体育祭Lメモ「応援合戦・三年生」 投稿者:T-star-reverse
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 彼は、全身に汗をかいていた。
 口の中が乾く。
 水が欲しかった。
 が、その望みが叶えられることもまたなかった。
 チャンスは一度だけ。それを逃すわけにはいかない。
 長い間気を張りつめている。
 唇に滑り落ちてきた汗を舐め取る。
「ふぅっ……」
 ほんの少し。
 たったそれだけの水分で、だいぶ気力が回復した。
 そして、先程以上に集中し、機会を待つ。
 集中すればするだけ、消耗も激しい。それは解っていた。
 だが、一度として失敗の許されない状況で、そんな甘えは許されない。
 一秒がやけに長く感じられた。

 そして、来た。
 待ち焦がれていたその一瞬。
 全身の細胞をフル回転させ、ただその刹那に全てを賭ける。
 それだけだ。
 ただそれだけで楽になることができる。
 全ての力を解放するだけ。
 緊張が解ける。
 言い知れぬ解放感が、脳から全身を駆けめぐった。

 快感。

 そう。その感覚だ。
 その激しい感覚にその身を焦がしつつ……。

「任務……了解っ!!」

 ちゅごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!

 彼、ジン・ジャザムは自爆した。



 放送席。
「……と、いうわけで3年生の応援パフォーマンスですが」
「……せっかくだからインパクトぐらい認めてあげようと思うけど」
「……狼煙のようなものだと割り切って見させてもらいましょう」



 ジンの自爆を開幕の合図とし、3年のパフォーマンスが始まった。
 軽めの音楽が流れ、数人が飛び出してくる。

 健やか。
 セリス。
 榊宗一。
 鈴木静。
 観月マナ。

 全員が前方に宙返りをしつつ、同時に着地。
 そしてポーズを取った瞬間、雷光が迸り、青い炎が巻き起こり、様々な色の
光が弾け、そして黒い霧が一瞬、5人の姿を覆い隠した次の瞬間。
「チアーレッド健やか!」
「チアーブルーセリス!」
「チアーブラック宗一!」
「チアーイエロー静!」
「チアーピンクマナ!」
『応援戦隊・チアーフィーバーL、参上!!』
 全員が、色違いの同デザインの衣装を着用していた。

 が、それよりも何よりも。
 背景の特殊効果メンバーが豪華だった。

 月島拓也が、観客にも視認できる程の雷光電波を。
 岩下信が、冷たく燃ゆる蒼き炎を。
 OLHが、全てを覆い隠す漆黒の霧を。
 そして菅生誠治が、エレクトロニクス技術を駆使した特殊効果を。

 それぞれの特技を存分に発揮し、裏方に徹する。
 それがさらに、表に出ている人達を際だたせた。
 決してメインを霞ませることなく、電波が、炎が、霧が、そして光が、
変幻自在に姿を変え、思わず溜め息が出るような舞台を作り上げる。

 そしてしばらく、5人はミュージカルの如く踊りを続けた。



 放送席。
「……さて、ここまで見てどうでしょうか、足立教頭?」
「いやはやなんとも……贅沢と言えば贅沢な構成ですね」
「そうですね。……緒方先生はどうでしょう?」
「あっははははは、いいねぇ。たまにはこんなのも。楽しくて」
「そうですか。さて、続きを見てみましょうか」



 五人が一通り踊り終わったところで、突然周囲が薄暗くなる。
 そして、一つの黒い影。
「くっくくく……見つけたぞチアーレンジャー!!」
 突然飛び出してきた全身黒タイツの戦闘員が一人。
「敵かっ!」
 それを見て、一斉に動き出す五人。
「見つけたからには丁度良い、この」
 もちろん戦闘員ごときの能書きなど誰も聞かない。
 容赦なく攻撃を仕掛ける五人。
「朱き炎の説得!!」
「コバルトソウルブレード!!」
「黒美木風髪拳!!」
「黄塵の言霊!!」
「ピンクダンボールクラッシュ!!」
 無論、雑魚である戦闘員がそれをかわせるはずもない。
「ちょ、ちょっと待て、人の話を……ぐばっ、げほっ、ぷげっ」
 哀れ戦闘員。やられ役としての任を全うし、遠く彼方へ飛ばされる。
 ちなみに彼は橋本であったが、誰もそれには気づかなかった。
「なんで俺ばっかりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
 いいじゃないか。矢島なんて役すらなかったんだし。


 が、その時である。
「ふっふっふ、なかなかやるカニね、チアーレンジャー」
「だが、我々応援怪人にはかなうまいカメ」
「その通り。我らの実力、思い知らせてくれるカン」
「そしてその実力に大いに恐怖するのカバ」
「覚悟するがいいカラ、チアーレンジャー」
 霧の奥に潜む5つの影。

