Lメモ未来編「Twilight Songs」 投稿者:川越 たける
 穏やかな午後の日差し。
 窓を開けて、潮風が運んでくる海の匂いを家の中に取り込む。
 波の音、海鳥の声の他には何も聞こえない、心地よい静寂。
 この場所で暮らす事を選んでよかった、と思える瞬間だ。

 ふと見ると、あの子が花畑の中で遊んでいるのが見えた。
 熱心に手を動かして、何かを作っているようだ。
 今日は波が高いから、海の方には行かないようにね、と声を掛ける。
 あの子は手を動かすのを止めると、はーい、と答える。
 そして、また手を動かし始める。
 あの様子なら、今日一日はあそこで遊んでいるだろう。

 そろそろ店を開けようと思って、身支度をして厨房へ向かう。
 多分今日も誰も来ないだろう……でも、退屈はしない。
 ここは、私とあの子の店。
 小さいながらも、形にすることが出来た二人の夢なのだから、
 ぼーっと店内を眺めているだけでも楽しいのだ。 

 予想に反して、フロアには意外な来訪者がいた。
 彼は、右手を挙げてちょっと照れくさそうに、よう、と言う。
 私はにっこりと微笑んで、ひさしぶりですね、と返す。
 何時の間に入って来たのか、という質問はこの人には無意味だ。
 いつも突然に私の前に現れるところは、出会った頃からずっと変わっていない。

 私はコーヒーを入れながら、今度は何処で何をしていたんですか、と聞いてみる。
 彼は、まあいろいろな、と答える。いつものことだ。
 そんな彼に、私はいつも通りに、話を始める。
 ここを訊ねてきたかつての仲間達の話を……。 

 

 先日訊ねてきた彼は、一人の女性を連れてきた。
 あの戦いの中で重傷を負った彼を助けたのが、隣にいる女性だということだ。
 今度結婚するのだ、と言った彼の顔は、守るものを持った力強さに溢れていた。
 あの頃の彼を知っている私としては、その変わりようには随分と驚かされたけど。
 結婚式には是非あの子と二人で来て欲しい、と言われた。
 


 また、すでに結婚して夫婦になった二人が訊ねて来て、もうすぐ生まれる
 子供の名前を相談されたこともあった。
 照れくさそうに、こいつがどうしても相談したいっていうから、と言う旦那様と
 幸せそうに微笑む奥さん。
 そんな二人にちょっとあてられながら、いくつかの名前を考えてあげた。



 ある人は、あの時にかけがえの無い仲間を失った悲しみ、
 自分の持つ力が、彼や彼女を守る為に何の役にも立たなかったことの悔しさ、
 その中から未だに立ち直れずにいた。
 彼の傷ついた心が直に私に伝わってくるようで、心が痛かった。
 そして、それに対して何もしてあげられない自分を悔しく思った。
 でも、いつかはこの人にも笑顔が戻ると信じたい。
 何故なら……私も通ってきた事だから。



 そうして、私は、来た人に今まで聞いてきた話を語り、新たな話を聞く。
 それを続ける事で、今は散り散りになってしまったみんな、
 あの学園での、なにもかもが忘れがたい一瞬を共有しあえる仲間達が
 一つの絆で結ばれ続けていられるように思えるのだ。 

 私の話が終わると、彼は冷めかけたコーヒーを一気に煽り、
 ありがとう、ごちそうさん、と言って席を立つ。
 来るのも唐突だが、去るのも唐突、分かってはいるけど少し不満もある。
 だから私は、あの子には会っていかないんですか、と一応聞いてみた。
 でも、帰って来たのはいつも通りの、まだ俺にはやる事がある、という言葉。
 彼の体に刻まれた使命の証がある限り、彼を止める事は出来ないだろう。
 そして、彼はそのまま店を出て行った。
 また来てくれるだろうか?
 ……多分、来てくれるだろう。
 少なくとも、彼にとっての「帰るべき場所」はここなのだから……。 

 日が暮れてきたので、私はあの子に、そろそろ帰ってきなさい、と呼びかける。
 相変わらず花畑にいたあの子は、私の声に気付くと、とことこと駆けてきた。

 ただいま、ママ。

 おかえりなさい。 今日は何をしていたの?

 ……これを作っていたの、大好きなママへのプレゼント!

 そう言って渡されたのは、花の冠。
 季節の花をいくつも編み込んであって、良い香りがする。
 私は、ありがとう、とっても綺麗ね、と言って冠を頭に被る。
 それを見て嬉しそうに笑うこの子の笑顔には、
 あの頃の彼女と全く同じ優しさと温かさがあった。

 ……さん。

 私は思わず、この子の体を抱きしめていた。

 ……ママ、どうしたの? 

 ……ううん、何でもないのよ。
  
 だんだんと成長するにつれて、この子は彼女の面影を持っていく。
 あの時、失って二度と取り戻せないと思ったもの。
 この笑顔を、温かさを、今度は絶対手離しはしない。  

 ……ずっと、一緒にいようね。

 ……ママ? 
 ……うん。

 それは、二人の間に交わされた、たった一つの、永遠の約束。
 今度こそ、必ず、守ってみせる。 
 この黄昏の世界の、黄昏の時の中でただ一つ、確かな物を。





 === CAST ===

 川越たける 
 電芹(セリオ@電柱)
 秋山登
 YOSSYFLAME
 藤田浩之
 神岸あかり
 柏木耕一

 (敬称略)
 

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  さて……「なんじゃこりゃ」と思った人が結構いそうな気がするので、
  作品解説をしますね(^^;

  このLメモは、タイトルにもある通り未来編です。
  そして、私の考えている「Lメモ」の中でも尤も未来に位置する話です。
  (ファイブスター物語でいうところの星団歴7777年です)
  
  現在の緑葉帝歴73年から何年後か、大きな騒乱が発生した後の世界
  ……と考えています。

  人類が今まで築き上げてきた文明というものの流れが止まってしまった
  黄昏の世界……その片隅で生きる者達の物語、と言ったところでしょうか。
   
  イメージとしては、「横浜買い出し紀行」とか「Gガンダム」とか、
  「真・女神転生II」を思い浮かべてもらえれば分かりやすいかと(笑)
  
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  ……さてと、今度こそバレー部L書かなきゃ(^^;

  では、先人にならって感想を……と思ったけど、前回の自分のLから
  あまりにも時間が経過していて途方にくれることしきり(笑)
  ……と、とりあえずたけるを使って頂いた方の作品だけでも……(^^; 

  >makkeiさん
  なんか私よりもたけるを描写するのが上手いような(笑)
  と、出演させて頂いてありがとうございました。m(__)m
  たけると仲良くしてあげてくださいね☆

  >佐藤さん
  みんな仲良く活動している姿が目に浮かびますね(^^)
  あ、そういえば私もお料理研でしたっけ(笑)

  では、この辺で、また次のLメモでお会いしましょう☆

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