Lメモ『私がおさげになった理由(わけ)』後編 投稿者:たくたく

Lメモ『私がおさげになった理由(わけ)』後編

 ざわ……

 音を立てて、何かが蠢いた。
 最初にそれに気が付いたのは――弥生だった。

 ざわり……

 ほんの一瞬遅れて、ハイドラントと神海が振り返る。
 遅れ馳せながら、たくたくも気が付いた。
 うねり、渦巻き、脈動する『それ』に。
 焼け焦げたデコイが蠢き、その身体を震わせる。

 ざわ……ざわざわ……

「喰っている……」
 神海が、こくんと喉を鳴らす。
「まさに……化物か」
 ハイドラントが、忌々しげに呟く。
「喰っっている……『アフロが、おさげを』っ!」
 そう――『おさげが、デコイを』ではなく、『アフロが、おさげを』取り込
んでいるのだ。
 デコイの髪がずるずると伸び、巨大な蛇のようなおさげとなる。
 それも、一本や二本ではない――メデューサの蛇の頭のように、核となった
アフロから無数のおさげが伸びていく。
 ちょうど、ファンタジーRPGに登場するヒュドラ――あれの、胴体がアフ
ロで首がおさげという奇妙な生物が、ゆっくりとその身体を膨れ上がらせていっ
た。
 吉井が、その場にへたり込む。
 岡田は、諦めたように溜息をついていた。
 吉井は、楽しそうにアフロとおさげの融合を見て笑っている。
「アフアフアフアフ……」
 アフロの天辺から生えたおさげの先端に、ずるりとデコイの顔が浮かび上が
る。
「……ふ、ふふふ! 人間の意地に掛けて髪型等に負けるかアフさげ!」
「「「「「負けてる負けてる」」」」」
 野次馬、当事者、総ツッコミ。
「それはさておき……まいふれんどたくたく!」
「いつから友達ですか、私達。ていうか、かなり敵同士な気が」
「そんな事はどうでもいい! 来るのだ! オマエを取り込めば俺は完全体に
なるのだアフさげ!」
「いや……何を根拠に」
「さあさあさあさあさあさあ! 受け入れるか拒否するか、選ぶがいい! 返
答に関わらず取り込んでやるぜまいらばーアフさげ!!!」
 途方に暮れるたくたくの言葉など聞いた様子もなく、デコイは高笑いと共に
おさげをたくたく目掛けて伸ばす。
「つーことで! じゅっっっっでぇぇぇぇぇっっっむ!!!」
「嫌だぁっ! そんなものに取り込まれてたまりますかっ! 寄るな触るな擦
り寄るなぁっ! んきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 転がるように逃げ出そうとするたくたく――その足を、おさげの一本があっ
さりと捕らえた。
「アフアフアフアフ……これで俺は完全体になるのだアフさげ!!!」
「させるかぁぁぁぁぁっ!!!」

 ドギャァンッ!!!

「げふぉっ!?」
 凄まじい炸裂音と共に、デコイの顔面に拳が叩き込まれた。
 鋼鉄の拳――ロケットパンチが。
「ジン・ジャザム……随分と登場が遅かったな」
 ハイドラントの呟きに、ジンは不敵に笑う。
「ふっ……待っていたんだよ、登場するべき瞬間を。スーパーロボットたるも
の、こういったタイミングで登場してこそだろうが!」
「……待ってたんですか?」
「そりゃあもう、窓の外で必死に。ジェットスクランダー使ったら見てるのば
れるから、こう……窓枠に掴まって、こっそりと」
 吉井のツッコミに、遠い目をして応えるジン。
「それはさておき! 俺が来たからには、化物の好きにはさせねぇ! このタ
イミングは、アニメで言えばCM後の終了十分前! 悪を倒すにはバッチリ、
ナイスなタイミングだっ!!!」
 デコイに叩き込まれたロケットパンチが、跳ね返ってジンの腕に納まる。
「もう一発だ、くたばれっ! ロケットパァァァァァァァンチッ!!!」
 だが――二度目のロケットパンチは、絡み合う髪の毛の弾力に阻まれ、威力
を殺がれて弾かれる。
「ちっ……打撃は効かねぇか……だったら!」
「待て、それはまずいぞっ!」
 ハイドラントの静止も聞かず、ジンは次なる必殺技を放つ。
「ブレストファイアァァァァァァッ!!!」

 ドジュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

 ジンの胸部から放たれた熱光線が、デコイこと『アフさげ(形状と語尾から
勝手に命名)』の髪の毛を盛大に焼き払う。
 その結果。
「臭ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
 狭い廊下に、あっという間に髪の毛の焦げる嫌な臭いが充満する。
 野次馬は我先に逃げ出し、残った人間もハンカチや袖口で口元を覆っていた。
「さっきやったんだが……焼いたら臭いって言おうとしたんだが。あれ、髪の
毛だし」
「遅いわっ、こん畜生っ!」
 噎せ返るジンを尻目に、デコイは――
「きゃあっ!?」
「ちょ、ちょっと! 何するのよっ!」
「えっとぉ、捕まっちゃったぁ。てへ☆」
 いつの間にやら三人娘をおさげで捕らえ、高々と抱え上げていた。
「ふはははは! アフアフアフ! 我目的を達成せり! さぁ、巣作り子作り
繁殖じゃあぁぁぁぁぁっっ!」
「ちょっと待てっ! 狙ってるのは私じゃなかったのかっ!?」
「いや、よく考えたら別に誰でもいいかなって」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! だったら、吉井さんを放せっ! 私が代わりにな
るからっ!」
 その言葉に、アフさげの表情がにやりと歪む。
 すぐさまおさげを伸ばし、たくたくの全身を絡め取る。
「たくたくげっとぉぉぉぉぉっ! これで俺は完全体になれるアフさげ!!!」
「……へ? それじゃあ、誰でもよかったってのは?」
「う・そ♪」
「……どちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 たくたくの絶叫が、空しく廊下に響き渡った。

        ○   ●   ○

「さぁて……そろそろ繁殖の時間だアフさげ……」
 アフさげの顔が、にたりと不気味な笑みを浮かべる。
 言うが早いか、おさげの隙間から、小指の先ほどの卵が次から次へと零れ落
ちてくる。
「卵ぉっ!?」
「なるほど……増える事により完全体に近付く、そういう事ですか」
 いつの間にか復活していた玖逗夜が、ぼろぼろと卵を産み落とすアフさげを
見て呟いた。
「たった八匹の小さなおさげで、あれだけの質量に変化した……となれば、あ
れだけの数が孵化して合体すれば……」
「学園が飲み込まれかねませんね」
 弥生が、冷淡に言い放つ。
「だからって、どうやって倒す? 俺には、核を潰す以外は思いつかねぇな」
 ロケットパンチが撃ちっ放しになった左腕に、ゲッタードリルを装着しなが
らジンが言った。
「核は、別に潰す必要はないでしょう」
 そう言って一歩前に出たのは――神海だった。
「彼のアフロは、あのおさげを凌駕していた……ならば、彼の目を覚ましてあ
げればいいだけの事」
 一歩、また一歩と、アフさげに歩み寄る神海。
 そして、一喝。
「駄目です! 全然なってませんっ! デコイさん、目を覚ましてくださいっ!」
「さ……流石は三年生っ! 神海さんっ、威厳がありますっ!」
「俺にはねぇってのか。威厳」
 頬を引きつらせるジンをさりげなく無視し、たくたくは感涙に咽び泣く――が。
「貴方はそんな陳腐なアングルで人を襲って満足する人じゃなかったはずです!
具体的にはそこの触手じみたおさげを、吉井さんに達に絡ませて持ち上げてみ
るのが吉かと!」
「おお……おぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 ずるずるずるずる……

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あ、ああっ!?」
「ちょっ……ちょっと、デコイっ!? 何するのっ……やっ……!」
「ふわっ……もそもそとして、それでいてまったりといて、さらさらとした肌
触りが……☆ミ」
 アフさげのおさげが、ずるずると三人娘に纏わり付き、微妙に絶妙なアング
ルで持ち上げ――吉井、岡田、松本は三者三様の反応を見せる。
「神海さん、事態を悪化させてどうするんですかぁっ!?」
「おお、こうして見ると三人娘もまた」
「あの岡田でも、こんな表情(かお)が出来るのか。眼福眼福」
「ジンさんもハイドラントさんも、見てないで止めて下さいっ!」
 完全に泣きの入ったたくたく――その身体は、最早ほとんどがおさげに埋も
れている。
(ああああああああああああ、もうこん畜生! なんで私が……それ以上に吉
井さんがこんな目にっ!?)
「ちょっと! あたし達は無視っ!?」
「心の叫びにツッコミ入れないで下さい、岡田さんっ!」
「大丈夫だよメグミぃ。私達三人でワンセット、一山いくらだもん」
「一山いくらって言うなぁっ!!!」
 ぎゃいぎゃいと騒ぐ岡田と松本。
 そこへ――ふぅ、と溜息一つ。
「いい加減、誰か状況を打開してくれないんですか?」
 廊下に体育座りで並ぶハイドラントとジン――その背後に、冷ややかな視線
がざくざくと突き刺さる。
「デコイさん……あなたも。いい加減に自我を取り戻して欲しいんですけど?」

