Lメモ・部活編1「剣の道とは」 投稿者:T-star-reverse
 ぱしーん!ぱしーん!
「めーんっ!!めーんっ!!」
 あまり目立たないところに建っている、剣道部の練習場。
 ティーことT-star-reverseは、そこに足を運んでいた。


Lメモ・部活編1「剣の道とは」


 からからからから……

 ぱちーん!!ぱちーん!!
 入り口の扉を開けると、さらに音が大きく聞こえるようになる。
 逆に、声の方は一瞬小さくなったが、またすぐに大きくなった。
「やあ、どうもティーさん」
 剣道部の部長が、面を外してティーに話しかけてきた。
「あ、部長」
「おかげさまで、だいぶ役に立ってるよ、あの傀儡」
「そうですか、それは良かった」
 部長が言っているのは、ティーが挨拶まわりでここを訪れたとき、
入部と共にここに置いていった、練習用自動傀儡のことだ。
 今では、部員一人一人に担当用傀儡がついて、いい練習相手になっている。
「防具があるんで、そう簡単には壊れませんからね」
「まあ……ああいうのもいるけど」
 そう言って部長が指さしたのは、一人の女生徒だった。
 (ちなみに、つけている装備が白色ベースなので女性だとわかった)


 其剣筋於 雷鳴如有 (その剣筋はさながら雷鳴の如く)
 無鋭以他 無比類剛 (何よりも鋭くまた比類なく剛し)
 美舞如於 其剣使繰 (美しき舞の如くその得物を繰らば)
 目前全敵 以非不倒 (目前の敵はどうして倒れずにいられようか)


「――ドウッ!!」
 かなり嘘臭い漢詩をティーが吟じ終わった瞬間、勝負がついた。
 その女生徒が、胴に文句無しの一撃を決めたのだ。
 その衝撃で、その相手は吹き飛び、壁に激突する。
「がはっ!!」
 突然上がった声に、ぱちぱちと瞬きをして、意外そうな顔をするティー。
「あれ?あの相手って傀儡じゃなかったんですか?」
「とっくに壊されてますよ。ほとんど防具の意味がないもの」
 ティーの疑問に、苦笑してそう答える部長。
 吹き飛ばされた方の胴を見ると……横一文字にひびが入っていた。
 吹き飛ばした方の竹刀を見ると……根元からぽっきりと折れていた。
「――スミマセン、マタ折ッテシマイマシタ」
 そう言って、その女生徒が部長の方を向く。
 その視界に、ティーの姿が入った。
「久しぶりです、Dガーネットさん」
「――ティーサン」
 二人の瞳が、人知れず交錯した。


 この二人の因縁は、ティーの転校2日目まで遡る。
 かつてティーが挨拶まわりで剣道部を訪れた際、ちょうどDガーネットが
剣道部に出稽古に来ていたのだ。
 入部したばかりのティーに、彼女は勝負を申し込む。
 特に断る理由もなく、止める者もいなかったので(大半の剣道部員達は
Dガーネットに倒されたか、もしくは逃亡していた)勝負は始まる。
 当然、審判もいないために、ルールは「先に動けなくなった方が負け」
という、まことにとんでもないものだった。
 が、しかし。
 Dガーネットがその強烈な攻撃をティーに何度叩きつけたところで、
所詮は竹刀による打撃。ダメージは低く、ティーの常識外れな耐久力によって
戦闘は延々と続き……そのうちにDガーネットはバーサークした。
 超硬質ブレードを持ち出して、本気でティーに斬りかかったのだ。
 あわや滅多切りにされてズタズタ……というところで、幸いにも、
Dガーネットのバッテリーが切れたため、ティーはなんとか助かったのだが。

 ついでに言うと、警備保障で二人が顔を合わせることはなぜか無かった。


「あいててて……」
 そう言って、先ほどDガーネットに吹き飛ばされた男子生徒が起きあがる。
 その声に、ティーは聞き覚えがあった。
「……その声はYOSSYくん?」
「そういうそっちはティーさんですか」
 多少ひしゃげた面を外し顔を見せたのは、格闘部にも所属している
YOSSYことYOSSYFLAMEだった。
 ひびが入った胴も外し、身軽になって歩み寄ってくる。
「ティーさんも剣道部に所属していたんですか。傀儡があるから、
もしかしたら、と思ってましたけど」
「いやあ、彼のおかげで結構助かってるんですよ」
 部長が、YOSSYを示しながら言う。
「今までだと、彼女が来たらほぼ剣道部は全滅してましたけど、彼のおかげで
彼女のことをしばらく押しつ……任せることができるようになったんで」
「まともに相手をするのは今日が初めてですけどね」
 苦笑しつつYOSSY。
 その時、Dガーネットがす……とティーに竹刀を差しだした。
 彼女自身もまた、一本の竹刀を持っている。
「――ティーサン、マタ相手ヲシテクレマスカ?」
「……わかりました。お相手しましょう」
 ティーは、頷いてその竹刀を受け取った。



