「平舟盛」転校Lメモ「魚人戦隊ギョレンジャー第一話:がくえんのへいわをまもれ、鯛ナレッド登場!!の巻」(後編) 投稿者:平舟盛

いや〜、死ぬかと思ったタイ」
地面にあぐらをかいてカラカラと笑う赤フン、もとい平舟盛を前に顔を見合わせる
格闘部の二人。互いに自己紹介は終わっている。
「ともあれ、助けてくれて感謝するタイ」
二人に深々と頭を下げる舟盛。ちなみにいまだフンドシ一丁である。
「…で、アンタ一体何がやりたかったんだ?」
見苦しいものをできるだけ視界に入れないようにしながら尋ねるYOSSYFLAME
「うむ…実は………!!」
そこで何かを思い出したのか、急に顔色を変え、立ち上がる舟盛。
「とうっ!!」
そのまま飛び上がり、無意味に一つトンボを切って着地する。
「い、いきなりなんだ?!」
「やろうとしたことを思い出した!悪者め、いざ勝負タイ!!」
ビシィ!と構えを取ってYOSSYに叩き付ける。
「悪者って、…俺か?」
きょろきょろと周囲を見渡した後確認するYOSSYにきっぱりとうなずく。
「うむ!!」
「俺が何をした!!」
「女の子が悲鳴を上げるのは悪者のせいと決まっとる!」
ついでにその場に正義の味方が現れる事、その際は高い所から登場する事も決まっているらしい。
「あれは軽いスキンシップだっての。…行こうぜ葵ちゃん、付き合ってられねえ」
呆れ果て、その場から葵の手を取って立ち去ろうとするYOSSY。
「ま、待て!ワシのこの、今にも溢れんばかりの正義の心はどうしてくれる?!」
フンドシ男の理不尽な言い草に
「知るかぁぁぁぁ!!!」
ついにキれるYOSSY。
うぬぬぬぬ…と睨み合う男二人に、それまで黙っていた(呆然としていた)葵が
おずおずと声をかけた。
「あの…」
「悪者なら悪者らしく正義の裁きを受けんかい!」
「誰が悪者だってーの、このヘンタイが!」
だが、声が小さくて聞こえていないようだ。葵は大きく息を吸い込んだ。
「…あの!!!」
今度は聞こえたらしい。二人共びっくりしたように葵の方を振り向いている。
「何ね?」「何?」
「え、ええとですね…」
葵の提案はつまりはこういう事だった。正義とか悪者とかは置いておいて、交流試合という
形ではどうか。YOSSYも格闘部だし、舟盛も武道の心得があるらしい。審判は自分が
務める。勝敗はどちらかが参ったというか、審判が止めるまで。どちらが勝とうと遺恨は
残さないものとする………

「うむ、まぁこの際異存はなカ」
「…気は進まないけど、葵ちゃんがそういうんなら構わんぜ」
「では、そういうことで。あの…ところで、場所を移しませんか?」
葵が、少し赤面しながら言った。さっきから大声を出しているせいで、人が集まってきていた。
遠巻きにしてひそひそ言っている。男達にも異存はなく、場所を格闘部の部室に移す事になった。

…部員のスパーリング用のリングの上で、葵が改めてルールの説明をしていた。
打撃あり寝業あり急所攻撃無し…要するに、エクストリームルールである。
互いにグローブをはめて向かい合う。
「…説明は以上です。では、用意は良いですか?」
「うむ、いつでも構わん」
「ま、お手柔らかにな」
YOSSYは余裕の表情で言った。どうみてもこのフンドシ男(未だにその格好だった)
は強そうには思えない。こういう面倒くさい手合いはさっさと終わらせるに限る…

「ではレディ…ファイト!!」
ゴング代わりの葵の掛け声と同時に、YOSSYは疾った!!

どん!!

