「放課後の崇乃・7」日常編Pa−To3 投稿者:八塚崇乃



  昼休み。校庭。

(………………)
「さあっ! かかってこい!」
(………………)
「遠慮は要らんぞ! さあどうしたぁっ!?」
(………………)
「崇乃しゃ〜ん……あの人、なんか恐いでし」
「なんで……こうなったんだろ?」
 広い運動場。その中央で答える者のいない問いを静かに口から紡ぎ出す。崇乃は鈴花を
頭の上に乗せ、聞こえないくらいの小さな溜息を吐いた。


 綴られる惨劇のアルバムはいつも、紅く、切なく……?



            Lメモ(7)「はいぱーにんじゃU」



  今から30分前。4時間目の古典の授業。

「誰でもいいぃぃぃぃぃぃい!! この俺のリビドーを静めさせるヤツはおらんのかぁぁぁ
ぁぁぁあ!!」
「秋山くん授業中よ! 静かにしなさい!」
 毎度毎度誰かに授業妨害をされてしまう教師、小出由美子。今回は、不死身のサド忍者
秋山登の性的興奮(?)により授業を妨害されていた。
「小出せんせぇい! 漢(おとこ)には、静められない欲求というものがあるんですよぉ
ぉぉぉぉぉおおお!!」
「そんなことで……私の授業の邪魔を、し、な、い、でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
 とうとうキレる。絶叫をあげ、酸欠になったのか、ぜぇぜぇと肩で呼吸をする由美子。
そして、ポツリと呟く。
「はぁ……今度から秋山くん対策に八塚くん連れてきて、彼が叫んだごとに魔術で氷漬け
にしてもらおうかしら?」
――ピクッ
 その呟きを由美子が洩らした瞬間、登の身体が止まる。その間約30秒。そして――呟く。
「なるほど……」


  同時刻。倫理の授業。

――ゾクリッ
「ひっ!」
 突然背筋を襲った寒気。授業中なのも忘れ、悲鳴をあげる崇乃。
「どうした〜。少年」
 黒板の上を動く手を止める緒方英二教師。生徒の名前をあまり覚えていないのか、ほと
んどの男子生徒の事を『少年』と呼んでいる。(女子生徒は何故か名前を覚えられてはい
るが。笑)
「いえ。何も……」
 湧き起こる失笑。頭を掻きながら愛想笑いを浮かべ、それらに応える。
 授業は、何事もなく再開された。
(………………)
 サングラスを外し、自分の顔の左側に手で触れる崇乃。
(危険……ってわけじゃないみたいだな)
 危険感知の『浄眼』からは、涙は零れていなかった。それを確認しながら物思いにふけ
る。
(何かの……『予感』?)
 机の上に視線を戻す。と、鈴花が心配そうな顔で崇乃を見ていた。
 何気無く、彼女の頭の上に手を置き、なでなでする。
「ふにゅう……気持ちいいでし」
(まさかね……そんな――)


  (時間は戻り、再び)昼休み。校庭。

「そんな――馬鹿みたいなこともあるもんだな……」
 気がついたらこんな場所にいたのに、そのコトについては何も考えたくもないのか、ウ
ンザリしながら崇乃は愚痴をこぼす。
 崇乃、まず正面を見る。「かかってこい!」とかそんなことを大きな声で叫んでいる、
良く言えばムキムキのマッチョマン、悪く言えば筋肉達磨の秋山登がいる。これは紛れも
ない事実である。
 次に周囲を見る。多くのギャラリーが崇乃と鈴花、そして登をみていた。その眼差しは
「ああ、可哀相に。明日には精肉屋に連れて行かれる豚どーたらこーたら云々」といった
感じであろう。(上文に関してはよく台詞を覚えていないのでかなりはしょってます。爆)
 頭の上にいる鈴花を見――ようとはしたのだが流石に頭の上には視線は届かない。届い
たら届いたでまた違った意味ですごいが……とにかく崇乃は努力をするまでもなく鈴花の
行動を見ようとすることを止める。
(はぁ……)
 腰に手を当て、登を指差す。
「どーして……」
「おう。どうした?」
 口調は――怒ってはいないが。いや、怒ることができないから、と言うのが正解である
が――完全に呆れ返っている。
「どーして俺達、ここにいるんです?」
「決まってるじゃないか!」
 崇乃の質問に即答する登。
「他人がいると燃えるだろう?」
「いや、そういう事を言っているんじゃなくて……どーして、俺と、鈴花が、あなたの、
相手を、しなきゃ、いけないんですか!? ……いや、いいです。答えなくても」
 もっとも当然な意見を登にぶつけるが、すぐに撤回する崇乃。この不条理な展開を受け
入れるしかないと悟ったようだ。
 とりあえず鈴花を頭から降ろす。
「えと……あっち側に避難してて」
「はいでし!」
――とことことこ……
 短い足で一生懸命走り、ギャラリーの方へと避難する鈴花。どうやらその中に友達を見
つけたようで、友達――子供の肩の上に乗せてもらっている。
「さてと……」
 それらを全て確認すると、登へと視線をもっていく。
「かなり不本意だけど……始めよっか」
「ようし! 来いっ!」

