『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第四話 〜正しい電波の使い方〜 投稿者:たくたく

 ひたひたと、薄暗い通路に足音が響く。
 ここは、学園内を縦横無尽に走る隠し通路の一角。
 風紀委員に所属し、これを発見してから探索を続けた一人の男によって、そ
の全貌は概ね明らかになっている。
 と言っても、校舎の修繕・建て直しがしょっちゅう行われるLeaf学園で
は、日々某不思議なダンジョンのように変化を続けているのだが。
「だけど、本当に見つからないんでしょうね、ここ?」
 岡田メグミはそう言って、灰色の壁をぺしぺしと叩いた。

『大丈夫です、昨日調べた最新情報と共に、現在も調査は続行中ですから』

 その声は、彼女に装着されたインカムから聞こえてくる。
 そして、同様のインカムを付けた吉井ユカリ、松本リカにも。

『私一人なので、多少の限界はありますが……それでも、接近するエントリー
ヒロイン及び競技者の動きは、逐一報告しますから』

 エントリーヒロインに支給された携帯電話は、学園内なら何処にいても電波
は届く。
 それを利用した、いわば人力ナビゲーションシステムというわけだ。
 人力という点に、そこはかとなく不安な点はあるような気もするが。

『エントリーヒロインの有力株が倒れるぐらいまでは、休憩をはさみながら通
路を移動して下さい。とりあえず、今回の通信はこれで』

 ぷつん、と音がして通信が切れる。
 三人娘はやや緊張した面持ちで頷き合い、外界での激戦区からゆっくりと離
れていく。
 ただ――岡田は考えていた。
 横にいる二人の親友、吉井と松本。
 もしも最期に、自分を含めた三人だけが残ったのなら。
 いや――それ以上に、たった一人のサポートで三人が逃げ続けることができ
るのか。
 そして、それを考えているのは自分だけなのだろうか。
「どうしたの、メグミ?」
 そんな澱んだ思考に沈んでいた岡田に、吉井が心配そうに声を掛けてくる。
「疲れたなら休もうか? 先は長いし、体力は温存しとかなきゃ」
「そうそう、三人で生徒会役員になって、みんなをびっくりさせるんだから。
一山いくらの生徒会の出来あがり〜」

 ――ごす

 能天気な口調でそう言った松本の脳天に、岡田の拳が落ちた。
「いったぁ〜いっ! メグミちゃんがぶったぁ!」
「一山いくらとか言うなって、何度言えばわかるのよっ!」
「え〜、でも三人ワンセットなら必殺技も使えそうだし〜。トリプラーとか」
「せめてジェットストリームアタックぐらいメジャーな技にしなさいよっ!」
「二人とも……あんまり大きい声だしてると、見つかっちゃうよ?」
 吉井の一言で、二人の動きと声が止まる。
「折角、たくたくさんが頑張ってるんだもの。私達も頑張らなきゃ」
 吉井はそう言って、苦笑気味に微笑んだ。
(……まあ、この二人なら心配はいらないか)
 吉井は友人を裏切るようなしないだろうし、松本はそもそも優勝を狙ってい
るかどうかも怪しい。
 岡田は溜息一つを吐いて、二人の頭を軽く小突いた。
「三人で最期まで生き残る。絶対だからね」
「うん、勿論!」
「頑張ろうね〜」

        ○   ●   ○

 時間は、数日前に遡る。

「な……」
 月島拓也は凍りついていた。
 ミスコン参加者の名簿にあった、一人の女生徒――月島瑠璃子の名前を見て。
「い、いや……確かにミスコンである以上、僕の(美辞麗句があまりにも長い
ために中略)な瑠璃子が推薦されるのは当たり前! その当たり前の展開を、
何故に予想できなかった
んだっ!?」
 頭を抱えてのた打ち回る拓也。
 そんな彼の姿には、威厳もへったくれもあったもんじゃない。
 腹心たる太田香奈子ですら、顔をそむけてそっと涙を拭っている。
「どうする……このまま僕が瑠璃子の援護に出れば、この企画自体が『妹に政
権を譲るための茶番劇』と見られる事は必至! 愚民共がどう思おうと勝手だ
が、そんないわれのない中傷が瑠璃子に向けられるだなんてっ!? だからと
いって、瑠璃子の美しい柔肌を全校生徒の破廉恥な視線に晒せというのかっ!?」
 水着程度なら、水泳の授業でもあれば見られる事もあるのだろうが、彼はシ
チュエーションに納得がいかないらしい。

 で、結局どうしたかというと。
「何してるんですか、月島さん」
「君こそなにをしているんだい、長瀬くん」
 アフロ同盟の面々に守護される月島瑠璃子を物陰から見守る二人。
 だがその視線は激しく火花を散らし、ついでに電波も散っている。
「勿論、僕は瑠璃子さんを陰ながら護るためにいるんです」
「それなら、堂々と傍にいてやればいいだろうに。それとも何かな、一緒にい
たらアフロをかぶせられる事を危惧しているのかね? そんな軟弱者に妹はや
れんな」
「そういう月島さんこそ、堂々と瑠璃子さんを護ってあげたらどうです? 誹
謗中傷が怖くて表に出れない程度なら、兄妹の愛情なんて脆いものですね」
「くっくっく……言うようになったね、長瀬くん」
「ははは……月島さんも相変わらずのようですね」
 激しく電波を散らし合う祐介と拓也。
 電波と殺気で周囲の空間が歪んで見えるほどの険悪っぷりに、アフロ同盟の
面々はとっくに気付いている。
「……まあ、折角護ってくれてるわけだし、気付かないふりぐらいしてあげま
しょ」
 溜息を吐く緒方里奈と、ぽややんとしている月島瑠璃子。
 その周辺では、祐介&拓也の電波で倒された襲撃者に、次々とアフロをかぶ
せていく同盟メンバーの姿があった。

        ○   ●   ○

「流石にあの二人は洒落にならないなぁ……」
 廊下に点々と倒れいるアフロ生徒を見ながら、たくたくはこめかみを押さえ
て唸る。
「月島さんからはできるだけ距離を取りましょうか……できるなら、早めに潰
れてもらうために誘導も必要ですかね。対電波の有力候補は……と」
 たくたくはノートパソコンのキーを叩きながら、静かに隠し通路へと消えて
いった。