「放課後の崇乃・8」交錯編 投稿者:八塚崇乃



 夢。
 夢を見ている。
 あの時の――俺が、俺達が、二番目に幸せだった時の夢を。
 忘却(レーテ)の河の底に沈んでしまった、本当に幸せだった時の夢を。



            Lメモ(8)「空紅く、刻は流れ」



「剣の銀よ!」
――バチバチィッ!
 漆黒の時間。
 夜の闇を切り裂くような電撃が、年の頃12歳ほどのショートカットの少女の右手から迸
り、目標である大きさ20cmくらいの背中から鳥の翼を生やした蟻、その群れに突き刺さる。
――バチッ!
 命中音。同時に、
――ぎうううううううううっ!!
 死の絶叫を撒き散らしながら『翼蟻』の群れの内、三分の一が消滅する。
――しゃぁぁぁぁぁぁっ!!
 報復か、少女に向かって襲い掛かる『翼蟻』達。だが少女は怯まない。今度は左手を前
に突き出し、唱える。
「盾の金よ!」
――パンッ!
 遠くまで澄み渡るような音。それにより、巨大な半透明の『壁』が少女の眼前に創られ
る。『翼蟻』達は突進の勢いからか、止まることもできず『壁』にぶち当たる。
――バチバチバチバチィィィィィィッ!!!!!!
――ぎうううううううううううううううううううううううううううっ!!!!!!
 先程とは比べ物にならないくらい大きな絶叫が、辺り一面にこだまする。『壁』に触れ
た『翼蟻』達は、それに流されていた電撃によってほぼ全てが灼かれていた。


「もう、終わろ……」
「ク、クルナ! クルナーッ!!」
 ロングヘアの少女が、視線の先にいる少年――正確にはその背中から滲み出ている存在
に語り掛けている。
 少年の顔は虚ろだったが、背中にいる半透明の『ヤツ』は恐怖で怯えた顔をしていた。
 『ヤツ』は躯を細かく震わせると、叫ぶ。
――がああああああっ!!
 瞬間、『ヤツ』の躯から、さっきまでショートカットの少女が戦っていたのと同じ『翼
蟻』が創られ、具現しようとする。が、
「射干玉(ヌバタマ)の獣」
 呟いた少女の方が速かった。
――ズ……ン
 彼女の頭上から『闇』が産まれ、地面に落ちる。『闇』は、ビクンと胎動すると、瞬時
に膨れ上がり、全長は1.5mはある
妙に頭部の平べったい『人型』へと変化する。
 『人型』は、具現しようとしていた『翼蟻』には目もくれず一気に『ヤツ』に近づく。
「ヒィッ!!」
 明確な恐怖。『ヤツ』は憑いていた少年の身体から剥がれ落ちると、自らの躯を転移さ
せ――
「……baw」
 られなかった。『人型』が、『ヤツ』の周りにある夜闇を操ったためである。
「ヒイイイイイイイイイッ!!」
 転移できないと知るや、飛んで逃げようとする『ヤツ』。けれども、それもできない。
夜闇が『ヤツ』の躯を縫いとめているから、身動きすらできない。
「さよなら……『蟲』の邪精霊。――グェド!」
「……baw」
 夜が、闇が、「グェド」と呼ばれた『人型』の両手の中へと固まっていく。まるで、そ
この空間だけに黒ペンキを塗ったように。そしてそれが放たれ、『ヤツ』に一直線に飛ん
でいく。
「ヒ……!」
 命中。
 だが、悲鳴は聞こえなかった。『ヤツ』は、抱かれるように闇に躯を侵食され、そのま
ま消えていった。


