Lメモ・ショートショート集8「心惑わす笛の音」 投稿者:T-star-reverse
 えーと……あ、てぃーくんだよ。

 今日も……お話するんだけど……さ。

 ま、聞いてって……うん。



Lメモ・ショートショート集8「心惑わす笛の音」



 ぴー、ぴろぴろぴー。
 ぴっぴっぴーっぴろぴっぴ。
 ぴっぴっぴっぴっぴーぴりぴりぴりぴー。
 教室に、たて笛の音が響いてた。
 どーしてかって、数少ない初等科のイベント、「学芸会」が近いから。
 そこで、僕を含んだ何人かで、当日やる予定のたて笛の練習をしてたんだ。
「それじゃ、もういっかい始めからやろうよ」
「ん、わかったー」
「ねーねー、ここの指どーだっけ?」
「あ、そこはねー、ここと……」
「違うよ、ここはこう」
「あ、ちょっとトイレ行って来るねー」
 結構な喧噪の中、僕はトイレへ向かうために教室を抜け出した。
 今教室の中にいたのは、雛山良太くん、マールちゃん、ルーティちゃん、
ティーナちゃん、きたみち靜ちゃん、そして僕、の合計6人だった。
 僕が出たから、今教室の中には5人いることになるね。
 と、僕より一足先に出ていた最後の一人がトイレから出てきた。
「あ、笛音ちゃん」
「あ、てぃーくん」
 最後の一人、笛音ちゃん。
 なんと笛音ちゃん、学芸会では指揮者をすることになってるんだ。
 OLHにーちゃんが、それ聞いて泣いたとか言う話も聞いた。
「笛音ちゃん、みんなが、もう一度始めからやってみるとか言ってたから、
僕抜きで一回、指揮棒ふってみてよ」
「あ……うん、急いで戻るね。ありがとてぃーくん」
 そう言って、たたたっ、と駆けていく笛音ちゃん。
 僕は、その後ろ姿をなんとなくぼーっと見続けていたが、そのあとに
教室から聞こえてきたたて笛の音に、ふと我に返った。
「あ、いけないいけない。トイレに行くんだった」
 頭を掻きつつ、僕はあわててトイレに入った。


 からからから……
 用を足し終わって、曲が最後まで終わるのを見計らって、僕は教室の
ドアを開けた。
「あ、てぃーくんおかえりー」
「それじゃ、今度は全員でやってみようか?」
「うんうん、そうしよっ!!」
 みんなが、一段落ついて脇に置いてあったたて笛を一斉に持ち上げ、僕を
僕の席に手招きする。
 僕も、当然そうするつもりだったので、ひょいっ、と席について、壇上の
笛音ちゃんを見ながら、たて笛を口にくわえた。
「それじゃ、いいよー、笛音ちゃん」
 ティーナちゃんの声に頷いて、ゆっくりとタクトを振り上げる笛音ちゃん。
 そして、軽く息を吐きながら、なめらかにタクトを滑らせ始めた。

 
 いつものことなんだけど、曲のことはよく覚えていない。
 気がついたときには、曲は終盤まで来ていた。
 誰も何も言わないってことは、特にミスもなかったんだろう。
 ……僕は、笛音ちゃんをぼーっとして見てた。
 一心不乱にタクトを振るその姿は、輝いてた。
 なんだかよく解らないけど、何かに一生懸命な笛音ちゃんを見てると、
なんだかそれだけで、何もどうでもよくなってくる。
「お兄ちゃんに、わたしのはれぶたいをみてもらうんだっ!」
 そう言って、必死で練習してた笛音ちゃん。
 僕は、ただ機械的に笛を吹き続けていた。

 ぴっ!

 最後の一音を吹き終わり、途端に意識がはっきりとする。
 あれ、僕どーしたんだろ。
 いつもそう考えるけど、答えは出ない。

 なんなんだろ。なんかもやもやした気分……
 そのうち、誰かに相談してみよっと。
 僕はそう思い直して、みんなとのおしゃべりに混ざっていった。



 おしまい。



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T「ショートショートシリーズ第8弾!今日も時間がないのであとがき省略!」
て「(ぼーーーーーーーーーーーっ)」
T「それじゃ、また次回っ!!」