Lメモ・ショートショート集11「その男の縄」 投稿者:T-star-reverse
 やっほー、てぃーくんだよ!

 今日も、僕のお話をみんなにするんだよ。

 それじゃ、興味があったら最後まで聞いてね!



Lメモ・ショートショート集11「その男の縄」



 その日はいい天気だった。
「いい天気だね」
「そーだね」
「……ぐー……」
 僕と河島はるかねーちゃんと雛山良太くんは、ひなたぼっこをしていた。
 ……ひなたぼっことは言っても、すぐそこで美加香ねーちゃんをぶん投げて
購買で昼食をゲットしようと奮戦している人の真似をすることじゃあない。
「てぃーくん、それ、『ひなたごっこ』」
「はるかねーちゃん、人の心読むのやめてくれない?」
「……ぐー……」
 僕とはるかねーちゃんがそんな他愛もないおしゃべりをして、ついでに
良太くんがぐーすかと寝ているそんな昼休み。
 それは、突然の、そして、一瞬のことだった。


 世界から、重さが消えた。


「……えーと……」
 一応、現状確認をする。
「はるかねーちゃん、僕たち、今、落ちてるよね」
「うん」
「……どーしようか?」
「自転車」
「え?」
「自転車、置いて来ちゃったね」
「……はぅ……」
「……ぐー……」
 突然開いた穴に、落ちてゆく僕たち。
 良太くんは、相変わらず寝ている。
 仕方なく、僕は落ちながら背中の鞄を苦労して開いた……



 ぽすっ!
 ようやくどこかに辿り着いたとき、柔らかい音が奇妙に響いた。
「ふあ……あ……」
「やっとついた?」
「そーみたい」
 伸びをしながら、ゆっくりと身を起こす僕たち3人。
 2時間ほど寝ていただろうか。
「いい道具だね?」
「そう?」
 はるかねーちゃんが、足下の板を指して言う。
「これでスカイダイビングしたら、楽しそう」
 ……それは、3年かかっても地上にたどり着けないと思う。
 落下の衝撃を完全に和らげる代わりに、落下スピードが極限まで遅い
この道具、はっきり言って鬱陶しいだけだと思う。
 まあ、はるかねーちゃんにはぴったりかも。
「……でさー、ここってどこなんだろ」
 さすがに目を覚ました良太くんが、きょろきょろと辺りを見回す。
 ……かび臭い。
 というか、人の手が加わってはいるけど、ほとんど使われていない、
って感じだ。……そう思っていたとき。
「……ここは学園地下ダンジョンの666階、通称『奈落の穴』だ」
 と言う声が、どこからともなく響きわたった。
 慌てて周囲を見回すけど、声の主は見あたらない。
「ああ、俺の姿が見えないか。あと5秒くらいで再生するから、ちょこっと
待っててくれ」
「再生……?」
 僕はふと首を傾げた。と、目の前で何かが盛り上がる。
 それは、一瞬にして人の姿をとった。
 忍者装束をまとった男の人の姿だった。
「お待たせ。だな」
「……にーちゃん、だれ?」
「秋山登くんだよ」
 僕の頭の上から、はるかねーちゃんがひょい、と身を乗り出す。
「河島先生か……」
「出口、知らない?」
 はるかねーちゃんの問いに、ぴっ、と指を上に立てる登にーちゃん。
「ここを登るか、じゃなきゃ、665階ぶん歩き回るか、だな」
「そんなの、できるわけないじゃん!!」
 良太くんが思わず叫ぶ。
 けど、登にーちゃんは平然として、一本のロープを取り出した。
「できないこともないぞ。たとえば……」
 そう言って、遥か上方の出口に向け、そのロープの一端を放り上げた。
 それは、狙い違わずしっかりと何かに固定された。
「これを登る。ついてこい」
 ただそれだけを言って、するするとロープを登っていく登にーちゃん。
 ……でも、僕も良太くんもはるかねーちゃんも、登ろうとはしなかった。
 何か嫌な予感がした。

 その時だ。

「おーい、誰か、いるのかー?」
 壁にある通路から、声が聞こえてきた。
「いたら、返事してくださーい!!」
 男の人二人の声だ。
「いるよ」
 普段と変わりない声でそう言うはるかねーちゃん。
 それじゃ聞こえないってば……
「いるよーっ!!こっちこっちー!!」
 僕がそう叫ぶと、二人の足音がだんだんと聞こえてきた。
 そして、姿を見せる。
「なんだ……こんな所に人がいるなんて……さっきの影響か」
「やっぱり、あの衝撃はまずかったみたいですね」
 いかにもダンジョン探索完全装備、と言った感じの男の人が二人、
姿を現した。
「あ、沙留斗くんに天神昂希くん」
 はるかねーちゃんが、ぽつりと言う。
 その、沙留斗にーちゃんと昂希にーちゃんは、ぽりぽりと頭を掻いて
申し訳なさそうに話しかけてきた。
「すいません。さっき手強いガーディアンがいたんで、天神さんに手伝って
もらって何とか倒したんですけど、その時の衝撃で、ダンジョンに影響が
でたみたいなんです」
「そろそろ、ダンジョンの自己修復機能が作動する頃だな」
 言ってるそばから、ごごご……と鈍い振動がする。
 ……ぶち。
 なんとなく、そんな音が聞こえたような気がして、ふと上を向く……

 ぐちゃっ。

 ダンジョンの壁に切断されたロープに絡まりつつ、ものすごい勢いで
上から登にーちゃんが降ってきた。
「……」
 全員、一瞬沈黙する。
 そして、お互い頷くと、沙留斗にーちゃんがくるりと反転した。
「それじゃ、地上まで案内します。ついてきてください」
 僕たちは一斉に頷くと、肉塊と化した登にーちゃんを置いて、地上への道を
歩き始めていった。



 次の日、登にーちゃんが平然と登校しているのを見て……
 そんなもんなんだな、と思ったのは、僕だけじゃないと思う。



 おしまい。



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T「ショートショートシリーズ第11弾!お贈りしましたっ!」
て「はぁ……これで、みんなともお別れか……」
T「だから、お別れって訳じゃないって。レギュラーじゃなくなるだけで。
 現に、他の人のSSにもてぃーは出てるし」
て「うーん……」
T「ま、それはそれとして。次回からは、この私、T-star-reverseの
 部活短編をお送りする予定です。三人称のやつですけど」
て「……で、第1回は何部?」
T「意外に話題に上がらない、剣道部の予定」
て「なるほど……」
T「それでは、また次回!!」