体育祭Lメモ「応援合戦・一年生」 投稿者:T-star-reverse
 どくん……、どくん……。

「ふうっ」
 知らず知らず鼓動を早める胸に手を当て、松原葵はため息をついた。
 必死に、自分を落ち着ける。
 身にまとった衣装の堅くて厚い素材ごしでも、はっきり心臓の動きが解る。
 本番に弱い自分の性格を恨めしく思いつつ、葵はなんとか気を落ち着けた。
「松原さん……大丈夫?」
「あ、姫川さん」
 緊張している葵を見かね、声を掛けてきたのは姫川琴音。
 彼女はというと、さほど緊張しているようには見受けられない。
 その衣装は葵のものとは違い、柔らかくて薄く、華やかであった。
 それを見て、自分の姿との差に一瞬気が重くなる葵。
 が、それにも関わらず、間違いなく今回の主役は葵の方であった。
「……姫川さんはこういう時、緊張とかしないですか?」
 葵がそう聞くと、琴音はくすりと笑って答えた。
「慣れちゃいました。長岡さんに引っ張られていろいろやってるうちに」
 そして、少しおいてから付け加える。
「あ、でも緊張はしますよ。やっぱり」
 それを聞いて、少しだけほっとした表情になる葵。
「よかった……やっぱりみんな、緊張するんですね」
「不安なんですか?」
「うん……向こうで張り切ってる人たちを見ると、どうしても」
 そう言う葵の視線の先にはM・K、EDGE、柏木千鶴の3人がいた。
 当然というかなんというか、三人とも緊張の色など微塵も見せていない。

「絶対、耕一さんの視線は私に釘付けよ!」
「耕一さん! 見ていてくださいっ!」
「ふふふっ……二人とも、私が勝つという事を認めたくないようね」

 ……彼女たち全員、学年対抗競技という事を見失っているらしい。

「あまり気にしない方がいいと思いますよ」
 そういう琴音の言葉にも、しかし葵は不安げな表情を消しきれない。
「で、でも、やっぱり私なんかがこんな晴れ舞台の主役を務めさせて
頂けるなんて、やっぱり不安で……」
 そう言ってうつむいてしまう葵。
 が、そこに駆けてくる人影がひとつ。
「あっ、葵さぁ〜ん!」
 葵と同じ、堅く厚く華やかとはほど遠い服を身にまとったマルチが、
半泣きになりながら葵の元に走ってきた。
「ど、どうしたんですかマルチさん?」
「よかったですぅ〜、はぐれたかとおもいましたぁぁ」
 えぐえぐと泣きながら、ごしごしと目元を袖で拭うマルチ。
「そろそろ出番ですから、捜してたんですぅぅっ」
「あっ……! もうそんな時間!? 急いで準備しないと……」
 校舎についている時計を見、慌てて立ち上がる葵。
「それじゃ、頑張ってくださいね」
 琴音も、自分の配置に着くべく葵の前から姿を消した。

 襟をきっちりと閉め、ぱんぱんと裾を払う。
「あ、葵さぁん……」
「どうしたんですかマルチさん?」
「わ、わたし、こういうのって、な、なれてなくて……どうしていいか」
 がちがちに、それこそ先程までの葵のように緊張しているマルチを見て、
葵は不思議と気持ちが落ち着いているのに気がついた。
 多少戸惑いつつも、ぽんぽんとマルチの肩を叩く。
「大丈夫! きっと上手くいきますよ!」
「そ……そうでしょうか?」
「もちろん! 頑張ろう!」
「はいっ! 頑張ります〜!」
 そして、二人は協力して準備を始めたのだった。



 放送席。
「さて、いよいよ本番、一年生による応援が始まりますが、どうでしょう?
解説のお二人が注目すべきと思われる点は、なにかありますでしょうか?」
「そうだねぇ……一年生は粒ぞろいだから、個人の仕種に注目してみたいね」
「一年生と言えば、去年は新城さんが務めた大応援旗旗手を誰が務めるか。
僕はこのへんに興味があります」
「はい、ありがとうございました。さあ、いよいよ始まります!!」



