Lメモ・部活編9「狙うモノ狙われるモノ」 投稿者:T-star-reverse
「『のれんに腕押し』ネ!」
 たんっ!
「『敗残の将は兵を語らず』っと」
 たんっ!
「『火のないところに煙は立たぬ』ダヨ!」
 たんっ!
「『夫婦喧嘩は犬も食わない』とか」
 たんっ!

 怪しげな会話が繰り広げられているが、別にここはことわざ部ではない。
 弓道部での限定的恒例となっていることわざ弓道合戦であった。


Lメモ・部活編9「狙うモノ狙われるモノ」


 勝負しているのはティーことT-star-reverseと宮内レミィだ。

「『下手の考え休むに似たり』ネ!」
 たんっ!
 ことわざを言うと同時に弓が弦から放たれ、的に突き刺さる。
「『仏の顔も三度まで』です」
 たんっ!
 今日は、アイウエオ順にことわざを言い合っているらしい。
「『待てば海路の日和あり』ヨ!」
 たんっ!
「『御簾を隔てて高座を覗く』」
 たんっ!
「What? ナニソレ?」
 思わず手を止めて意味を聞くレミィ。
「意味的には『隔靴掻痒』と同じ意味です」
 それに対して四字熟語で答えるティー。
「カッカソウヨウ……う〜ん……わからないネ」
「『なかなか上手く行かずに、もどかしいこと』です」
「OK……わかったヨ」
 頷いて、傍らの空穂から矢を引き抜き、一気に弦を引き絞る。
「『無理が通れば……』……アレ?」
 その状態で、ことわざの続きが出ずに一瞬考え込むレミィ。
 だが、すぐに続きを思い出し、瞳を的に向ける。
「『道理が引っ込む』ネ!」
 ぱすっ!
 だが、引き絞られてから一瞬放たれるのを躊躇された矢は、わずかに
的をそれて、矢俵に突き刺さる。
 思わず弓手を眉間に当てて「しまった」という表情をするレミィ。
「『目の上のたんこぶ』……というわけで」
 たんっ!
 ティーが放った矢は、狙いあまたず的の中央を打ち抜いた。



「また負けたネ……ティー、ことわざvery知ってるよネ」
 肩をがっくりと落としながら、レミィが弓を立てかける。
「まあ、こーいうのは好きですから」
 ティーも弓を片づけながら答えた。
 だがこの勝負、実はレミィの方が勝ち数が多いのである。
 現在、ティーの7勝11敗5分。
 何故かというと、最初のうちはティーがことわざでいくら制したとしても、
弓の腕でレミィが大幅に上回っていたためである。
 現在では弓にも慣れたティーが、落ち着いて的を射ている間に、
ことわざが浮かばず焦ったレミィのミスでティーが勝利することが多かった。
「……ところで宮内さん、ちょっと聞いても良いですか?」
「ナニ?」
「宮内さんが弓道を始めた理由ってなんなんですか?」

 ……沈黙。

「Sorry。わかんないヨ」
 少しだけ困ったような顔をして、レミィがそう言った。
「そうネ……huntingしたいならrifle使えるトコがgood、
ニホンの文化を勉強するならbetterなトコロがあるヨ……」
 腕を組み、うーん、と首を傾げるレミィ。
 ポニーテールがぱさりと揺れた。
 だが、そんな表情をしたのも一瞬のこと。
 ぽん、と手を打って一人納得する。
「両方ネ」
「なるほど」
 苦笑しつつも納得するティー。
 と、横合いからおもむろに声がかけられる。
「弓の技は大和撫子として嗜んでおかねばならないと私は思いますけど」
 ティーとレミィがそちらを見ると、そこには、弓道着に身を包んだ
小柄な女の子が立っていた。
「Hay! 沙耶香、Nice to meet you」
「あ、沙耶香さんこんにちわ、今日は来てたんですか」
 沙耶香と呼ばれたその女の子は、ゆっくりとお辞儀をした。
「レミィさんティーさんこんにちわ。ご無沙汰しております」
 そして改めて姿勢を正すと、軽く会釈をして的に向き直る。
 十二束三伏の矢を重籐弓につがえ、切斑の矢羽を摘んで弦を引き絞る。
 槇葉鏃の先が一瞬照明に煌めいた次の瞬間。

 たぁん!

