Lメモ・日常の切れ端:2「学ぶこと、それが生きること」 投稿者:T-star-reverse
「ひとつ、解らないことがあるんですが」
 彼女が唐突にそう言いだした。
「あたしにもあるよ、そういうの」
 それに呼応して、彼女もそう言いだした。
「あ、私も私も」
 三人の女性が顔を突き合わせてそれについて話し合う。
 程なく、各々の声が漏れる。
「それじゃあ、確かめてみましょうか」
「そーだね。それが一番てっとり早いか」
「なら、善は急げ、ね。早速行きましょ!」
「え? 私は急がば回れ、と聞きましたが」
「急ぐのは解るけど、回るって?」
「回るんじゃないかしら、こう、くるくるって」
 そんな話題盛り上がる彼女たち。
 最初に話題を切り出した、魔術師の少女、エリア・ノース。
 それを受けて話題を続けた、元盗賊の女性、サラ・フリート。
 そして今、くるくると回ってみている女勇者、ティリア・フレイ。
 今回は、そんな彼女たちの日常の一コマを見てみよう。


Lメモ・日常の切れ端:2「学ぶこと、それが生きること」


「それにしてもあんたたち、よくあんな小難しい言葉知ってるわね」
 彼女たち三人が揃って学園敷地を歩いている。
「うん。レミィに聞いたんだ。なんていったっけ……」
「ことわざ、っていうそうです。私はティーさんから伺いました」
「あ、そうそう。ことわざだ」
 談笑しながら第一の目的地へと向かう三人。
 先程話題に上がった3つの「解らないこと」の真相を確かめるためである。
 元々彼女たちは別の世界から来たため、こちらの世界の常識があまりない。
 いくらかマシになったものの、解らないことがあればこうやって、みんなで
確かめにいったりしているのである。
「あ、見えてきました」
 エリアがそう言って指さしたのは、初等科の子供達の遊び場であった。
 今は休日の昼過ぎ、すでにたくさんの子供達がそこで楽しんでいる。
「あそこに何があるってのさ?」
「とりあえず、ついてきてください」
 エリアが先に進むと、二人もその後についていく。
「あ、エリアおねーちゃん、こんにちわ!」
「はい、こんにちは」
「ねーねー、またおかあさんのやくやってよー」
「ごめんね。今日は忙しいの、また今度ね」
「はーい」
 回りにわらわらと寄ってくる子供達と会話をしつつ、エリアはゆっくりと
遊び場の奥に進んでいった。
 それを見ながら、残りの二人は驚きの表情を隠せない。
「エリア……あんた、よくここに来るの?」
「あ、はい。子供たちはみんな可愛いですから」
「ふーん。それは知らなかったわ」
 そして一行は、程なく目的地にたどり着いた。
「ここです」
 そこは、子供の遊び場ではあったが、他の場所とは一風変わっていた。
 ミニ・カート乗り場である。
 学園で行われたレースを見た子供達が「自分たちもやってみたい」と騒ぎ、
その要望で作られた、徹底的に安全性に重点を置いたカート場であるが、
経緯などについてはあまり知っている人はいない。
 実際、ティリアもサラもこんなものがあるとは知らなかったのだから。
「へー。こんなのができてたんだ」
「すごいもんだねぇ……ってティリア、あんたここ来たことあるの?」
「できてた、って言うってことは、できてないときに来たってことですよね」
「あっ……あ、あはは、実はあたしも時々ここに来てたんだ」
「ふふふふ」
 頭の後ろを掻きながら、照れ笑いをするティリア。
 子供と一緒に砂山で遊ぶティリアを想像したサラも笑っていた。
「そ、それで、ここがどうかしたの?」
「あ、はい。あれ……走っている車を見てください」
 エリアが指さした先には、一台のカートが走っていた。
 だが、ただ走っているだけで特に変わった様子はない。
「……特に変わった様子はないみたいだけど」
「二人とも、自動車は知ってますよね?」
「うん。ガソリンとかいう燃える水で動くあの鉄の塊よね」
「そうです。車が動くにはガソリンが必要なはずなんですけど、あの車からは
ガソリンが燃えるときに出る排気ガスが一切出ていないんです」
「あ! ホントだ」
「おいおい……ガスを車の中にためてたら健康に良くないぞ」
「違いますよ。あの車、ガソリンなしで動いてるんです」
「えぇ〜っ!?」
「じ、自動車ってガソリンで動くものなんだろ?」
「そのはずなんですけど……」
 エリアがそう言って困った顔をすると、ティリアがぽんと手を叩いた。
「そうだ! 人力なんじゃない? はるかの自転車みたいに」
「ああそうか、それならガソリンがなくても動くな。はるかの自転車なら
あの車より速いスピードちょくちょく出してるし」
 だが、エリアはふるふると首を振る。
「それも違います。私も乗ってみたんですけど、普通の車と同じように
ペダルを踏むだけで進みましたし、ちゃんとブレーキもついていました。
ですから、あの車の動力が『解らないこと』なんです」
「人力でもないのかぁ……」
「うーん……」
 三人がそう言って悩んでいると、不意にすぐそばから声がかけられた。
「あれ、ネーチャンたちどうしたんだ?」
「なにか困ったことでもあるの?」
「私達にできることならお手伝いしますが……」
 カートで遊んでいた子供たちが、彼女たち三人に気づいたのである。
 心配そうな顔で三人の顔を見上げている。
「あの車の動力源がなんなのかって、わからなくって悩んでたの」
 ティリアがそう言うと、子供達の中から一人の女の子が前に出た。
 マルチをロングヘアにして、そのまま小さくしたような外見の少女、
HM三姉妹の一人マールである。
「あ、それなら私が知ってます」
 その言葉に、三人は驚いた。
 エリアがマールの前にしゃがみ込んで、マールと目線を合わせる。
「それじゃあ、私たちに教えてくれるかな?」
「はい。あのカートの動力源は太陽電池です」
「太陽電池?」
「なんだそれ」
「太陽電池というのは、お日さまの光のエネルギーで電気をつくり出して、
それをたくわえるための物です」
「ふーん……そういうものがあったんだ……」
 感心するエリア。
 だが、サラがさらに質問をする。
「でも、車ってガソリンで動くものじゃないのか?」
「車にも色々ありますから……あのカートのように、電気で動くものも
あるんです」
「へぇ……そりゃ知らなかった」
「まだまだ知らないことってあるものねぇ」
 顔を見合わせるサラとティリア。
 エリアがゆっくり立ち上がり、マールに礼を言う。
「ありがとうマールちゃん。おかげで助かったわ」
「どういたしまして」
 にこりと微笑むマール。
 こうして子供達に別れを告げ、一行は次の目的地に向かうことにした。



