Lメモ・部活編8「戦慄のゲーム」 投稿者:T-star-reverse

 ティーことT-star-reverseにはひとつの趣味があった。
 囲碁をはじめとする、対戦型ボードゲームがそれである。
 その趣味のためにボードゲーム部に入ったはいいものの、将棋はともかく
囲碁ができる人物などそうおらず、たまに来る足立教頭と一局打つくらいで、
その他の日はたまに出ても、チェスやオセロ、モノポリーなどに興じていた。
 はっきり言って、足立教頭との囲碁、久々野彰とのチェスを除けば、
この類のゲームでティーに勝てる相手など全くと言っていいほど居なかった。
 が、しかし。
 その日、ティーはこの部における、最大の雄敵に出会った。


Lメモ・部活編8「戦慄のゲーム」


「はふ……」
 ティーは、ボードゲーム部の部室にいて、一人天井を眺めつつ座っていた。
 純粋な楽しみのために週に一度は欠かさず出ている部活ではあったが、
どういう訳か今日に限って、誰一人として部員が居なかったのだ。
「暇ですねぇ……」
 詰め将棋や詰め碁の問題をいくつか作ったりして時間を潰していたが、
全く人の来る気配はない。
 さて、いよいよ帰ろうか、とティーが思ったその時。

 ガラガラッ!!

「さーて、久々久々!! 今日はとことん打つわよっ!!」
「ルミラ様、明日のアルバイトが遅番だからって、あまり羽目を外すのは」
「いーじゃないのよ。ルミラ様だってたまにはパーッとやんなきゃさ」
 人の気配が全くしなかったはずの廊下から、ドアを開けてがやがやと数人が
部屋の中に入ってきた。
 全部で6人……いや7人か。
 ティーは冷静にそう確認すると、先手を取ってすぐさま挨拶を飛ばした。
「こんにちは」
「あら」 
 が、返ってきたのは驚いたような声と、怪訝そうな瞳だけであった。
 先頭になって入ってきた女性……ルミラ様とか呼ばれていた……が、
まじまじとティーの顔を見つめる。
 そして、何かを思い出そうとする仕種を見せてから、何か思いだしたように
ぽん、と手を打った。
「あなた、新しくボードゲーム部に入った人?」
「そうですけど」
 ティーが答えると、ルミラ様と呼ばれた女性がうんうんと頷いた。
「どうりで。いくら顔を見ても誰だったか思い出せないから、一瞬、
どうしようか悩んじゃったじゃないの」
「……にゃ、にゃにゃにゃ」
 後ろにいた、猫手に猫耳、猫のシッポを生やした女の子が、猫語で話す。
「ん? エビル、たま今なんて言ったんだ?」
「『普通、考えなくても解るんじゃないかにゃあ』」
「……うっさいわよ」
 ジト目で睨んで黙らせると、その女性が軽く優雅な仕草で一礼した。
「ルミラ=ド=デュラルと申します。以後よろしく」
「よろしく。T-star-reverseです。ティーでいいですから」
 ティーも、帽子を取って立ち上がり、一礼する。
 すると、ルミラはにこりと微笑み、他の人たちを促す。
「ほらほら、あんたらもとっとと挨拶しなさい」


 まず前に出てきたのは、黒光りする騎士鎧を着込んだ人物だった。
「はじめましてぇ。こういう者ですぅ」
 可愛い声でそう言いながら名刺を差し出す。ティーがそれを受け取ると、
兜を脱いでぺこりと一礼した。紫色の髪がふわりと飛び出す。
「雀鬼組一番突撃娘アレイ……」
「はい。よろしくお願いしまぁす」

 次に出てきたのは、金髪でラフな格好をした女性だった。
「メイフィア・ピクチャーよん。お兄さん、今後色々よろしくね」
「ん……はい、よろしくお願いします」
 軽く握手をする。
 そして、メイフィアはにこりと笑みを浮かべた。

