Lメモ・部活編7「第二購買部の華麗なる死闘」 投稿者:T-star-reverse
「……では、どうしてもダメだと言うんですね?」
「ええ。ダメなものはダメですよ……」
 第二購買部。
 2人の男子生徒が、部屋の中央で睨み合っていた。

 手前の生徒が、片手に持ったチラシを示しつつ言う。
「これ……どうあっても発売するつもりだと言うんですか?」
 奥の生徒が、後方に山積みになっている商品を示す。
「無論。実際、すでに製品の搬入は終わっているんですから……」
 チラシを握りつぶし、製品の方に向かおうとする手前の生徒。
 それをさせじと必死でブロックする奥の生徒。

「『ブルーワーカー』なんて物を発売させてたまりますかっ! 壊すっ!」
「させんっ!! 商品に手をつけることは許さんっ!!」
「私腹を肥やすとかそんなのじゃなくっ!! 松原さんの名誉のためっ!」
「それが充分自分勝手だっていうんですっ!!」

 そして、2つの力が真正面からぶつかった。


Lメモ・部活編7「第二購買部の華麗なる死闘」


 がらがら……

 どさっ。

 がらがら……

 購買部裏口。
 そこに、ひとかたまりのボロクズが放り捨てられる。
 それを捨てた人物は、ふん、とそのボロクズを一瞥してから中に戻る。

 ぴしゃっ。

 後ろ手に引き戸か閉じられ、静寂がその場を満たす。

 ボロクズはぴくりともせず、ただ風がその上を踏んでゆくばかりだった。



 それからしばらく後。そこに通りかかった人影があった。
「さて、大漁大漁……っと、ん?」
 その人物は、裏口前のボロクズに気づいて足を止める。
 背負った鞄の中には、ぎっしりと色々な物が詰まっているのが見て取れた。
 購買部四天王の一人、トレジャーハンターの沙留斗である。
 そーっ、とボロクズに近づき、まじまじとそれを見つめる。
 ふと何かに思い当たって、声を掛けた。
「……ひょっとして、マスター?」
 そう言うと、今までぴくりともしなかったボロクズが反応した。
「ぐ……うう……さ、沙留斗か……」
 ボロクズがよろよろと起きあがり、かろうじてそれと解る瞳で彼を見る。
 沙留斗は驚いて駆け寄り、彼を支えた。
「どっ……どうしたんですか!?ここまでやられるなんて……」
「不覚でした……まさかあの商品のことで、彼があそこまで怒るとは……」
「あの商品?」
 思わず聞き返す沙留斗。無論、彼には心当たりがあった。
「ひょっとして、ブルーワーカーですか?」
「うむ。それの破棄を巡って争い、気づいたらこのざまです……」
「でも……」
 沙留斗はふと気づいた。それだけにしては一つだけ解らない点があった。

「そこに残ってる方のボロクズ、ティーさんなんじゃないですか?」
「……え?」
 beakerは気づかなかったようだが、彼と共にまたティーもボロクズと化し、
彼と共に打ち捨てられていたのだ。
 ティーことT-star-reverseも、ゆっくりと身を起こした。
「……つつ……あれ?どうして店の外に……」
「どうやら、ブルーワーカーを巡る勝負は引き分けたようですね……」
 沙留斗から離れ、自らの足で立ちつつそう言うbeaker。
 ティーはこくりと頷く。
「ですが……まだです。あれだけはどうあっても処分します!」
「まだわからないんですか……どうしても、というなら……」
 すっ、と一枚の紙をティーに突きつけるbeaker。
 【契約書】と書かれている。
「店内に置いてあるブルーワーカー総数二千!全て購入してください!」
 その言葉に一瞬ひるむが、すぐに立ち直り言い返すティー。
「beakerさん……私を甘く見ないでください。それだけじゃないでしょう」
 その言葉に、ぴくりと反応するbeaker。
 ティーは続ける。
「購買部の在庫用倉庫、あそこにまだ八千個のブルーワーカーがありますね。
それもまとめて処分させてもらわないと……」
「くっ……そういえば搬入作業は、きみの傀儡に任せていましたね……」
「そういうことです。ですが勝手に処分するのは私の主義に反します。
だからこうして処分を迫っているんです!」
「いいでしょう、総計一万のブルーワーカー、全て購入してもらいます!」
 そう言って、懐から算盤を取り出してぱちぱちと弾きだすbeaker。
「ブルーワーカーの単価が350円。10000個で3500000円!
まとめ買いっていう事で一割引してあげましょう……ぱちぱちぱちっと。
占めて3150000円、さあ、払っていただきましょう!!」
 勢いづくbeakerの気迫に、思わず後ずさるティー。
「くっ……」
 当然、そのような大金など持っているはずもない。
 が、ティーが為すすべもなく敗北してしまおうかと言うその時だった。
「でも、ブルーワーカーなんて誰も買わないんじゃ……」

 ――ぴしっ。

 沙留斗の何気ないその一言に、beakerとティーの動きが止まる。
 ぐぎぐぎぐぎぃ……と首の筋から鈍い音を立てつつ、beakerが振り向いた。
「沙留斗くん……」
「な、何か?マスター……」
「そーいうこと言っちゃ駄目でしょうがぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
 beakerの一撃が、問答無用で沙留斗を叩き伏せた。



