Lメモ『問答無用の落し物』 投稿者:たくたく

 廊下に何かが落ちている。
 水野響は、その奇妙な物体をしげしげと眺めていた。
 黒くて、もさもさしている。
 なんとなくつついてみる。
 見たまんま、もさもさしている。
 ひょいと摘み上げてみる。
 手応えがあるでもなく、簡単に持ち上がる。
 当然、動いたりもしない。
「うゆ?」
 首を傾げて、その物体を両手でぶら下げる。
 ひっくり返して、裏表。
 持ち上げたり、太陽に透かしてみたり、色々とやってみた結果。
 響はその物体を手に、軽快なステップで廊下を駆けて行った。



Lメモ『問答無用の落し物』

 風紀委員会生徒指導部管轄下、地下反省房管理室。

 がちゃ――たんっ!

 唐突に勢いよく開いた扉が、勢いよく閉じられる。
 ディルクセンは、いきなり飛び込んできた響に、一瞬呆気に取られる。
 その隙に響は、ひょいとディルクセンの背後に回り込むと、手にした黒い物
体をその頭の上に放り――ぱんぱんと叩いて、満足そうに微笑んだ。
「落としちゃ駄目ですよ〜☆」
 そう言って響は、来た時と同じように勢いよく扉を開いて、地下反省房管理
室から飛び出して行った。

 ………………

 不気味なまでの沈黙。
 そして。
「ぷっ……!」
 誰かが、小さく吹き出した瞬間。
 ディルクセンは、頭の上に鎮座したもの――黒髪のヅラ(無論、響が乗っけ
ていったもの)を床に叩きつけて、つかつかとロッカーに歩み寄った。

 がしゃんっ!

 派手な音を立てて、ロッカーから取り出される散弾銃と――いつものゴムス
タン弾ではない、実弾の数々。
「ちょ、ちょっと待って下さいっ! 実弾は流石に不味いですって!」
「SS使いがこんなもんで死ぬかっ! いや、死なないのは問題だ、グレネー
ドランチャーは何処だ!? 死んでるゾンビでも殺せるヤツだっ!」
 雄叫びを上げて地下反省房管理室を飛び出していくディルクセンと、それを
止めようと追い縋る生徒指導部員達。
 彼等も結局は、命令に従って響を追い詰める側に回るのだが。
 そして、部屋には誰もいなくなった――かに思えたが。

 がこんっ

 床の一部が外れてぽっかりと穴が開き、ひょっこりとたくたくが顔を出した。
「おや……こんな時間に、誰もいないなんて」
 たくたくは穴から這い上がり、きょときょとと周囲を見回す。
 開きっ放しになったロッカーから、様々な銃火器が崩れ落ちている。
「緊急出動でもあったんですかね……ん?」
 たくたくは、ふと足下に視線を落とした。
 床に何かが落ちている。
 たくたくは、その奇妙な物体をしげしげと眺めていた。
 黒くて、もさもさしている。
 なんとなくつついてみる。
 見たまんま、もさもさしている。
 ひょいと摘み上げてみる。
 手応えがあるでもなく、簡単に持ち上がる。
 当然、動いたりもしない。
「まさか……?」
 首を傾げて、その物体を両手でぶら下げる。
 ひっくり返して、裏表。
「ヅラ……噂は本当だった?」
 たくたくは、とっさにヅラを懐に隠す。
(もし、噂が真実だとすれば――外部に漏れる前に処理しなければ)
 甚だしい勘違いと共に、ヅラを懐に床下に掘られた隠し通路に潜りこむたく
たくだった。

        ○   ●   ○

「うゆうゆ〜☆」
「止まれぇ水野ぉっ! 止まらなければ撃つからなっ! よぉしよしよしよし
止まるなよぉぉぉぉっ!?」
 大量の重火器をぶら下げて廊下を爆走するディルクセン。
 怒りゲージMAXで殺意の波動に目覚めた彼は、既に己の限界を超えている。
 その狙いの先には、お気楽に廊下を駆け抜けていく響の姿。
「くははははははぁっ! 跡形もなく消し飛べぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 ズドンッ!

