Lメモ/VSアフロの後始末編『現実逃避はお好きですか?』 投稿者:TaS
「ふっふっふ〜……萌えるもとい燃えるねぇ」
「……あんた、停学解けたとたんに何やってんのよ?」
 なんとなく冷や汗を流しながら、Yinが訊ねる。
 その目前では、やっとの事で停学(誰かの陰謀説アリ)から復帰したデコイの姿があっ
た。なんとなく嫌な予感を覚えながらも、それに対して突っ込みを入れざるをえないでい
るのはやはり長年の習慣という物だろうか。
 嫌すぎるけど。
 で、そのデコイは妙に高いテンションで自分のカメラの手入れをしている。
「いやー、そりゃもうこんな状況だったら燃えるしかないよね。Yinさんもそう思うで
しょ、ってゆーか思え」
「命令形かい……」
 なんとなく疲れながら──ここ、アフロ同盟の謎の部室の中にいる限り、いつもの事で
はある──質問を続けた。「んで、何に燃えてんです?」
「そんなもん決まってるだろっ! テニスだよテ・ニ・ス。ほとばしる汗、透ける下着、
きらめく太陽、眩しいアンダースコートッ!! ここで燃えずしていったいいつ燃えろと
言うんだッ!?」
「……えーっと……」
 Yinがとりあえず考えたのは、彼の写真が第二購買部で発売される時までに如何に財
布の中身を維持するか、だったりするが。
「あ、そーいえばとーるさんは?」
 なんとなくそんな自分が汚れてるように思えたりもして、Yinは話題を変えようとす
る。実は意外と純情である。
 それに対し、デコイは顔も上げずに答える。
「ああ、さっきまでそこで苦悩してたよ」
「くのう?」
「うん。なんか、新城さんに声をかけるか、瑠璃子さんにお願いするか、それとも他の人
と組むかで悩んでた」
「……浮気者なのか、ひょっとして?」
「さぁ?」
 本気でどうでもいいらしく、デコイはまたカメラの手入れに没頭する。
 それを横目で見て、それから部屋の中を見まわして、Yinは少し考えた。
 部屋の隅では、何故か床の上に敷かれている体育用マットの上で、瑠璃子が前転の練習
をしている。
(そーか。まだ瑠璃子さんはフリーなのか……)
「ねぇ、瑠璃子さん」
「なに?」
 逆さになったまままっすぐに見つめる瑠璃子の瞳に、なんとなく気恥ずかしい気分にも
なる。
「瑠璃子さんはさ、テニスって出来る?」
「うん、得意だよ」
 そうにっこり笑って、彼女はどこからか取り出したラケットを華麗に一振りした。

 卓球のラケットを。

「ま、そんなもんだよな」
 Yinはそんなふうに呟きながら、すっかり慣れてしまった諦めのため息を吐いた。




   Lメモ/VSアフロの後始末編『現実逃避はお好きですか?』




 呼吸を整えるように、軽く息を吐いて。
「それじゃ、行ってくるわね」
 そんなふうに言って、緒方理奈は椅子から立ちあがった。
 職員室の中は、生徒が思っているほどに厳粛なものではない。当たり前だが、教師とて
人間だ。特に放課後ともなれば、さすがに砕けた空気が漂っていた。
「しかし…理奈が顧問、ねぇ」
 もっともそんなふうに呟く緒方英二の姿は、いつの時でも変わりはしないが。
「ちょっと、何よその言い方。だいたい、兄さん止めようともしなかったじゃないの」
 少し拗ねたような声で理奈が振り向く。
「おいおい、何言ってるんだよ。今更”お兄ちゃんの言う事に全部従う”なんて歳でもな
いだろう?」
「それは……そうだけど」
 「お兄ちゃん」を妙に強調する英二に、理奈は少し俯いて答える。
 そんな妹の姿を見て、英二は少し笑った。
「ま、何にしても自分で決めたんだ。頑張れよ」
「うん……うんっ」意外なほどに素直に答える理奈。
 それから彼女が職員室のドアから出て行くまでの間、英二はその後ろ姿を眺めていた。
「しかし……」
 それが消えてから、呟く。
「アレを正式の団体に、ねぇ……」
 ちょっと考えて、
「無理なんじゃないか?」



