『Lメモ アフロ同盟人員増強計画発動っっっ!!!』 投稿者:TaS
 葛田玖逗夜は疲れていた。

「おい、今すぐ綾香と俺の結婚式を手配しろ。3時間だけ待ってやる」
「……導師。 いきなり無茶言わないで下さいよ……」
「やかましいっ!!! 人が温厚な態度のうちにさっさとせんかっっ!!!!」
 ……いきなり無茶な事を言い出す上司。
 ちなみに、この件は30分後に無理矢理ウェディングドレスを着せられたままの綾香と、
何処からか現れた悠 朔とが暴れ出したおかげでなかった事になってくれた。
 ハイドラント曰く「薬が足りなかった」らしい。葛田は、あえてそれ以上追求しようと
はしなかった。した所で無意味だから。

「あ、ねーねー電芹、これ何かな?」
「ああっ! それに近づいちゃ駄目ですっっ!!」
「---おそらくは爆薬の類と思われます。あまり迂闊に触らない方が……」
 ……何にでも興味を持ち、その旅に何か厄介事を起こす二人。
 この時には、電芹の台詞が終わる前に爆薬があっさりと破裂した。
 光と煙がほとんどの、破壊力は無いに等しい物であった為さしたる被害はなかった。電
芹に盾代りにされた葛田以外は。
 その後に弥生に射抜かれるような視線で睨まれ「無能」呼ばわりされた事も含め、どう
という事はない日常の風景ではある。
 だが。
 葛田玖逗夜は疲れていた。


 こういった時、葛田は夕暮の屋上に行く事が多かった。
 季節を通して冷たい風と、物悲しい雰囲気と。
 それと、一人の少女とが彼の心を癒してくれた。
 別に、彼女と何をする訳ではない。
 ただ同じ時を過ごしているだけで、何かが癒される。そんな雰囲気を持った少女だった。
(……まだ……少し早いかな?)
 そんな事をふと思いながら、しかし心は急いてしまう。
 金属の冷たさを手に感じながら、屋上への扉をゆっくりと開く。
 その先に、彼女はいた。
 月島瑠璃子。
 こんもりと茂ったアフロヘアを頭に乗せた、月島瑠璃子がそこに待っていた。

「…………」
「こんにちわ、葛田ちゃん」
「…………」
「どうかしたの?」
 瑠璃子の挨拶にも葛田は答えない。いや、それが耳に届いているかどうかも怪しい。
 妙なねちっこさを持った汗が葛田の顎を伝っていた。
「……えと……瑠璃子……さん?……」
 必死の思いで葛田が言葉を絞り出した時、不意に後ろに気配が生まれた。
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!! ドーかしまシタカ葛田サン!!?」
「プアヌークの邪剣よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!!!!」
 その気配に向かい、問答無用で光熱波をぶちかます葛田。
 だが、そのやかましいだけの馬鹿笑いは未だに続いている。
「マッタク……いきなり何をするんデスカ?」
「……なんで全然効いてない?……」
 確かに葛田の言う通り、唐突に現れて唐突に音声魔術を食らったその男は埃一つ被って
いはいない。 
 もっともそれに関してはほとんど諦めているらしく、葛田の問い詰める声にも力はない。
 少し気を落ち着けるかのように息を吐いて、葛田は目の前の男、TaSを睨み付けた。
 アフロ同盟とかいった酔狂な物を作り上げた男。一言で言えば、単なるアフロ。その、
瑠璃子以上にこんもりと茂った髪の毛をみながら葛田は静かに口を動かした。
「……TaSさんがやったんですか?……」
 何かを押さえるような声で語り掛ける。
 が、当のアフロは平然と「何をデスカぁ?」等と聞き返してきた。
 プツンッ
 瞬間、何かが切れたような音が聞こえる。
「プアヌゥゥゥゥゥゥクのぉぉっっっっっ!!! 邪剣よ邪剣よ邪剣よ邪剣よ邪剣よ邪剣
よ邪剣よ邪剣よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!!!!」
 光と熱との奔流が屋上を支配する。
 一発一発がかなりの威力を秘めているそれは、圧倒的な勢いで屋上を破壊してまわった。
 洒落にならない量の粉塵が視界の総てを遮る。
 それが晴れた時……屋上には、葛田の姿のみがあった。
「……どこに逃げたぁっ!!」
 羅刹さながらの表情を浮かべたまま、葛田は校舎へと入っていった。
 要するに、被害はまだ拡大しそうである、という事だ。