 爆音と共に発射されたグレネードが、響目掛けて一直線に突き進むが――僅
かに狙いを逸れて、すぐ脇にあった教室に着弾する。

 ドガァァァァァァァァンッ!!!

「ちぃっ! 外したかっ!!!」
「外したか、じゃないだろっ! ジン先輩じゃあるまいし、校舎ん中でそんな
ものぶっ放すなっ!!!」
 爆発に巻き込まれた生徒A――もとい、藤田浩之が非難の声を浴びせるが、
ディルクセンの耳には届いている様子は無い。
「アントンは東側、ベルタは西側を封鎖っ! カールとドーラは階段を封鎖っ!
エミールが北側から追い立てて、南側へ誘導しろっ! ただし傷は付けるな、
止めは絶対に俺が刺すっ!!!」
 怒りに我を忘れるディルクセンに、浩之は完全に引いていた。
 一体、何が彼をここまでさせたのか。
(ヅラ……だろうな)
 詳細までは解らないが、多分そんなとこだろうと予想。
 実際、間違ってはいない。
 浩之は諦めた様子で、すごすごと焼け焦げた教室へと退散した。

        ○   ●   ○

 ふもっふふもっふというボイスチェンジャーの声も軽やかに、ボ○太君――
雅ノボルは廊下を歩いていた。
「あ〜、ボ○太君ですぅ〜☆」
「ふもっふ?(なんだ?)」
 突然、頭が重くなったような気がして、ノボルは首を傾げる。
 実は、頭の上に響がへばりついているのだが。
 着ぐるみの上なので感覚的には解らない上、完全に視界の死角に入っている。
「いたぞっ!」
「階段確保っ! 教室の出入り口を封鎖しろっ!」
「射撃準備……だが、閣下の命令は忘れるな!」

 ジャッ!!!

「ふも〜〜〜〜〜〜〜っ!?(なにぃぃぃぃぃぃぃっ!?)」
 突然、背後に居並ぶ無数の銃口。
 ノボルは思い切り驚愕した。
 自分の服装が校則違反で生徒指導部に目を付けられている事は知っていたが、
いきなり銃口を向けられるとは思っても見なかった。
 原因は、頭に張り付いている響なのだが。
「ふもっふ! ふもふもふもっ!?(待てっ! いきなり撃つ気かっ!?)」
 ここでやっと、ノボルはボイスチェンジャーを切り忘れている事に気が付い
た。
「撃てぇっ!!!」
 慌ててスイッチを切ろうとするが、それよりも早くゴムスタン弾の雨が、ノ
ボル――正確には響――目掛けて降り注ぐ。
「ふも〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 かくして――頭に響を張り付けたまま、ノボルは全力疾走を開始した。

        ○   ●   ○

 たくたくは、相変わらず秘密の抜け穴を進行中だった。
 この抜け穴、別に彼が作ったわけではない。
 彼は、学園中に張り巡らされたこの抜け穴がある事を発見しただけである。
 あるからには有効利用しよう――ただそれだけの事である。
(しかし……これをどうするべきでしょうか。噂が真実だとして……閣下が本
当にヅラだというのであれば。現状で校内で活動している閣下を見る限り、
『これ』はあくまで予備という事になりますね。ならば……不用意に処分する
わけにもいかないでしょうね……)
 考え過ぎて気が動転しているのか、妙に冷静に間違った方向へ話を展開して
いくたくたく。
(ともあれ……『これ』を人目に触れない場所に保管しなければ。特に、情報
特捜部の連中などには絶対に見つかってはいけませんね)
 ごそごそと抜け穴を這い進むたくたく――その頭上で、何か鈍い衝撃音が響
いた。
(爆発……!?)
 たくたくは、すぐさま手近な出口へ向かう――が。
「……って、出口が崩壊している音だったってオチですか、こん畜生」
 出口の場所は、ちょうど二年の教室――つまるところ、つい今し方ディルク
センがグレネードを叩き込んだ場所だった。
 抜け穴はあっさりと崩れ、たくたくは崩れ落ちてくる瓦礫の下敷きとなった。

