体育祭Lメモ「応援合戦・プロローグ」 投稿者:T-star-reverse
 ぴんぽんぱんぽーん。

『本部よりお知らせです。これより、全学年による応援合戦を行います。
大変危険ですので、観客の方々はグラウンド内に入らないようお願いします』
 
 ぴんぽんぱんぽーん。

「ふう……」
 業務連絡を終え、ティーことT-star-reverseは一息ついた。
 彼は放送部員ではあるが、このように連絡事項を伝えることはあまりない。
 なぜなら、普段は志保か琴音のどちらかがその担当だからである。
 ではなぜ今、彼が放送席に座って連絡をしているかというと……
「応援合戦ですか……」
 そう。次の種目は応援合戦。
 志保も琴音も、それぞれこの競技に出るために席を外していた。

 昼食も終わり、一息ついた観客達が再び競技に集中するその時間。
 後半の開幕に相応しい応援の嵐がその後、待っていることを……

 ……その場にいた誰もが、予感していた。



体育祭Lメモ「応援合戦・プロローグ」



「さて、青天白日の下に前半戦を終了し、昼食を挟んでこれより後半戦……
応援合戦が始まろうとしております。司会は私、放送部T-star-reverse、
解説には、学内でも様々な高い評価を受けておられます緒方英二先生と、
普段からいろいろと気苦労の絶えない足立教頭にお越しいただきました。
……お二人とも、ようこそお越しくださいました」
「どうも」
「よろしくどうぞ」
 ティーの右隣には、英二と足立が並んで座っていた。

 応援合戦本番までにはまだ少し時間がある。
「えー、この応援合戦は他の競技とは採点方法が若干違いまして、
向こうにおられます十審査員席の採点がそのまま各学年の点数となります」
 その時間を利用して、ティーが競技の説明を行う。
 他とは違い、特殊な競技なのでいちいち説明も要るのである。
「各人、各学年ごとに10点満点で判定していただくことになります。
最高点は100点になりますので、前半の遅れを取り戻せるかもしれません。
……それでは、続いては審査員の紹介です」

 ティーの左側には九人の審査員が座っていた。
「どの学年にとっても公平になるように選別した、審査員のみなさんです!」

「まず、澤倉美咲先生」
「あ……よろしくおねがいします」
「次に、来栖川警備保障からお越しいただきました、Dマルチさん」
「選んでいただいて嬉しいです!」
「食堂の料理を作っていただいているフランク長瀬さん」
「…………」
「とりあえず暗躍生徒会への人質として座っていただいているRuneさん」
「……何か変だと思ったら、そういうことか……」
「その隣は柳川祐也先生。隣の2人が逃げようとしたら狩っていいです」
「うむ。了解した。無論、審査も任せてもらおう」
「はい。よろしくお願いします。……次、ハイドラントさんです」
「……そうすると、私はダーク13使徒への人質か?」
「その通り。……次、保険医の相田響子先生」
「ふふ……楽しみね〜」
「隣、藤井冬弥先生」
「ども」
「さらにその隣、久々野彰さんです」
「……よろしく」

 ここまでで9人。残りの1席は空席である。

「残りの10点は1点づつ、Dセリオさん、Dガーネットさん、Dボックス、
木神木風ちゃん、笛音ちゃん、マルティーナの三人、きたみち靜ちゃん、
てぃーくん、雛山良太くん、河島はるか先生が担当します」

 そこまで解説を終えたところで、グラウンドの中央に人が集まる。
 それを合図に、BGMが流れ出した。

「まずデモンストレーションとして、1点担当の12人による、全学年への
エールをお楽しみください」



『ぴぃーーーーーーーーーーーっ! ぴっ!』
 はるかが口にくわえた笛を吹き、グラウンドに12人が一列に並ぶ。

 笛をくわえながら歩くはるかを先頭に、ノリノリのティーナ、笛音が続く。
 その後ろにてぃーくんがぼーっと歩いていて、さらに後ろにDガーネット。
 続いて靜、マール、木風と3人が並んで歩いている。その後ろには良太。
 その後に続くのはDボックス。ルーティ。そして最後尾でもじもじしながら
てくてくと歩いているのがDセリオである。

 全員、サイズを除けば「全く同じ」服装で決めている。

『ぴっ! ぴっ!』

 ざっざっ、と笛の音に合わせて足が止まる。
 さて、その服装はと言うと……

 装飾過多気味のレオタードであった。



 ちゃーららっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃーららーららー。
 ちゃーららっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃーららーららー。


 何故か軍艦マーチをBGMにして、12人が一斉に踊り出す。


 一番楽しげに、目立って踊っているのはルーティ。
「よっと、はっ、ほっ、それぇっ!!」
 元々体を動かすのが好きなので、観衆にも物怖じせずに堂々と踊っている。


 放送席。
「どうですか、緒方先生?」
「んー……元気があっていいねえ。子供はこれくらいじゃないとさ」


 それとは対照的な、ぎこちない動きで目立っているのがDセリオ。
「――あ……っと……うっ……わわっ」
 レオタードを着ることもその原因に入るだろうが、それより重要なのは、
人前で踊るという行為が彼女にとっては初の経験だと言うことである。
 戦闘用ではない普通のレオタードともなれば、それも当然だろう。