 そして、次に先程の猫娘が出てきた。
「にゃ、にゃーにゃーにゃー。にゃあ。にゃにゃあ」
「……すいませんが、何を言ってるのか解りません……」
 ティーが困っていると、もう一人後ろから前に出てきた。
「『たまっていうにゃ、よろしくにゃ』です」
 赤……というか緋色をした髪の女の子である。
 左手に人形を持っていた。
「あ、どうも。……えっと……」
「エビル。よろしく」
「にゃ」
「うん。よろしく」
 たまともども一緒にお辞儀するエビル。
 そして、左手の人形をティーに向けて突き出す。
 すると突然、その人形がぺこっと礼をした。
「フランソワーズと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしく」
 ティーが挨拶を返すと、彼女は少しだけ恨めしい目をしてこう言った。
「……驚かないんですね」
「……まあ、長生きしてるから……」

 と、そのエビルの横に並んで片手を上げて挨拶してきた一人の男の子。
 帽子を前後逆にして、浅くかぶっている。
「イビルだ。よろしくなっ!」
「よろしく」
 おもむろに、ルミラが口を挟む。
「イビルとエビルは姉妹みたいなもんね。ホントは違うんだけど」
「……へぇ」
 ティーは、心の中でルミラに感謝した。
 一見男の子に見えるイビルは、実は女の子らしい。
 ルミラもその辺を知らせるために口を挟んだのだろう。
 当のイビルはそんなことに気づく様子もないが。


「……さて、それじゃ始めましょうか?」
 ルミラが、一同に向けて声をかける。
「……? 何をするんです?」
 ティーがそう尋ねると、ルミラはびっ、と部屋隅のこたつを指さした。
「無論! 麻雀よ!」
「麻雀……ですか」
 そういえば、とティーは思いつく。
 部員の誰一人として、麻雀をしようとする者はいなかった。
 ティーがたまには……と誘っても、みんな逃げるように断るのだ。
 その割には結構傷んでるなと思っていたら、彼女たちが麻雀していたのだ。
 でも、どうして部員は麻雀をしようともしなかったのか……
「ティーさん、あなたもやる?」
「いいんですか?」
「もちろん! 大勢でやる方が楽しいですからね」
「それじゃ……仲間に入れてもらいましょうか」

 そう言うわけでここに、壮絶な麻雀勝負の幕が開けたのだった。



※注意!
 ここから先、麻雀を知らない人には解らない表現がたびたび出てきます。
 解らない用語があれば、知っている人に聞くなりしてください。 



 まず卓についたのはティー、アレイ、イビル、メイフィア。
 ルミラが、確認を取るように説明を始めた。
「ルールは簡単。持ち点10000から始めて、0になったら席を抜ける。
抜けたところから順に新しい人が入っていって、最後まで残った人が勝ちよ。
前回やった時に下位だった三人と、今回初めてのティーくんが初期メンバー。
あとは順に、たま、フランソワーズ、エビル、わたしと入っていくから」

 東一局。

 起家はメイフィア。それからアレイ、ティー、イビルの順。
 ドラは五萬。
 序盤から字牌が捨てられ、早上がりはなさそうな気配。
 八巡目にティーが立直。
 次いで九巡目にイビルが立直する。
(イビル「させるかよっ!!」)

 この時点での配牌は……

メイフィア
 一二五六七三三七八一四六七
 萬萬萬萬萬索索索索筒筒筒筒

アレイ
 七七八八四五五六六七九一二
 萬萬萬萬索索索索索索索筒筒

ティー(四筒七筒待ち)
 二三四四五六四五五六六八八
 萬萬萬萬萬萬筒筒筒筒筒筒筒

イビル(八筒待ち)
 六七八九九一一一二三四七九
 萬萬萬萬萬索索索筒筒筒筒筒

 メイフィア、アレイ共に放銃せず、ティーの第10ツモ。
「あ、ツモ……和了りです」
 引いた牌は四筒。
「立直、門前清自模、タンヤオ、平和、一盃口、ドラ1……」
「あぁっ! てめーか八筒しまい込んでやがったの!」
「……それに、八筒の裏ドラ2……」
「うぅっ」
 言ってるそばから裏ドラがついた待ち牌を恨めしそうに見るイビル。
「八翻で……倍満貫ですか」