「無理です」
 きっぱりと断言。
「って、せめてちょっとくらい話を聞いてくれてからでもいいじゃありませんか!」
「うん。でも、そうは言ってもね」
 思いっきり机の上に乗り出す理奈に、足立はいつもの人のいい笑みを浮かべながらゆっ
くりと──子供を諭すように──言葉を紡いだ。
「つまり、”試立”という冠をかぶっていてもここは学校なんです。そういった団体であ
る以上、動く為にはそれなりの理由が必要なんですよ」
「っ、そんなのはっ!」
 激昂する理奈。きっかけがなんであれ、はじめてしまった以上は全力を尽くすのが彼女
の流儀だ。
 そんな彼女を、何か眩しい物でも見るように目を細めて、足立は──いや、試立Lea
f学園の教頭たる彼は、続けた。
「そう、確かに意味の無い事だけどね。だけど、それも用意できないような団体など、存
在する意味もありません……わかりますよね?」
 誤解している人間も多いが、彼は見た目どうりの好々爺ではない。ありえない。
 彼が今の立場にあるのは、純粋に彼の実力による物だ。そして、今もこの立場にあり続
けているのも。
「……わかりました」
 ぽつりと、理奈が答える。
「用意してみせます。しばらくの猶予を下さい」
「ええ、いつまででも待ってますよ」
 そう言って、足立はにっこりと微笑んだ。それこそ、好々爺の名に相応しい表情で。
 それを見る事も無く、理奈は足早に部屋を去った。決意を秘めた表情で。
「そういえば、TaS君は2、3日学校を休むと言ってましたよ」
 彼女の背中にそう声を掛けて、それからドアの閉まる音を聞いて。
 足立は大きく息を吐いた。
 机の片隅に置かれた、小さな紙片を見る。
「まったく、何を考えてるんでしょうかね」
 小さく、呟く。
 つまり。
 彼は結局、好々爺であるのかもしれない。




 閃光。
    轟音。
       爆風。

 どれがはじめに来たのか、一瞬わからなかった。
 ただ、奇妙な浮遊感に身を包まれるのを感じた。
 あるいは、それが一番最初だったかもしれない。
 そんな事を考えながら。
 Yinは吹き飛んでいた。
「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」
「カメラがっ!! レンズがっ!!! フィルムがぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
 惨劇は結局惨劇でしかなく、人生とはかくも虚しい。
 そんなよくわからん言葉を脳裏に走らせつつ、10秒の滞空の後に彼ら二人は壁面へと
たどり着いた。
「爆発するしか脳がねぇのかよぉぉぉぉぉ……」
「あああああああっっ!!! 商売道具がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
 余計な事口走ってるYinと錯乱するデコイを見て、少し考えるようにしてから、
「さ、はじめるわよ」
 ドアから入ってきた理奈がそう言った。
「ちょっと待てやひょっとしてっツーひょっとしなくてもまさかあんたがやったんかいク
ラぁっ!!」
 さも当然のごとくに部屋に入ってきた理奈に対し、血まみれのYinが叫ぶが。

