『特訓Lッ!! 実録、これが電芹パワーアップの秘密だ……の巻』 投稿者:TaS





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 刻まれるカウントともに、天井知らずにあがってゆく緊張感が場を支配する。日常では
ない、けして日常ではありえない世界。
 揺らぐ事のない目標──生き残る事──だけを見据え、ただその為だけに自らの能力の
すべてが注がれる。
 言うなればそう、戦場だ。
 その中にありながら、俺は言い知れない高揚感が体を覆ってゆくのを感じていた。
 理屈ではない。ただ、理解した。
 俺は今──

「ふぁいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!!!!」

 ・
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「……これは?」
「遺言とは違うみたいですけどね。現場で発見された一生徒の手記、だそうです」
「よくもまぁ……」
 こんな物を書いている余裕があったものね、そんな言葉を空に溶かしながらゆかりはそ
の紙を机の上に投げ捨てた。
 さして広くもない部屋の中は、多少に薄暗い。
 風紀委員の本部と言えば聞こえはいいものの、実際には使われなくなった教室の流用で
しかない。中に置かれているものは、スチール製の長机と、同じくスチール製の棚。あと
は数個の椅子が、所在無く転がっているだけだ。
 そんな中で広瀬ゆかりは、部下の一人、とーるから本日の最後に起こった事件について
の報告を受けていた。
「で? この戦場ルポライター君はどうなったの?」
「爆発の中心にいましたからね。この件における最大の怪我人ですよ」
 そんなとーるの言葉は、内容の割にはいまいち緊迫感がない。だがゆかりにしてみれ
ば、その理由を知っているだけにかえっていらいらさせられた。
 目だけで先を促そうとするが、それよりも一足だけ早く報告の口が開いた。
「右手をちょっと焼いた程度です。まぁ、一週間はペンを持てないでしょうね」
「なーんでそれだけで済んでるのかしらねー」
 不思議に思うと言うよりは、半分以上あきれているような声をだす。
 実際、今回の件──校庭で起こった謎の爆発という、実にありふれた事件──において
は、死者どころか怪我人すらろくに出ていない。校庭には半径数十メートルに渡る巨大な
クレーターができているのに、である。
「で、とーる君はどんな考えを持ってる? こんなふざけた事件が平然と起こってるよう
な昨今について」
「んー……」
 流石にしばし逡巡するとーる。
 だが、10秒ほどの時を経た後に指を一本だけ立ててこう言った。
「平和なんですよ、要するに」
「慧眼よねー」
 そりゃ、ゆかりならずとも呆れるより他無かろう。


 とゆー訳で。
「サテ、始めまショウカ?」
「──何を、ですか?」
 こっちが聞きたい。




 『特訓Lッ!! 実録、これが電芹パワーアップの秘密だ……の巻』




●挑戦、其の壱

「デハ、特訓を始めマスッッ!!」
 感嘆符無しでは喋れない男、TaSは今日も絶好調らしい。その隣で見ている電芹の視
線が、どこかしら生暖かい。
 曰く。今日は電芹の特訓らしい。
 テニスの、という前書きが出ないあたりは流石としか云い様も無いが。
「──ところで……なんでメイド服なんですか?」
「特訓の王道こすちゅーむデ〜スッ!!」
 断言。
 彼女の言う通り、何故か電芹はメイド服だった。
 紺と白、そして彼女の持つオレンジの髪が描くコントラストが、実に美しい。
 デコイが先ほどから息をつく暇も無くシャッターを押し続けているのも肯けよう。
「──その情報のソースは?」
「でこいサンが教えてくれマシタ〜ッ!!!」

カシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッ
カシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッ
カシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッ
カシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッ
カシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッ…………………………………………

 やむ事を知らないそのシャッター音の中、確かに電芹は笑ったんだ。
 そして、にっこりと言った、それをまだ覚えている。
 「──よろしいですか?」って。
 TaSさんがどう答えたのかは知らない。
 ただ、その後……

 ドカッバキッゲスッガシッベゴッガズッドグッ…………グシャッ

 奇妙に水っぽい音が聞こえた。
 詳しくは、知らない。

                たまたまその場に居合わせた少年の手記より、抜粋。


 電芹、「やり場の無い感情の発散方法」のスキルをゲット!!


