Lメモ『揺れるもの、揺られるもの』 投稿者:たくたく

 ふっさふっさ

 もっさもっさ

 奇妙な音を立てながら。
 片や、ティーカップ片手に静かに悠然と。
 片や、激しいリズムのダンスに熱中しながら。

 ふっさふっさ

 もっさもっさ

 雰囲気というか風格というか、そういったものはとても良く似ているのだが、
その属性はまさに静と動、縦運動と横運動。
「はっはっは、今日も良い日和だ……?」
 カイゼル髭に片眼鏡の男――ひげ4は立ち止まる。
 正面から迫り来る一人の男の存在に気が付いて。
「HAHAHAHAHAHA、サア、皆サンもご一緒に……?」
 アフロ頭に、黒い靴墨が塗られた顔の男――TaSは立ち止まる。
 正面から迫り来る一人の男の存在に気が付いて。
 二人は、互いに顔を見合わせる。
 不気味なまでの静寂。
 異常なまでに張り詰めた空気。
 周囲では、完全に引いていた学園生徒達が、その只ならぬ雰囲気に息を呑ん
でいた。



Lメモ『揺れるもの、揺られるもの』

 ふさっ……

 ひげ4のカイゼル髭が、小さく揺れる。

 もさっ……

 TaSのアフロが、小さく揺れる。
「むぅ……」
「ホゥ……」
 二人は、全く同時に、感嘆とも驚愕ともつかない声を上げる。
 ひげ4は静かにティーカップを口元に運ぶ――ちなみに、中身は入っていない。
 TaSはゆっくりとタマダンスの構えを取る。
「はっ……」

 ふさっ

 ひげ4が不敵に笑い、カイゼル髭が軽やかに揺れる。
「HA……」

 もさっ

 TaSもまた不敵に笑い、アフロが軽やかに揺れる。
「はっはっはっ」

 ふさふさふさっ

「HAHAHA」

 もさもさもさっ

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」

 ふさふさふさふさふさふさふさふさふさふさふさっ

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」

 もさもさもさもさもさもさもさもさもさもさもさっ

「あんたら、廊下の真ん中で一体何やってんのよっ!!!」

 どぐしゃぁっ!!!

「おぷすっ!?」
「OUCH!?」
 次の瞬間――それぞれの顔面に、しっかりと握り締められた拳が同時に叩き
込まれた。
 もんどりうつどころか、グラップラーもびっくりな勢いで大回転し、ちょっ
とやばい角度と打ち所で床に叩き付けられる倒れるひげ4とTaS。
 あたかも、火の中に放り込んだスプレー缶が爆発するように、カイゼル髭と
アフロを揺らし合う二人へ怒涛のツッコミをぶちかましたのは――ご存知、ア
フロ同盟顧問教師、緒方理奈だった。
「オオウ、理奈サン。本日モお元気なようデスネ」
「お元気なようですね、じゃないでしょうがっ! あたしが毎日、アフロ同盟
を正式な団体にすべく奔走してるってのに! あんたはひがな一日カイゼル髭
とタマダンスっ!?」
「千里の道も一歩カラ、石の上にも三年、慌てる乞食は貰いが少ないデ〜ス?
悠久ナル時間をタマダンスで過ごす事デ、迷狂死衰のココロを……」
「字が違ぁうっ!!!」

 ごめすっ!

 TaS、再度轟沈。
「それはともかくっ!」
「ひいっ!?」
 いきなり、何の予兆も無しに立ち上がるひげ4に、理奈は思わず悲鳴を上げ
た。
「紳士たるもの、女性には優しくあれっ! 心に愛が無ければスーパーヒーロー
じゃないと、過去の超人オリンピック優勝者も言っているっ!」
「……だから、訳わかんないって」
 いい加減、激昂する気力も無いのか――理奈は疲れ切った表情でツッコミを
入れる。
「悩みがあるだろう!? あるかしら!? あれば、ある時、あったかも!?
英国紳士たるこの私に、その悩みをずばぁっと参上ばびっと解決! さあ、こ
のカイゼル髭を付けてヒゲダンスを……」
「あんたも、TaSと同類かぁっ!!!」
 理奈、一瞬で気力充填。

 どぐしゃっ!

「はぁ……はぁ……どいつもこいつも」
「あんまり乱暴してると、怖い人って噂が立つよ?」
 それまで傍らで様子を見ていた森川由綺が、遠慮がちに言った。
 もう手遅れという気もするが、敢えて言及する者はここにはいない。
「だったら、由綺。アフロ同盟の顧問やってみる? 目立てるわよ」
「うーん……遠慮しておく。乱暴にはなりたくないし」
 苦笑いを浮かべて首を振る由綺に、TaSは肩を竦めて首を傾げる。
「HAHAHA! マルデ、アフロ同盟にイルト乱暴者になるヨウナ言い草デ
スネ〜」
「安心して。アフロ同盟にいるとじゃなくて、あんたの相手をしてるとだから」
「いけませんぞっ! 淑女たるもの、みだりに手を上げるような行為はっ!」
「だったら、とりあえずあんたら黙りなさい」
 理奈は頬を引き攣らせながら、喉から落ち着き払っているように見せかけた
声を絞り出す。
 ひげ4とTaSは互いに顔を見合わせ――
「はっはっは。それではまるで、私達が貴女を怒らせているようではないです
か。心外ですなぁ、はっはっは」
「ソウデスネェ……それでは一つ、日本のワビサビを追求したタマダンスの新
作でココロを和ませては如何デスカ? HAHAHA」
 ――楽しげに笑い出す。