190センチ近い長身が、自動車に跳ねられたように吹っ飛ぶ。
ただ真っ直ぐに踏み込んで繰り出しただけの右の直突き。しかしガードすらできず
舟盛はまともに鼻面に受けた。そのべらぼうな速さの為である。
リングの外まで吹き飛び、とて、ぽて、ちーんと3回ほどバウンドして止まる。
「ワン、ツー…」
そのままカウントを取り始める葵。
「エイト…ナイン…」
「とぉぉぉぉう!!」
カウント9で、びょいーんと飛び上がり、またも無意味にトンボを切ってリングに着地。
「…あの…まだやれますか?」
しばらく呆気に取られたあと、舟盛に尋ねる審判の葵。
「いや、驚いた、まっこと驚いた!!疾いのお、全然反応できんかったわ。」
感嘆してブラボー、オーブラボーとか騒いでいる舟盛の様子に
「…大丈夫みたいですね。それでは…ファイト!!」
再開始の合図をかける。

………キック、いや…ムエタイだな。YOSSYFRAMEは相手の技をそう
見て取った。いわゆるアップライトの構えから、じり、じり、と間隔を詰めてくる。
うかつに正面から飛び込めば、膝か肘が飛んでくるだろう。さっきの様な隙はもはや無い。
ならば、最初の攻撃を躱し、その隙を突くと決めた。有効射程距離まであと30cm、20cm…
と、突然敵が尻を向けた。隙だらけである。しかし、余りに意外な行動にむしろこっちの方が
虚を突かれる形になった。…しまっ…
たと思う暇も有らばこそ。真上から降って来る蹴りを間髪で躱す。…オーバーヘッドキック?!
しかしそれで終わりではなかった。ありとあらゆる間合いから、角度から、旋風のように蹴りが
襲い掛かってくる。一発たりともヒットを許さないのはさすがというべきか。しかしまた、
こちらから攻撃を当てる事もできない。剣道も、また一般の打撃系格闘技にせよ、直立した相手を
前提としている。しかし今この相手は寝転んだ状態から、逆立ちしながら、あるいは半ばブリッジ
した状態から縦横無尽にパンチを、キックを、あるいはヒジを打ち込んでくる。出鱈目なまでに無原則
な動き…しかし、あたかもダンスを踊っているような不思議な美しさがあった。

「…へぇ、面白い戦い方ね?」
「!綾香先輩…」
「ボクシングのハメドスタイル…いえ違うわね、足も使ってるし。カポエラ…それとも中国拳法の地尚拳
あたりかな?」
「…いつから」
居たんですかと聞く葵。
「少し前からね。それにしても…あれでバランスを崩さないのは大した物だわ。強靭な足腰と天性のリズム感の
おかげかしらね。彼、新入部員?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど…成り行きで」

リング上の戦いは、一旦ストップしていた。やや距離を取りつつ互いを牽制し合う。
ポイントならダウンを奪ったYOSSYFRAMEがリードしていたが、これはポイント制の試合ではない。
(…ちょっと不利かもしれないな)
思ったより手強い。内心でちらりとそう思った。スピードはこちらが上だが、狭いリングの上では
制限が大きい。あの不規則な動きには慣れてきたしそうそう当てられるつもりはないが、あの手数
とリーチは侮れない。赤いフンドシで顔の汗をごしごしと拭いている眼前の敵から(戦術とは異なる
理由で)距離を取りながら、YOSSYFRAMEはある決意をしていた。ちまちまやるのは性に合わん。大技
でケリをつける!!

「ねえ」
リングの下から、声がかかる。
「何ね?」
舟盛は眼前の敵からは気を逸らさずに返事をする。
「面白い技を使うじゃない、どこで習ったの?」
「…色々なところで。あとは我流たい。ところであんたは?」
「私は来栖川綾香。この部の部長サマ♪」
「ほほー、部長さんかね、道理で…」
ただ者でなさそうだと思った、と言いかけて舟盛は口をつぐんだ。眼前の殺気が急激に膨れ上がるのを
感じたからだ。
「すまんが話はまた今度な。いずれあんたとも手合わせ願いたいモンだが」
「そうね…もし良かったらこの部に入らない?いくらでも手合わせできるし、歓迎するわよ」
決めるつもりみたいね…心中で呟きつつ、YOSSYFRAMEの方を見やる。
「……………………………」
舟盛は返事をしなかった。こちらも「切り札」を使うべく精神を集中させる。

