Lメモ『密約、暗躍、誰の役』 投稿者:たくたく

Lメモ『密約、暗躍、誰の役』

「ふぅ……」
 昼休みも半ばに差し掛かった午後のひととき。
 たくたくは小さく一息ついて、ノートパソコンのリターンキーを叩く。
 毎日、ひたすら学園中を奔走しては手に入れる微々たる役に立たない情報を、
なんとかそれらしく報告書にまとめて『組織』へと送る。
 成果があるならまだしも、まともに必要な情報がこれっぽっちも入手できな
いので、無駄な労力を費やしているだけという気がしないでもない。
 例えて言うなら、一度レビューを始めてしまったために、毎日のようにクソ
ゲーに向き合ってネタ探しをしているような――そんな気分だ。
「送信終了……と」
「ねえ、たくたくくん。何やってたの?」
 たくたくの頭に覆い被さるように、ノートパソコンのディスプレイを覗き込
む松本リカ。
「実家に、毎日の報告をしてたんです。うちの実家は、こういうとこに色々と
うるさくて……」
 たくたくは気まずそうに頬を染めながら、松本に話し掛ける。
「……あの、松本さん?」
「なぁに、たくたくくん?」
「まだ色々とやる事があるんで、乗っかるのは止めてもらえませんか?」
 流石に、「背中に当たる胸の感触で色々とピンチになりそうなので」とは言
えず、適当に言葉を選んでみるが。
「なんかやるんだったら、見ててもいいでしょ〜?」
「いえ……その、見てるにしても、乗っかるのは勘弁してもらえませんか?」
「でもさぁ、たくたくくんの頭って乗り心地がいいんだもん」
「……どういう理屈ですか」
 通じていない。
 疲れ切った溜息を吐き、たくたくはきょときょとと周囲を見回す。
「そういえば、吉井さんは?」
「ユカリなら、あっち」
 隣の席で雑誌を読んでいた岡田メグミが、視線で教室の入り口を指す。
 そちらでは、たくたくが知った顔の上級生――ディルクセンと困惑した表情
で話す吉井ユカリの姿があった。
「あれぇ、ヅラの人だ」
「ほんと……ディルクセン先輩じゃない」
 松本と岡田の言葉に、たくたくは表情を強張らせる。
「前のあれの事で、また何か呼び出しですかね」
「あれって、アフさげ?」
 アフさげ。
 思い出すだけで背筋を嫌な汗が伝う程の、怪異な存在。
 異界生命体である謎の『おさげ』とアフロが吸収融合した、かなり嫌げな生
命体である。
 召還主であるダーク十三使徒と、通りすがりの(実際は美味しいシーンに登
場すべく『待って』いたのだが)ジン・ジャザムの手によって既に葬り去られ
ているものの、原因の一つである『おさげ』は、たくたくの後頭部にしっかり
と寄生していたりする。
 そんな事を考えているうちに、たくたくの元へ吉井が駆け寄ってくる。
「あの……たくたくさん。ディルクセン先輩が、何か話があるみたいなんだけ
ど」
「はぁ、とりあえず行って来ます。無意味に逆らっても時間の無駄ですし……
どうせ、話す事もあまり無いでしょうから、すぐに戻ってきますよ」
 やれやれ、といった調子でノートパソコンを片付けて席を立ち、教室の前で
視線をこちらに向けているディルクセンに歩み寄る。
「あの、ご用件は」
「話がある。そうだな……中庭にでも出よう」
 ディルクセン。
 その名前に、たくたくは眉をしかめる。
「中庭……ですか」
「何か不都合でもあるのか?」
 昼休みの中庭といえば、お世辞にも人気が無いとは言えない。
 どうやら聞かれて困るような話はする訳ではなさそうだ――たくたくは、そ
う判断した。
「いえ、別に。それじゃあ、行きましょうか」

