ギョレンジャー第三話(6.5) 投稿者:平舟盛

「餓狼烈空斬!!」
 輝く刃が不定形の霊を2体、空間ごと切り裂いた。
(マスター、右後方45度です)
「!…真空烈破!!」
 悠朔は舌打ちを一つ、振り返りざま斬りつける。
    怨!
 断末魔の念と共に、霊の一体が消滅する。
「…余計な口出しをするな」
 ぼそりと呟きつつも、刃を振るう手は止まらない。
 後から後から沸いてくる霊を薙ぎ払いつつ、走る。
「申し訳ありません」
 抑揚の無い精霊の声が、主人に謝った。
 それにしても、数が多い。
 黄泉への道が開いたか、己の殺気が亡者を惹きつけるのか。
 あっという間に囲まれる。

 おおおおお…鳴鳴鳴鳴ぉ……
 …汚汚汚汚ぉぉ…悪悪悪ぉ…
    
(私の力を使いましょうか?この程度の低級霊ならば、実体化せずとも祓うのは
たやすいですが…)
「でしゃばるな。すっこんでいろ」
 悠朔はしかし、精霊の提案を即座に退け、念を集め始めた。
「…死殺・龍王牙!!」

 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬
 懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺懺
      
 刹那の魔に数十の斬撃が閃く。       
            
(…お見事です、マスター)
一瞬で周囲の霊の全てを吹き散らした主を称える僕の声を、悠朔は聞いていない。 
 …まだ気配が残っている!
 さすがに呼吸を乱しつつも、見事な残心で油断なく剣を構えていた。
 そう、油断はしていなかったのだ。
 しかし、次の一瞬に起こった事はその一流の戦士の想像をも超えていた。 
「…綾…かはッ?!」
(マスター!!それは………)
 その人影を見た瞬間、驚愕の表情を浮かべて立ち尽くした悠朔の一瞬の意識の空白
に、閃光が滑り込んだ。
 否。
 その人影が放った上段回し蹴りを無防備にくらい、悠朔は吹き飛ばされていた。
 目の奥でフラッシュが瞬き、焦げ臭い臭いを感じる。
 即座に意識を臨戦態勢に戻し、辛うじて踏みとどまった悠朔のボディに、鋭いヒザ
が突き刺さった。
 肘。
 ロー。
 ボディ。
 フック。
 最後にもう一度ハイキックをくらい、今度こそ倒れる悠朔。
 その目の前に立ち、冷たく見下ろしているのは…
 来栖川綾香。
 悠朔の最愛の女性にして、学園最強の格闘家が、トドメを刺すべく踵を持ち上げた。
 