「……それで、結局どーするワケ?」
 場所は第二購買部内、休憩室。
 店番を沙留斗に任せ、beaker、ティー、坂下好恵、雛山理緒の計4人が、
火の入ってないこたつに入りつつ話し合っていた。
「とりあえず、ブルーワーカーは販売停止にして欲しいんです」
 ティーが自分の唯一にして絶対の意見を言うと、
「売り物を売らないわけにはいきません」
 beakerも当然の如く反論する。
「あんたら……暴れたらまた放り出すわよ?」
 好恵はそんな二人の激突を警戒しているし、
「ねーねー、このみかん弟と妹とおかーさんに持って帰っていいかな?」
 理緒はこたつの上のみかんを手提げ袋に入れる。

 ……ようするに、何も進んじゃいないのである。

「……いいですか、beakerさん!」
 ティーが、どん!とこたつを叩く。
「beakerさん、もし「カラテワーカー」という、使用者を黒くする器具を
ばらまかれたらあなたはどう思います?」
 この質問は罠だった。
 beakerは、ここで自分が「そんなの、嫌に決まってる」とか言ったら、
相手の意見を肯定することになってしまうと考える。
 そして、こう言った。
「いや、べつにどうもしないけど。好恵さんが増えて嬉しいし……」
 かかった。
 ティーは、内心快哉を叫んだ。
 その瞬間beakerへと冷たい声が飛んできた。
「……ちょっと待ってbeakerくん。今のどういう意味?」
 beakerがゆっくりその方向を見ると、そこにはものすごい眼光で
彼を睨み付ける好恵の顔があった。
「私の顔をした生徒がたくさん歩いてて、「好恵さんが増えて嬉しい」!?
冗談じゃないわよ!あんた、私のこと考えてもの考えてんの?」
 がばっ、と立ち上がり、びしっ、とbeakerに指を突きつける好恵。
 それに乗じて、ティーも同じように立ち上がる。
「そうですよ!だから私はさっきから「松原さんのために」って
言ってるんですよ!beakerさん!」
 周囲の状況に流され、理緒も思わず立ち上がる。
「え、えーとえーと。び、beakerくんが悪いっ!」
 たじたじとなって座ったまま後ずさるbeaker。

 が、その時である。
 客が来なくて暇をしていた沙留斗が、休憩室に来ていたのだ。
 そして、beakerへの助け船のつもりでこう言ってしまった。
「さ、坂下さんただでさえ目立たないんだからたくさんいた方が……」

 ――ぴしっ。

 空間が、歪んだ。

 そして。

「わるかったわねぇぇぇぇぇぇぇっ!!目立たなくってぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 絶叫と共に。
 好恵が、切れた。



「……よ、よし、とりあえず2000……」
 再度ボロクズになったティーが、思わずほくそ笑む。
 切れた好恵は延々3時間に渡って暴れ回った。
 それで半壊した第二購買部と共に、ブルーワーカー二千個が消滅したのだ。
「さ、沙留斗……言ってはいけないことを……」
「す、すいません、マスター……」
 beakerと沙留斗はもまた同じくボロクズになっていた。
「すぅ……すぅ……」
 暴れ疲れた好恵は、何故か無事に残っていたこたつで眠っている。
『早退します。有給扱いにしてください』
 理緒は、このメモを残して早々に逃げ出していた。

 だが、ブルーワーカーを巡るティーとbeakerの戦いはまだ終わらない。
 いまだ8000のブルーワーカーが購買部倉庫にあるのだ!

 ゆけ!T-star-reverse!
 ブルーワーカーをこの世からなくすその日まで!
 くじけるな!beaker!
 ブルーワーカーをT-star-reverseに買わせるその日まで!



 ぱたん。
 乾いた音と共に、本が閉じられた。
「おしまい。あ、でも普段はあの二人、そんなに仲は悪くないんだよ」
「へー。理緒ねーちゃん、よく知ってるんだぁ」
「おねーちゃん、このみかんもおいしーね」
 理緒が、弟と妹に本を読んであげていたのだ。
 それも、手製の即席絵本である。
「うん。それじゃ、また今度新しいお話ができたら読んであげるね!」
「おー!楽しみだぞ!」
「ありがとー!おねーちゃん!」
 実に平和な、雛山家の団欒。
 その中で、弟妹たちを見る理緒の笑顔は実に晴れやかだった。



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T「部活編第7話、第二購買部編です!ゲストは……」
理「どうもっ!雛山理緒です!」
T「やあ雛山さん、今回の話だけど……」
理「あはは、じつはあの絵本、中は白紙なの。だから、絵本だって言って
 いっつも私がお話して弟や妹に楽しんでもらってるの」
T「ほほー、それじゃ、即興で語っているわけですか」
理「そ、そんな大層なものじゃないけどね」
T「いや、立派立派……」
理「あはははは……結構いろいろなことばらしちゃってるから、あまり
 良太なんかからどんな話だったかは聞かないでね」
T「いえいえ。……さて、それではそろそろ締めの時間です」
理「え?もう?」
T「はい、それでは、次回をお楽しみにっ!!」
理「ばいばーい!!」