 矢は一筋の閃光となって風を切りつつ、的に突き刺さった。
 中央からは僅かにそれている。

「……私にはまだまだ修練が足りないようですね」
 沙耶香はそう言うが、実はその弓の実力はレミィとほぼ同等である。
 強いて難を言えば、今のようにつがえてから射つまでの間隔が短い場合に
命中率が若干落ちてしまうことだろうか。
「『ローマは一日にして成らず』『継続は力なり』と言いますからね。
たとえ結果がすぐに現れなくとも、続けることが大切ですよ」
「はい、それは重々承知しております」
 ティーの言葉に頷く沙耶香。呆気にとられるレミィ。
「またことわざネ……一体、いくつ知ってるノ?」
「それは秘密です」
 くすりと笑いつつ、ティーは片目を閉じてにこりと笑みを浮かべた。


「あれ?」
 沙耶香が突然、何かに気づいたように声を上げた。
「どうしました?」
「あの……あれ……」
 沙耶香が指さす先にあったのは、ふよふよと宙に舞うキャベツが一玉。
 3人からの距離は50メートルほどだろうか。
 時折風に揺れる他は、一カ所に留まっていて動かなかった。
「キャベツ?」
「……今、高いらしいですね」
「なら、あれをgetして今晩のおかずにするネ!」
 そう言うとレミィは、矢を弓につがえて狙いを付けた。
 そして間を置かずに獲物であるキャベツに向けて矢を放った。

 しゅんっ!!

 風を切る音が響きわたる。
 が、おしくも矢はキャベツを逸れて地面に突き刺さった。
「惜しい!」
「それでは、次は私が」
 沙耶香もゆっくりと弓に矢をつがえ、じっくりと狙いを定める。
 その間にレミィが二射目を放つが、これは大きく目標を外れた。
 そして、沙耶香の一射目とレミィの三射目が同時に弓を離れる。

 しゅんっ!!
 ひゅんっ!!

 風を切るように進むレミィの矢と、風に乗るように進む沙耶香の矢。
 それが同時に、狙い通りキャベツに突き刺さろうとした瞬間。

 かりかりかりかりかりかり……

 そんな音がしたかと思うと、元々浮いていたキャベツが更に浮き上がった。
 当然、二本の矢は何もない空間を通り過ぎる。
「Shit!」
「まさかっ!」
 同時に声を上げるレミィと沙耶香。
 キャベツは、低い位置にあった雲の中に隠れて見えなくなる。
 それから間をおかず、今度はレタスが雲の中から降ってきた。
 そして先程のキャベツと同じように、一定の高さに滞空する。
「……」
「……」
「……」
 無言でそれを見つめる三人。
「なんか私、あの野菜が一体なんなのかわかったような気がするんですけど」
「……奇遇ですねティーさん。私もたった今そんな気がしました」
 ティーと沙耶香がそう言い合う。
 ところが、レミィの様子だけが違っていた。
「……そうネ、そう言うことネ」
 そう言って、弓に再び矢をつがえながら駆け出した。
「あの野菜はmeにhuntされるためのtargetと言うことネ!!」
 違います。
 ティーと沙耶香がそう言う間もなく、レミィはあっと言う間にどこか遠くへ
走り去ってしまった。
 しかも、浮いている野菜とは反対方向に。

「宮内さん、行っちゃいましたね……」
 ティーが言うと、沙耶香はふうと溜め息をつき、ゆっくりと弓を構えた。
 狙いは野菜ではなく、その上。
 不自然なまでに低い位置にある雲の中である。

 ひゅん!