 ゴメスッ

「敬え、とまでは言わないけどね。でももうちょっと言葉使いには気をつけるべきじゃな
いの?」
「ふぁい……」
 更に顎とまぶたから血を流しながら、とりあえず諦めさせられた。
 血のついたメリケンサックをそのままに理奈は周囲を見渡す。
「あれ? 人数が足りないみたいね」
「この部屋の惨状見て、他に言う事ないんですか?」
「ああああああ、あの傑作まで駄目になってるぅぅぅぅぅぅ…………」
 文句を言う気力も無いのか、デコイは床にうずくまりながら涙を流している。
 だが、当の理奈はそんな戯言などに耳を貸そうとせず、しばし自分の考えに浸るように
視線を中空にさ迷わせる。
「そう言えば、TaS君は休みなんだっけ……それじゃ、二人とももう一人の……とーる
君、だっけ? 探してきてくれない?」
「えーっ……」
 なにか文句を言おうとしたYinも、彼女の手が紅く汚れた釘バットに触れるよりも早
く口を閉ざす。
「ほらほらっ、デコイ君、Yin君、いってらっしゃい〜」
「「あらほらさっさ〜」」
 半ばやけくそ気味に口走る二人。
 そんな二つのシルエットを見送ってから、理奈はまた部屋の中を見まわす。
「ちょっと火薬が多すぎたかしらねー」
「でも、おもしろかったよ」
「ふぇっ!?」
 驚いて横を見ると、瑠璃子が埃一つかぶってない姿で立っていた。
 心底楽しそうにしている彼女の顔を見て、少し奇妙な気分が湧きあがってくる。
「ねぇ、理奈ちゃん」
「あのね、先生に対して理奈ちゃんはないでしょ?」
 そんな風に言いながらも、この子にならそう呼ばれるのも悪くない。そんな事を考えて
しまっている。
「理奈ちゃん、がんばってるんだね」
「え?」
 聞き返してみるが、瑠璃子はそれ以上はなにも言わずに笑いながら理奈の顔を見つめて
いる。
 とりあえず、軽く息を吐いて。
 理奈は、瑠璃子の頭を軽く撫でた。


「さて、それじゃみんな注目〜っ」
 パンパンと手を叩きながら、理奈は4人に向き直った。
「いい? この学園の中で公式な団体──部として認められる為に必要な条件は3つある
の。でも私達はそのうち2つまで既に満たしているわ。つまり人数と顧問の存在、ね。」
「はーいっ」
 妙にのんきな声とともに、とーるが手を挙げる。
「何、とーる君?」
「なんでこの部屋、こんなに壊れているんですか?」
「忘れなさい。3時間もすれば直るから」
 冷や汗一つ浮かべる事なくあっさりと言ってのける理奈。さすが大物アイドルである。
「それで、もう一つの条件。ストレートに言っちゃえば「建前」ね」
「もーちょっとストレートでない言い方をしてくれると嬉しいんですけど」
 と、これはYin。思いっきり五月蝿そうな理奈の顔に少し脅えながらも、言いたい事
ははっきりと言う性格らしい。
「要するに、部の行動指針ね。何をするための団体なのか、何を目標とするのか。つまら
ない事だけど、そんなのが必要になる場合もあるのよ。わかるでしょ?」
「はぁ……」
 いまいち納得の行かない様子のYinの顔を見て、少し苦みの入った笑みを浮かべる。
 しかし、すぐに表情を明るくして、指を一本立てて、それから片方の目をつぶって。
「まぁ、私たちの場合は単なる建前じゃ駄目みたいなのよね。建前と、そして実績。その
ためにはまず……」
 そこまで言ってから、手に持っていた紙を広げた。
 3人のアフロが(瑠璃子は外を飛んでいる蝶を目で追っている)覗き込んだその紙は、
意外なほどに綺麗な文字でこう書かれていた。


    『アフロ同盟の今後の行動指針
                目標を見つけようっ!!』


「……なにか間違ってねーか?」
 そんな言葉を、誰かが発した。





                          続かない、けど続く……多分。

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 えーと。
 とりあえずこれを持ちましてVSアフロ編は完結です〜っ。
 参加してくださった皆様、本当にありがとうございました。

 と、これで恐らく「アフロ同盟人員増強計画」も一段落付いたものと思われます。
 もっとも、入りたいなどととゆー奇特な人は、言ってくださればいくらでも受け付けま
すよん(笑)
 #こんなんだから「無節操」とか言われるんだが(笑)

 んで、このアフロ同盟の行動指針ですが。
 例によって、無意味もいいとこです(笑)
 多分、この行動指針の元いくつか書く予定だけど……いつになる事やら(笑)

 んじゃま、この辺で。であ〜。




 テニスエントリー……どーしよ?(笑)