 放送席。
「足立先生、Dセリオさんどうしたんでしょうねぇ?」
「そうですね……頬が赤くなってるところを見ると、恥ずかしいのでは?」


 あまり目立った動きがなかったのはDボックスとてぃーくん。
「オドリマス、オドリマス」
「……ぼーーーーーーーーーーーっ……」
 駆動能力の関係で必然的に動きの少ないDボックスはともかくとして、
いくらレオタードであるとはいえ、てぃーくんのその様子は珍しかった。
 ぼーっとしたその視線は、本人さえも知らぬうちに笛音の方を向いていた。
 ……それに気がついたのは、たった1人だけであったが。


 3年待機場所。
「……ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり……」
 その「たった1人」OLHが歯ぎしりをつつ、てぃーくんを睨んでいた。


 逆に、そのOLHに見てもらおうと張り合っているのはティーナと笛音。
「ボクの方が上手だいっ!!」
「わたしのほうがかれいだよっ!!」
 片方が足を高く上げれば、もう一方も負けずにそれより高く足を上げる。
 片方がくるりと一回転すれば、もう一方は二回転する。

 もはや、周囲とは別物の踊りになっている。


 放送席。
「子供同士の意地の張り合いってどう思います?」
「害が無くていいんじゃないですか?」
「……ごもっともで」


 靜、マール、木風の3人は、落ち着いた風にぴったりと踊っている。
 足運びから指先の伸ばし方までじつに息がぴったりと合っている。
「いち、にっ、さん、しっ」
「ごぉ、ろく、しち、はち」
「いち、にぃ、さん、しぃ……」
 かけ声もぴったりと、一糸乱れぬ動きを見せる。

 それを見て、きたみちもどる、西山英志、榊宗一の3人の感想は。
「靜がいちばんかわいいな」
「うむ、マールがいちばん綺麗だな」
「木風ちゃんがいちばん美人だな」
 ……無論、公平な目で見れば全員等評価であることは言うまでもない。


 放送席。
「あの3人の踊り、息がぴったり合ってますね」
「素晴らしいですね。じつに素晴らしい」
「どうやら、あの3人、密かにグループ練習を積んでいたらしいですよ」
「いいねぇ、こんどユニット組ませてデビューさせてみようか?」


 そして、数少ない男の子メンバー、良太。
 てぃーくんはぼーっとしているため恥ずかしがったりはしていないが、
こちらはそうも行かず、若干内股気味になっていたりする。
「ううっ……はるかせんせー、約束やぶったらひどいぞー」
 赤くなりながらも「約束」であるお菓子詰め合わせの為、ぼやきながらも
くるくると踊る良太であった。


 はるかとDガーネットは、共に素晴らしい踊りを見せていた。
 はるかは、柔らかい動きから適度なスピードを保ったモーション。
 Dガーネットは、直線的な動きに適度に緩急をつけたモーション。
 同じ振り付けの踊りで、これほどの違いを見せることができるのかという
いい見本である。
 見ているほとんどの人物から感嘆のため息が漏れた。
 が、当の本人達の内心はと言うと。
「……おなかすいた……」
「――ナニカキリタイデス……」
 実に自分勝手な思考をしていた。


 放送席。
「どうでしょう? あの踊りは芸術として見るに値しますか?」
「そだねぇ……芸術なんて枠にはめたら彼女たちに失礼じゃないかな?」


 ちゃーららっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃーららーららー。
 ちゃっちゃっちゃららっちゃっちゃららっちゃっらっちゃっらっちゃらら。

 曲が終了し、12人が一斉に踊りをやめる。

『ぴーっ! ぴっ!』

 はるかの笛で全員礼をして、もと来た道を引き上げてゆく。

『ぴっぴっ! ぴっぴっ!ぴっぴっ! ぴっぴっ!』

 そして、そのままランニングで引き上げていった。


 放送席。
「さて全学年へのエールでしたが、当然これは得点の対象とはなりません。
いかがでしたでしょう? 澤倉先生?」
「そうですね、みなさん一生懸命踊っていて、とても楽しめました。
もし得点をあげるなら、文句無しで10点あげたいと思います」
「ありがとうございました。柳川先生はどうでしょう?」
「そうだな……Dガーネットの動きは実に素晴らしい。一度じっくりと
分解して調べてみたいものだ……全体の点としては4点だ。まとまりがない」
「……そうですか。ありがとうございます。……さて、それではこれからが
本当の応援合戦! 自分たちで自分たちの応援をするという、よく考えれば
相当哀しい競技かもしれない! さあ、そんな応援合戦の始まりです!」


 グラウンドは、たった今の微笑ましく、かつ美しい踊りの余韻が残っていて
ほぼ全員がグラウンドで繰り広げられるだろうものに期待し、集中していた。

 そんな中、プログラムだけは滞り無く進められていく。

「只今より、一年生の応援を開始いたします」

 ……戦いの幕は、そうして切って落とされた。



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ども。T-star-reverseです。
応援合戦開幕ですー。
各学年ごとに分け、ほぼ全員参加のパフォーマンスをする予定です。

相変わらず感想無しで申し訳ありませんが、
ちゃっちゃと終わらせるべく頑張りますので、ご容赦くださいませ。