「それにしても、不思議よねぇ」
「まあ、こっちの世界にもまだ色々あるってことだね」
「でも私……ティリアさんが子供好きだとは知りませんでした」
「そうよね、意外っていうか……」
「な、なによっ! いいじゃないの!」
「私は悪いとは言っていませんが……」
「照れない照れない……っと、あれ?」
 校舎の角を曲がったところで、サラは意外そうな声をあげた。
「どうしたんです?」
「いや……ないんだ。昨日の夜にそこにあったのに」
 サラが指さす先は、ただなにもない空間だった。
「昨日そこにあった、って……ひょっとして、XY−MENくんの屋台?」
 ティリアが思いついたようにサラに聞く。
「そうそう。昨日の帰りにたこ焼き買ったんだけどさ、あの屋台についてた
蛍光灯の色が、白じゃなかったんだよ、緑とか青とか……」
「ええっ? 蛍光灯って普通、白い明かりですよね?」
「うんうん。それ以外って見たことないし……第一、緑色の光なんていったい
どうやって作るっていうのよ」
「知らないわよ。でも実際見たんだからさ」
 三人は、しばし黙って考えを巡らすことにした。
 そして出た結論はというと。
「誰かに聞こう」
 という、至極単純、かつ確実な答えであった。
「で、誰に聞くの? 休日の学校になんてあまり人いないわよ」
「できれば、物知りな人がいいですね」
「お困りですか?」
 と、突然頭上から声がしたかと思うと、近くの木から人が飛び降りてきた。
 黒い帽子、片手に持った無装丁の本……ティーことT-star-reverseである。
「ティーさん……何でそんなところにいるんですか」
「私はどこにでもいますよ、ノースさん」
 エリアの疑問に、平然と答えるティー。
「まあ、木の上で寝ていたらあなた達の声で目が覚めたんですけど」
 そんなティーを見て、サラが丁度良い、とばかりに質問を投げかけた。
「んじゃ、話は聞いてた、と。緑とかの色の光って何?」
「えーと……たぶん、それは蛍光灯じゃなくてネオンだと思います」
 その答えに、三人は顔を見合わせる。
「ねおん?」
「なんか新しいもの?」
「それは『ネオ』ですサラさん」
 そんな三人の様子を見つつ、ティーはさらに言葉を続けた。
「詳しいことが知りたいなら、工作部へ行ってみたらどうです? たしか
菅生さんが部活に出てましたから、詳しく教えてもらえると思いますよ」
 それを聞いて、三人は顔を見合わせて頷く。
「サンキュ、ティー。今度また部活ででもねー」
「助かったよ。ありがとね」
「わざわざすみませんでした、ティーさん」
 そう礼を言って、工作部に向かう三人であった。
 ティリアとサラが教師として、エリアが3年の生徒として学園にいるため、
学園内の地理に関してはすでに全員が大体把握している。
 ほどなく、『工作部』と書かれた札のついた扉の前に辿り着く。
 コンコン……。
 エリアがドアをノックする音からきっかり2秒後、返事が返ってくる。
「はい、どうぞー」
 三人は、ドアを開いて部屋の中に足を踏み入れた。