 現在の得点……
 メイフィア 2000
 アレイ   6000
 ティー  27000
 イビル   5000


 東二局。

 起家はアレイ。それからティー、イビル、メイフィアの順。
 ドラは白。
 早いうちからメイフィアが鳴く。
 先程、親で痛い和了を喰らったので取り戻さなければいけないのだ。
 一巡目、メイフィアが北をポン。
 三巡目、メイフィアが六筒をポン。
(イビル「鳴くの早すぎだろ、それ」)
 四巡目、イビルが發をポン。
(アレイ「イビル人のこと言えないじゃないですかぁ」)
 六巡目、メイフィアが一索をポン。
 七巡目、メイフィアが白をポン。
(メイフィア「さあさあ振ってちょうだい!」)
 ここで単騎待ちになったメイフィア。
 跳満貫確定聴牌のため、アレイが恐る恐る打牌する。
「あ、それロン」
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「安全牌はなかったんですか?」
「現物一枚もなかったんですぅぅぅぅ!!」

 アレイ、東二局、メイフィアの跳満貫でハコテン。リタイヤ。

 アレイの場所にたまが入る。

 現在の得点……
 メイフィア 8000
 たま   10000
 ティー  27000
 イビル   5000


 東三局。

 起家はティー。それからイビル、メイフィア、たまの順。
 ドラは三索。
 今度は、替わったばかりのたまが鳴く。
 三巡目、たまが五萬をチー。
 四巡目、たまが九萬をポン。
(イビル「今度はおめーか」)
 七巡目、たまが二萬をチー。
 誰がどう見ても萬子の清一色、もしくは混一色である。
 が、特に気にした様子もなくティーが八萬、イビルが四萬を打牌する。
「にゃ!」
 イビルの四萬をポンすると、たまは四索を打牌した。
「それロンです」
「……にゃ?」
 そこで突然ティーが和了った。
「平和、タンヤオ、三色同順、ドラ1です。満貫ですね」
「……どーして立直しないのよティーくん」
「にゃぁぁぁぁ」
 メイフィアのツッコミをよそに、たまがばたりと倒れ伏した。

 たま、東三局、ティーの親の満貫で一撃必殺。リタイヤ。

 たまの場所にフランソワーズが入る。

 現在の得点……
 メイフィア   8000
 フランソワーズ 10000
 ティー     37000
 イビル     5000


 東三局。

 起家は続けてティー。それから順にイビル、メイフィア、フランソワーズ。
 ドラは一筒。
 突然イビルが立直し、ダブル立直を確定させる。
 一巡目、イビルの立直。
 一巡目、フランソワーズが北をポン。
(フランソワーズ「一発は止めさせてもらいます」)
 四巡目、ティーが中をポン。
 十一巡目、ティーが九筒をポン。
(イビル「一盃口、三色同順と来て今度はチャンタか?」)

 この時点での配牌は……

ティー
 九九一一九九一 九九九中中中
 萬萬索索索索筒 筒筒筒

イビル(四筒七筒待ち)
 二三四五六七五六七八九東東
 萬萬萬索索索筒筒筒筒筒

メイフィア
 五五六六八四五六七一一二三
 萬萬萬萬萬索索索索筒筒筒筒

フランソワーズ
 二二三三三八八五七八 北北北
 索索索索索索索筒筒筒


 メイフィアもフランソワーズも特に大事なく打牌。ティーも九索を引いて
混老頭を聴牌にする。一筒を打牌。
 そして次のイビルのツモ。
「おしっ! 上がりだっ!」
 引いた牌は七筒。
「ダブル立直、門前清自模、平和……裏ドラ一つ! 満貫だぁっ!」
「……惜しかったわねぇイビル。もう少しで地和だったのに」

