「放課後の崇乃・3」日常編Pa−To1 投稿者:八塚崇乃



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               紫炎さんに捧げます。

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 人生、苦あれば楽あり、である。
 しかし彼の場合、楽あれば苦あり、である。


――PRRRRRR、PRRRRRR……
――ガチャ
『あ、こちらは八塚崇乃様のお宅でしょうか?』
「俺が本人ですが、なにか?」 
『おめでとうございます』
「……は?」
『先日、弊社で応募した《来栖川MHMデザインコンテスト》で、八塚様の作品が佳作入
選されました』
「………………はい?」



         Lメモ(3)「小っちゃいって事は可愛いねっ」



  10日後……PM7:00。自室。

「冗談のつもりだったんだけどなぁ……」
 丸縁水色サングラスを外しながらそうぼやく崇乃の目の前に、Leaf学園工作部にい
るSDタイプマルチ『ちびまる』よりも小さなロボット――『彼女』――がいる。だが、
『彼女』の目はまだ虚ろで、電源が入っているようには見えない。
 『彼女』の隣にはセットアップ&メンテナンス用のノートパソコン&マニュアルが置い
てある。
 視線を天井に向ける崇乃。
「こんなデザイン、よく作れたよなぁ」
 視線をまた『彼女』に戻す。『彼女』の姿形、なんというか……その……
「『守護○天』の『離○』のイラスト適当に写して送っただけなのに……普通、入選する
か?」
 ……そう。まさに『彼女』のデザインは、『守○月天』の『○珠』そのまんまだった。
ついでに服装もだったりする。ただ一つ違うのは、耳カバーがあるということだけで……。
 崇乃は頭を抱え、ため息を吐き、呻くように呟く。
「はぁ。著作権に引っかかりはしないだろうな……」
 大丈夫だろう。この文章の中にあるコンテストというのはまず間違いなく架空の話だし、
今現在こうやって伏せ字も使っているのだから(笑)。
 もう一度ため息を吐く。
「どんな顔してるんだろうな。俺が書いたデザイン、佳作にしたヤツ……」


  同時刻。来栖川電工中央研究所第七研究開発室。

「――ぁっくしょんっ!!」
「あれ? 長瀬主任、風邪ですか?」
「う〜ん、そんなはずはないんだが……」
 ……あんたかい!


  場所は戻る。

「ともかく」
 左手を腰に当て、『彼女』を見据える。
「起こそうか。眠り姫を」


  2時間後……PM9:00。再び自室。

「つ、疲れた……」
 明らかに憔悴している崇乃。無理もないだろう。あらかじめセットアップされていた言
語機能にわざわざ手を加え、違う喋り方にしているのだから。ついでに言うと崇乃はパソ
コンを持ってはいるのだが、主な使用はゲームのみ。ほとんどシロートみたいなものであ
る。こんなにならない方がおかしいだろう。
 え? 何故、喋り方を変えるのかって? そりゃもう……
「趣味に決まっているじゃないか……ってヤバイっ! 幻聴まで聞こえてるよ俺! どう
するんだ俺?」
 ………………。


  2時間後……AM11:00。さらに自室。

「………………」
 ……マニュアルに目を近づけ、それを見ながら下手な指使いで黙々とノーパソ(注:ノ
ートパソコンの略)のキーボードを叩いている。
 目は死んだ魚のように濁っている。眠たそうである。けれども寝ようともしない。途中
で終わらせたら気になって眠れないからであろう。
 言語機能の変更はまだ続いている。


  1時間後……AM0:00。しつこいけど自室。

「あぅぅぅぅぅぅう」
 ……呻いている。休憩のつもりでお茶を飲んでいたら、ノーパソにお茶をこぼしてしま
ったからだ。慌ててエスプィアを召喚してノーパソにかかった水を吸収させたのだが、バ
ックアップしていなかったのでデータが全てとんでいた。もちろんお約束の通りOSのデ
ータも消えていた。
(あぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう)
 崇乃は現実逃避している。
 どうする?


  6時間後……AM6:00。やっぱり自室。

(ノートパソコンも再セットアップできたし……言語も全て書き直したし……これで……
やっと起動できる……)
 そして崇乃は『彼女』のセットアップ及びアップグレードを開始した。


  30分後……AM6:30。い〜かげんにしろよ作者……の自室。

「――おはようございますでし」
 今まで造られてきたHMシリーズは、起動したらまずこう言う。だが『彼女』は語尾に
「でし」と言っていた。崇乃の努力の賜物である。
「おはよう……」
 疲れているが声を振り絞り『彼女』に挨拶を返す崇乃。目の下にクマができている。し
かし彼の色違いの瞳は、やっと完成したという達成感で輝いているようにも見えた。
「ユーザー登録するでし。名前を教えてくれましぇんか?」
「八塚崇乃。崇乃でいいよ」
「――ユーザー登録。崇乃しゃん……でしね?」
「そうだよ」
 頷く崇乃。顔はにやけまくっている。
(くぅ〜〜〜! かわいいぃぞぉ〜〜〜!!)
 ………………。
 目の前にいる自分の主人がそんな事を思っているとは露知らず、続ける『彼女』。
「わたしの呼称を決めてくださいでし」
「えっと……」
 思わず悩む。馬鹿正直にデザインの原作通り『離○』と呼ぶわけにもいかないだろう、
そう思ったのか頭に手を置き半分くらい意識が飛んでいる脳で数秒思案する。
 そして――
「――りんふぁ」
 そう言った。
「鈴に花と書いて中国語読みで『鈴花』。鈴花だ」
「――呼称、『鈴花(りんふぁ)』で登録するでし。いいでしか?」
「ああ、よろしく、鈴花」
「こちらこそよろしくでし。崇乃しゃん」
 にっこりと微笑む『彼女』、いや、鈴花。そして両手を崇乃に差し出してくる。崇乃は
鈴花の意図を理解し、右手の人差し指を差し出す。
 鈴花はその指を両手で握り締め、上下に振る。それは小さな彼女にしかできない挨拶、
握手だった。