 矢は高々と舞い上がり、地上約20メートルほどに浮いている雲へと
吸い込まれるように潜っていった。
 そしてそれとほぼ同時に、その雲からばちばちと電光が光る。
 雲がゆっくりと降下する。
 それにつれて、雲の上に誰かがいるのが見えてきた。
 手には釣り竿を持っている。
「――すいません、釣りをしていたのですがお邪魔だったでしょうか?」
 その人物は沙耶香に向けて、怒るでもなくそう謝った。
 耳の部分には白いセンサーがついている。
 その人物はプロトセリオであった。


 セリオを乗せた雲はティーと沙耶香の前に落ちると、ぷしゅうという
音を立てつつ白煙を吹き出してその機能を停止した。
 セリオの周囲には各種野菜が並べてある。
 そして、釣り上げた獲物を保存する為のものであると容易に推測できる程の
巨大なクーラーボックスがその背後に鎮座していた。
「……セリオさん」
 ティーが聞く。
「――はい、なんでしょうか」
「釣りって、こんな水もないところでですか?」
「――たまにはこういうのもいいかと思いまして」
「……釣れますか?」
 まさか釣れないだろう、と思ってそう聞いたティーだったが、セリオは
こともなげにその予想とは反する答えを返した。
「――はい、一応釣りは得意ですから」
 そう言ってクーラーボックスを開く。

「――まず、こんな方が釣れました」
 まず転がってきたのは、氷漬けになった佐藤昌斗であった。
 手にはしっかりと大根を握っている。
「――それから程なく、この方が引っかかりました」
 次に、同じく氷漬けの雛山理緒が転がり出てくる。
 彼女はセロリに食いついていた。
「――なぜかこの方も」
 さらに氷漬けのbeakerが出てくる。
 両手でタマネギを掴んだままのポーズである。

 呆然とする沙耶香とティーを後目に、セリオは次々と戦果を説明する。
 天才釣り師・セリオ。
 二人の頭の中に、そう言う称号が浮かび上がってくるのであった。



「Freeze! みんなmeの獲物ネ!!」
 ざしゅざしゅざしゅ。
 二人が我に返ったのは、そんなレミィの声と共に聞こえてきた、
矢があちこちに突き刺さる音によってであった。
 そちらを見てみれば、巨大な籠を背負ったレミィが、獲物を求めて
あちらこちらへと走り回っていた。
 籠からは誰のだかは知らないが、足が数本突きだしている。
 標的となった不運な生徒を射抜いては背負った籠に放り込む。
 その体からはなにやら金色のオーラが見て取れるような気がした。
「……とりあえず、帰っていいですか?」
「……彼女を止めてからにしてください」
「――わたしも、負けていられませんね」
「……セリオさんもやめてくださいって」



 結局、その騒ぎは日没まで続いたという。



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T「部活編第9話、弓道部編です。結構書きにくいもんですねぇ」
セ「――今回のゲストは、何故かこの私、HMX−13セリオと」
レ「レミィ・クリストファ・ヘレン・ミヤウチでお送りシマース!!」
T「とりあえずことわざ合戦は確定。元々はハンターモード無しにしよーか、
 と考えていたんですが、あまりに話題がなかったので採用しました」
セ「――何故弓道部でもない私が出ているのでしょう?」
T「友人が持ってた雑誌に、セリオのプロフィールが載っていて、
 好きなもの「特撮ヒーローもの」苦手なもの「泣きわめく子供」
 特技「釣り」と書いてあったので、丁度いいんで採用しました。
 ついでに、セリオが乗ってた雲は一応工作部製としておいてください」
レ「行き当たりばったりネ」
T「否定しません。沙耶香さんも魔法少女無しとか智波さんが出ないとか
 色々考えると「弓道を嗜む大和撫子」って感じだけになってしまって、
 弓道以外の特徴を出せなかったですし」
レ「いまいちノリが悪い作品ナノ?」
T「……反省してます」
セ「――さて、それではこのあとがきは、私、セリオと」
レ「いつもfunnyな宮内レミィ!」
T「他人が使ってるキャラって書きにくいなぁ……なT-star-reverseで
 お送りしました……ってなんでセリオがまとめるの?」
セ「――次回をお楽しみに」
T「人の話聞いてください……」