「大丈夫?」
 背中に気絶している――同じ歳くらいの少年を背負ったロングヘアの少女が、『翼蟻』
の群れと戦っていたショートカットの少女に問う。
「あ、文月お姉ちゃん。そっちは?」
「終わったよ。……葉月、怪我、ない?」
「うん、全然平気よ!」
 それぞれに互いのコトを「文月」「葉月」と呼ぶ、顔つきがとてもよく似た少女達。見
合わせ、見つめ合いながら、そして急に笑い出す。文月は腰まで届く黒髪を細かく揺らし
ながら。葉月は、肩までしかない黒髪が跳ねるように。
 その時――
「ギガアアアアアアアアアッ!!」
 二人の背後から、文月が消滅させたはずの『蟲』の邪精霊が現れる。
「え?」
「なん……で!?」
 信じられないものを見たという顔の葉月。驚きの表情を隠せない顔の文月。
 戦いの緊張感が抜けきってしまったのか、反応ができない。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
 半分千切れかけた右腕を、葉月の頭に振り下ろそうとする『蟲』。しかし――
「……我が骸を護れ深淵」
――ガギィィィン!
「え?」
 驚きの声。それは文月、葉月のどちらが出した物なのか――『蟲』の邪精霊が振り下ろ
した右腕は、彼女ら3人――文月と葉月、そして少年――を包み込むように創られた球状
の結界によって阻まれていた。
「ガッ!?」
 硬直する『蟲』。だがそれが、命取りだった。
「我が夢より来たれ水姫」
 『蟲』の背後から聞こえてくる声。数秒後……断末摩が響き渡った。


「兄さん……なんで来たの?」
 帰り道。不機嫌そうな声で文月は、隣を歩いている自分の兄である八塚崇乃に問う。
「………………」
 答えない。が、代わりに感情の無い、色違いの瞳で文月を見つめる。
「………………」
「………………な、なによ?」
「……いや」
「あ〜〜〜、お兄ちゃんお姉ちゃん! なに見つめあってんの〜〜〜!?」
 明るい声で、懐から眼鏡ケースの中に入っている眼鏡を取り出しながら葉月が茶化す。
「………………馬鹿」
――ゴン!
「いっ……った〜〜〜い! 文月お姉ちゃん殴らないでよ〜〜〜……」
「オーバーよそれくらいで……軽く小突いただけでしょ」
「えへへ。バレた?」
 眼鏡を着けながら笑う葉月。そんな自分の妹を見ながら、溜息を吐く文月。
 と、唐突に崇乃が喋り出す。
「さっきのやつはいいのか?」
 どちらに話しかけたのかも判らない質問。それに葉月が答える。
「邪精霊に憑かれてた男の子? 後遺症もなかったようだし、いつものように記憶が曖昧
になってるはずだから適当にベンチの上に寝かせといたよ」
 さほど心配そうにしない葉月。
「………………珍しいね。兄さんが他のコトに気をかけるなんて」
 文月、少しだけ悪意のこもった口調。けれど崇乃は答えない。
 ……静寂。三人とも押し黙る。
 数10分ほど歩き、ようやく目的地である自宅へと辿り着く。
「着いた〜〜〜! さ〜って、今日のご飯はな〜にっかな〜〜〜!」
 嬉しそうに、玄関へと走る葉月。
「馬鹿。近所迷惑っての知らないの……?」
「………………」
 呆れた視線と、ただ見つめるだけの視線を、妹の後ろ姿に注ぐ二人。続けて、玄関へと
視線を移動させる。
 そこには、人がいた。崇乃達を出迎えるためにわざわざ待っていたのだろう。
「ただ〜いま!」
「おかえり、葉月ちゃん」
 家の中に入る、葉月に優しく声を掛ける八塚家の同居人。
「ただいま。蘭くん」
「おかえり、文月ちゃん」
 そして、八塚崇乃にとっての――彼が感情を無くしても、変わる事なく普通に付き合っ
てくれた――親友だった人間。
「………………」
「おかえり、崇乃」
 相馬蘭は、いつものように優しく三人を出迎えた。






  放課後、教室。

「お……さい……! ……かくん!」
「ん……」
「やつ……ん! お……さいっ……!」
「んん〜……」
「起きなさいよっ! 八塚くん!」
「ん〜……、ZZZ……」
(……ムカッ)
――ゴスッ!