「わっわっわっ、これ、なんかすごく早いんだけど!」
「なぁなぁ、これっていくらくらいするんだ?」
「……すいません」
「ああ、いいよいいよ。減るもんじゃないしね」
 作動中の機械を見て興奮するティリアと、ついついめぼしいものはないかと
捜してしまうサラ、それを謝るエリア。
 ティリアとサラの相手は、工作部の雑用係である、マルチのSD版といった
外見のちびまるが務めている。
「それで、今日は何の用だい?」
 工作部部長・菅生誠治が、普段と変わりない作業着姿で椅子に座っていた。
 エリアは、いまだ機械に興味を向けている二人を呼んで本題に入る。
「えぇっと……誠治さん、緑色とかの光の蛍光灯って解ります?」
「ティーは、『ねおん』って言ってたわね」
「昨日、XY−MENのたこ焼き屋台にあったやつ」
 それを聞いて、誠治はなるほど、といった顔をする。
 そして、どう説明しようかと考えを巡らせながらゆっくり口を開いた。
「そうですね。それは確かにネオンです。ここで作ったものですね」
「作ったんですか……」
「なら、どういうものだかも解る?」
 サラの問いにこくん、と頷く誠治。
「で、それがどういうものか、ね。ネオンと蛍光灯は、実を言うと同じような
構造をしたもので、違いは、蛍光灯の中にある気体だけなんだ」
「きたい?」
「きたいって?」
「空気のようなもののことです」
 エリアが二人に説明を終えたのを確認し、先を続ける。
「気体によって、明かりをつけたときの色が変わるんだよ。赤、青、緑……
大抵の色は作れるね。言ってみれば、花火と似たようなものだ」
「あっ、解ります。花火も化学反応を利用して色を出すんですよね?」
「そういうこと」
 エリアは納得したものの、ティリアとサラはまだよく解っていなかった。
「ごめん、よく分かんなかったんだけど」
「で、それでなんで緑になったりするのよ?」
 そこで誠治は、机の中からライターと針金をとりだし、サラに手渡した。
 サラは一瞬きょとんとしたが、ちらりと針金を見て頷いた。
「鍵開け?」
「違う違う。その針金の先を、この溶液にひたすんだ」
 いつの間にか誠治の手にはビンが握られていた。
 言われるまま、ゆっくり針金の先端を溶液にひたすサラ。
「それじゃ、ライターの火をその針金の先端に当ててみようか」
 その言葉にも従い、火を近づけるサラ。
 そして、火が針金に触れた瞬間。
「わっ!!」
「えっ!?」
「うそっ!」
 驚いて針金とライターを取り落とすサラ。
 エリアとティリアも同じくらい驚いている。
「い、今……火、緑になったよな……」
「私にもそう見えました……」
「私も……なんか、エリアの魔法みたい」
「納得できたかい?」
 サラが取り落としたライターと針金を拾いながらそう聞く誠治。
 三人は、とにかくこくこくと頷くしかなかった。