「ヤスランの樽よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」
 魔術の構成により、空気が音すら立てて軋む。
 それをまともに食らい、そのアフロヘアは思いっきり歪んだ。
 後ろから一気に追いつき、葛田はそのアフロを思いっきり引き上げる。
 違う。
 それは、学園もう一人のアフロ、デコイだった。
「……ちっ、はずれか……」
 そう呟いてから、デコイに体を投げ捨てるかのように放り投げた。
「あう……よりにもよってこんな役かぁ……」
 む、すまない。 
 そんな哀れなデコイの姿を、TaSは廊下の片隅からそっと覗いていた。
「シカシまぁ、洒落になってマセンねぇ」
 そんな思いっきり人事のような感想を口にしながら、TaSは廊下の角へと身を潜める。
 その奥では、瑠璃子がこれまた人事のような顔をして「うん、こまったねぇ」と言って
から、唐突にくすくすと笑い始める。
 TaSも顎を撫で回しながらニヤニヤとした笑いを浮かべ、なかなかに怪しい光景が出
来上がってはいるが、あいにくとそれを突っ込んでくれる人間はいない。
 もっとも、それを危惧する人間もいないのだから世の中と言う物は意外とよく出来てい
るのかもしれない。
 そのまま、もう少しその奇妙な風景が続くのかと思えたが。
「フム、では手はず通りにお願いシマス!」
 言うと同時に鳴らされたTaSの指の音で、それは中断される事となった。
 
 
「何処だぁぁぁぁぁぁっっっ!!! 何処に隠れたぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」
 どうやら完全に暴走状態にあるらしい葛田。いつもの、多少おとなしめの口調とは全然
違う物になっている。
 何故か片手にはボロボロになった元主人公をぶら下げてたままに廊下を破壊しながら歩
き回るその様は、ついさっきまでの疲れきった物とは違い、ある意味生き生きとしている。
「な……何でこんな役ばっかり……」
「何処……そこかぁぁぁぁっっっっっっっ!!!」
 誰かの気配を感じ、葛田は振り向きざまに魔術の構成を編む。
 だが、気配の主が網膜に映った瞬間にその構成は霧散する。
 そこにいたのは、月島瑠璃子だった。
 相変わらずのアフロヘアだが、その顔に浮かんでいる表情は、葛田がよく知る彼女の物
に他ならない。
 その笑みは、聖母のそれすらを上回るような慈愛に満ちていた。
 それどころか、葛田には彼女の背後から後光が差しているようにすら見えた。
 ……種を明かしてしまうとTaSのお手製の照明器具(総制作費1980円)で照らし
ていただけなのだが、精神的にかなり参っている葛田にしてみればまさしく御仏の御威光
だった。
 葛田は力無く膝をついた。
 気がついた時には瑠璃子の膝に顔を埋め、泣いていた。
 
 
「辛かったんだね、葛田ちゃん」
 しばらくの時間が過ぎた後、瑠璃子はそう言って葛田の頭を撫でた。
 ひとしきりその感触を楽しんでから、葛田は立ち上がる。
 その瞳に、先ほどの躊躇いの色は既に無い。
 何かを言いた気に口を開いて、少し苦笑するようにして後ろを向いた。
 そのまま振り返らずに歩いていった。
 一人残された形になった瑠璃子は、相変わらず少し楽しそうな、寂しそうな、そんな表
情を浮かべたまま座っている。
 その背後に、小さな足音が聞こえる。
 小さいが、ひそめているという雰囲気ではない。むしろ、何とか大きな足音を立てよう
としているがそれが出来ないでいる、といった感じだ。
「ごめんね、失敗しちゃった」
 後ろも振り向かないままに瑠璃子は言う。
 瞳から感じるのと同じ印象を受ける声。だが、その声が終わると同時にくすくすという
音が洩れている。
 瑠璃子の隣に立ったTaSは、白い歯をむき出しにしてニヤリと笑った。
 それを見て、瑠璃子もニッと歯を出そうとする。だが、どうもうまく行かずに引きつっ
たような笑みになってしまう。
 楽しそうにそれを見ていたTaSは、瑠璃子の髪の毛 ---アフロのヅラを軽く引っ張る。
 ポンッと、軽い音を立てて外れたそれを持って、TaSはまた後ろを向いた。
「ねえ、TaSちゃん」
 瑠璃子からかけられた声に、TaSは少し意外そうな顔をして振り向く。
「私も入っていい?」
「ホヘ?」
 瑠璃子の発言の意図が読めず、かなり間抜けな(元々かもしれんが)顔をするTaS。
 だが、瑠璃子が次に出した言葉に、今度はにっこりと肯いた。
「私も、アフロ同盟に入ってもいいかな?」
「ハイ! 歓迎シマス!!!」

 
 
 
 


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 あのアフロ同盟人員増強計画がついに実行にっっっっ!!
 ……とは言っても、立案から実行まで3日かかってませんが(笑)
 しかも、結局今回のターゲットである葛田さんを引き込む事は出来ませんでした……代
わりにもっと大きな魚がかかりましたが。
 てな訳で、月島瑠璃子さんはアフロ同盟への入会を決意されたようです。当人たっての
希望により何故かヅラの着用は免れたようですが(笑)
 一部から不満の声も聞こえるようですが、あたしだってこれ以上敵を作りたかない(爆)
 
 と、最後になりましたが葛田玖逗夜さん。いろんな意味ですまんです(笑)
 
 んじゃ、この辺で。であであ〜。