ギョレンジャー第参話(3) 投稿者:平舟盛

「…干からびてるな」
「ミイラってやつですか?」
「…俺、こういうの見たことあるよ、怪奇特集かなんかで」
平舟盛の部屋に入ったYOSSYFLAME、SOS、誠二の三人が目にしたのは、カラカラに
なった半魚人の干物だった。人魚とか河童のミイラというのは結構あちこちに
残っているらしいが、これは舟盛の身体だろうか?たかだか数日でここまで乾くとも
思えないのだが。
「…真藤、お前等って死ぬと自動的に保存食になるのか?」
「…殺すよ?」
顔だけはにこやかに会話をする先輩達をよそに、色々とミイラを調べているSOS。
部屋に入ったら死体があったというのはもっと大騒ぎをしてしかるべき状況だと
思うのだが、警察に連絡しようとか言う発想は出てこないのだろうか。
まあ、人間じゃないし、ミイラだし、どちらかというとム○とかその辺の雑誌
に知らせた方がいいような気もしないでもない。リーフ学園ではこのあまりに
シュールな事態すらも日常の一部に過ぎないのかもしれない。最高ですか?と
聞かれたら、ていうかむしろサイコですと答えるしかないような暮らしの中で、
生徒達の神経はすっかりスレてしまっていた。

「お二人とも、ちょっと見てください」
SOSが、本日3ラウンド目の殴り合いに突入していた誠二とYOSSYに声をかけた。
「…何だ?」
いい加減グロッキーになり、覚束ない足元で二人がやってくる。
「ほら、見てください。体のほうはピラミッドから発掘されたと言っても
違和感がない位ですが、フンドシの方は全然劣化してないですよ!」
確かに、そのミイラがしめているフンドシは、洗い立てのようにさらっとして
情熱の赤色が目に痛かった。別の意味で目が腐りそうな気がしたため、早々に
目をそらす二人。
「「…で?」」
声をそろえて後輩に問う。
「このことからみて、こうなった原因は僕の能力のように『時間』に関わるもの
じゃなくて生体に作用する何かの力によるものだと思います。」
SOSがそう言ったとき
「お・見・・事………」
そのかすれた声は、誠二でもYOSSYが出したものでもなかった。SOSでもない。
互いに顔を見合わせ、自分ではないと首を振る。では誰が?この部屋には
自分たち以外は誰も居ない、あのミイラを除いては。
…ミイラ?
三人が同時におそるおそる後ろを振り向くと…
「やあ」
同じ寮に住むリーフ学園2年のデコイが、片手を挙げて挨拶していた。

どがががががががががががががががががっ!!

ずどぉぉぉん!!!

YOSSYFLAMEの奥義を食らったうえに、誠二のトラップで吹っ飛ばされるデコイ。
「「冗談は時と場合を考えろぉっ!!」」
さきほどまでいがみ合っていたとは思えない見事なコンビネーションである。
デコイは全身ずたぼろになって床に倒れ痙攣していたが、なぜかカメラとアフロ
のヅラだけは無事だった。
「まったく…このミイラの写真をとりに来たのか?どうやって嗅ぎ付けたのか
知らないけど」
YOSSYもさすがに今ので力を使い果たしたらしく、床に座り込んで息を切らしている。
誠二の方は、うつぶせに突っ伏して無言だった。殴り合いによる出血と、放水による
脱水症状と、暑さによる消耗が緊張の糸が切れたことで一気に襲い掛かってきたもの
らしい。SOSも、部屋の残存エネルギーの影響か具合が悪そうにしている。
「嗅ぎ付けたも何も…外の様子を見てないのか?スゴいことになってるよー」
「何?」
そういえば、さっき扉を開けたときに部屋から出ていったアレは……!!
あいたたた…とうめきながら起きあがるデコイのセリフに、死にかけていた三人も
疲れを忘れて立ちあがり、一斉に外に飛び出した。だから彼等は知らない。
さっきの騒動でミイラに飛び散った血が降りかかり、そこからしゅぅぅぅ…と小さく
白い煙があがっていたのを。やがて再び無人になった部屋の暗闇の中で、・…ずるり、
ずるりと何かをゆっくりと引きずるような音と、それに続いてぴちゃぴちゃ・・という
何かを舌で舐めとるような音が篭っていたことも。

 「…何だこりゃあ?!!」
山浦が思わず叫んだのは、勿論目の前に居る芹香が本物だったからではない。
いや、いつもであれば、芹香が本物であるとわかった途端にあがってしまって
まともにクチもきけなる山浦が思わず叫んだのは…部屋の中であちこち宙を
漂っているモノを見たせいである。白くて半透明のそれは三角頭巾に右前の白装束
つまりは最もスタンダードな日本の幽霊の格好をしていたが、そんなメイド服ならぬ
冥土服を見ても山浦の心は萌えもしなければ燃えもせず、声すらもなく芹香の方を見やる。
「………………………」
相変わらず無言の芹香の表情からは何も読み取れない。待て、落ちつけ。ここは来夢の
部屋だよな?なんで芹香先輩がいるんだ?それよりあの、わざとらしいまでに判りやすい
幽霊の群れは何だ?まさかもう河を渡ってしまったのか?!
「…あのー」
「おーい、起きろ!!」
混乱のあまり来夢と蛮次の首筋を掴んで、ぐいぐいと絞め付ける。二人の顔が更に蒼白に。
「…あのーもしもし」
「起きろって!」
一人ずつ意識が無いのを無理矢理立ちあがらせ、投げ飛ばす。今ので、河を渡ったかも。
「すいません、ちょっといいですか?」
ぬうっ、と山浦の顔前に何かがつきだされた。しばらくして、焦点が合う。
巨大な魚の顔。半透明の。
「色々疑問がおありのようですから、わたくしの方から答えさせていただきます。
あ、申し送れましたが私、『黄泉入り魚人群』(よみいりぎょじんぐん)代表の、
渡辺船(わたなべのふな)と申します。気安く『ナベフネ』、とでもお呼びください」
魚の顔が、やたらと愛想よく挨拶した。