「我が掌から走れ氷刃!」
――ザッ!
 空間を切り裂いたと形容してもいいような音。その瞬間、崇乃の掌から『氷の刃』が生
み出され、登へと飛んでいく!
――バシッ!
 クリーンヒットするが……
「効かん! 効かんぞぉ! この前のようなもっと冷たいのはどうしたぁっ!!」

「我叫ぶは銀の咆哮!」
――バシュウッ!
 両手を突き出し、至近距離から『冷気の塊』を撃ち出す崇乃。しかし結果はそう甘くな
い。
「どうしたぁ! 前ほど冷たくもないぞぉっ!」

「我が眼前で渦巻け螺旋!」
――ギュイイインッ!
 不快な音を立てながら登の周囲の気温が急激に下がり、虚空より出現した『氷の紐』が
一気に登を縛り上げる!
「はぁーーーはっはっはぁ! 縛りが足りんなぁ!」

「我は呼ぶ雪色の狼!」
――ヴァサァァァッ!
 ギャラリーを巻き込みつつブリザードで登を攻撃する。けれど……
「ふざけるなぁ!! こんなもので俺のリビドーが静まるかぁぁぁっ!!」

「我が道に舞え天蛇の魔槍!」
――ザァァァァァ……
 崇乃の声と同時に、彼の周囲に7本の『水の槍』が生まれ、浮かび上がる。そして、高
速で飛翔する!
――グザグザグザグザグザグザグザァ!
 身体に、頭に深々と見事なくらい突き刺さる。さすがに「やばっ」っと焦る崇乃。だが、
「いいぞいいぞぉっ! こーいうのが欲しかったんだぁっ!」
 ……再生しながら喜ぶ登。

「我携えし蒼穹の剣!」
――キィン!
 遠くまで響き渡りそうな音を立て、手袋を装着した崇乃の手の中に一振りの『氷の剣』
が創られる。登との間合いを詰め、斬りつける!
――ザスッ!
「そうだぁ! もっと、もっとやれぇ!」

「我が夢より来たれ水姫!」
――シュルルルルルル……
 奇妙な音。そして高さ50cmの空中に水が産まれたかと思うと、それは瞬時にして肥大し、
崇乃と同じくらいの身長の水の精霊エスプィアが現れる。
「kwyyyyyyr!」
「エスプィア……喰らいつけ!」
「kwyyyyyyr!」
 地に足をつけず、半分宙に浮いた状態から、登へと突進するエスプィア。
「kwyyyyyyr!」
――ガスッ!
「ぬぉっ!?」
 腕を、脚を使い突進を受け止める登。けれどそれだけでエスプィアの攻撃は終わらない。
「kwyyyyyyr!」
――ジャバッ!
 いきなり巨大なアメーバへと姿を変え、エスプィアは登を飲み込む。
「なにぃ!?」
 完全にアメーバと化したエスプィアに包まれ、少しは狼狽する登。と、彼の手や顔、足
などから何やら泡立ちが見られる……溶かされているのだ!
――ジウウウウウウ……
「はぁ〜……なかなか気持ちいいじゃないか!」