 グラウンドが、一瞬の静寂に包まれる。
 そして、3つの黒い人影が駆けてきた。
 全員学ランに身を包み、それぞれ萌黄、深紅、緑碧の応援旗を持っている。
 萌黄の応援旗を持っているのは柏木初音。
 深紅の大応援旗を持っているのは松原葵。
 緑碧の応援旗を持っているのはマルチ。
 それぞれ所定の位置に着くと、両腕を大きく外に開き、声を張り上げる。
「ふれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「ふれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「いぃぃぃっ、ちぃぃぃっ、ねぇぇぇ、んっ!!」
「ふれぇ、ふれぇ、い・ち・ね・ん! ふれぇ、ふれぇ、い・ち・ね・ん!」
 そこまで叫ぶと、三人とも持っていた旗を左右に大きく振る。
「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 正面左。初音(反転)が豪快に黄色い応援旗を振り回す。
「はっ! はっ!」
 中央。葵がひときわ大きい赤い応援旗をばたばたと振る。
「えーいっ! うんしょ!」
 正面右。マルチが多少小振りな緑の応援旗を一生懸命振る。

 そして、音楽がかかる。これからパフォーマンスが始まるのだ。



 放送席。
「松原さん……」
「おーい、司会……ティー君?」
「しばらく見とれていそうですねぇ、緒方先生、代理をお願いします」
「了解……まずは恒例の応援旗振り。足立教頭が注目しようと言っていた点。
一年生の中でもひときわ小柄な3人がその役に当たってますが、どうです?」
「そうですね……こういう言い方は失礼かもしれませんが、旗がひときわ
大きく見えて迫力がありますね。まずは及第点かと」



 再度、三つの人影が飛び出してきた。

 今度はガクラン姿ではなく、それぞれ派手な色でまとめているドレス姿だ。
「そーれっ!!」
「きゃっほー!!」
「見て見てっ!!」
 M・K、EDGE、千鶴の三人である。
 それぞれ思いのままに、跳ね、回り、駆け、飛ぶ。
 てんでバラバラな動きではあったが、不思議とまとまって見えたのは、
彼女たちの目的が一致していたからであろうか。
「「「耕一さん、わたしだけを見てください!」」」


 そして間髪入れず、三人が踊っている真っただ中に何かが飛んできた。
 背中に誰かが乗っている。
「ひょっとして私の出番これだけぇぇぇぇぇぇぇっ??」

 ずがおぉぉぉぉんっ!!

 その「飛んできた何か」赤十字美加香は轟音と共にグラウンドに刺さった。
 一方、その美加香の背中に乗って来た人物、風見ひなたは一瞬前に跳躍。
「外道メテオ……」 
 空中で姿勢を整えると、懐に手を入れる。
「応援合戦バージョン・必殺・スーパーダイナマイト!」
 懐から無数の火がついた爆弾を取り出し、辺り一面に投げ放つ。

 ごがぉぉぉぉん! ちゅどぉぉぉんっ! きゅごぉぉぉぉっ!

「みきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 爆音が響きわたり、爆風が荒れ狂い、美加香の悲鳴が聞こえる。
 ひなたは鮮やかに着地すると、そのままグラウンドから走り去った。
 次いで、ひゅるりらと落ちてくる美加香に向けて二つの人影が飛び出す。
「グラウンドが破壊された!!」
 Hi−waitがポーズを決めつつそう叫ぶ。
「一体誰のせいなの!?」
 その隣で、月島瑠香が続けて叫ぶ。
「俺のせいじゃない!俺は正義だ!」
「私のせいでもない!私は正義よ!」
 そして、二人揃って上空の美加香を指さす。
「そう言うわけで、あなたが悪い!!」
 その瞬間、二人の体が発光し、一瞬にしてデレンガイヤーと化した。
「必殺!デレンクラッシャー!!」
 デレンガイヤーの必殺技が、落下してきた美加香に容赦なく襲いかかった。
「ぴげっ! ふぎゃっ!! ぐめきょっ!! ぶにゃっ!!」
 奇妙な声を上げ、吹き飛ぶこともできずに殴られ続ける美加香。