 現在の得点……
 メイフィア   6000
 フランソワーズ 8000
 ティー     33000
 イビル     13000


 東四局。

 起家はイビル。それからメイフィア、フランソワーズ、ティーの順。
 ドラは七萬。
 今回は、一巡目に誰一人として字牌を出さないという状況。
 四巡目、ティーが白を暗槓。槓ドラは二筒。
 六巡目、メイフィアが北を暗槓。槓ドラは九萬。
(ティー「槓、二つ目ですか……」)
 七巡目、イビルが東をポン。
 八巡目、ティーが發を暗槓。槓ドラは西。
(イビル「だ、大三元かよおい?」)
 九巡目、イビルが二筒をポン。
(メイフィア「それにしても鳴きが多いわねぇ」)
 十巡目、フランソワーズが立直。
 十巡目、ティーが立直。
(ティー「追っかけですよ〜」)
 十一巡目、メイフィアが南をポン。
(イビル「誰か4つ目の槓してくんねーか?」)

 この時点での配牌は……。

イビル
 一四五六七九九 二二二東東東
 筒筒筒筒筒筒筒 筒筒筒

メイフィア
 五五六六八二四 南南南北北北北
 萬萬萬萬萬索索 

フランソワーズ(中待ち)
 一二三四五六七八九西西西中
 索索索索索索索索索

ティー(中待ち)
 七七七七八九中 白白白白發發發發
 萬萬萬萬萬萬


 はっきり言って、誰が上がっても高い手になりそうなとんでもない状況だ。
「きませんね」
「……まあ、みんな警戒してるし」
 フランソワーズ、ティー共に上がれず打牌。
「通れ! 通れっ!!」
 イビルは九筒切りでメイフィアの手番。
 来たのは中。
「……やばいわよね。これ」
 とりあえず保留し、八萬を切る。
 そして、フランソワーズ、ティーがツモ切り。イビルが一筒を切る。
 再びメイフィアの手番。
 引いた牌は……三索。
「う゛っ……(聴牌った……どうしよ……降りるかな……って、
現物一つもないじゃない……ツモられてもあれだし……よーし!)」
 ……そして、メイフィアは中を捨てた。
「当たりです」
「それです!」
「ロンだあっ!」
 三人同時にロンの声を上げる。全員が中の単騎待ちであった。
「嘘でしょおおおおおぉぉっ!?」
「立直、混一色、一気通貫、役牌1、ドラ3、裏ドラ1。三倍満です」
「立直、混一色、小三元、三暗刻、役牌2、ドラ5……数え役満ですねぇ」
「混一色、役牌2、ドラ3! 親の跳ね満だぁっ!」
「きゃあああああああっ!」

 メイフィア、東四局、スリーランで華々しく轟沈。リタイヤ。

 メイフィアの場所にエビルが入る。

 現在の得点……
 エビル     10000
 フランソワーズ 10000
 ティー     35000
 イビル     15000


 東四局。

 起家は続けてイビル。それからエビル、フランソワーズ、ティーの順。
 ドラは六索。
 今回は、展開というものは特になかった。
 三巡目。
「あ、ツモです……門前清自模、七対子、ドラ2……で満貫」
 おもむろにエビルが和了った。
「てめー、早過ぎるぞー!!」
 イビルが叫んだ。

 現在の得点……
 エビル     18000
 フランソワーズ 8000
 ティー     33000
 イビル     11000


 南一局。

 起家はエビル。それからフランソワーズ、ティー、イビルの順。
 ドラは一萬。
 普通と言えばごく普通の展開。
 四巡目、フランソワーズが南をポン。
(イビル「役牌二つ確定かよ」)
 六巡目、フランソワーズが南を加槓。裏ドラは三筒。
 七巡目、イビルが立直。
 八巡目、ティーが立直。
(イビル「追っかけて来んじゃねぇよっ!」)
 十巡目、エビルが立直。
(フランソワーズ「さてどうしましょう……」) 