「………………我、誘う、黄泉の、方舟ぇぇぇえ!」
――ブゥゥゥゥゥゥン
 小さな蒼い球体が崇乃の頭上に唐突に出現し、そして急速に大きくなる。
――キュキュキュ……
 何かが形成される音。続いて、
――ガガガガガガァッ!!
 巨大な――直径30cm、長さ50cmくらいの――無数の雹が、まるでマシンガンのように球
体から発射され、登は全身でそれらを受け止める!
「いいっ!! 気持ちいいぞぉぉぉおっ!!」

「………………」
「おらおらぁ! どうした!?」
「なんで……」
 小さいが、ハッキリとした声。俯きながら、泣きそうな顔になりながら崇乃は、感情を
吐露する。
「なんでモルツは泡までおいしいんですかぁ!?」
「………………」
「………………」
「………………」
――――シ……ン


                 はい。NG。


「なんで……」
 小さいが、ハッキリとした声。俯きながら、泣きそうな顔になりながら崇乃は、感情を
吐露する。
「普通、死ぬでしょう! なんで秋山さん、平気でいられるんですかぁ!?」
「決まってるだろう! 日頃の行いがいいからだっ!」
「それ絶対違いますぅぅぅっ!!」
 もはや完全に泣きながら崇乃は叫んでいた。
「いいかげん、解放してくださいよぉ〜〜〜」
「まだだ! まだ始まったばかりだろうが!」
「30分間延々と魔術を人に使わせといて、それは酷いでしょ〜〜〜(涙)」
「何を言う。よっしーは1時間も俺に付き合ってくれたぞ!」
「俺はあいつほど体力ないですぅ〜〜〜……最後のだってかなり体力と魔力喰うのに……」
「軟弱なこと言ってないでさっさと来い!」
「もういやですよぉ〜〜〜解放してくださいよぉ〜〜〜」
 当然だろう反応。泣き言を言う崇乃。そこへ救いの神が現れた。
「なにやってるんだい? 八塚くん」
「くま先輩……」
 いきなり唐突に突然に脈絡もなく出てくる九条和馬。
「実はカクカクジカジカなワケなんですよぉ〜〜〜なんとかしてくださいぃぃぃ」
「そうか……じゃあ代わってあげよう」
 かなり無謀なことを言い出す和馬。崇乃から登へと顔を向ける。
「秋山くん。構わないよね?」
「このリビドーが静められるのなら誰でもいいぞぉ!」
「ふむ――」
 何も無い中空へと手を伸ばす和馬。そこへ、
「……ヒモ?」
 驚く崇乃をよそに、ヒモが空から伸びてきた。
「それ」
 ヒモを引っ張る和馬。


  その瞬間、ダーク十三使徒本部。

「うぅぉぉぉぉぉぉおっ!? 何故だ!? 何故だあ!?」
 ダーク十三使徒首長ハイドラントは吼えていた。本部を襲った鉄砲水に対して。
「どどどどど導師! どどどどうしましょう!?」
「プアヌークの……邪剣よぉっ!!」
「ぎぃやぁあああっ!!」
 ……哀れなり葛田玖逗夜。


  校庭。

「あれ?」
「どうした! 何をしてる、さっさと来い!」
「う〜ん……よっと」
 新しいヒモを引っ張る和馬。


  学園二年生棟エディフェル3階廊下。

――ガシャァァァン!!
「な、何? なんなのコレ!?」
「だ、誰だぁぁぁあ! 僕と浩之の愛を邪魔するヤツぁぁぁあ!」
 四季と佐藤雅史に追いかけられていた藤田浩之は、上から降って彼らを閉じ込めた檻を
呆然と見ていた。が、気を取り直して一言。
「逃げるか……」


  校庭。

「また失敗か……」
「おいまだか!? せっかくの先程までの興奮が静まってしまうだろ!」
「……よいしょ!」
 三度ヒモを引っ張る和馬。すると……
「……あ」
 ボロリと崇乃の『浄眼』から涙が零れ落ちる。