 でも壊れない。頑丈だから。

「我は呼ぶ……」
 デレンガイヤーが最後の一撃を叩き込む直前、その声が聞こえた。
「黒界の炎っ!!」

 どがぁっ!!
 ごぉっ!!
 ぴしゃああああああんっ!!

 最後の一撃を決めたデレンガイヤーのバックに、炎が燃え上がる。
 そして、稲妻が落ちたような音がグラウンドに響きわたった。
 実に迫力がある演出だ。

「ふう……なんとか上手く行きましたね」
「タイミングぴったりですね」
 いつの間にかそこには、汗を拭う雪智波とスピーカーを持つまさたがいた。



 放送席。
「……はっ」
「おや、気づいたね」
「どうも失礼しました。さて結構な迫力のパフォーマンスですが、
ここまでで一番目を惹いたパフォーマンスはどれでしょう?足立教頭から」
「そうですね……やはり個人的にちーちゃんの踊りかな。もちろん
他の方々のも素晴らしいものだと思いますが」
「緒方先生は?」
「ん。あそこで伸びてる彼女、頑丈だなぁ、ってとこか」
「なるほど。さあ、まだまだ続きます!」



 美加香は、初音を見て涙するゆきにグラウンドから掃き出された。

 デレンガイヤーも去り、M・K、EDGE、千鶴の3人も去った。
 葵・初音・マルチの応援旗振りはまだ続いている。

 と、突然グラウンドに靄がかかり始める。
 靄がグラウンドにゆっくりと広がり、二つの人影がゆっくりと姿を見せる。
「いくよ、電芹」
「はい、たけるさん」
 川越たけるとセリオ@電柱(略して電芹)である。
 とっとっと、と軽いステップを踏み、左右対称のポーズで外側に飛ぶ。
 くるくると舞い、両手を上に掲げ、何かを迎えるような仕種をする。
 その様子に、観客の目が上を向いた。

 ゆっくり。
 ゆっくりと、二人の天使が舞い降りてきていた。
 さながら、神聖な踊りに招かれ、地上に舞い降りてきたかのように。
 その天使はアイラナステアと姫川琴音だったが、観客は一瞬それを忘れ、
その幻想的な光景に見とれていた。

 ちなみに、Yinとレッドテイルは必死で地上の靄を作り出していた。


 その一瞬後、一変してど派手なフラッシュが一斉に靄を照らす。
「HaーHaHaHaHa!!」
 突然地中から姿を現した巨大なアフロが、騒がしげなBGMを引き連れて
グラウンドの中央で踊り始める。
 色とりどりのライトが靄に当たり、虹色に姿を変えた。

 先程とは別の意味で幻想的な光景である。

 ちなみにそのライトは、セリオが調整していた。


 そして、そのBGMがだんだんとスローダウンし、また1つ人影が現れる。

 純白の衣装に身を包み、しずしずと歩いてくる。
 ライトの色も薄い陽光色になり、周囲は神秘的な雰囲気に包まれた。

 中央に姿を見せたのは隆雨ひづき。

 巫女服に身を包み、手には玉串を持っている。

 彼女を中央に、たける、電芹、アイラナ、琴音、TaSが静かに踊る。
 ふと気づけば、TaSがいつの間にかアフロを外し靴墨も落としていたが
誰もそれに気づく者はいなかった。



 放送席。
「メリハリの利いたパフォーマンスでしたが、いかがでしょう緒方先生」
「そうだな……見た目的には問題ないが、心情的には真ん中のアフロが
余計だったように思えてしょうがないんだが」
「足立教頭は?」
「私も全く同感です。素晴らしいとは思いますが」
「そうですか。ありがとうございます。
……さあ、1年の応援パフォーマンス、いよいよクライマックスです!」