「で?」
「で?」
「どーするんだ?」
「どーするってな…」
 真藤誠二とYOSSYFLAMEは、何度目かの会話を繰り返した。
「専門家を見つけてくるんだろう?心当たりがあるんじゃないのか?」
「…お前、分かっててそ〜ゆ〜こと言う辺り、意外と性格悪いよな」
 この学園に、オカルトの専門家というのは実際のところ少なくはない。
 この寮の住人に限っても、神凪遼刃や神海といった連中がいる。
 当然、YOSSYの脳裏にあったのも、その二名の名前だった。
 しかし、こうして部屋を訪ねてみれば既にもぬけの殻。
 寮のどこかにいるのかどうかも分からない。
 計画があっという間に頓挫し、二人は途方に暮れていた。
 疲労もあり、廊下に腰を下ろしてぼ〜っと宙を眺めている。
 と、YOSSYFLAMEが唐突に口を開いた。
「なぁ…それにしても何か忘れてる気がしないか?」
「…気のせいだろ、多分」
 投げやりに返事をする誠二。
 周囲には、冥土服に三角巾の正統派ジャパニーズゴーストが編隊を組んで浮遊する。
 右へ…………………左へ………………………
 規則正しく往復するソレを何とはなしに眺めていた二人の首も、合わせて往復する。
 右へ…………………左へ………………………もひとつ右へ…………左へ…………
 誠二はそうしているうちに、編隊の中で一体だけ、必ず一拍動きが他より遅れることに
気づいた。
 右へ(右へ)……………………左へ(左へ)………………………
 それは、滑稽な光景だった。
 誠二は苦笑した。幽霊の中にも、トロい奴というのはいるらしい。
 もしかして、新米だろうか?それにしては、幽霊姿が板についてるが。
 右へ(右へ)……………………左へ(左へ)………………………
 一見、女と見まがうほど髪が長くて目が細い。それにしてもどこかで見たような?
「………おい、アレ………もしかして」
 YOSSYFLAMEが仲間ににらまれてすまなそうに頭を下げているソレを指差して
呟いたが、誠二は自分の思考に没頭して聞いていなかった。
 そう、つい最近………どこで見たんだっけ?
 …不意に思い出した。
「「……SOS?!」」
 そう、彼である。生身のまま漂っている…のではなくて、その姿はばっちりスケスケ。
「そういえばあいつのことをすっかり忘れてた!」
 思わず叫ぶ薄情な先輩の誠二。…忘れるなよ。
「ああ、アレだったか!ようやく疑問が解けたぜ!!」
 YOSSYも、ようやく疑問が解けたことに晴れ晴れとした顔で叫んだ。…心配しろよ 
「あいつを最後に見たのは?」
「平の部屋の前」
「…探しにいくか?」
「…面倒くさいな」
「…それもそうだな。もう手後れっぽいし」
 必死で何かを訴えかけている後輩の霊を見ながら、そんな会話を交わす二人。
 いかにもダルそーに、一度上げかけた腰を再び下ろす。
 幽霊の目から、だーっと涙が零れた。
「我々にできるのは、彼が安らかに成仏することを祈ることだけだ」
「うむ、そのとおりだな。…さようなら、SOS。キミのことは決して忘れない」
 棒読みで言い、わざとらしく涙を拭く真似をする二人。
 …最後のセリフには、説得力がまるでなかった。
 二人に対し、SOSは、必死で自分の背中を指差すゼスチュア。
「…背中?」
 こくこくこく
「わかった、背中がかゆい!」
 ちがうちがうちがう!
 必死で首を振るSOS。
 今度は、何かを掴んでひっぱるゼスチュア。
 よーいしょ!よーいしょ!
「オールを漕ぐ?」
 ちがうちがう!!
「…うーん、じゃあ…綱引き?」
 ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん!!
 びしっと誠二の方を指差し、SOS(半透明)はその二つの動作をもう一度繰り返す。 
 背中。綱引き。
「これは…」
「うーむ…」
 誠二とYOSSYはそれぞれ唸り、同時に呟いた。
「「さっぱりわけがわからん」」
 すてーん!!
 SOSは、綱引きで急に力が抜けたかのように空中でずっこけた。
 しくしくしくしく。
「あ、あれ…よく見たら背中からなんか生えてる」
「…なんだ?あれは」
 泣いていた幽霊が、再び元気を取り戻し、びしっ!と親指を立てて突き出した。
「もしかして、あれのことを伝えたかったのかな」
 こくこくこくこく
「そのヒモが重要なのか?」
 こくこくこくこくこく!
 良く見ると、SOSの動作が他の霊よりもやや重いのは、その紐のせいらしかった。
「そうか、何を言いたいのか分かった!」
 ハイ、誠二くん!
 手を挙げる誠二を、SOS(紐付き)がびしっと指差す。
「多分、彼はあの紐が…」
 そうそうそうそうそう!
 誠二はYOSSYの方を向き、自信満々で言いきった。
「邪魔だから、切ってくれって言いたいんだ!!」
 ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがーう!!!
 必死で首を振る幽霊。しかし、二人ともそちらの方は見ていなかった。
「何だ、そんなことなら早く言ってくれればいいのに…」
 にやりと笑って立ち上がり、後輩に迫るYOSSY。
 あたふたと廻りを見るSOSの退路を、誠二が塞ぐ。
「待っていろ、今成仏させてやるから」
 成仏したくないんだってだから!!!
 まだ生きてるんだって辛うじて!!!
 この紐は体に繋がってるんだって!!!
 だが、そんな声なき叫びは二人に届かない。
 くっくっくっと黒い笑み(?)を浮かべながらSOSに迫る二つの邪悪な影(主観)
 SOSは、自分の名前を叫びたくなった。
 SOS〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
 誰か助けて〜〜〜〜〜〜〜!!!!
 そんな必死の祈りが天に通じたのか。
 次の瞬間、SOSは後方に猛烈な加速を感じた。
 二人の先輩の姿がどんどん前方に遠ざかっていくのを見ながら、彼は誰かの
「…助かりますか?」
 という声を耳にしたように思った。
 
 (7)へ続く