 ぷちん

 理奈の頭の中で、何かが切れた。
「由綺……バット」
「はい」
 どこから取り出したのか、すぐさま理奈にバットを手渡す由綺。
 しかもグリップに『ジン・ジャザム専用バスターホームラン  持出禁止』
とか書いてあるが。
 理奈はそれを確認すると、グリップをしっかりと握り締め、大きくバットを
振りかぶった。
「バスタァァァァァァァァァァァホォォォォォォォォォムランッ!!!」

 カキィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!

 理奈の渾身のフルスイングは、ひげ4とTaSをあっという間にお空の星に
した。
「……悪は滅びたわ。これで、今日の放課後ぐらいまでは平穏な時間を過ごせ
るわね」
 開け放たれた窓から二人の消えていった空を見上げ、理奈は満足そうな笑顔
でさわやかな笑顔を浮かべていた。
 どれぐらいさわやかかというと、『さわやか〜☆』という効果音が聞こえそ
うなぐらいである。
(理奈ちゃん……もう私には踏み込めない世界の人になったんだね)
 一人そっと涙を拭う由綺――その肩に、左右から同時に手が置かれる。
「……どうやら、彼女の悩みは既に解決したようですな。それでは次は貴女の
お悩みを」
「HAHAHAHAHA、由綺サンの悩みは目立たないコトデスネ〜」
「……え?」
「悩める淑女の手助けをするのも、紳士たる者の務めですからな。ささ、ご遠
慮なく」
「アフロとヒゲ、ドチラがお好みデスカ?」
「あ、あの……両方嫌で……」
「OH! りょうほぉデスカ!? テレンス・T・ダービーもビックリデス!」
「ふむ……女性に髭。異ながらも彩を放つ逸品になるやもしれませんな」
「あっ……理奈ちゃん、助けてっ! ねえっ!?」
 由綺の悲痛な叫び声は、さわやか時空に到達した理奈には届かなかった。
 縦運動のヒゲダンスと横運動のタマダンスに揺られながら、由綺は廊下の向
こうへと消えていったのだった――

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「終わっちゃ駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 ――筆者コメントと本文を区切るラインが引かれたというのに。
「このまま終わったら、次回には髭とかアフロとか噂が立つもの! そんな風
になったら、冬弥くんに嫌われちゃうよぉぉぉぉぉっ!」
 いや、冬弥なら外見に拘らずに女性の本質を好いてくれる気もするのだが。
「それでも嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ともあれ、そんな叫び声を上げているうちに、騒ぎを聞きつけてきたジャッ
ジの面々になんとか救助(?)される由綺であった。
 やれやれ。

        ○   ●   ○

 ――で。
「嗚呼っ、ここに置いてあった俺のバスターホムランは何処っ!? 千鶴さん
に貰った大切なやつなのにっ!?」
 工作部の部室をぶっ散らかして喚くジン・ジャザム。
「幻のレアものなのに! それ以上に、無くしたなんて事が千鶴さんに知れた
ら、どうなりますか俺っ!?」
「ん〜、何を無くしたの、ジンちゃん?」
「だから、千鶴さんから貰ったバスターホームラン! どっかその辺で見なかっ
……た……?」
 部屋の室温が、三度ほど降下。
 ジンの頬を冷や汗が滑り落ち、部室にいたゆきと来栖川空が一斉に逃げ出し
た。
「オチかっ、これがオチなのかっ!? 誰か、これが夢だと言ってくれ! ジョ
ンガリ・Aのスタンドが見せてる夢だろこれっ!? 助けて野球服の少年っ、
おはよう部室で溶けてる俺っ!?」
 錯乱するジンに向かって、外見だけ柔らかな笑顔を浮かべる柏木千鶴。
「ジンちゃん……お・し・お・き☆ミ」

        ○   ●   ○

 遠くから悲鳴が聞こえてくる。
「……今日も平和ね」
 理奈のさわやかな呟きが、その悲鳴と共によく晴れた空に吸い込まれていく
ようだった。
 どっとはらい。

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 今度こそ本文終わりのたくたくです。
 ひげ4さんの初Lを見た瞬間に、「TaSさんと向かい合わせてみたい……」
という欲望がふつふつと沸き上がり、気がついたらこんなの書いてました。(笑)
 登場させてしまった皆様、苦情があれば謹んでお受けいたします。(深々)
 初登場から間も置かずに使ってしまったひげ4さん、いきなりすいません。
 とか言いながら、今度はギャラさんと向かい合わせてみたいとか思っている
たくたくでした。