 じっ……

 弥生の凍て付くような視線に、大暴れしていたアフさげが気圧されたように
動きを止める。
(あー、もう誰でもいいから助けて……って、事の発端はダーク十三使徒じゃ
ないか。私達は巻き込まれただけだし……こう考えると、なんか無性に腹が立
つな)
 そんな事を考えていたたくたく――ふと気が付くと、全身にまとわりついて
いたおさげの拘束が僅かに緩んでいる。
(もうこうなったら……ダーク十三使徒に全部押し付ける。私の知ったこっちゃ
ない! こっちは被害者なんだっ!)
 思い立ったが吉日、たくたくは緩んだおさげの拘束をするりと抜け出し、他
の全員の死角から、こっそりとデコイに手招きする。
「ん……なんだ、たくたく」
「いえ……今、篠塚先生の視線、見てたでしょう?」
「そりゃあもう……美人にあんな目で見られるのが、どれほどのダメージか」
「それなんですが」
 デコイの言葉を遮り、たくたくは一気に言葉を吐き出す。
「あれは『誘っている合図』なのです! 『疲れ、とまどう私を優しく介抱し
てね☆ けど、私の事をあまり理解してない人はダ・メ☆ 普段とはちょっぴ
り違う私の視線に気付いた人、あなたに身も心も預けちゃう☆ミ』ってぇな意
味でっ!」
「……そ、それは本当?」
「本当ですとも! ゴーゴーヘヴン! つーか、多分本当に天国に行けると思
いますが! それはそれ、これがこれ!」
 デコイは、ちょっぴり期待の混じった視線を弥生に向ける。
「……はっ」
 弥生はさらに冷たい視線を投げかけ、さらには鼻で笑う。
「ほらほら、『あなたも、他の男みたいに度胸がないの? 力尽くで私を征服
して、私にいつもの立場を忘れさせてっ☆』って合図ですよ、今の」
 次から次へと飛び出す大嘘に、アフさげになって理性が鈍っていたのか、デ
コイは呼吸を荒くしながら弥生を見詰めている。
「……ありがとう、たくたく! 俺、頑張るよ!!!」
 奇妙なまでに晴れやかな顔をして、デコイは弥生目掛けて突っ込んでいく。
「今のうち……デコイさんの意識が篠塚先生に向いている間にっ!」
「あ、ありがとう……たくたくさん」
「だから、たくたくっ! ユカリだけ助けてんじゃないわよっ!」
「たくたくく〜ん、あたしも助けて〜☆」
「だぁっ、もう! とにかく掴まって!」
 なんとか三人娘をおさげから引き剥がし、アフさげから転げ落ちるたくたく。
「やぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
よいさぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
 峰不○子のいるベッドに飛び込むル○ン三世のような声を上げて、全身全霊
を駆けた爆走を披露するアフさげ。
 弥生は一歩下がり、その前に神海が立ちはだかる。
「弥生さんには、指一本触れさせませんよ!」
「やれやれ……たまには真面目にやりましょうか」
 神海、玖逗夜の二人が重力制御魔術の構成を編み上げる。
「ジン……あの二人が奴の動きを止める。俺達は核を狙うぞ」
「貴様と馴れ合うつもりはないが……状況が状況だ、仕方ねぇx!」
「それはこっちの台詞だ……来るぞっ!」

 ジャァッ!!!

 廊下に展開された重力場フィールドが、デコイの突進を辛うじて受け止める。
「導師っ!」
「解っている……いくぞ、ジンっ! プアヌークの……邪剣ぉぉぉぉっ!!!」
「応っ! シャイィィィィィィィィン・スパァァァァァァァァァァクッ!!!」

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 凄まじいエネルギーの奔流が、アフさげinデコイを直撃する――が。

 しゅぽぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!