 応援怪人・カニ梓。
 応援怪人・カメレオン昂希。
 応援怪人・カンガルーもどる。
 応援怪人・カバ幻八。
 応援怪人・カラス忍。

 それぞれが己を意味する着ぐるみをかぶり、不敵な笑みを浮かべている。
「出たな応援怪人!」
「ここであったが100年目!」
「今日こそ勝負をつけてやる!」
「それじゃ、行くぞみんな!」
「オッケー!」

 いつの間にか、彼らの周囲が岩場のような場所になっている。
 そして、応援戦隊と応援怪人の熱い戦いの火蓋が切って落とされた。

「はぁぁぁぁっ!! セルリアンソウルブレード!!」
「そりゃぁぁぁっ!! カンガルー雷神拳カンっ!!」
 ブルーセリスとカンガルーもどるがそれぞれの技をかわしながら撃ち合う。

「紅蓮の説得フルコース!!」
「聞こえないカラ聞こえないカラ聞こえないカラ聞こえないカラ……」
 カラス忍はレッド健やかの攻撃を必死で防いでいた。

「ピンクカバンバスターっ!!」
「カニの拳カニぃぃぃぃっ!!」
 ピンクマナとカニ梓は真正面から力と力で激突する。

「黒瞳電撃木風百烈拳!!」
「あぶないカバっ!!」
 ブラック宗一の連打を、体を変化させて悉くかわすカバ幻八。

「黄檗言霊乱舞!!」
「光学迷彩カメカメ……」
 イエロー静の攻撃を、カメレオン昂希は光学迷彩でうまくかわす。

 そしてしばらく、手に汗握る団体戦が続いていった。


 放送席。
「いかがでしょう? 戦隊ものという、ある意味完成されたジャンルを
選択してきたここまでの様子について、緒方先生から」
「いいんじゃない? ひさびさに心底笑わせてもらってるしさぁ。わははは」
「足立教頭はいかがでしょう?」
「梓ちゃん……恥ずかしいだろうに……ほろほろ」
「はい、ありがとうございました……おや、動きがあるようです!」



 戦いは、佳境を迎えていた。
 それぞれが両脇の崖の上(いつの間にかセットされていた)に陣取って、
同時に全員がまばゆい光を放ったのだ。
 そして、再度中央に対峙する。
 ただし、双方巨大ロボットや巨大怪人として。
「五身合体巨人チアリード・参上!!」
「巨大応援怪人カカカカカ・見参!!」
 見上げんばかりにそびえる彼らが、真正面から激突する。
「究極奥義・雷獣クリスタルシュート!!」
「必殺!! 龍極冥王拳!!」
 そして……大気をも揺るがす衝撃と共に、全ては光の中に消え去った。



「…………(ぽて)」
 クライマックスの巨大バトルを全て幻影として創り出していた芹香が、
人知れず疲れてしりもちをついていた。



 放送席。
「さて、これにて応援合戦は終了ですが」
「そうだね。僕としてはこれ結構好きだったけどなぁ」
「いやはや、なかなか迫力がありましたねぇ」
「……さて、それでは審査員の皆様、採点をお願いします!!」


澤倉美咲 9点
Dマルチ 10点
フランク長瀬 10点
Rune 2点
柳川祐也 8点
ハイドラント 2点
相田響子 9点
藤井冬弥 10点
久々野彰 10点
追加点 10点


「合計80点です!!」
 ティーがそう言うと、ひときわ大きな喚声が辺りを包んだ。
「最高得点です!! さすがは三年生! 貫禄の勝利と言ったところか!?
1・2年の得点担当の露骨な妨害点もなんのその! 堂々の80点です!」

 こうして、全ての応援パフォーマンスが終了した。

「みなさん、お疲れさまでした。いかがだったでしょうか、この応援合戦。
それぞれの学年が、チームワークを組んで各々の思いのたけをぶつける。
そのことで、どれほど多くの収穫があるでしょうか。
 午後からの競技も、なお一層激しい勝負になるでしょう。
 それではみなさん、頑張って優勝を目指してください!!
 お相手はT-star-reverseでしたっ!!」




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T-star-reverseです。
ようやっと応援合戦、終了しました。

結構大差が付いちゃいましたね。
でも、3年生は人数が少ないから他で稼ぎにくいはず……。

……まあ、これ以前の試合の得点を数えてないのが悪いんですけど(笑)

それではお待たせしました!
次の方、よろしくお願いしますっ!!