「痛〜〜〜〜〜〜っ!!」
「やっと眼が覚めた?」
「っ〜〜〜……って、あれ? ……マナさん?」
 教室。誰もいない教室。八塚崇乃と観月マナしかいない教室。
「……なんで授業中に三年生がこんなトコにいるの?」
「まだ寝ぼけてるの……もう放課後よ」
「あ」
 窓からは紅い夕焼けが見えた。思わず腕時計を見る崇乃。
「………………」
「これで完全に眼が覚めた?」
「……はい」
 何故か痛む後頭部をさすりながら崇乃は答える。
「まったく……暇だからせっかく買い物の荷物運びしてもらおうと思ってわざわざ柔剣道
場まで迎えに行ったら今日は部活に出てないってよっしーくんに言われた後ナンパされた
し九条くんには血を吐かれるし死なれるし……散々だったわよ」
「大変だったんだ」
 少しだけ、笑いながら同情する崇乃。
「誰のせいよ。誰の」
「あ、いや、……はい。俺のせい」
「判ればいいのよ」
 危険感知の『浄眼』から涙が零れそうになったので慌てて謝る崇乃。放っておいたらマ
ナのスネ蹴りが飛んでいたかもしれない。
「………………」
「……え、なに?」
 見つめる――いや、睨むマナ。崇乃はうろたえる。
「八塚くん……」
「え?」
「いつから寝てたの?」
「あ、え……っと、6時間目の授業の途中までは記憶があるんだけど……」
「ふ〜ん……あ」
 今、気がついたような声をあげるマナ。再びうろたえる崇乃。
「え……今度はなに?」
 その声には答えない。そっと崇乃の顔を両手で挟む。いや、顔ではなく、サングラスを。
「フレーム、少し曲がってるわよ」
 サングラスを、外す。
「……ほんっと、なんでこんなの着けて寝るの? 壊れるでしょ?」
「……ごめん」
 謝る。が、マナは崇乃の方に視線を合わせず手の中でサングラスをいじりながら、フレ
ームの曲がり具合を直していく。
「だいたい……似合ってないのに。サングラス」
「そう、かな?」
「そうよ!」
 ハッキリと断定をするマナ。
「けど……カッコ悪いでしょ」
「似合わないサングラス着けてる方がよっぽど格好悪いわよ……八塚くん、そんなに格好
悪いってほどでもないでしょ? ごく普通の顔だし……身につけてるものに気をつかえば、
女の子だって寄ってくるのに」
「いや、そういうのあんまり好きじゃないし……それに……やっぱりカッコ悪いじゃん」
「どこがよ」
「ほら……」
――スッ
 しゃがむ崇乃。そしてサングラスのフレームを直しているマナを見上げる。
「俺、こんなだから……」
 マナを、見つめる。
「あ……」
 マナの手が、止まる。
「………………」
 驚いたから。
「………………」
 崇乃の、色違いの瞳に。
「………………」
 黒と、蒼の瞳に。
「………………」
「やっぱ、気味が悪いでしょ?」
 苦笑しながら、マナからサングラスを取り上げ、着ける。
「………………」
「………………」
「……え?」
 無言で、マナは崇乃からサングラスを奪う。
「マナ……さん?」
「………………」
 喋らない。そのまま、崇乃の顔を両手で挟む。サングラスはないから、顔を。
「………………」
「………………」
 沈黙。
 夕焼けが、二人を紅く染め上げる。
「………………」
「……私は好きだけど。崇乃くんの、その瞳の色」
「……え?」     ~~~~


               不意に、思い出される。


      「奇麗ですよ、崇乃。もっと自信持ったらどうなんですか?」
          「わたしは好きだよ。お兄ちゃんの、その色」
        「少なくとも、嫌いじゃない。だから葉月と同意見ね」


       暖かさと、それ以上の『痛み』を持つ、過去の思い出が。


「どうしたの?」
「……あ」
「?」
「うん……」
 彼は、立ち上がる。
「極力、さ……」
「うん」
 彼女も、立ち上がる。
「体育の時間とか、部活とかでも……できるだけ外さないようにしてたんだ」
「うん」
 窓側に移動する。
「でも……」
「………………」
 ゆっくりと、彼女は彼に近づく。
「嬉しかった。けど……」
「………………」

