Lメモ・ショートショート集5「薔薇と酔っぱらい、ふたたび」 投稿者:T-star-reverse
 はいはーい!てぃーくんだよ!

 今日も、みんなにたくさんお話するよ。

 それじゃあ、はじまりー。



Lメモ・ショートショート集5「薔薇と酔っぱらい、ふたたび」



「ふ、ふふふふ、ふふふふふふ……」
 まるで、地の底から響くような、それでいて、すぐ近くから聞こえる声が、
僕の首根っこを押さえながら笑っていた。
 僕は、逃げようにも足が地に着いてないので逃げられない。
「あはは、あはははははははは……」
 僕も思わず笑うけど、どうしてもそれは、乾いたものにしかならなかった。
 ぐい、と向きを逆にされ、僕を掴んでいる手の主と、嫌でも目が合う。
「よーやく見つけたぜ、てぃーくん……」
 やけに血走った目で、一言一言を絞り出すように喋る。
 僕は、ひょい、と片手を上げて、挨拶をした。
「や、やあ、浩之にーちゃん、こんちわ……」
「挨拶くらいどーでもいいんじゃぁぁぁぁぁっ!!!」
 そう言って浩之にーちゃんは、僕をその場に叩きつける。
 幸いにも、僕はトランポリンで遊んでいたところを捕まっていたから
それで怪我をするようなことはなかったけど。


「なあてぃーくん、命が惜しかったらおとなしく、この間のことを、子細に、
余すところなく、正確に教えてくれよ、な?」
「浩之にーちゃん、目が笑ってない……」
 顔だけは一応笑顔だったけど、その目は怒りに満ちていた。
「こ、この間のことって?」
「決まってるだろ?」
 僕は一応とぼけて見せるけど、浩之にーちゃんは容赦しない。
「俺が、お前に何か飲まされて、記憶が戻ったときには全身大怪我、しかも
死ぬほどの二日酔いに悩まされた時のことだ」

 (解らない人は、「ショートショート1・薔薇と酔っぱらい」を見てね)

「あはは……あのこと」
「そうだ。ちゃんと答えないとどうなぐはっ!!」
 言葉の後半をくぐもった悲鳴にして、浩之にーちゃんが前のめりに倒れた。
 ふと前を見れば、何か白いもの……
「浩之ねぇ、あんた、こんな小さな子捕まえて何やってんのよ?」
 違った。女の人だ。
 一瞬、芹香ねーちゃんかと思ったけど、ちょっと違う。
 その人のかかと落としが浩之にーちゃんに決まって、僕が見た白いものは
どうやらスカートの中のパンツだったみたいだ。
「……綾香っ!てめー、いきなり何しやがるっ!」
「こっちの台詞よ!」
 目を血走らせた浩之にーちゃんに臆することもなく、その女の人……
綾香ねーちゃんは、浩之にーちゃんを片腕で持ち上げた。
 僕は、ぽんぽんと綾香ねーちゃんの肩……は手が届かなかったから、
腰を叩いて、綾香ねーちゃんの気を引いた。
「あ、大丈夫よ。このおっかない男の人はすぐ処分するからね」
「……いや、そーじゃなくてさ……」
 僕は、事情を説明して、とりあえず浩之にーちゃんを解放してもらった。



 そして、僕は浩之にーちゃんに尋ねられたことを、一つ一つ答えた。
 浩之にーちゃんに飲ませたものは、宝貝の力で作ったお酒で、飲むと、
素晴らしい心地よさと強力な力を得ることができる。
 だけど、欠点として死ぬほどの二日酔いに悩まされること。
「なるほど……」
 浩之にーちゃんではなく、綾香ねーちゃんがうんうんと頷く。
「それじゃ、てぃーくんはなにも悪くないんじゃない」
「うるせっ!俺は死ぬ目にあったんだからなぁ……よく覚えてなかったし」
 片手で眉間を押さえつつ、浩之にーちゃんがぼやく。
 けど、突然浩之にーちゃんは、居住まいをただして僕に頭を下げた。
「そうと解れば……頼む、てぃーくん!!またあれ、俺にくれっ!!」

 ……え?