 そしてそのすぐ後。フランソワーズの打牌。
「……どうでしょう?」
 その問いは、答えがないことを期待して出されたものであった。
 だが、しかし。
「ロンだっ!」
「当たり……」
 イビルとエビルの二人が同時に手を開く。
「立直、タンヤオ、三暗刻、裏ドラ3!」
「立直、一発、平和、三色同順、ドラ1、裏ドラ1です」
「……あ、止めといて正解……」
「負けてしまいましたね」

 フランソワーズ、南一局、イビルとエビルの跳ね満ダブルでリタイヤ。

 フランソワーズの場所にルミラが入る。


 現在の得点……
 エビル 22500
 ルミラ 10000
 ティー 32000
 イビル 15500


「いやー、なかなかやるじゃない」
 そう言って微笑みながら席につくルミラ。
「ここまで残った人、ここの部員じゃ一人も居なかったのよ」
「……あ、それじゃ、この部で麻雀をやろうとする人が居なかったのは……」
「嫌になったんじゃないかしら。圧倒的に負けて」
 そこで、すっ、と指先をティーに向けるルミラ。 
「でも、あなたもついてないわよ。今残ってるのが私達の最強メンバーなの」
「前回は調子悪かったからなー」
「自分勝手に打てば振り込むのは当然」
 ぽりぽりと頭を掻くイビルと、冷たい目をして言うエビル。
 そして、ルミラの言葉が続いた。
「今はあなたがトップみたいだけど……すぐに楽にしてあげるわ!」 
「そう簡単にはいきませんよ」
 そう言うティーの顔は、実に楽しげだった。


 南一局。

 起家は続けてエビル。それからルミラ、ティー、イビルの順。
 ドラは發。
 再度淡々と鳴きもなく進行する。
 そして、十二巡目。
「リーチだぁっ!!」
 ばしん、と勢いよく千点棒を場に叩きつけるイビル。
 だが。
「あらあら……イビルが振っちゃったわ」
「いっ!?」
「四暗刻単騎。役満ね」
 そう言って、ぱたぱたと手牌をオープンにするルミラ。
「ははぁ、恐いですねぇ」
「ご愁傷様……」
 ティーとエビルの言葉を聞き流しつつ、くすくすと笑うルミラ。
 一方、イビルは自分の捨てた牌を見つめてただ呆然としていた。

 イビル、南一局、ルミラの四暗刻で即死。リタイヤ。


 現在の得点……
 エビル 22500
 ルミラ 25500
 ティー 33000


「あれ? 三人になっちゃいましたけど」
「あ、いーのいーの。この麻雀、最後の一人が残るまで続くから」


 南二局。

 起家はルミラ。それからティー、エビルの順。
 ドラは南。
 今回は、先程と違って早いうちに動きがあった。
 二巡目、ティーが立直。
(ルミラ「あらあら、ついてるわねぇ」)
 三巡目、ルミラが立直。
(エビル「……ルミラ様……」)

 が、しばらく当たりはない。
 だが、六巡目。
「カンです」
 エビルが南を暗槓する。
 その瞬間。
「あ、それ当たり」
 唐突にルミラが言い放った。
 端からぱたぱたとルミラの手が開かれていく。
「国士無双ね。今度はエビルが当たっちゃったわねぇ」
「…………」
 無言で後ろにひっくり返るエビルだった。

