テニスエントリーLメモ「八塚崇乃&観月マナの場合」 投稿者:八塚崇乃



「迷ってる。俺は今更……迷ってる」
 八塚崇乃は泣いていた。
「そう、迷ってたんだ。そして今も……迷ってる」
 その涙は、後悔のため。そして――
「だから――」
「男なら……はっきりしなさいっ!!」
――ゴスッ!!
 左目――危険感知の『浄眼』が、観月マナのすね蹴りを感知していたため。



          テニスエントリーLメモ「テニスでGo!!」



  三日前。

「テニス大会?」
「うん」
 マナは崇乃に、手の中にあるチラシを見せる。どうやら十分程前、暗躍生徒会の二人組
――Hi−waitと月島瑠香が投げ散らかしたもののようだ。
 鈴花も前屈みになりそれを見ようとするが、
「落ちる落ちる」
「はわわ」
 崇乃が自身の頭から落ちそうになった鈴花を慌てて押さえる。
「ん……『暗躍生徒会主催、男女混合テニス大会。優勝賞品、ペアで鶴来屋温泉郷二泊三
日の旅』。……ふーん」
 他人事のように文章を読み上げ、チラシをマナに返す。
「で、これがどうしたの?」
「出場しよ♪」
「………………………………………………はい?」
 自分が間抜けだと思うほどの声で、崇乃は聞き返していた。
「崇乃しゃんマナしゃんがんばってでし〜」
 場を支配するのは、明るい鈴花の声……。


  時は戻り――

(球技というものは苦手だ)
(何故かは判らない)
(そこにボールがあるからだとか、そういう訳の判らない理由でもない)
(身体を動かすこと自体――単純に走ることとか、部活動とか――嫌いではない)
(ないのだが……とにかく球技だけは昔から苦手だった)
(なのに……)


「なんで俺、こんなことやってんだ?」
「ほらー! ぼーっとしない!」


  放課後、テニスコート。

「ほら、もうあんまり時間ないんだからちゃっちゃと練習するわよ!」
「……俺は出るつもりなかったのに」
「なにか言った!?」
「いや別に何も」
 夕焼け――ではないがまだ明るい日差しの中、ジャージの崇乃とテニスウェアのマナ、
そして鈴花がテニスコートにいる。
「暑いでしねぇ……もうすぐ夏でし」
 鈴花はそう呟き、コートの中央にある高椅子(ごめん。名前知らない)に腰掛けている。
 崇乃は先程(冒頭で)蹴られた脚を右手でさすりながら、体育用具室から持ち出したラ
ケットを左手で握り締める。続いて、声なき声。
「(はぁ……)」
 ゆっくりと立ち上がり、右拳に力を込めるかのように握る。両足で大地を踏み締め、跳
躍。軽く飛ぶ。
「……ふぅん」
 小さく感嘆の声をあげるマナ。それもそうだろう。最後の最後――テニスコートに入る
まで文句を言っていた人間が、少しだけでもやる気を見せたからだ。
 二度、三度、四度……十度目の跳躍。
「………………」
「……崇乃くん?」
「………………さて」
 両手でラケットを握り、マナに一言。
「始めよっか」

「いくわよ〜」
「はーい。いつでも〜」
――ボト……
 唐突に、サーブを打とうとしたマナがボールを落とす。
「………………」
「………………あれ?」
「………………」
「どーしたの? マナさーん」
 コートの中にいた、九人ほどの八塚崇乃――全員の口が同じように動く。ただし声は一
人分だが。     ~~~~~~~~~~
「………………」
「マナさん? マナさーん。マーナーさーん」
――ポーン……ポーン……
 他のテニスコートで練習している生徒達のボールの音、それしか聞こえない。
「はわわ……」
 流石に、今流れている空気を感じ取ったのか、鈴花がちょっとだけビビる。
「………………」
――チョイ、チョイ
 手招きするマナ。当然崇乃に対してである。やばいと感じながらも彼女の方に近づく。
崇乃が魔術で――周囲の微量な水分子を利用して創った『幻』達も一緒に歩いているので、
気分はゲルマン民族の大移動だ。
「なに?」
 九人(?)の崇乃がまったく同じ動作で喋る。さっきも言ったように、声は一人分で。
「………………」
 無言で、右足を後ろに下げるマナ。崇乃の左目からは、涙が溢れそうになっている。
「南無南無……」
 鈴花は無常にも――どこでそんな事を習ったのか――手を合わせていた。
「ね、ねぇ……マナさん?」
 マナは自分の正面にいる崇乃に――
――ゴスッ!!


  三十分後。

「我は築く霧の城塞!」
「なにやってるのよ! 真面目にしなさいって!」
「十分まじめだって……顔に飛んでくるような打球、こうするしかないでしょ……」
 『浄眼』から涙を零しながら崇乃。しかし意見は聞きいれて貰えないらしい。


  さらに三十分後。

「うわっ!? ……今の、当てるつもりだったんじゃ?」
「おかしいわね……」
「(シクシク……)」
 今度は両目からワカメ涙を流してみせる崇乃。
「ZZZ……ZZZ……」
 いいかげん暇になったのか、鈴花は寝ている。


  もっと三十分後。(日本語がおかしいけど気にしないように)

「だ〜か〜ら〜、身体にくる打球は恐いって……」
 そういう危険な球だけは、くると判っているのに避けてしまう男。
「そんなのを打ち返さなきゃ。折角の『能力』、使わなきゃ損でしょ?」
「あうう……」
 地獄はさらに続く。