…向こうも切り札を隠し持っていたか
YOSSYFRAMEは敵の気の変化を敏感に察知し、
「そうでなくては面白くない」と嘯いた。
今攻撃すれば勝てるだろう。向こうの隠し玉の準備はまだ出来ていないようだ。
しかし、好奇心がそれに勝った。…見せてもらおうか、そちらの奥の手とやらを。
自分が何時の間にか戦いを楽しんでいる事に、YOSSYFRAMEは気が付いていた。

「葵、よく見ておきなさい」
「ハ・ハイ!」
綾香の言葉に、葵は拳を握り締めていた。審判という立場もほとんど忘れていた。
ただ、目の前で起こる事を見逃すまいと瞬きする間すら惜しんで見守る。誰一人言葉を発する者は
いない。葵は、やたらと喉が渇くのを感じていた。

めきょ。

触れれば切れそうに張り詰めた空気を破ったのは、そんな不自然な音だった。
……空耳?
めきょめきょめきょめきょめきょ………
その音はリングの上からしていた。舟盛の骨がきしみ、皮膚が入れ替わる音。格闘部員達の
眼前で、平舟盛は何か異形のモノに変じようとしていた。皮膚からウロコが生える。目玉が、
左右により、指の間に水掻きが。背中から、ヒジから生えてきているのはヒレだろうか。
頚部あたりに開いている裂孔、あれはエラではないのか?

すっかり変態が終わり…再び静寂が戻ってきた。もっとも先ほどまでとは性質の違う静寂だったが
すっかり変態の終わった舟盛の姿は…なんというかひたすらにブキミだった。いわゆる半魚人というヤツ
だが、リアルで見るとまたツラいものがある。おまけになんか生臭いし。胸の中央部に何やら光る玉が
ついているのがアクセントと言えば言えただろう。それはいいとしても、あれだけ身体の形が変わっても
フンドシ一丁というのだけは変わっていないのは何故だろうか。
地獄のような静寂を知らぬげに、スタスタと舟盛はリングの隅っこに歩み寄った。よっこらしょっと
コーナーポストによじ登ろうとする。尻の質感は変態しても変わっていないようだ。
「とうっっっ!!」
と華麗に飛んだ。ムーンサルトを決めた後、リング中央部に見事な着地を決める
ビシィ!!とポーズを決めて叫ぶ。
「地球の平和を護る為!海神の力を受けて戦うぞ!!試立リーフ学園でボクと握手!!」
「「「……………………………………………」」」
「鯛〜ナ…………」
ぐぐっと溜めて
「…レッド!!」
びしっと決めポーズ。
キマった。ていうか、もうキマりすぎ。お嬢さん方、ホレた?ねえホレた?(心の声)




秋も間近と感じる、数瞬。誰もがあの時真っ白に輝いていたね。
最初に口を開いたのはYOSSYFRAMEだった。
「…魚人だったのか。それも……」
他の知りあいにも、魚人の一族は一人居た。尤も彼がマグロだったのに対し目の前に居るのは…
「タイだな」
そう、タイ。漢字で書くと鯛。全国の海で採れ、刺し身とかにすると美味しいアレである。尤も
目の前の存在は喩えどういう状況にあろうと食べたいと思わないが。
「そのとおり!どうだ、格好良かろう!!」
「…いや…コメントは控えさせてもらう。それより…」
いまだに目が点になっている葵の方をちらりと見て
「そろそろ再開したいんだが、いいか?」
「おう!審判、よろしく頼むタイ」
そこではっと我に帰る葵。
「あ、はい!では…ファイト!!」
間の一幕は無かった事のように、再び空気が張り詰める。
何時の間にか立ち直っていた綾香が
「魚人の力はエルクゥなどにははるかに及ばないと聞くけれど、人間が相手にするには少し
骨かもしれないわね…さぁ、どうする?YOSSYクン」
楽しそうに呟く。両者の気勢は、既に極限まで膨れ上がっていた。さながら引き絞られた弓。
どちらが先に矢を放つのか。10秒、20秒、いや、ほんの一瞬かもしれない。時が静止した。

「好恵さん」
坂下好恵は、格闘部の部室の前で知っている声に呼び止められた。
「お前か」
T-star-reverse。好恵と同じく格闘部の部員である。
「部活ですか?」
「ああ…少し遅れた。それにしても静かだな。誰も居ないのか?」
いいながらドアに手をかける。
「何だ、カギが開いてるじゃないか…誰かは知らないが全くしょうがないな」