 お互いに、竹刀を正眼に構えて、開始の合図を待つ。
 双方ともに、防具はつけていない。
 ルールはいつかと同じ。先に動けなくなった方が負け。
 あの時と違うことと言えば、剣道部員達が見学していること。
「それでは……はじめっ!」
 部長の合図で、弾かれたように二人は前に跳んだ。
 そしてそのまま、相手目がけて突きを放つ。

 どすっ……

 鈍い音が一つだけ響く。Dガーネットの竹刀が、ティーの腹部に
めり込んでいた。
 ティーの竹刀は、Dガーネットの首筋を撫でただけだった。
「突きかぁ……まあ、ティーさんがDガーネットを仕留めるとしたら、
威力的にそれしかないよな、うん」
 YOSSYが、のんびりと呟く。
 部員達は、そのままティーが倒れるかと思ったが、その予想は覆された。
 再度突きを放ったDガーネットの竹刀を、体の位置をずらしてかわす。
 さすがに、カウンターで入った突きのダメージはかなりのものだったらしく
ティーの顔にはじっとりと汗がにじんでいた。
「危なかったですよ……鳩尾に入ってたら終わってました」
 そう言って、苦しそうに笑みを浮かべるティー。
 再び、正眼に構える二人。
 今度は、Dガーネットだけが間合いを一気に詰めた。
 足の運びの勢いを利用し、そのまま上段から竹刀を振り下ろす。
 ティーも、なんとか竹刀でその一撃の直撃を防ぐ。

 ぱちぃん!!

 高い音がする。竹刀を持つ手がびりびりと痺れた。
 しかし、ティーが竹刀を戻す前に、Dガーネットは信じられないほどの
スピードで、第二撃を繰り出していた。
「――ドウッ!!」
 先ほどYOSSYを相手に胴を割った竹刀の一撃が、ティーの腹部に
炸裂した。
「がっ……!」
 体をくの字に曲げ、息が詰まったようなうめき声を漏らすティー。
 が、まだ倒れない。
 第二撃の足運びを休めず、竹刀を一気に振り抜くDガーネット。
 円を描くように足を運び、そのまま竹刀を大上段から振り下ろした。
「――メェェン!」

 ずばぁん!!

「……おいおい、あれがあのDガーネットか?」
「ほとんど別人じゃないか……」
 剣道部員達がこそこそと話している。
 転校してきたばかりのYOSSYは、怪訝に思って聞いてみた。
「なにがです?Dガーネットさんがどうかしたんですか?」
「いやぁ……」
 いまだに見たものが信じられないといった顔つきで、部員の一人が
YOSSYに説明する。
「Dガーネットって、今までだと、剣道の腕と言うよりは、デタラメくさい
実力の差で相手を倒してたんだわ。けど……」
「今のあの動き、あれはどうみても正統派な剣道のもの。それも達人級の」
 突然YOSSYの後ろから声がした。
「それに、竹刀を折らないってのが何よりの証拠だな」
「あれなら、ダメージも逃げないから、さすがのティー君もきついだろう」
 驚いてYOSSYが振り返ると、そこには佐藤昌斗と悠朔、さらに
きたみちもどるがじっと座って、試合の様子を見ていた。
「いつの間にいたんですか……?」
「何を言うか。剣士たるもの、剣の試合を見ないでどうする。見てみろ。
あそこにしっかり神岸さんもいるぞ」
 と、その指の先を見れば、梁の上でじっと試合を見下ろす黒装束……
「葛田さんじゃないんですか?」
「いや、間違いなく神岸さんだ」
 首を傾げるYOSSY。
 彼はまだ、(最近出番がない)本当の神岸あかりを知らない。



 試合は、2時間経った今もまだ続いていた。
 Dガーネットは当然疲れもなく、竹刀を正眼に構えている。
 が、ティーの方もまた、数え切れぬほどの竹刀を受けたようには見えない。
 素人が、今の状況だけを見れば、互角に見えたかもしれない。
 が、実際は、あきらかにDガーネット優勢だった。
「何発?」
「六発」
 昌斗の問いに、朔が答える。
 ティーが当てた打撃は、わずか六発であった。
 それでも、確実にダメージのある打撃ではあるが。
「――セェェェェィッ!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
 気合の声を上げ、お互い一気に間合いを詰める。
 試合開始直後と同じ状況。

 これで、決まる。

 見ていた誰もがそう思った。
 Dガーネットがとどめの一撃を叩き込むか。
 ティーが逆転のカウンターを決めるか。
 どちらにせよ、最後の一撃だと皆が直感した。
 が、その瞬間。