  どうしようもなく三十分後。(日本語おかし『省略』)

「きついよ〜きついよ〜……」
「一応剣道部員でしょ! 女の私より体力なくてどうするのよ!?」
「ひ〜ん……」
 二時間ほどコートの中で動きまわされ、崇乃の足は震えていた。
 ついでに頭のどこかも朦朧としていた。


  そして……帰り道。

「疲れたでしねぇ……」
「寝てただけだろ」
――ペシン
「あうっ」
 自分の頭に乗っかっている鈴花のおでこを、崇乃は軽くデコピンする。
「……時間、あんまりないのよね〜。明日もこんな感じで練習するけど……いい?」
「『いい?』って……俺が文句言ってもやるんでしょ?」
「……やっぱり、判る?」
「うん」
「そっか……ごめんね」
「いいって。最後まで付き合うよ。マナさんの我が侭に」
「『我が侭』……ですって?」
 ちょっとだけ殺気だった眼で崇乃を睨むマナ。けれどそれも一瞬。
「……ありがと」
「鈴花も付き合うでしー!」
「よろしくね鈴花ちゃん」
「はいでしー!」
 なごむ三人。と、
「ねえマナしゃん」
「なに?」
「どうしてテニス大会に参加したかったんでしか?」
 いきなりの質問。戸惑うマナ。
「俺も聞きたい。どーしてなの?」
「……言わなきゃ駄目?」
「「………………」」
 二人分の視線に根負けしたのか、溜息を吐くマナ。
「判ったわよ……けどその前に」
「?」
「なんでしか?」
「崇乃くん、どうしてテニスをしたくなかったの?」
 たじろぐ崇乃。しかもかなり動揺している。
「う゛……」
「さあさあ。白状しなさい♪」
「するでしするでし〜♪」
 今度は崇乃が根負けする番だった。咳払いをする崇乃。
「コホン……えと、ね。あまり、好きじゃないんだ」
「テニスがでしか?」
「いや、テニスだけじゃなくて……」
 空を――もう薄暗くなった空を見上げながら、言おうかどうか迷う崇乃。でも誰も続き
を急かしたりしない。
 言葉を選ぶように、崇乃は口を開く。
「球技全般が苦手、って言うか……ただなんとなく、なんだけどね。それだけ」
「ふ〜ん」
「そうなんでしか……」
――コツ、コツ、コツ……
 アスファルトの上、二人分の足音。崇乃のあいまいな言葉に、誰も笑う者はいなかった。
「……で、マナさんは?」
「あ……忘れてなかったんだ」
「当然でし」
「私は――」
 マナも、崇乃と同じように空を見上げる。決意――ではなく、ただ決めた事を口に出す
ための力を蓄えるために。
 数十秒後、その口が言葉を紡いだ。


「思い出を作りたかったから。
 崇乃くんや鈴花ちゃん、クラスの友達や後輩達と、馬鹿やったり笑ったり泣いたり……
そんな、なんでもなさそうでそうじゃない、記憶に鮮やかに彩られた、日常の1ページ。
 そんな思い出が……作りたかったから。欲しかったから。」


「………………」
「マナしゃん……」
 沈黙する二人。彼らの驚いたような顔を見ながら、マナは笑顔で一言。
「嘘よ」

                    ・
                    ・
                    ・
                    ・
                    ・
                    ・

「……はっ、ははは――」
「あははっ……」
「ふっ、うふふっ――」
 三人は笑う。
 何故なのかは判らない。
「はははっ――じゃ、じゃあマナさん、賞品が目当てとか?」
「そうでし〜! 決まってるで、し、あははっ……」
「そうよー。決まってる、じゃ、ふふっ――ない! それで、優勝しても――ははっ、崇
乃くんとは行かないで鈴花ちゃんと行くの」
「その時は……鈴花を頼む、よ――はははははは……」


 空にはもう、一番星が見えていた。
 そんな空の下で、三人は笑い続けていた。


  To Be Continued.
  Next To YOSSYFLAME's “TENNIS”Lmemo.


                                         99/05/17
                                         99/06/16改
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≪アトガキ≫

 終わった……終わりましたよテニスエントリーLメモ。
 締め切りが5月20日だから……あんまり時間なかったんだ(笑)。う〜ん、締め切りが
近くならないと書き始めないんだな俺(爆)。
 さて……今回は企画物ということもあって『アトガキ』は八塚崇乃が一人で進行します。

 ……始めは書く気が全然しなかったんですよねこのL。でもチャットで何人かの方から
「マナちゃんと組んで参加しないんですか?」とか言われ……結局書きました。テニス大
会本編を書くYOSSYFLAMEさんが苦労するから参加はしないつもりだったのに、
どうしてこんなことになったんだろう……YOSSYさん本人が「構いませんよ」とか言
ってしまったからというのは公然の秘密(爆)。

 ではここでYOSSYさんに一言。
 八塚崇乃は観月マナの地獄の特訓(?)と自分の能力『浄眼』によって、危険な打球だ
けは打ち返す事ができるようになりました(核爆)。けれど自分の立っている位置とは反
対側にきた打球などは反応できずに返せません(再核爆)。
 あと、試合前に文中の『幻惑』の音声魔術を使って相手をビビらすとか馬鹿な事を考え
てますので、よろしければ書いてください。(ただし試合は真面目にやりますが)


 では今回はこの辺で……また会いましょう。

――ストン
  と幕が下りる。