……聞こえた。 破滅の音が。 その時、学校にいた生きとし生けるもの全ての耳に。 そしてその音は、着実に、彼ら全てに近付いていた。 Lメモ・部活編2「めかにっく・ばいたりてぃ」 「……ところで、柳川先生」 「なんだ?」 ある晴れた日の科学部部室。 珍しく科学部に来ていたティーことT-star-reverseは、学園教師であり 科学部顧問でもある、柳川祐也に話しかけていた。 「私の傀儡、いつもあーやって使ってるんですか?」 ティーの指さした先には、ところどころ改造を施された、すでに原型を 止めていないっぽい傀儡だった。 「ああ、あのデク人形か。やたらと脆いが改造がしやすくてよかったぞ。 爪切りから栓抜きまで、色々使えてなかなか役に立ってくれている」 「……さいですか」 とりあえず、ほとんど十徳ナイフなオブジェと化している傀儡は無視して、 先ほどから柳川が作業をしている「もの」に目を向けるティー。 とはいえ、そのサイズはすでに部屋を超越していた。 どうしてこんなものが作られているのに、誰も気づかないのか。 「それ……なんなんです?」 「これか。新型パワードスーツ【エルクゥ☆】だ」 「……そこはかとなく嫌なイントネーションなんですけど」 作業の手を休めず、淡々と答える柳川に、ツッコむティー。 その柳川の様子を見ていると、ごく普通の科学者に見えないこともない。 ただ、ちょっとした問題があった。 「……で、柳川先生、僕はどうしてここに閉じこめられてるんですか?」 そう言ったのは、鉄格子の中に閉じこめられた来栖川空。 その問いにも、何事もないかのように淡々と答える。 すでにその問いに対する答えは完全にできている、と言う感じだ。 「当然、逃げるから閉じこめているのではないか」 「当たり前ですぅぅぅぅっ!!」 絶叫する空。 「柳川先生が何かを作ってて、僕に何事もなかったためしはないんですっ!」 「ふぅ……」 軽くため息をつきながら、それでも作業の手を休めない柳川。 「何を言うかと思えば……安心しろ。生体パーツとして使うだけだ」 「それが嫌だって言ってるんじゃないですかぁぁぁぁぁっ!!」 涙を流して、鉄格子にかじりついて、そして絶叫する空。 「わがままを言うな。自分勝手は良くないぞ」 「どっちが勝手ですかぁぁぁぁぁっ!!だいたいっ!!僕じゃなくても そこにティーさんとかいるでしょうっ!?」 「なんで突然こっちに話を振るんですかっ!?」 思わずつられて叫ぶティー。 そこで初めてぴたり、と手を休め、振り返る柳川。 楽天的に考えつつ、ずーっとそこにいたティーと目が合う。 しばし凝視する柳川。 「……ダメだな」 「なんでですかぁっ!?」 「うむ。生体パーツと言うからには、できるだけ女性に近い肉体がいい。 この部には女性部員がいないからな。となると、一番適当なのはお前……」 「そっ、それならジ……」 と、空が言いかけたところで、何かがものすごい轟音と共に部室の壁を 貫いて、空の後頭部に命中した。 当然、なすすべもなく気絶する空。 ティーが壊れた壁の方を見るとそこには、必死の形相をして片腕を射出した ポーズのままのジン・ジャザムの姿があった。 「……ククク……あと少しで完成だ!」 その時、柳川が突然叫んだ。 そして、ジンの方を見る。 「おおジンよ、いいところに来た。そこにいる生体パーツを取ってくれ」 何故だかほっとした表情を見せ、すぐさま腕をセットし直して、片腕で空を 持ち上げるジン。 そして、柳川の方に放り投げる。 苦もなく受け取り、目の前のメカの中に放り込む。 そして蓋をして、素手で釘を打って封印した。 「完成だ!これぞ新型パワードスーツ【エルクゥ☆】!!」 両手を掲げ、陶酔した瞳で目の前のメカを見つめる柳川。 ジンとティーが、その横に近付いてその【エルクゥ☆】を覗き込む。 「いざ、起動っ!!」 柳川が、目の前のコンソールに拳を叩きつけた。 ぽちっ。 その拳の威力に似つかわしくない音がしたかと思うと、唐突に揺れが 起こり始めた。 「な、なんだっ?」 「地震か!?」 「違うッ!【エルクゥ☆】の誕生のときだ!!見よ!!」 柳川の叫びと共に、揺れは次第に大きくなる。 その揺れは、科学部の部室だけでなく、学園全体にまで伝わっていった。 そして……それは目覚めた。 それを言い表すとすると、とにかく、大きかった。 メイプルガンダムやVセリオなどと比べても、さらに一回り大きい。 それは、ゆっくりと身を起こし……そして、下を見下ろす。 そこには、柳川の姿がある。 「ふははははは、いいいぞ、いいぞっ!!【エルクゥ☆】よ!お前の力、 存分に発揮して見せろ!この私の生み出した、偉大な力をっ!!」 それを聞きながら、【エルクゥ☆】はゆっくりと柳川を掴んだ。 ぷち。 なんだか妙に生々しい音がして、柳川の声が聞こえなくなる。 そして、それは……吠えた。 「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 ……空の声だった。 「どーするんですかあれっ!?」 「俺に聞くな俺にぃっ!!」 ティーとジンは、屋上に登って【エルクゥ☆】の姿を見ていた。 「とりあえず……止めるしかないですよね」 「そだな……ちっ、どーやって部室であんなの作ったんだ……」 そうぼやきつつも、いきいきと戦闘準備を整えるジン。 やはり、何よりも強敵と戦えるのが嬉しいらしい。 「Vセリオが出てくる前に片づけるぜっ!!」 そう言ってジンが飛び出した。 以前も一度、ジンは通常サイズで巨大な敵と闘ったことがあった。 