  できるだけ、忘れないように。そのために……着けたから。

「まだ、外したくないんだ……似合わないって言われても」
「………………」

  過去を、忘れないように。

「でも、今日だけは」
「………………」

  幸せだった日常の1ページを、忘れないように。

「マナさんがこの色を好きって言ってくれたから……今日はこのまま……帰る」
「……うん」

  そして、『痛み』を忘れないように。

「だから、途中まで預かっててね」
「うん」
 ポケットから少し古めの眼鏡ケースを出し、マナにそれを手渡す。
「確かに……預かったわよ」
 サングラスを、ケースの中にしまう。
 そして、見つめ合い、声を出して笑った。


「崇乃君帰るわよ。仕度しなさい」
「うん……鈴花は?」
 現在その場にいない少女の名を口に出す崇乃。
「校庭で初等部の子供達と遊んでたわよ。下で会えるでしょ」
「そっか……」
 カバンを背負う。
「さ、行きましょ」
「ん」
 マナ、教室から廊下に出る。その後に崇乃が続く。
「そうだマナさん」
「ん? なに?」
 振り返らず、返事をするマナ。
「今日さ、初めて名前で呼んでくれたね」
「あ……」
 瞬時に、顔が赤くなる。夕焼けの色で染められた以上に。
「ば、馬鹿! もう……馬鹿!」
 怒るマナを後ろから眺めながら、音を立てず笑う崇乃。
(そんなマナさんが……俺は――)
 右手で右半分の顔を押さえる。込み上げる笑いの表情を彼女から隠すように。
 だが、その動作を最後に、崇乃の足音が、止まった。


 足音が、自分の物しか聞こえなくなる。
「……崇乃、くん?」
 マナは、振り返る。
「え、なに?」
 返事をする、崇乃。
「泣いて……るの?」
 顔を押さえている彼を、彼の顔を、見る。
「うん……そうみたい、だよね。なんで……なんでだろ?」
 涙が、ボロボロと零れ落ちていた。『浄眼』だけの、左半分の涙ではなく、両目からの
涙。
「崇乃くん……」
「だ、大丈夫。すぐに、すぐに止まるから。ちょっと待って……」
 彼女の心配そうな表情を明るいものへと変えるため、上を向き目をつぶって涙を止めよ
うとする。
「………………」
「あ、れ? どうし、て……止まんない。おい、止まれよ……なんで、涙が、なみだがあ
ふれてとまんなくて……あれ?」
 止まらない。崇乃の意思に反して、涙は止まらない。

  思い出したから。
  暖かかった日常の、思い出を。

「………………」
「いいかげんにしろよ俺。なにも哀しいことなんてないんだから、止まれよ。……止まれ。
止まれったら!」

  嬉しかったから。
  過去の大切な人達が言ってくれた言葉を、今の大切な人が言ってくれたから。

「………………」
「止まれって言ってるだろ! 止まれよっ! とま、れ、よ……」

  そして、思い出したから。
  暖かかった日常を、壊してしまった者の存在を。

「とまれ、よぉ……」
「……崇乃くん!」
――ギュッ
「……っ!?」
「しばらく……泣いていいから」
 マナは、崇乃の頭を抱きしめていた。
 強くもなく、弱くもなく、ただ優しく。
「よく判らないけど、我慢してたの?」
「………………」
 答えない。が、気にせず続ける。
「なにか、嫌なことでも思い出した?」
「………………」
「それとも、もっと別のコトが理由なの?」
「………………」
「……泣いて、いいよ」
「………………うっ……ううっ……」
 鳴咽が洩れ始め、けれど、静かに崇乃はマナの胸の中で泣き始めた。
 身体を震わせながら。
 ゆっくりと、ゆっくりと、ただ、静かに……。






「もう少し、様子を見てみようか」
 地上40m。Leaf学園の屋上よりも高い位置に浮かんでいるその影は、誰に聞かれる
こともない言葉を呟く。
「そう……後、1年くらい」
 重力を制御しながら、地上へと降りていく。
「それくらい待てば、また崇乃の絶望の瞬間が見れるのかな?」
――スタッ
 誰にも見られることなく奇麗に着地しながら、先程まで見ていた状況を思い出す。
「観月マナ。それが君が大切にしている人の名前ですよね」
 転移装置へと歩きながら、再び呟く。
「1年。1年待っててね葉月ちゃん。お友達を……連れて行くよ。そっちに」
――ブシュウウウ
 転移装置の扉が開く。そしてその中へと入る。
「じゃあ、またね。崇乃」