  ジャッジ本部。

「う、嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 校庭の様子を一部始終見ていた冬月俊範は、人目もはばからず絶叫をあげていた。それ
もそのはず……


  校庭。

「に、げ、ろぉぉぉお!!!!!!」
 こっちは別の意味で絶叫をあげている崇乃。言われなくてもワラワラと蟻のように逃げ
出し、散らばっていくギャラリー達。崇乃も和馬の腕を掴み、もう体力のない身体なのに
ダッシュする。それの落下に巻き込まれないために。
       ~~~~

  再びジャッジ本部。

――がくっ
 膝をつく俊範。
「う、嘘だ。こんな、こんな馬鹿なことって……」


  校庭。

「くま先輩……」
「なに?」
「どーするんですか、あれ」
 崇乃は指差す。和馬の『魔法のヒモ』の力で落ちてきた『戦艦冬月』を。
 秋山登の頭の上に落ちてきた『戦艦冬月』を。
「結構壮観だねぇ……」
「他人事のように言わないでよ」
 和馬に「壮観」と言われたので、なんとなく『戦艦冬月』を見上げる。
「(はぁぁぁぁぁぁ)」
 実に壮観だった。全長480m、約12万4千トン。それが今や、まるで某タイタニッ
クの沈んでいくシーンを彷彿とさせるかのごとく地面に3分の1ほど突き刺さっているの
だから。
「どうするん、先輩……」
「どうしようか……」
「どうしよう……」
「………………」
「………………」
「どうしよう……」
「………………」
「………………」
「どうしよう……」
「……で」
「………………」
「どうしよう……」
「何時の間に来たんですか? 河島先生」
「え? あ、はるかさ……河島先生」
「どうしよう……あ、や」
 にこやかに答えるのは河島はるか。学園の体育教師だ。
「困ってるみたいだね」
「困ってるんですよ」
 当たり前なことを言い返す崇乃。
「どうしましょう」
「和馬。さっきのヒモ、貸して」
「あ、はい」
 中空より伸びたヒモを、はるかに手渡す和馬。
「ん〜……それ」
 引っ張る。


  またまたジャッジ本部。

「はは、はははは、ははは……」
 目が虚ろになっている俊範。完全に床に座り込んでいる。もう立つ気力さえ残っていな
いらしい。


  校庭。

「河島先生……いいんですか?」
「さあ?」
「さあ、って……はぁ……」
「こーいうのもたまにはいいんじゃないかな?」
「お気楽ですね、先輩」
 彼らの目の前。もはや、何もない。
 『戦艦冬月』と秋山登が落ちていった――はるかがヒモで創りあげた――落とし穴の残
痕以外は……。


  その頃、地中深く。

「ふぬ〜、ひょうふぉふぁふぁくふぇんふぁんふぇんふぁふぁあ」
(訳:ふぬう、今日のは100点満点だな)
 ……マジ?


 試立Leaf学園は、一部を除いて今日も平和だった。


                                         99/02/07
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≪アトガキ≫

はるか「平和だね」
 崇乃 「どこが?」
はるか「……空が青いや」
 崇乃 「ごまかさないで」
はるか「前回のLメモからまだ3日しか経ってないね。心境の変化?」
 崇乃 「いや、ただ……チャットであったくまさんの『ヒモ』の話を使ってみようかなって」
はるか「ふ〜ん」
 崇乃 「さて、今回の生贄作家さんは……なんと6人!
    秋山登さん、九条和馬(くま)さん、ハイドラントさん、
    葛田玖逗夜さん、四季(春夏秋雪)さん、冬月俊範(戦艦冬月)さんです!」
はるか「和馬以外はみんな色んな意味で酷い目にあってるね」
 崇乃 「ま、まぁ……ギャグだから」
はるか「そうなんだ」
 崇乃 「………………」
はるか「………………」
 崇乃 「みんな。ごめんね(深々・謝)」
はるか「じゃ、終わろ」
 崇乃 「あ、なに勝手に締めてるんですか。書いてるのは俺なんですよ――」

――ストン
 と幕が下りる。