「放課後の崇乃・9」部活編その参 投稿者:八塚崇乃



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              和馬先輩に捧げます(爆)。

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  PM3:00。工作部部室。

「じゃ、保科さん。よろしくお願いします」
「うん。いつもの通り6時頃に迎えに来るんやろ?」
「ええと……そうですね。大体それくらいの時間に」
「曖昧やなぁ……」
 ジト目で睨んでくる保科智子に対し、頭を掻きながら力なく笑う八塚崇乃。けどそれも
一瞬の事。崇乃は智子の両手の中にいる妹的存在のMHM、鈴花に言う。
「おとなしくしてるんだよ」
「わかってるでし!」
 微笑みながら答える鈴花。それを見ながら、崇乃は工作部部室を後にした。


  PM3:03。工作部近辺の廊下。

「あ、菅生先輩」
「おや、八塚くん。……ああ、そうか。今日は週に一度の鈴花のメンテの日だったね」
 どんなに高性能のHMといえど、やはり定期的にメンテナンスなどをしなければならな
い。崇乃は工作部の智子を通し、工作部部長である菅生誠治に週に一度、鈴花のメンテナ
ンスを依頼しているのだ。
「これから部活かい?」
「はい。……いつもすみません。工作部を託児所代わりに使っちゃって……」
「ははは……君が初めてだよ。ウチの部室をそんな風に言うのは」
 笑う誠治。崇乃は申し訳なさそうな顔をしている。
「それじゃ、また後で」
「ああ」
 その場を後にする崇乃。と、
「……そうそう。八塚くん」
 誠治が思い出したように崇乃の背中に言葉を放つ。
「え? あ、なんでしょう?」
 振り向く崇乃。
「今度、よっしーくんも連れて来てくれ。彼に作った『速度制御器』もそろそろ整備しな
きゃいけないからね」
「はい。判りました〜」
 再び会釈。今度こそ崇乃はその場を離れた。
 向かう場所は、柔剣道場。


 柔剣道場。
 試立Leaf学園の中では、知名度の低い建造物ワースト3に入る。
 そして、今回はここで、他愛もない事件が起こった。



             Lメモ(9)「音果つる道場」



  PM3:10。柔剣道場。

「ちわーっす! ……あれ?」
 モワッとした湿度の高い空気立ち込めている柔剣道場に、崇乃の挨拶が響き渡る。が、
誰も返事をしない。
 当然だろう。見る限りでは誰もいないのだから。
 呟きながら道場に足を踏み入れる。
「……早く来すぎたかな」
 八塚崇乃の所属する剣道部の練習時間というのは、実にいいかげんである。授業が終わ
ったと同時に部活が始まる日もあれば、4時になっても始まらない日もあるし、不定期に
休みの日もある。
 しかし部活のある日は、何時に始まっても決まって5時半には練習が終わり、掃除や後
片付けも含めて結局は6時ごろに解散となる。
 大体の所、こんな感じなのだ。Leaf学園の剣道部は。
「カーテンと窓開けないと……」
 薄暗くて熱で蒸す柔剣道場を、少しでも明るく、涼しくするために、まず一番近くにあ
るカーテンに手を掛ける。
――シャッ
 勢いのいい音を立てながら、まず最初のカーテンは開かれる。
「――わっ」
 外から降り注ぐ日光が、サングラス越しに目の中に入り、目を細める崇乃。
 だがサングラス越しなので大して眩しくはない。すぐに目を開く。
――パン……ガラッ
 ロックを外し、窓を全開にし、蒸した空気を外に逃がす。
「ホントに早く来すぎた。俺一人で全部やるのか……」
 ブツクサ言いながらも、一連の動作を五、六度繰り返す。
――シャッ
――パン……ガラッ
――シャッ
――パン……ガラッ
――シャッ
――パン……ガラッ

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                    ・
                    ・

「さて……」
 明るくなり、大分涼しい風が入るようになった道場。腰に手を当てながら、今からどう
しようかと崇乃は悩む。
(う〜〜〜ん……)
 数秒思案した後……
(着替えようか)
 とりあえず部室へと歩き出した。