        ○   ●   ○

 中庭は、想像通りの喧騒に包まれていた。
 昼食を囲んで輪を作る一団や、一人静かに本を読んでいる生徒などを尻目に、
たくたくとディルクセンは、その片隅で紙パックのジュースを片手に立ってい
た。
「あの……アフさげ騒動に関しては、前にお話しした以上の事は……」
「誰も、あの騒動の話をしに中庭まで来た訳ではない」
 手にした紙パックのカフェオレを一口啜り、小脇に抱えていた分厚いファイ
ルをたくたくに向かって突き付けた。
「何ですか、これ?」
「見れば解る」
 たくたくは訝しげにファイルを受け取ると、その中身に目を通す。
「………………!?」
「理解したか?」
 ファイルの中身は――たくたくの個人情報。
 それも、学園に提出されている『表向き』のものと、名前と顔写真以外の全
てが『CLOSD』で埋め尽くされたもの、その他――学園外との通信履歴や
その内容、そして通信相手の詳細までもが、ファイルには克明に記録されてい
た。
「でぃ、ディルクセンさん……これは……」
「前回の逮捕の際、個人情報に不審な点があって以来……しばらくマークさせ
てもらっていた。正直、ここまでぼろを出してくれるとは思っていなかったが
な」
 ファイルを開いたまま、真っ青な顔でディルクセンを見るたくたく。
 自分からばらすつもりこそ無かったものの、あまり警戒をしていなかったの
も事実。
 たくたくは、自分の愚かさを――学園側が自分を警戒するであろう可能性を
失念していた事に、激しく後悔する。
「我々は、外部の組織が学園内に干渉してくる事を好ましく思わない。早々に
学園から退去しろ……さもなくば、相応の手段を以って学園から排除する」
「ま……待って下さいっ! 今、成果も上げずに学園から追い出されたら、私
は帰るに帰れないんですっ!」
「警告してやっただけ有難く思う事だ。これからどうするかは、貴様が勝手に
考えるんだな」
 ディルクセンはそう言って、飲み終わったカフェオレの紙パックをゴミ箱に
捨てる。
「もうすぐ午後の授業が始まる……退出期限は、今日の放課後だ」
 その言葉と同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
 中庭にいた生徒達と共に、昼休みの喧騒が引いていく。
 既に教室へ向かったのだろうか、ディルクセンの姿も、もう見えない。
 たくたくはファイルを手にしたまま、誰もいなくなった中庭で天を仰いでい
た。
「……意外と早かったな」
 小さく呟き、たくたくはその場に座り込んだ。
「こうなってしまったら、どう足掻いても組織には帰れない……さて、どうし
たものですかね」

        ○   ●   ○

「で……お別れの挨拶にでも来たのか?」
 訝しげな視線を向けてくるディルクセンに、たくたくはいつもの困ったよう
な笑顔を向ける。
「その件なんですが。私、組織抜ける事にしました」
「……なんだと?」
 ディルクセンは、呆れたような声を上げる。
「ですから、私は所属していた諜報組織を抜けて、正式にこの学園の生徒にな
りたいんです」
「……本気ならば、それはそれで構わんが。裏が取れるまでは監視される事ぐ
らいは覚悟しておけよ」
「はい。それから……ついでと言っては難ですが、私を生徒指導部で雇ってい
ただけませんか?」
 今度は、声すら出なかった。
 完全に呆れた表情のディルクセンに、たくたくは言葉を続ける。
「昼休みが終わってから、ちょっと調べさせてもらったんですが……生徒指導
部は、何かと人員不足のようですし。私も一応、本職のスパイですから」
 たくたくの目が、すうっと細められ――笑顔が、ぞっとするような鋭いもの
に変化する。
「色々と役に立つかと思いますが……如何ですか?」
「……情報特捜部」
 ディルクセンの言葉は、至極簡潔だった。
「やってみろ。以後の判断は任せる」
「了解致しました、ディルクセン閣下」

        ○   ●   ○

 情報特捜部。
 澤倉美咲、悠朔、長岡志保、シッポ、城下和樹……そして、外部協力者の
(というか、志保にこき使われている)デコイ等の面々が集まっている。
 流石に、正面からやりあって勝てる自信は無い。
 いかにして側面から、背後から、致命傷となる情報を奪取するか。
「たくたくさん、何か楽しそうね」
「これから、色々と面白くなりそうなもので」
 吉井の言葉に、考えを巡らせていたたくたくは、嬉しそうに微笑みながら答
える。
「本当に……面白くなりそうですよ」

====================

 ども、たくたくです。
 三本目となりましたLは、生徒指導部入りLです。
 設定と状況の都合上、ディルクセンさん以外のSS使いが出てきていません
が、その辺りはご容赦下さい。

 ともあれ、これからディルクセンさんの下で働かせていただきますので、皆
様よろしくお願いします……特に、情報特捜部の方々。
 今回は、そこそこ真面目ぶって書いているものの、普段のLでは『余計な事
を言ってどつき倒される』とか『厄介事を押し付けられて泣く』というスタン
スになるかと思われます。
 どうぞ色々いじめてやって下さい。(笑)