  そして25時間50分後……AM8:20。Leaf学園校門前。

「と、言うことでマナさん。この娘が俺のMHM−C、鈴花だよ」
「よろしくでしマナしゃん」
「ふうん……」
 学園生徒が校舎へと入っていく中、崇乃は観月マナに鈴花を紹介していた。
 崇乃の頭の上に乗っている鈴花を優しい目で見るマナ。彼女は自分の右手を持ち上げ、
鈴花の頭の上に乗せる。次にマナがとった行動は、
――なでなでなでなで……
「あ、ちょっと、マナさん……」
 頭越しにマナの手の動きが崇乃にも伝わる。崇乃の声に答えず、彼女は鈴花に語りかけ
る。
「よろしくね、鈴花ちゃん」
「よろしくでし」
――なでなでなでなで……
 喜ぶ鈴花。だが崇乃は恥ずかしいのか、顔を赤くしている。
「ところで八塚くん……」
 手を止めて話し始めるマナ。
「はい?」
「今日の私のお昼ご飯……ちゃんと買ってきてくれた?」
「ええ、ここにちゃんと」
「ふうん……。で――」
 言葉を止めるマナ。
「昨日、結局休んだよね」
「ええ、鈴花を目覚めさせた後、疲れがどっと来て爆睡したけど……どしたの?」
 唐突に、崇乃自身に危険が近づいていることを知らせる彼の左目の『浄眼』から、涙が
一滴零れ落ちた。崇乃はなんとなく逃げ腰になった。鈴花はこの場に流れる空気がどうい
うものかよく理解できないのかキョトンとしている。マナはというと――
「昨日の、私の、お昼ご飯は?」
「………………」
 ………………。

「痛かったのよビームモップに魔術に地雷に斬激に落とし穴にタライにそれからそれから
……とにかく昼休みの購買部の戦闘に巻き込まれるのは嫌だから八塚くんがどうしようも
ない理由で学校休んでも私のお昼だけは絶対に買ってきてくれって言ってたでしょうっ!!」
「ごめんごめんごめんごめんごめん〜〜〜!!」
「待ちなさ〜〜〜い! 次に私のお昼ご飯買い忘れたら、両足蹴るとも言ってあったでし
ょう! 八塚くん!!」
「鈴花の教育に悪いでしょっ! お願いだからそういう事はこの娘がいない場所で言って
よぉ〜〜〜! それならおとなしく蹴られてあげるからぁ!!」
「わぁ〜〜〜。崇乃しゃん、速いでしぃ!」
「召し使いのくせに私から逃げるなんて10年早いわよ〜〜〜っ!!」
 ………………。
 結局、剣道部で鍛えたにも関わらず、やっぱりまだ体力が増えていない崇乃は、500
mを走った所で力尽き、マナに蹴られてしまう。
 崇乃の必至の願いが叶ったのか、鈴花には見られないように蹴ったというのは、余談で
ある(笑)。
「痛い痛い痛い死ぬほど痛いぃ〜〜〜」
「ふんっ、だ」
「大丈夫でしか崇乃しゃん?」


 試立Leaf学園は、一部を除いて今日も平和だった。





<追記>

  MHM(ミニホームメイド)とは、来栖川ホビー事業部が来栖川電工と共同開発した、
 子供向けの製品の試作品である。
  今回崇乃に送られたのはMHM−Cと呼ばれるものであり、ナンバー『C』が示す意味
 は「CustomMade」、つまり「特注」である。
  正式な製品ナンバー及び商標は、まだ決まっていない。


                                         98/10/30
                                         99/06/14改
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≪アトガキ≫

崇乃「いやぁもうすっかり秋ですねぇ」
鈴花「前作の≪アトガキ≫で書いていた、【部活編その弐】はどうなったんでしか?」
崇乃「ただの思いつきでオリキャラ、鈴花を出してみました」
鈴花「どうなったんでしか?」
崇乃「あ、他のSS使いとオリキャラが1人も出てない。
   リーフキャラにいたってはマナさんと馬面のおっさん(笑)だけだ」
鈴花「でしか?」
崇乃「え〜、今回のLメモのテーマは、パソコンの初心者がいきなりこういう事をするとどうなるか?
   と言うものだったんですが、あんまりうまく書くことができてませんね」
鈴花「………………」
崇乃「憑かれてるな、俺」
鈴花「………………」
崇乃「ごめん。なんか面倒な設定になりそうだったから突発的にこんなの書いちゃいました」
鈴花「駄目でしゅねぇ崇乃しゃん。そんなことでSS使いを名乗れると思ってるんでしゅか?」
崇乃「り〜んふぁ〜、えらい態度が大きいね」
鈴花「だって≪アトガキ≫じゃないと好き勝手できないじゃないでしか」
崇乃「鈴花、やっぱり態度が大き――」

――ストン
 と幕が下りる。