 僕は、一瞬耳を疑った。
 さっきまでの雰囲気では、「あんなもん二度と飲ますな」とか言われると
思っていた僕は、意表を突かれて頭の中に蝉の声だけが響いていた。



 ……それから、1時間ほど後。



「はーははははっ、ほらほら、こっちにそれよこせーっ!!」
「あははは、ダメよぉ、これあたしのー!!」
「ふふふ……ひっく。私に……っく。渡ひ……ひく」
「くすくすくす、うふふふふ、……ひっく……うふふふふふふ」
 何故か、四人が酒盛りをしていた。
 浩之にーちゃん、綾香ねーちゃんはともかくとして、どっから現れたんだか
悠朔にーちゃんと神岸あかりねーちゃんが、一緒になって参加してた。
 もうひとつ、ついでに言うと、浩之にーちゃんを狙って再度襲ってきた
「佐藤雅史グレート・ラブラブ最強RXブラック」にーちゃんと、
「大いなる意志により真の愛と偉大なる力に目覚めたセバス」じーちゃんが
四人に迎撃されて、学校裏の大きな木の下に染み込んでたけど。
 僕はと言うと、そんな四人をただぼーっと見ていることしかできなかった。


 さて、そんなとき。
「ねぇ、ゆーさくぅ、あんた、浩之にキスしてみてよ」
 ぶしゅーっ!!
 綾香ねーちゃんの突然の言葉に、浩之にーちゃんと朔にーちゃんが
同時に口の中の仙酒(宝貝で作ったお酒だからそうらしい)を吹いた。
「けほけほけほ……綾香、おまいなにいうらよっ!!」
「……あーやーか、酔ってッからってふざけてんじゃねーぞ」
 そんな二人の言葉に、けろりとして綾香ねーちゃんが答える。
「あはははは、ふざけてなんていないわよ。おもしろそうじゃない」
「あははははははははははははははははははははは」 
 あかりねーちゃんは、とにかくさっきから笑い続けてる。
 綾香ねーちゃんは、ぱたぱたと手を振り、けたけたと笑う。
「だいじょぶだいじょぶ、もしできたら、あたしがキスしたげるからぁ☆」
 その言葉を聞いた途端、朔にーちゃんの目つきが変わった。
 くるり、と浩之にーちゃんに向き直る。
「……と、いうわけだ。おとなしくしててくれ」
「……てめぇ、酔いさめやがったな……」
 いまだに酔っている浩之にーちゃんをがしっ、と捕まえ、頬に顔を寄せる。
 が、そこに綾香ねーちゃんの追撃があった。
「あ、もちろん、口と口でよぉ」
「……」
「……」
 沈黙が、その場を襲った。
 朔にーちゃんの頬を、つつ……と汗がしたたり落ちるのがよく見えた。
 浩之にーちゃんの頬にも、汗が見える。
「……すまん。私の幸せのために犠牲になってくれ!!」
「てめー、薔薇は大嫌いなんだろーがぁっ!!」
 ……結局、浩之にーちゃんと朔にーちゃんの追いかけっこが、それから
三時間くらい続いたんだ。
 綾香ねーちゃんとあかりねーちゃんは、そのあとすぐ帰っちゃったけど。



 結局。



 今回は、酔っぱらいの男子生徒二人が、千鶴ねーちゃんに処罰されて、
もう二度と酒など飲むかと思ったとか思わなかったとか聞いたけど。



 ……ま、それはそれで、よかったんじゃないかな?



 おしまい。



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T「T-star-reverseと!」
て「てぃーくんの!」
T「あとがき……」
て「こーなー!!」
T「……」
て「……」
T「なんか、意味あったのか?いまの」
て「さあ?」
T「えーと、今回は前回を読んでなくても楽しめるような気もしますが、
 前回と比べてみるのもいいかもしれません。以上」
て「いいの?そんなんで……それじゃみんな、また次回にねー!」