Lメモ・ショートショート集6「キレる女に気を許すな」 投稿者:T-star-reverse
 おまたせー!てぃーくんだよっ!

 今日も、みんなにお話するんだよ。いいでしょー。

 それじゃ、聞いてってねー。



Lメモ・ショートショート集6「キレる女に気を許すな」



 僕は、目に映るままにそれを見てた。
 そして、耳に入って来るままにそれを聞いてた。
 で、匂いは特に感じなかった。
 触ろうとも思わなかったから、触った感じもわかんない。
 特に味もない。
「よーするに面白味もなにもないんだよね」
「そーいうこと言うのはこの口?この口ね?」
「ひはひひはひひっ!!」
 痛い痛い、って言ったんだけど、口の端をつねり上げられてたから、なんか
変な言葉にしかならなかった。
 僕の口を片手でつねり上げてるのは、長岡志保ねーちゃん。
 たまたま知り合って、志保ねーちゃん曰く、「特ダネの編集作業」ってのに
付き合ってるところ……。
「ほらほらてぃーくん、ちゃんと感想聞かせてくれなきゃ駄目でしょー?」
 顔だけはにこにこと笑ってるけど、内心では怒ってるのがよく解る。
「たぶん、そんなんだから人気がないんだろーね」
「ほらほら、おねーさんにそーいうこと言っちゃ駄目でしょー?」
「ひはひひはひっ!!」
 あいててて……思いっきりつねってるから、少し赤くなってるだろーな。
 そんなことを思ってると、すぐそこから助け船が入った。
「長岡さん、あまり小さい子をいじめちゃ駄目ですよ」
 と、そう言って隣の部屋から顔を出したのは、姫川琴音ねーちゃんだ。
「やーねぇ、いじめてなんていないわよ。ちゃんとしつけてるだけよ」
「先生でもないくせに……ひへへへへっ!!」
「ほらほら、おねーさんにそーいう口のきき方しちゃ駄目よぉ?」
 そんな僕たちの様子を見て、琴音ねーちゃんはふぅ、と溜め息一つついて、
「そろそろ昼の校内放送の時間ですよ」
 って言ったんだ。そしたら、
「あっ!もうそんな時間?ひえー、のんびり遊んでられないじゃないの!」
「やっぱ遊んでたんじゃ……がっ!!」
 僕のツッコミに、履いていたスリッパを器用にぶつけてきた。
 ……僕は今日、放送室に来ていた。


 事の起こりは数時間前、ティーから放送室に伝言を頼まれたこと。
 そして放送室に来てみれば、今の状況。
 まったく、何で僕がこんな目にあわなきゃならないのやら。
「ハ〜イ!学園のアイドル、志保ちゃんの、お昼の校内放送の時間で〜す!」
 僕の運勢を最悪にしている当の張本人は、隣の部屋でマイクに向かってた。
 ……とはいえ、僕もこういう所に入るのは初めてだったから、ちょろちょろ
あちこちをうろつき回ってたけど。
「あっ、ダメですよ、その辺りのスイッチいじっちゃ」
 と、僕の行動をたしなめたのは、琴音ねーちゃん。
 僕と同じ初等科に通う、笛音ちゃんのお母さんらしい。
 とても子持ちには見えな……あたたたたっ!!
 そう思った瞬間、なにか見えない力に耳を引っ張られた。
『そーいうこと、考えちゃダメですよ?』
 ああ、なんか頭の中に声が響くし……僕は、おとなしく座り、ポケットから
チョコレートを取り出して、食べはじめた。

 そんなとき。

 かちゃ。

 放送室のドアが開いて、一人の女の人が顔を覗かせた。
「ねー、長岡さん、今日は録音テープ流すだけなんていうことしてない?」
 そう言って放送室に入ってきたのは、理奈ねーちゃんだった。
 ……ってゆーか、志保ねーちゃん、そーいうことやってたのか。
「あ、ちゃんとやってるわね……よしよし」
 そしてそのまま、オンエア中のDJブースに入っていく。
 ……いーのかな?
 そう思っていると、突然。
「……えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
 志保ねーちゃんの絶叫が、全校に響きわたった。



 それから数分後。
「るんたった、るんたった、るらららららるらー☆」
 鼻歌を歌いながら、廊下をスキップする志保ねーちゃんの姿があった。
 ちなみに、その後ろを僕と琴音ねーちゃん、それと、理奈ねーちゃんが
てくてくとついて歩いていた。
 廊下の先を見れば、志保ねーちゃんの、あまりっていえばあまりの状態に
名も知らないにーちゃんたち(一般生徒)がそそくさと道をあけている。
 とーぜん、志保ねーちゃんがそんなのに気づくはずもなかった。
「志保ねーちゃん、どーしたの?」
 僕がそう聞くと、理奈ねーちゃんがこっそりと教えてくれた。
「緒方英二が、長岡さんのCDを出すって言ったのを教えたのよ」
「ええっ!?」
 それに驚いたのは、僕より琴音ねーちゃんだった。
 ……だって僕、緒方英二とか知らないし。
「それで、あれ……ですか」
「そう。あれよ」
 そう言って頷きあう二人の顔は「処置無し」という言葉で溢れていた。



 そして、職員室にたどり着く。
「おっがたせっんせーい☆」
「うん?ああ、長岡くんか、ああ、理奈ちゃんから話を聞いたんだな」
 英二にーちゃんが、薄く笑いつつそう言う。
 でも妹のことを理奈ちゃん、って名前で呼ぶかな、普通……
「はいはーい!で、レコーディングは?曲はもうできてるんですか?」
 志保ねーちゃんのその言葉に、一瞬ん?という顔をする英二にーちゃん。
 そして、なるほど、と納得した顔をする。
 その時点で、理奈ねーちゃんはどこへともなく消えていた。
 どーしたんだろう。
「ははは、勘違いしてるようだね、うん」
「……へ?」
 思いっきり間抜けな声を上げる志保ねーちゃん。
「うんうん、確かに僕は、君のCDを出すつもりだよ、うん」
「じゃあ……」
 志保ねーちゃんの言葉を遮り、続ける。
「でもそれは「校内放送をまとめたCD」なんだよ。多少手は加えるけど」
 ひきっ、と志保ねーちゃんが固まる。
 それにも構わず、軽い調子で続ける英二にーちゃん。
「君のファン、結構いるんだよね。3年の観月くんとか」
 だが、志保ねーちゃんはすでに聞いていなかった。
 すでに思考がどこか遠くに飛んでいるようで、目が白かった。



 それは、雲一つないいい天気のことだった……



 おしまい。



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T「一日おいて、ショート・ショートシリーズ第6弾!」
て「今回は宝貝が出てこないっ!」
T「ぐはっ(死亡)」
て「あ、死んだ。おーい……ま、いいか。
  今回、書いてるうちに時間が無くなった……じゃなくて、
 宝貝が無くても落ちが付きそうだったから出さなかったってさ。
  ほんとにショートショートって感じの長さになったし、いいかな?
  ……それじゃ、まったねー!」