 宇治丁と着物ゆかた、結城光と悠綾芽、来栖川空とタケダテルオ。
 3組6人の口直し演出(派手な先程との間を取るためのもの)が終わる。


 再びグラウンドに静寂が訪れた。
 すっかり靄も晴れ、聞こえる音は観客のざわめきと、旗を振る音だけ。

 そこに、突然の轟音が響きわたる。

 ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!
 どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!
 ごがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!

 グラウンドに突如現れた、3頭の巨大ペンギソ。

 右に赤い超ペンギソ”沙織”。
 左に蒼い超ペソギソ”葵”。
 そして中央に碧の超ペンギソ”瑠璃子”。
 そしてそれぞれの背中に人影があった。
 「沙織」の背に神凪遼刃。
 「葵」の背に神無月りーず。
 「瑠璃子」の背に葛田玖逗夜の姿があった。

「……なんで私はここにいるんでしょう……」
「葛田さん、頑張ってください……」
 自分の立場に戸惑う遼刃、最後の締めを飾る玖逗夜を心配するりーず。

 玖逗夜がゆっくりと口を開いた。
 そして、腹の底から叫ぶ。

「一同一丸、一年となって頑張ろうっ!!」

 その一瞬、あらゆる原子核の活動は完全に停止した。
 が、それを打ち破る人物がいた。
「それを言うなら、「一年一同、一丸となって」でしょうがぁぁぁっ!!」
 すばごがぁぁぁんっ!! という強烈な音を立て、玖逗夜は散った。
 ツッコミを入れたのは風上日陰。
 先程のギャグで廃人状態になったひなたと入れ替わるように出てきたのだ。
 とりあえず、未覚醒とはいえ魔王の全力ツッコミを喰らったため、
玖逗夜の肉体は妙な形に歪んでいた。

 三体のペンギソの姿が掻き消える。
 自由落下。
 りーずと遼刃はなんとか着地に成功した。
「ふう。それじゃ、一年生のみんな、あたしの分も頑張ってねぇ〜!!」
 日陰もふっ、と言う感じでひなたに姿を戻す。

 旗を振っていた3人も、汗だくになりつつゆっくりと観客に礼をする。

 こうして、魔王のエールで、一年の応援合戦は幕を閉じたのだった。



 放送席。
「……いやー、意外なアクシデントがありましたね」
「そうだねぇ、突然魔王が出てくるとは思わなかったよ」
「インパクトの点では最高点を上げてもいいんじゃないでしょうか?」
「……さて、それでは審査員の皆様、採点をお願いします!!」


澤倉美咲 7点
Dマルチ 8点
フランク長瀬 8点
Rune 10点
柳川祐也 6点
ハイドラント 4点
相田響子 7点
藤井冬弥 8点
久々野彰 7点
追加点 8点
(点を入れなかったのはDボックスと雛山良太)

「合計73点です!!」
 ティーがそう言うと、グラウンド全体がわっ!と盛り上がる。


 そしてミニセリ達が、ボロボロになったグラウンドを整地し終えた。


「さあ、この点数が高いか低いか。それはこの次、2年生にかかっています!
……それでは続いて、二年生の応援を開始いたします。どうぞ!!」



 ティーがそう宣言した瞬間、観客席の片隅から喚声が上がった。



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T-star-reverseです。
一年生の応援合戦でした。

とりあえず全員出したつもり……あとからつけ足したの何人か居ますけど。
さてさて、この点数が高いか低いか……どうなるでしょう?

僅差で終わるか? 大差が付くか?
ま、とりあえずちゃっちゃと続きを書きますです(笑)
書きあがるまで努力は続けますので。

(……早く、ひなたんに許可を取った「アレ」も書かねば(笑))