メイプルガンダムとの一戦である。 その時は、あっさり踏みつぶされてしまったジンだったが…… 「同じ失敗をそう何度も繰り返すかよっ!!」 屋上から、【エルクゥ☆】の頭部部分まで一気に跳躍する。 「アームランチャー!!」 【エルクゥ☆】の顔面に、高出力のアームランチャーが炸裂する。 ジンはそのまま、【エルクゥ☆】の肩に着地する。 爆炎が晴れると、ジンの目には多少すすけただけの【エルクゥ☆】の 顔が飛び込んできた。 「ぜんっぜん効いてねえって訳か……」 と、【エルクゥ☆】の外部近接防衛兵器がジンを狙う。 慌てて屋上までとって返すジン。 「嘘くせぇ装甲、要塞並みの防衛機能!なんて奴だ!」 と、その時ジンは、【エルクゥ☆】が泣いているように見えた。 一方ティーは、なにやら呪文を唱え始めた。 「空に舞う白き翼、天駆ける駿馬、今!ここにいでよっ!!」 呪文を唱え終わった瞬間ティーの目の前に、翼を持つ白馬……ペガサスが 姿を現した。 そして、ひょいとまたがると、そのまま【エルクゥ☆】の周りを旋回する。 「アームランチャー!!」 ティーが顔の高度まで来ると、ジンが先に攻撃をしているのが見えた。 が、どうやらさほど効果はないらしく、ジンが一度引き返す。 ティーは、懐から一冊の本を出すと、本を起動する呪文を唱え、本を開く。 そして、さらに呪文を唱える。 「深き基層を」 その呪文と共に、その本が光を放つ。 「母胎に」 呪文が進むにつれ、本の輝きは一層増す。 「聖合せしむるがゆえに!!」 唱え終わった瞬間、本からものすごい勢いでワイヤーが飛び出して、 【エルクゥ☆】に向かう。 鋭いその鋼線は、がりがりと【エルクゥ☆】の鋼鉄のボディーを削る。 が、いかんせん、サイズの違いで、大したダメージにはなっていない。 ティーもまた、屋上に一度引き返した。 「ダメです!大きすぎて、半端な攻撃じゃどうにもなりませんよ!」 ペガサスを屋上に降り立たせ、ジンに呼びかけるティー。 怒鳴るように返事を返すジン。 「わーってる!……おいティー!!」 「なんですか?」 「こうなったら、手は一つしかねぇ!空の奴を引きずり出す!」 「解りました!」 「全力で、胴体装甲をぶち抜く!同時に行くぞ!!」 「了解!!」 ティーが、呪文を唱え始める。 「厳正なる審判こそ毒天使の剣もて執行されよ」 黒い翼と鎌を持つ毒天使が、ティーの左に現れた。 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 咆吼と共に、ジンの姿が変わってゆく。 そして、その瞳は一点……【エルクゥ☆】の胴体に向けられる。 ティーの呪文は続く。 「深遠なる恩恵こそ主天使の笏もて下賜されよ」 白い翼と杖を持つ主天使が、ティーの右に現れた。 ジンの姿がさらに変化する。 ナイトメア・オヴ・ソロモン。 本来全方位の技を、前面にだけ集中する。 ティーの呪文が完成する。 と、同時にジンも攻撃を開始した。 「省みよ見えざる知識の声より理解せよ 創造主が王座に帰還するために!」 「ナイトメア・オヴ・ソロモン!……ファイア!!」 その瞬間、爆音という表現すら生ぬるい音が学園中に響きわたり、 窓ガラスという窓ガラスは割れ、そして光が溢れ、全てを満たした。 そして全校生徒はその時、空の声を聞いたという。 「柳川先生の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 ……そのあと…… 全校生徒の証言により、事件の首謀者は柳川と言うことで処理された。 空はと言うと、全裸で中庭に倒れていたところを保護された。 ジンとティーは、自分たちの攻撃の反動でしばらく動けなかったところを、 柏木家の長女に捕獲され……栄養をとらされたそうな。 (とりあえず、同程度のダメージで完食できたということらしい) しかし…… 「できたぞ!新たなる発明!」 「もう勘弁してくださいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」 ……科学部の悪癖が無くなることは、当分無いようである。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− T「T-star-reverseです!今回のゲストは、ジン・ジャザムさんです! ぱちぱちぱちぱちー!!」 ジ「おう!!俺様が燃える男ジン・ジャザムだ!挨拶代わりにっ…… 行くぜ、鉄拳!ロケットパァーーーンチ!!」 (ジンの右腕から射出されたロケットパンチは、丁度出てきた空に直撃する) 空「な、なんで僕だけ……がく」 T「ああ、忘れてました。空くんも一応ゲストだったんですけど…… ま、いいか」 ジ「さて、お前が幽霊部員してる科学部の話らしいが」 T「幽霊部員って……まあ、そうですけど。とりあえず、スケールの大きい バトルがしたかった、という一言に尽きます。神性呪文とか召鬼とか、 自分が書くとあまり使う機会ないんで」 ジ「なるほどなー。俺なんかだといつもDセリオの奴とやりあってっから そういうことは少ないが。……で、次はどこに行くんだ?」 T「茶道部……ですか。たぶん。すでに一日一作はできてませんけど。 いろいろ用事があったし」 ジ「そーかそーか。それじゃ……次回も……」 T「だから勝手にまとめないでくださいっ!!」 ジ「なら、二人で行くぞ。せーのっ」 T・ジ「次回もお楽しみにっ!!」 空「……誰か、助けて……」 (ジンさんへ……無断でここまで使って、ごめんなさい)