 直撃を受けたアフさげ核がぱりぱりと割れ、爆風を突っ切って全裸のデコイ
が放物線を描いて飛び出してきた。
「「「「「脱皮したっ!?」」」」」
 綺麗にハモる、その場にいた一同。
「篠塚先生……いや! 弥生さん!!! 愛の俺を虐げてぇぇぇぇぇっ!!!」
 デコイの絶叫。
 もう一歩、すっと退く弥生。
 そして――ぱちんっ、と弥生の指が鳴らされる。

 ぱかん

 綺麗な放物線を描いて、デコイが飛び込んでいった先に――ぽっかりと開い
た大穴。
 たった今、そこに神海が立っていたのはご愛嬌である。
「弥生さん……俺は……あなたを守れましたか……?」
 涙を流しながら神海が落ちていく大穴へ、野球盤の消える魔球の如く、綺麗
に吸い込まれていくデコイ。
「弥生さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
 そして――玖逗夜が、ぴっと人差し指を立てた。
「やっと片付いたようですね……最期に穴に『落ち』ただけに、これが『オチ』
と」










 時が止まった。










 たくたくが正気を取り戻した時には、既に事態は終息していた。
 アフさげの皮(?)と卵は焼き払われ、床に開いた大穴も今は見えないし、
吉井達の姿も無い。
「みんな……先に帰ったんでしょうか」
「帰ったというか、逃げたようだな」

 がちゃん

「へ?」
 たくたくは、声のした方と音のした方を交互に見る。
 声の主は――風紀委員会にして生徒指導部のディルクセン。
 そして音はというと――たくたくに手錠が掛かる音。
「この騒ぎの重要参考人として、生徒指導部まで来てもらおうか」
「そっ……そんなっ!? 私は被害者ですよっ!?」
「現在、学校に残っている当事者がお前だけなんだ。大人しく、洗い浚い吐い
てもらうぞ」
「人権の保証はっ!? 弁護士を呼ぶ権利はっ!? ジュネーブ条約はっ!?」
「そういうのは後だ。連れて行け」
 ディルクセンは数人の部下に命じ、手際良くたくたくを連行していく。
「念のため言っておくが、抵抗したら公務執行妨害で懲役だからな」
「鬼ぃっ! 悪魔ぁっ! このヅラぁぁぁぁぁっ!!!」
「……生きている間には、反省房から出すな」
「ああああああああああ、ごめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」
 たくたくは、泣き叫びながら引き摺られていった。
 その髪の中に、小さな卵が一つ紛れ込んでいる事にすら気付かずに。

        ○   ●   ○

「そして、反省房に放り込まれているうちに卵が孵化したようで。気付いたら
こうでした。こん畜生」
<そう邪険にしないでくれ。私は宿主(マスター)であるあなたに危害を加え
るつもりはない。それに、単体では繁殖もできない>
「お前の存在自体が危害だ、存在自体がっ!」
<一度共生してしまった以上、新しい宿主に住み替える事は容易ではない。私
も、宿主の生命を保護するために全力を尽くす。安心して欲しい>
 おさげの意思が思考に流れ込んでくると、つい声に出して反応してしまうた
くたく。
 端から見れば、一人で絶叫している変な人である。
<ちなみに宿主、胃の健康状態が良くない。早急に対策を>
「お前が原因だ、お前がっ!」
 ひとしきり絶叫し、ぜいぜいと息をつきながらたくたくは呟いた。
「神様っ! あなたは私から、常識と理性と物理法則はおろか、生命の定義ま
でかっぱらっていこうと!? やっぱりお前ら、全員敵だぁっ!!!」

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 ども、たくたくです。
 ニ発目は前回の予告通り、即興から起こした『おさげ』のネタです。
 事の発端は、葛田さんが「吉井との関係を掴むのに、練習みたいな感じで」
と始まったのですが、おさげが出てから急展開。(笑)
 結果的に、三時間にも及ぶ即興になってしまいました。
 参加して下さった皆様、本当にありがとうございます。
 なお、この即興をLに起こすにあたって、シチュエーション、台詞など、色々
と改竄させていただきました。
 実際の即興は、ハイドラントさんがゲルググに乗っていたり、ジンさんが衝
撃のアルベルト状態だったり、吉田&桂木が出てマグネットパワーだったりと、
かなり激しい仕上がりになっています。(笑)
 また、Lバージョンに移行する際に、葛田さんとディルクセンさんにもご登
場いただきました。
 この場を借りて、皆様に感謝の気持ちをお送りいたします。
 次回は……何を書こう。(爆)
 黒助さんと目論んでいる、電波倶楽部ネタか……ちょっとした小ネタになる
かと思われます。