 すっ……

「な……」
 全員が驚きの声を上げた。
 その場の誰もが一瞬、その目を疑った。
 その一瞬、ティーはDガーネットの横に回った。
 これ以上ないフェイントだった。勝負と見せかけての肩すかしだ。
 それだけなら、まだ皆得心がいっただろう。
 それよりも、「Dガーネットが同じように、逆側に回り込んだ」ことが
全員を驚愕させた。
 そして、実際に立ち会っているティーの驚きは、観客より大きかった。
 最後の機会を賭けてのフェイント。そしてその隙をつくつもりだったのが、
相手も同じように回り込んできたのだ。
 その結果は、再び立ち合い状態……
「……あっ!」
 そのことにティーが気づいたときにはもう遅かった。
 Dガーネットの一撃が眉間にまともにぶつかり……

「――メェェン!!」

 Dガーネットの声が、一瞬遅れて彼の耳に届いた。



 ティーが倒れた瞬間、その場にいた全員が、一斉に身構えた。
 Dガーネットが「出稽古」の名目で剣道部を半ば壊滅させたことは、
一度や二度ではないのだ。
 ティーが倒れた以上、次に何が起こるか……それは、次の相手探し。
 その場にいる全員が、そう判断したのだ。
(実際、かつて剣道部員が全滅した後、外を歩いていた昌斗や朔に
斬りかかったことも何度かある)
 ……が、Dガーネットは主将に手の中にある竹刀を差し出しただけだった。
「――スミマセン、マタ折ッテシマイマシタ」
「……あ、ああ。いいよ、そのくらい」
「――ソウデスカ、アリガトウゴザイマス」
 そう言って、ゆっくりと出口に歩いてゆく。
 出口で一度振り返り、
「――ソレデハ、シツレイシマシタ」
 そう言って、すたすたと歩き去っていった。

 全員、その瞬間に気が抜けてへなへなと崩れ落ちた。



「いやあ、強くなったもんだ、彼女も」
 間もなく目を覚ましたティーが、はじめに言った言葉がこれだった。
 それに、YOSSYが聞き返す。
「彼女が強いのはもとからでしょう?焼き込まれたプログラムと
優れたパワーを持つその身体能力で……」
「いや、もともと彼女に備わっていた戦闘用プログラムは、あくまで
シュミレートの結果として備わった物にすぎません。身体能力にしたって
実際、いま彼女は以前倒せなかった私を倒してるんですよ?」
 そう言って、ごろりと仰向けになるティー。
「いままでのように、力任せでとにかく叩くだけではどうにもできない。
そう言う相手が出てきて、はじめて技というものが取り沙汰されるんです。
 実際、彼女に元々データとしてあった技だけでは、彼女の力の数分の一も
引き出せていなかったんじゃないですか?」
 黙り込むYOSSY。
「実際、いまの勝負で彼女は「面」「胴」「突き」の剣道の技しか
使っていません。「小手」は戦闘能力を奪う技ですから例外としても」
 さらに続く。
「彼女は、もっと強くなりますよ。いや、彼女だけじゃない。
 この学園にいる、誰でも強くなるんです。努力次第で、どこまでも」
 そして、起きあがる。
「悠くんも、佐藤くんも……ここにいたみんな、今頃特訓でしょう」
 実際、剣道部のメンバーは、外で基礎体力のトレーニングをしていた。
 他の観客も、実際それぞれの力と技を鍛えていた。
「さて……いけませんね。長いこと生きてると話が長くなって」
 ふ、と笑い、立ち上がるティー。
「それじゃ、私は失礼しますよ。YOSSYくんも、がんばってください」
 そう言って、ティーは出ていった。
 YOSSYも、何かを掴んだような顔をして、外に出ていった。


 そして、誰もいなくなった剣道場の上では。
「誰でも、いくらでも強くなれる……か」
 黒ずくめの男が、肩に鴉を止まらせて立っていた。
「そうかもな、綾香……お前もどこまで強くなるのか……」
 かあ、と肩の鴉が声を上げる。
「……いや、その前に、俺がどこまで強くなれるか……か」
 そう言って自嘲気味に笑い、その男は姿を消した。
 あとには鴉の羽が一枚、ただ舞っているだけだった。



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T「T-star-reverseです。色々用事があって書けなかったんだよう!!」
D「――ティーサン、ドウシテワタシガココニイルノデスカ?」
T「ああ、Dガーネットさん。この部活シリーズ、その回のメインキャラを
 交えてあとがきをすることになってるんですよ」
D「――YOSSYサンハイナイノデスカ?」
T「いや、セリフ多いけどメインじゃないし……」
D「――ソウデスカ」
T「(汗)ま、まあ、それはそれとして……」
D「――次回ハ何部ヘ行クノデスカ?」
T「え?あ、ああ。一応……科学部……かな。最近ギャグばっかりだけど」
D「――オダイジニ」
T「なんですかその「お大事に」ってのはぁーっ!?」
D「――デハミナサン、次回モオ楽シミニ」
T「おまけにまとめないでくださいーっ!!」