        ○   ●   ○

 走るディルクセン。
 走るノボル。
 ノボルの頭の上で、既に眠りこけている響。
 ノボルという予想外の乱入者に、一撃必殺をしくじったディルクセンは、な
おも二年校舎エディフェルを爆走していた。
「ええい、あの着ぐるみめ……邪魔をする気かっ!? こうなれば、まとめて
吹き飛ばしてくれるっ!!!」
「ふもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜…………………………」
 眼前をドップラー効果で突っ切っていく着ぐるみに、新城沙織は呆気に取ら
れていた。
「何、今の……!?」
 呆然とする沙織へ、流れ弾らしいグレネードが一直線にかっ飛んでくる。
「………………っ!」
 一瞬、何が起きているのか理解できなかった。
 そして――理解できた瞬間には、もう間に合わなかった。

 ヒュカッ――

 風切音。
 沙織の視界を遮った男が、グレネードを一閃――真っ二つにされたグレネー
ドは、明後日の方向で爆発四散した。
「ディルクセン先輩……少し騒ぎが過ぎやしませんか?」
「とーるくん……」
 ディルクセンは、小さく舌打ちした。
 とーるは風紀委員会監査部に所属している。
 当然、喧嘩を売れば色々と面倒な事になるのは目に見えている。
 そして――とーるを目の前にした一瞬の躊躇が、怒りによって忘れかけてい
た冷静さを取り戻していった。
「……総員、撤収!」
 血を吐くようなディルクセンの叫び声。
 生徒指導部員は三々五々、武装を解除して校舎内へ散っていった。
 当のディルクセンもまた、生徒指導部員にグレネードランチャーを預けると、
苦々しい表情のまま踵を返した。
「くそっ……今度同じような事があったら、絶対に仕損じはせんっ!」

        ○   ●   ○

 で――全ての発端となったヅラはというと。
 既に死にかけており、一心同体となったおさげになんとか瓦礫の中から助け
出してもらい、力尽きていたたくたくがまだ持っていた。
 そして。
「あ、あったあった。なんだ……たくたくが拾ってくれたんだ」
 死にかけて声も出ないたくたくの手から、ひょいとヅラを取り上げたのは。
「最近はあんまり使ってないけど……なんだかんだで無いと困るし。さんきゅ」
 そう言って佐奈田黒助は、河童のような頭にヅラを乗せて、何事も無かった
ように去って行ったのであった。

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 ども、これでやっとこ四本目……先は長いな、たくたくです。
 生徒指導部入った途端にこれです。
 ディルクセンさん、ゴメンナサイ。(深々)
 そして、登場していただいた方々にもゴメンナサイ。(深々)
 今回は悪ノリだけで書いてしまったようなものなので。
 次は指導部絡みじゃないネタも……いや、特捜部関係の方が先かな?
 ともあれ、次回は思いつき次第という事で。(爆)

SS使いたくたく「ふと思ったんですが」

 ……何?

たくたく「私、初回から全く良い目に遭ってないような気がするんですが」

 いや、そういうキャラだし。
 指導部入りLで、ちょっとだけ格好つけたし、それでいいんじゃない?

たくたく「……せめて、もうちょっと吉井さんとの仲を、こう」

 そういうのは、馴れ初めLをそのうち書くから。
 それまで我慢してて。

たくたく「それって、馴れ初め以上進展しないって事ですか?」

 自分で書くの結構恥ずかしいし、私の技量で人から見て面白いラブラブネタ
が書けるかどうかっていう疑問もあるから先送り。

たくたく「……泣きますよ、終いにゃ」

 泣いていなさい。

たくたく「……しくしく」(滝涙)