 それはそれとして。
 よかったね、デコイ君。
 今回は停学にならずに済んで。
 怪我で学校に行けなかったのも、たったの3日間だっ!

 デコイ良男(仮名、17歳)、相も変わらず出席日数大ピンチ。



●挑戦、其の弐

「サーテッ! 代替かめらまんとしてYinサンをオ迎えしての第2弾ッッ!!」
「──まだ、やるのですか?」
 当然。
「まぁ……俺にしても、あーまで頼まれちゃ断れませんしねぇ」
 結構に律義な発言のYin。やってる事は単なるカメラ小僧だが。
 つい先ほど。

「た……頼むぞ、Yinさん……私の……私の後を継げるのは……君しかっ、君しかいな
いんだ……」

 朝日に煙る海岸でないのが実に惜しまれる、そんな熱い最後であった。(死んでない)
 Yinにしてみれば、彼の遺言を守る事だけが彼の供養になると、そうと思わざるをえ
まい。(繰り返しになるが、死んでない)
 彼の唯一の形見である一眼レフを手に、Yinはデコイの遺志を継ごうと彼なりに必死
でなのだ。(くどいようだが、死んでない)
 それはともかく。

「──それはともかく、」
 Yinの回想を、電芹の冷たい声が遮る。
 何故かは知らないが、いつもよりはるかに冷たい。
「──そんなに写真を撮って、どうなさるんですか?」
「もちろん、第2購買部に売るんですよ♪」
 だんだんに乗ってきたのか、鼻歌混じりで答えるYin。
「──しかし、それにしては数が多いような……」
「ああ、それはね、」
 この時点で調子に乗りすぎている。
 だが、それに気付かないのが人の業。
「三分の一を電芹さんとして、残りの三分の一を加工してD芹として、最後の3分の一は
ノーマルセリオと云う事にして売るんで……あああああっっ!! そんな格好で電柱なん
か構えないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」

 当然最後まで言えずじまい。


 ……Yinは、頑丈である。
 その事をこの時ほど後悔した事はなかった、彼は後にそう語っている。
 まぁ、どうでもいい事ではあるが。


 電芹、「やるせない感情をすべて打ち砕く力技」のスキルをゲット!!



●挑戦、其の参

「……特訓……してマセンネェ」
 流石にちょっと寂しくなったらしい。
「ばっとシカシッッ!! それでもヤッパリ特訓は続いて行くのデスッ!!!」
「──今までやってなかったのに“続く”も何も無いように思えますが」
「気ノ所為デスッッ!!」
 当然の如く断言。
 一瞬で復活してしまう気力がたまぁに羨ましいと思わなくも無い。
「ソーユー訳でっ!!! 人が人とシテ生きる為にはケシテ欠く事のデキナイ物がいくつ
かアリマスッ!!」
「──ふむふむ」
「タトエバそう……あふろトカッ!!」



 暗転
 しばしの静寂



「ソーユー訳でっ!!! 人が人とシテ……をや?」
「──どうかしました?」
「アー、イヤそのなにか……アリマシタ?」
「──さぁ?」
 しばし考え込むTaS。いまいちそういったポーズが似合わない。
「──欠く事のできない物が……までですよ」
「アー、ハイハイ……をや?」
 またも首をかしげる。
 だが、それも一瞬。
「トニカクッ!!! 大事な物がアリマス。それは……あふろトカッ!!!」



 暗転
 しばしの静寂
 それに続き、なにやら物を殴るような音が聞こえる



「ソーユー訳でっ!!! ……」
「──どうかしました?」
「いえ……ルーティーンギャグってのも大概なんだかなぁ、って」
 いきなり本音が出てしまうあたり、結構打たれ弱いのかもしれない。
 ちなみに、青痣の有無は顔に塗った靴墨の所為で判別がつかない。

「あー、そのー……要するにあれですわ。好奇心。あるでしょ、そーゆーの」
「TaSさんTaSさんっ、言葉言葉っ!!」
 必死で諌めるYin。その横では、電芹がどこか手持ち無沙汰に立っている。
 実にほのぼのとした空気だ。
 空気だけだが。


