんは、ゆっくり僕に話し始めた。
「…………」
「え?あの門について教えてくれるのっ?」
 こくん、と頷くと、芹香ねーちゃんは説明をはじめた。


 芹香ねーちゃんは、「あの門は「人を素直にさせる門」です」って言った。
 オカ研にあった古い文献によると、古代中国で、内気でどうしようもない位
おとなしい男の人が、この門の力で、それはそれは明るい人になったとか。


 ……で、それはともかく、そういう門を芹香ねーちゃんは作ったんだ。
「それじゃ、通ってみていい?通るね」
 芹香ねーちゃんが答える前に、僕はその門に飛び込んでいた。

 ……何も起きなかった。

「…………」
「え?この門は男性に、ついでに人間にしか効果無いです、って?」
 こくん。と頷く芹香ねーちゃん。
 どーりで。
 僕は納得した。
 なにせ、僕は人間じゃなくて、傀儡……簡単に言えば、人形だからね。
 ……まあ、大した違いはないんだけど、人間じゃないことには違いないし。
 そんなことを思いつつ、僕はふと聞いてみた。
「僕が人間じゃないって知ってたの?」
「…………」
 オーラを見れば解ります……だって。さすがだよね。


「へー、それじゃ、あの門の中に、一時的に魂が封じてあるんだ」
 こくん。と頷く芹香ねーちゃん。
 僕は、それからしばらくオカ研の部室で芹香ねーちゃんの話を聞いていた。
 ティーはいない。……まぁ、格闘部に行ってるんだろーけど。
 あの門の中には、いつもオカ研にいた喋る猫、エーデルハイドの魂が
封じられていると、芹香ねーちゃんは言った。
 封じているとは言っても、門がもし壊れても、部室の中に寝ている肉体に
自動的に戻るらしいから心配はないって言ってた。
 それで、つけた名前が「猫の門」。
 ……そのまんまだね。


 一通り話を終えると、僕と芹香ねーちゃんは、門の様子を見に行った。
 ……けどあの門、結構な騒ぎを起こしていたみたい……

「そこの美しいお嬢さん、私と一緒に狂気の宴を開きませんか?」
「いいえ、結構です」
「はーははは、そこのちょっと背が小さくて高校生に見えないお嬢さん!
マイ・スウィート・ハニーに迎えてあげようっ!!」
「よけーなお世話よっ!!」
「そこの女、俺のものになってくれ」
「ふざけてんじゃないわよ」
 オカ研の部室を出た僕と芹香ねーちゃんが見たのは、所構わず女の子を
口説きまくる男の人数人だった。
 これも挨拶まわりの時に会ったことのある、月島拓也にーちゃんが、
右目が髪で隠れた女の人(篠塚弥生ねーちゃん)に声を掛けて断られてたし、
黒ずくめのいかにも怪しい雰囲気の男の人(ハイドラントにーちゃん)が、
一見僕よりちょっと上って感じの女の人(観月マナねーちゃん)に、
思いっきり臑を蹴られていた。そして、白衣を着た男の人(悠朔にーちゃん)
が、とても目つきの悪い女の人(岡田ねーちゃん)に睨まれていた。

 ちなみに、( )づけで言ったのは、芹香ねーちゃんに教えて貰ったんだ。

「…………」
 ちょっとだけ困った顔をして言う芹香ねーちゃん。
「え?なんか知らないけど、副作用が出てるって?」
 こくん。
 頷く芹香ねーちゃん。
 聞けば「素直な気持ち」は何も女の子に声を掛けることだけでなく、
人に優しくしたくても照れくさくてできないとか、普段言えないお礼を
言ったりできたり、そう言うことの方が表に出るはずなんだって。
 それが、どういう訳か「素直」というよりは「本能」が表に出てるわけだ。
「……ひょっとして、エーデルハイドを使ったせい、とか?」
「…………」
 芹香ねーちゃんがぽん、と手を打つ。
 近くに猫がいなかったからエーデルハイドを使ったけど、しゃべれる猫は
普通じゃないから、そのせいかもしれない、って。
 
 とりあえず、僕は芹香ねーちゃんに聞いてみた。
「門を壊せば、みんな元に戻るのかな?」
 こくん、と頷く芹香ねーちゃん。
 それを聞いて僕は、背中の鞄を下ろしはじめた……



 けっきょく、僕が芹香ねーちゃんに渡した「声を衝撃波に変える筒」
で「猫の門」は壊され、その騒動は一件落着した。

 あとで聞いた話、ティーは楓ねーちゃんに声をかけて瞬殺されたそうだし、
beakerにーちゃんは理緒ねーちゃんに言い寄ったせいで、好恵ねーちゃんに
しばらく口聞いてもらえなかったって。
 ジンにーちゃんはマルチねーちゃん、セリスにーちゃんは千鶴ねーちゃんに
それぞれ声を掛けて、そのあと死闘を演じて、OLHにーちゃんと
宗一にーちゃんは、二人揃ってプールの底に沈められてたみたいだよ。
 そうそう、ひなたにーちゃんはDセリオねーちゃんに声を掛けるついでに
お尻を触ったとかで、正門前に張りつけられてたような……

 あと、エーデルハイドはしばらく隠れて姿を見せなかったって。

 結局の所、はっきりした原因は分からなかったけど、普段、特定の人物に
だけ好意を向けている人が、他の女の子に声を掛けたこの騒動は、あとで、

 「浮気勇者降臨騒動」

 とか言われてるみたいだけど、僕には関係ないね。



 おしまい。



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て「てぃーくんだよ!今回、ぼくのショートショートシリーズ第3弾、
 楽しんでくれた?ティーが逃げたんで、僕だけであとがきを書くね。
  ここまで来たら解る通り、このシリーズ、Lメモ八月強化月間・
 一日一作運動で作られてるものなんだ。ティー、無茶するねぇ。
  とりあえず、休養が入らなきゃ、タイトルが続くあと八回くらいは
 続くみたいだよ。大丈夫なのかな?
  ……あ、ティーの書き置きがあった。読んでみるね。

T「今回出演していただいた方に、心の底より深くお詫び申し上げます」

て「……それだけみたい。それじゃみんな、またねー!!」