  PM3:20。柔剣道場内剣道部部室兼男子更衣室。
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「女子更衣室は別にある……って、何を言ってるんだ、俺は!?」
 誰に言ったのか判らないような台詞は置いといて……崇乃は道着や袴が散乱している部
室の中で、少々立ち尽くす。
「掃除しないといけないな……」
 ゆっくりと周りを見回す崇乃。
「色々散らばってるよな。スポーツバッグに竹刀に袴に胴に前垂に鍔に道着にくま先輩に
面に小手に包帯にヒモにコールドスプレーに紙やすりに錠剤やカプセルに……」
 ………………。
 瞬間、世界が止まっていた。
(………………)
 ……「何も見なかった」と言いたげな顔で、崇乃は自分の道着が置かれている場所に行
く。
「う……」
 ……「何も聞こえなかった」と言いたげな顔で、背中にしょっているナップサックを降
ろす。
「ううん……」
 道着に着替えるため崇乃は学ランに手をかけ、第一ボタンを外――そうとしたのだが、
諦めたのか声のした方向を見る。そして、
「……ZZZ」
「(はああああああ……)」
 深く溜息を吐いた。

「ほら起きてよ。風邪ひくよ、先輩」
 ユッサユッサと身体を揺すられても、九条和馬は起きなかった。
「なんでこんなトコで寝てるんですか。死体と間違えそうだから起きてよ先輩。く〜ませ
〜んぱ〜い」
 頬杖を突き、どこから持ち出してきたのか毛布を被って寝ている和馬。実に呑気なもの
である。ちなみに今の寝顔は、珍しいことにとても血色がいい。(それ、寝顔ちゃう……)
「後輩一人に働かせてなに寝てんですか。起きてったらくま先輩」
「……ZZZ、……ZZZ」
 起きない。……それ以前に何故こんな時間にこの場所で寝ていたかの方が気になるはず
なのだが、崇乃はそれに気がつかない。
 ふと、崇乃は和馬の頭の辺りを見る。
(………………)
 右手を枕にして寝ている和馬。
(………………)
 少しだけ、崇乃の心の中に好奇心が芽生えた。
「………………くませんぱーい。起きてくださーい」
 両手を使って、和馬の頭を支えている右手を、外す。
――ごろっ
 当然の如く、和馬の頭のバランスは崩れ――
――ゴンッ!
 ………………………………………………床に、顔面で、キスをした。

                    ・
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 ……死よりも深い静寂が、剣道部部室を支配した。
 床は、まるでペンキをこぼしたかのように朱紅(あか)く染まっている。
――ドクドクドク……
 まだ血は止まらない。
――ドクドクドク……
 まだ止まらない。
――ドクドクドク……
 止まらない。
――ドクドクドク……
 止まら――いや、止まったようだ。
「く、ま先輩……?」
 顔面蒼白の崇乃が、誰に聞かせるでもなしに、小刻みに震える唇で言葉を紡ぐ。
「や、やだなぁ……これくらいで死んだりしないでしょ?」
 ユッサユッサと和馬の身体を揺らす。
「ただ、ああしたらビックリして起きるかな? って思って、右手を……」
 混乱した口調でなおも和馬の身体を――今度はさっきよりも激しく揺らす。
「……じょ、冗談でしょ? 目、覚ましてくださいよ先輩」
 和馬の身体に天井を向かせ、心臓の位置に耳を当てながら心音を確かめる。
――シ……ン
 続いて、右手を取り、脈を確認する。
――シ……ン
 瞼を開かせ、瞳孔を見る。
(………………)
 完全に、開ききっていた。和馬の、瞳孔は。


   「音果つる道場‐剣道部殺人事件ファイル2‐」《ババーン!!》(←SE)