「第一回ッ!! ちきちき大実験大会〜ッッッ!!!」
 何とか持ち直したらしく、TaSの叫びはやっぱり絶好調。
「トユー訳で今回は、電波の実験デ〜スッッ!!」
 いつのまにやら隣に立っているのは月島瑠璃子。
 いつもの事だが唐突に過ぎるような気がしないでもない。
「──電波……ですか?」
 とりあえず台本通りに訊ねてみる電芹。実に律義。
「いえすっ!! 今回の実験ハ……」
 そこでいっぺん言葉を区切る。
「イツモ電波をなちゅらる受信中な瑠璃子サン、ハタシテ電波を遮っちゃったらどーナッ
チャウノカナーッ!! 、デスッ!!」
「──わかりました」
 なんか声が冷たい。
「デ、ここにアルあるみほいるで……」
「──わかりました、もう結構です、口を開かないで下さい、黙れ。」
 メイドロボにさえこうも言われるTaS。なんか素晴らしい。
「ソレデハッ! 実験れっつごーーっ!!!」
「──はい」
 でも、止めはしないらしい。
 実験、開始。


「──で、アルミホイルで瑠璃子さんの頭をくるんでみましたが」
「なんか、ペプシマンみたいですねー」
 記録係のYinが言ったその表現が、おそらくもっとも近いだろう。
 瑠璃子の首から上、アルミホイルでぐーるぐる。
「──実験開始より1分経過。被験体に異状無し」
 確かに、異状無し。
 そんな特異に過ぎる状況にもかかわらず、瑠璃子はいつもの通りにヌボーッと突っ立っ
たままである。
 平常心とは、かくありたい物だ。


「──実験開始より5分経過。被験体に動きが見られます」
「なんか、よろよろしてますねー」
「ムゥゥ、興味深いデスネーッ」
 誰も心配してないあたりが、非道。
「でも、あの動きは一体……」
「──見た事が、あります」
 Yinの疑問に、電芹がどこか厳かに答える。
「──あれは……チョークスリーパーをかけられている時の秋山さんのような……」
「ふむふむ」
「ホウホウ」






「ってっ、窒息してるんじゃねーかぁっっっ!!!」
 Yinだけしか気付かなかったのか、他の二人はわかっててほっといたのか。
 まぁ、首から上が完全にアルミホイルに覆われているのだ。当然と云えば当然。
 しばしの後、あっさりと解放された瑠璃子は、今まで以上にちょっとあれだったかもし
れないがとりあえず元気だった。
「うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん」
 いや、お兄ちゃんはここにいないんですけど。


「サテ、わかってもらえマシタか?」
「──よくは……わかっていないかもしれません。ですが……」
 そういった世間様とは一切関係なく、TaSと電芹が語り合っている。
「命って、儚いからこそ大切なんですね」
 あれからどこをどーすればそういった物が理解できるのか、どうしてもわからないが。
「エエッ、ソレサエわかってもらえればワタシが教える事はナニもアリマセンッ!!」
 ちょっと感動的なシーンかもしれない。
 後ろで瑠璃子に頬を引っ張られているYinの姿さえなければ、だが。
「あお……ひはいんはへほ」
「うん、そうだね」
 にっこり。
 怒っているのだろうか?


 電芹、「穿った見方」のスキルをゲット!!


「コノ特訓の成果さえアレバっ、てにすダロウとなんであロウとオソルルに足りマセンッ
ッッ!! サァッ、共に勝利を目指しマショウっ!!」
 何時の間にか沈みかけた夕日を指差しながら、TaSが涙する。
 少し考えて。
 電芹は小さく呟いた。
「──もしかして、無理矢理まとめようとしていませんか?」


 ほーら、穿って見てる。





                   了


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 ……どんな落ちだ、これ?(笑)

 えーと、よく考えたら新しい掲示板になってはじめての投稿ですが。
 ……それがこれかい(笑)
 えーと、いろんな人にあやまらにゃならんよーな気もするが……ごめん(笑)

>よっしーさん
 特訓の成果は……気にしないで下さい(笑)