ガラリ

「おい誰も………」
ドン!!という音ともに好恵の目の前に何かが降ってきた

ドアが開いた瞬間、両者は同時に動いていた。飛び込んでくるYOSSYFRAMEに対し、
舟盛がウロコの散弾を弾き飛ばす。まともに食らえば身体がズタズタに切り裂かれるだろう。
が、
「その技は知っている!!」
驚嘆すべき事に、その散弾の全てをあるいは避け、あるいは指で受け止め、さらに受け止めた
ウロコで他のウロコを弾き飛ばしてみせた。瞬きの半分の間に本体に肉薄する。
が、そこまでは計算の内だったのか。突っ込んでくる敵を、ヒジで迎撃する異形のモノ。
そこから生えているヒレは、人間の肉を、骨すらも切り裂くのに十分な凶器に見える。
「遅い!!『風』中伝、『絶!烈風乱舞』!!!!」
「魚人を舐めるな!!」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!

次の瞬間に起こったいくつかの事を、どう説明すればいいのだろうか。
順序から言えばこうだ。迎撃に行った、魚人の動きが何故か一瞬止まり、しかもバランスを
崩した。その一瞬の隙に、YOSSYFRAMEが無数の攻撃を魚人に浴びせた。魚人はそれらの全て
をまともに食らい、錐揉みしつつリングの外へ吹っ飛ぶ。ちょうどドアを開けた好恵の前に、
彼は墜落した。

…きわどい勝負だった。YOSSYFRAMEは額の汗を拭った。しかし何故、ヤツは最後の一瞬バランスを
崩したのだろう。あれだけ強靭な足腰を持った奴が…前半動きすぎたツケが回ってきたのだろうか?
多分そうだろう。まあいい、勝ちは勝ちだ。審判である葵の方を振り向く。と、その足元に何かが
わだかまっているのが見えた。
「葵ちゃん…それ何?」
「え?」
言われて我に帰った葵が、それを拾い上げる。色は赤い。どうやら布のようだ。
「何でしょうねぇ?」
「何かひっかかるな…布……赤い布…?!!まさか?」
思わず先程自らリングの外に吹き飛ばした対戦相手の方を見やる。彼の魚人化は、既に解けて
いた。ついでにもう一つ解けているものがあったが。YOSSYFRAMEは理解した。何故、彼の動き
が止まったのか。葵が一体何を踏んづけたのか…

「うう、ひどい目に合ったタイ」
舟盛は頭を振りながら立ち上がり、見た事の無い顔が二つあるのに気づいた。多分さっき
ドアを開けたのはこの二人だろう。ここの部員に違いない。
「あ、どうも、お邪魔しとります」
丁寧に頭を下げる。
「どうも…新入部員の方ですか?」
「いや、そういうわけではないばってん…」
事情を手っ取り早く説明できる言葉を捜す。
「ところで、あの…前、隠した方がいいですよ?」
「ん?」
言われて、自分の下半身を見た。

「振り子の法則…ガリレオ・ガリレイが1583年にピサの斜塔で発見したのさ!いわゆる等時性って
               ヤツだね。詳しくは物理の教科書でも調べてみよう」

そうか…発見した。揺れが小さくなっても一揺れにかかる時間は変わらないぞ!!

「何だ貴様はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
平舟盛(17歳)の芽生えかけた向学心は坂下好恵の鉄拳により意識ごと断たれた。
再び逆回転に錐揉みしながらリング上にむけて曲線ではなく直線の奇跡で突っ込んでいく。

「い…」
自分の手にしていた赤いモノの正体を悟った松原葵は魂の底からの叫びを上げた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

どごぉぉぉぉぉん!!!!!

………彼は星になった。

ダイレクトに打ち返され、天窓を打ち抜いて遥かかなたへ飛んでいった。
関係者の胸に悪夢のような思い出だけを残して………………

その後、聞いた話によれば窓から落ちた時の穴にホールインワンして瀕死の状態に合った所を助けられ、
一命を取りとめたという。その後格闘部に入部した彼の心事は定かでは、ない