「違うっ! わざとじゃないんです! ほんの遊び心で、くま先輩の右手を払っただけな
んです!」
「ふざけんなっ! たったそれだけで人間が死ぬとでも思ってんのか!!」
「まあまあ、落ち着きなさいって」
「長瀬さん……しかしっ!」
「ここはわたしにまかせて……ねっ!」
――ばんっ!
 机を叩く長瀬源三郎刑事。優しそうな表情に、疑いの視線を交ぜ、崇乃に問う。
「さて、どうやって殺したのかな?」
「本当なんです刑事さん! 信じてくださいっ!!」

「え〜、ここが殺人事件の起こった学校です。ちょっと生徒達に聞いてみましょう」
 マイクをそこにいる数人の生徒に向けるレポーター。
「………………」(にこっ)
「まったく……信じられねえな。あいつが人殺しだなんて」
「私、崇乃くんのコト信じてたのに……」
「崇乃しゃ〜ん! 見てるでしか〜?」(にぱっ)
「補習よ! 補習!」

                    ・
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                    ・

「いいいいいいやぁだああああああああああああああああああっ!!!???」
 頭を抱えながら喉よ潰れろとばかりの絶叫。そこへ――
「あれ? 誰かいるのか?」
「八塚先輩の声じゃない?」
「けど……叫び声あげてなかったか?」
(ひいっ!?)
 心の中で悲鳴を出す崇乃。どうやら剣道部の後輩が柔剣道場の中に入ってきたようだ。
(ど、どどど、どうするどうするどうする?)
 外の方向と部室内の血溜りの中の和馬を何度も見比べ、自問自答する崇乃。訳もなく腕
を振り回したりしている。
 数秒ほどそうしていたが、唐突に止まる。
 そして、決意の言葉を絞り出した。
「我が――」


「よかったー。窓開ける手間省けた」
「先輩さまさまだよなー」
「ほんっと」
 靴を脱ぎ、道場に入ろうとする後輩3人。そこへ、
「我が夢より来たれ水姫!!」
――ドゴオッ!
 崇乃の声。その声に被さるように破砕音。
「な、なんだぁ?」
 後輩Aが音のした方向を見――
――がすっ!
 ることはできなかった。蒼い色をした『何か』に衝突し、気絶してしまったからだ。
「お、おいっ!?」
「な、あ、あ、あれ、なんだよ?」
 後輩BとCは、ぶっ倒れた後輩Aと、壊れた部室のドアを見ながら、呆然としていた。


  PM3:30。『学園』内を滑空しながら移動しているエスプィアの背中の上。

「どどどどどどーーーしよーーーーーー!」
 かなり高速で滑空しているため、その叫び声が通りかかった生徒に聞こえる頃には崇乃
とエスプィアは、もうその場にはいない。それはともかく……現在エスプィアは翼を生や
し(ほとんど見せかけでしかないのだが)、背中に崇乃を乗せ、両手にちょっぴり朱紅く
染まった毛布を――人型のようなモノを抱えている。
「持ってきちゃったよーーーーーーーーー!! どーーーしよーーーーーー!!」
 ……要約すると、崇乃は持ち出してしまったようだ。和馬の、死体を。
「………………あう」                   ~~~~
 後悔の念と、葛藤が心の中で攻めぎあう。が、それも数瞬。
「焼却炉で、焼こう」
 崇乃は証拠隠滅を考えた。