 エビル、南二局、ルミラの国士無双で滅殺。リタイヤ。


 現在の得点……
 ルミラ 49000
 ティー 31000


「さて……運が良かったわね、ここまで残ったのは貴方が初めてよ」
「運が良かったも何も……私は何もしてないんですけど」
「勝負は勝負よ。イビルもエビルも弱かったから負けたのよん」
 くすくすと小悪魔的な笑みを浮かべ、ルミラが笑う。
 ティーは、ふと思いついたことを聞いてみた。
「よく笑う人ですね……面白いですか?」
「そりゃあもう! 麻雀やってるときが一番楽しいわ!」
 心の底から、という表現が生易しく感じられるほど幸せそうな表情で
ルミラが言う。それを見てティーがしみじみと言う。
「……普段、よほど苦労されてるようですね」
「……わかる?」
 一瞬にして表情を陰らせるルミラ。
 が、再度活き活きとした表情に戻って牌を混ぜ始める。
「それはともかく……勝負よ! せっかくこんだけの強敵に会えたんだし!」
「望むところです! こちらも負けませんよ!」



 ……そして。

 勝負の決着が付いたのは、一対一で延々二時間打ち続けた後であった。



「いやー、久々に堪能させてもらったわ」
「それはどういたしまして」
 苦笑しつつティー。
 結局、最後はルミラの天和・九連宝燈という凶悪な手の前に敗れはしたが、
ルミラの役満攻勢に対して倍満貫、三倍満貫、数え役満などで粘れたために
さほど悔しさも感じなかった。
「あんた、ルミラ様と張り合えるって事は凄いことなんだぞ」
 イビルが疲れ切った顔でティーに言う。
「二時間ぶっ通しで打ってて、なんでそんなピンピンしてられるワケ?」
 メイフィアもうんざりした顔でそう言う。
「文句を言うなら見なければよかったでしょう」
「そうですね」
 と、これは平然としているエビルとフランソワーズ。
 アレイとたまは早いうちに寝ていた。

「とりあえず、またいつかお相手願いたいものね。いつかは判らないけど」
 ルミラがそう言って、片手をティーに差し出してきた。
 ティーがその手を軽く握り返すと、ふふっ、とルミラが笑みを浮かべた。 
「一つ、忠告してもいいかしら?」
「なんです?」
「今回はやらなかったけど……」
 そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべるルミラ。
「ほんとはこの麻雀、脱衣でやるのよ。女の子の裸を見たら失神する癖、
どーにかしなきゃ、次からは私に勝てないわよ?」
「!!」
 ぎくっとして全身を強ばらせるティー。
「なんで……」
「あはは、まあ安心して。やっぱりあなたがいるときは脱衣やんないから」
「いや、私が聞きたいのはそうじゃなくて……」
「いいじゃないの。女には秘密が多いのよ」
 そう言って手を離し、フランソワーズを持って部屋を出ていくルミラ。
 イビル、エビル、メイフィアに目を覚ましたたまとアレイがそれに続く。
「それじゃ、またね! 麻雀の強いT-star-reverseくん!」
 そして、扉は閉められた。



 そして、一人部室に残されたティーは。
「……なるほど、部員が麻雀やりたくない理由……」
 頷いて、頭痛を我慢するように眉間を抑える。
「みんな、脱がされたわけですか……」
 はぁ、とため息をついて、ティーも部室を出ていく。


 外にはいつの間にか、夜の帳が落ちていた。



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T「部活編第8話、ボードゲーム部編です! 今回のゲストは……」
ル「ハァイ! 麻雀の女王、魔界の貴族ルミラさんよ」
T「今回は、Lメモ初の麻雀SSでしたが」
ル「Lメモ初……っていうか、SS初じゃないの?」
T「セブンブリッジのSSなら以前どこかで見ましたけど……」
ル「それはともかく……あなた、なかなか麻雀強いじゃない」
T「まぁ、ゲームは一通り得意ですから……」
ル「でも、やっぱり私が一番強いワケね」
T「それはもう。あなたがいちばんですけど……」
ル「『けど』? なに?」
T「雀荘で稼いだ方がよっぽど儲かるんじゃ……」
ル「……悪かったわね。お金がかかると弱いのよ」
T「なるほど……」
ル「それに、賭け麻雀って法に引っかかるじゃない?」
T「ごもっとも。さて、それではそろそろお時間です!」
ル「次回も、お楽しみにねっ!」
T「あ……久々に油断してたら言われてしまった……」