「あー、びっくりした」
 最後の目的地に向かいつつ、一行は先程の話を続けていた。
「いきなりオレンジ色の火が緑色に変わるんだもんなー」
「本当、すごく驚きました……」
「驚いたときのサラの顔、すっごくおかしかったよ」
「うっ、うるさい!」
 真っ赤な顔をして怒鳴るサラ。
 先程の仕返しとばかりにいろいろと言うティリア。
 と、その時エリアが道を竹箒で掃いている人物に気がついた。
「こんにちはですマルチさん」
「あ、こんにちはです〜」
 ぺこりと礼をするエリアとマルチ。
 少し遅れて、ティリアとサラもマルチに挨拶をする。
「どちらへお出かけですか〜?」
 マルチがそう聞くと、ティリアが答えた。
「うん。ちょっと『解らないこと』を調べに行くんだ」
「調べものですかぁ。それならセリオさんに聞いてはいかがでしょう?」
 マルチはそう言うが、ティリアはううん、と首を振る。
「図書館にならすぐ着くから」
「あ、図書館なら調べものもはかどりますね〜。頑張ってください〜」
 手を振るマルチに別れを告げて、一行は一路図書館へ向かう。
「……図書館でなにを調べるんですか?」
 エリアがティリアにそう聞くが、ティリアはきょとんとした顔を見せた。
「調べもの? しないよ」
「じゃ、なんで図書館なんかに?」
「えーとね……あ、見えた」
 ティリアの言葉通り、角を曲がった先に学園図書館が建っていた。
 だが、なにやら様子がおかしい。
 そして、ティリアもそこで足を止めたまま動かない。
「ティリア? 図書館に行かないの?」
「どうしたんですか?」
「しっ……見てて」
 じっと息をのんで図書館を見つめる3人。
 すると突然、図書館の一角が赤い爆熱と共に吹き飛んだ。
 息をのむ間もなく、白い炎が、赤い稲妻が、図書館を完膚無きまでに
ぼろぼろに破壊してゆく。
「……あれって……」
 呆然としたサラの台詞がこぼれる頃には、図書館は跡形もなくなっていた。
「確かにこれは信じられませんね……」
 エリアはそう言うが、ティリアは黙って首を振った。
 そして、程なく地面が揺れはじめた。
「じ、地震?」
「それも、かなり大きい!」
「来るっ! 二人とも、図書館をよく見てて!!」
 ティリアの声にはっとし、地が揺れるのも忘れて図書館を見つめる二人。
 すると……。


 図書館が生えてきた。


「……うそ……」
 目を見開き、口を半開き状態にして固まるサラとエリア。
「どうしても、ああいう風に図書館が生えてくる理由が分かんないんだよ」
 ティリアは一人、腕を組んで頭をひねっている。
 彼女たちはまだ知らない。
 この学園には、知らない方がいいこともある、ということを。



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T-star-reverseでーす。
初心に返るというか、試験的というか、リクエストにお答えしたというか、
まあとにかく色々な要素が入っているLでありました。
最後のオチはちょっとLを逸脱気味かもしれませんが、それでも学園なら
このぐらいのことはあって当然……ですよね?(ちょっと不安)
それでは、また次回、お楽しみにっ!