  PM3:40。『学園』内、人気のない場所。

「んしょ、んしょ、んしょ……」
 毛布に着るまれたままの和馬を、筋肉のあまりついていない身体で運ぶ崇乃。脚の部分
を両手で引っ掴みながら荷物のように引きずる。
「隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなき
ゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなき
ゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなき
ゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなき
ゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなき
ゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなき
ゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ死体を隠さなきゃ」
 もう完全に犯罪者である。今ここに第三者がいれば、きっとこう言うだろう。
『なにあのヒトー。目が恐ーい』
 と。
 前方100mに焼却炉が見えてきた。崇乃は和馬の脚を持ち直し、また引きずる。
「隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなき――」
「あれ? 崇乃じゃない」
 ………………。
 今回二度目の表現だが、あえてもう一度。
 ……瞬間、世界が止まっていた。
 大きく目を開く崇乃。ただ、サングラス越しなので(あ、これは三度目の表現だ)相手
には見えなかったが。
「ティ……ティティティティリアさん!?」
 目の前には剣道部コーチのティリア・フレイがいた。
 崇乃の驚きの声には反応せず、ティリアは彼の運んでいた『荷物』に気を取られている。
「崇乃……なんなの? それ」
「え、え、え、あ、いや、ははは……部室にあったゴミを一まとめにして今から焼いて埋
めて殺して犯そうと……」
 完全にパニック状態に入った崇乃。このパニックの度合いは、過去に『りーふ図書館』
館長のまさたと初めて遭遇した時のものを越えているだろう。
「ふ〜ん。なんか猟奇的な順番ね」
 怪しげな言動を軽く受け流すティリア。まるで某エク○ル・サーガ3巻174ページの
ハっちゃ○のような台詞を言う。
 そして彼女は少し照準した後、
「手伝うわよ。それ運ぶの」

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「よーいしょっと。崇乃、そっち持ち上げてくれないかな」
「……はい」
 焼却炉の蓋を開け、虚ろな目で答える。心の中では「完全犯罪は目の前だ!」とか思っ
ているのかもしれない。
(完全犯罪は目の前だ……)
 ……ホントに思っていたようだ。
 ともかく、ティリアに言われたように和馬の脚の部分を持ち上げる崇乃。そのまま焼却
炉の口の部分に突っ込む。
「はい、どいてー」
 ティリアが毛布で隠れた和馬の頭の部分を押しながら、焼却炉の奥の方へと入れようと
する。が、
「そういえば崇乃。実際はコレ、なんなの? なんか……人間運んでるみたいな感じがし
たけど」
「!」
 手を止めてかなり危険なことを聞いてきたティリアに、崇乃は動揺する。けれど追撃は
止まらない。
「中は……」
――ぺろっ
 と、毛布を引っぺがす。
「あ゛!」
 絶句するが、もう遅い。崇乃の見ている前でティリアは毛布の中身を見てしまって……

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           そのとき、だれかがつぶやいたきがした。
           「はるかぷらちな・ざ・わあるど」と。
           そして、ときはとまったようなきがした。
             あくまでも、きのせいだけどね。

「ふぁぁぁ……」
 むっくりと、和馬が起きる。
「あれ? 八塚くんにティリアさん。何してるんですか? こんな所で」
 いつまでも、二人は動かない。
 完全に殺してしまったと思っていた先輩が、生き返ったから。
 まさか自分が、死体遺棄の共犯者になってしまっていたとは、夢にも思わなかったから。
「八塚くーん。ティリアさーん。聞こえてますー?」


 試立Leaf学園は、一部を除いて今日も平和だった。


                                         99/02/24
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≪アトガキ≫

 崇乃 「由美子さんの使い方に関しては、かなり悪意が入っているのは気のせいです(爆)」
ティリア「由美子かわいそー」
 崇乃 「いいの。俺は楽しいから」
ティリア「ひっどーい。それに今回の文章は、なに?」
 崇乃 「死体遺棄」
ティリア「あっさり言わないでよ! 人に手伝わせておいて!」
 崇乃 「やっと書けたくま先輩&ティリアさん登場の『部活編』です」
ティリア「あのね。いつも思うけど、部活してないじゃない!」
 崇乃 「コーチが来ないし」(言いながらティリアを見る)
ティリア「シクシクシク……」
 崇乃 「本当はもっと真面目な話を書こうと思ったんだけど、
     くま先輩が『ハ○アット』状態になってからはこうなっちゃいました」
ティリア「でも、和馬に先越されたじゃない」(←くまさんの【Lメモ自伝4「剣道部殺人事件」】)
 崇乃 「だからタイトル貰って『ファイル2』って……」
ティリア「『金田○少年』かい!」
 崇乃 「さて……剣道部もまた2名ほど新入部員が増えるみたいだし」
ティリア「あ、ちょっと。無視しないでよ」
 崇乃 「新しいネタ考えないとなー」
ティリア「無視しないでったらー!」

――ストン
 と幕が下りる。