                                         99/02/21
                                         99/02/22改
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≪アトガキ≫

崇乃「八塚崇乃、Lメモではシリアス初挑戦は『過去(4年前)』と『今』の交錯編です」
文月「……どうもおかしいトコがたくさんある気がするんだけど?」
葉月「気にしちゃいけないよ。初めてなんだし」
崇乃「でも、自分でもかなりおかしいと思ってるよ。このLメモ」
 蘭 「結局の所、せっかく書いたから投稿してみようって思ったんでしょう? 違いますか?」
崇乃「的確なツッコミをありがとう」
文月「けどこれだけじゃ、わたしと葉月、蘭くんのコトがよく判らない読者が多いんじゃない?」
崇乃「う……気にしないで欲しい」
葉月「ワタシ達が気にするよ〜」
 蘭 「僕は全然気にしませんが」
崇乃「あ〜、判った。じゃ、軽く書いてみよう。

   八塚文月
    八塚崇乃の妹。
    誰彼構わずぶっきらぼうな口調で接するので近寄りがたい雰囲気を持たれるが、
    実際は感情の表現がうまくできないだけで、万人に優しい。
    属性は『闇』。夜の精霊グェドを使役する。
    特殊能力は、霊的なシールドの『龍鱗』。
    精霊との契約の印は左肩の奇妙な呂(くろ)色の紋様。
    『過去編』では感情を無くしている兄、崇乃を嫌っている。

   八塚文月
    八塚崇乃の妹。そして文月とは双子である。
    明るく元気。オーバーな表現が好き。
    感情を無くした崇乃をとても気に掛けていて、よく彼とひっついている。
    属性は『雷』。今回は書かなかったが雷の精霊ナゥ・ルフを使役する。
    特殊能力は、跳躍力を高める『瑠璃翅(るりはね)』。
    精霊との契約の印は右人差し指の菫色の爪。
    『過去編』オンリーのキャラ。

   相馬蘭
    八塚家の同居人。
    分け隔てなく他人と接する優しい少年。
    そして八塚崇乃の親友。
    ごく普通の人間のはずなのだが、実際には……?
    イメージキャラは『東京BABYLON』『X』の『桜塚星史郎』(爆)。

   ま、こんなもんかな?」
文月「さらに判らなくなった気が……」
 蘭 「それよりも……書くんですか?」
崇乃「何を?」
葉月「『過去編』と『八塚時空編』だよ。決まってるでしょん☆」
崇乃「あ、あは、あははは……(乾笑)」
文月「前から気になってたんだけど……『WA』の『観月マナ』と
   兄さんの書く『Lメモ』の『観月マナ』って……もしかして」
崇乃「うん。多分性格が少し、いや、違うと思う」
 蘭 「どうしてですか?」
崇乃「『WA』じゃ『藤井冬弥』の視点から見た……つまり年上の視点から見た『観月マナ』」
葉月「ふんふん。で?」
崇乃「俺の『Lメモ』の『観月マナ』は、『八塚崇乃』の視点……年下の視点から見てる」
文月「それから?」
崇乃「『WA』の『観月マナ』は年上を相手にしてるからあんな態度を取るけど、
   俺の『Lメモ』の『観月マナ』は年下を相手にするときっとこんな感じに動くと思う――」
 蘭 「けどそれはきっと、崇乃の一人よがりな思い込みじゃないですか?」
崇乃「………………」
文月「……あ」
葉月「お兄ちゃん。なんか、震えてない?」
崇乃「蘭……てめえ、コロす!!」
葉月「あ〜ん! お兄ちゃん通常モードでキれちゃったよ〜!」
文月「馬鹿」
崇乃「ちょっと待て! 蘭! てめぇ!」
 蘭 「はっはっは……また会いましょう!」

――ストン
 と今回はドタバタの内に幕が下りる。