シャッフルL「芹香先輩が昼休みにぼーっとして5時間目に遅刻したお話」(前編) 投稿者:とーる




















さおりん「で?」
とーる 「はい」
さおりん「これは?」
とーる 「シャッフルLのタイトルです」
さおりん「……本文は?」
とーる 「……あはははは」
さおりん「……ははははは」
とーる 「はっはっはっはっはっ」
さおりん「あーっはっはっはっは」
とーる 「はっはっはっ、これだけで内容が説明できちゃいました」
さおりん「……それでなっとくするわけないでしょーっ!」

 ひぃのぉたぁまぁ〜、すぱぁぁぁぁいくっ!!

とーる 「あぁっ、愛情が熱いです新城さぁんっ!(ごばきゃっ)」
さおりん「まぁったく、あたしのことはさおりんって呼んでっていってるのにっ。
     とまぁ、それはさておき。さすがにこれじゃ読者の皆さんも納得できない
     と思いますので、今からとーるくんを叱咤激励してもうちょっと書かせま
     す。しばらくお待ちくださいねぇ」





 みなさんこんにちは。
 試立Leaf学園高等部3年、来栖川芹香と申します(ぺこり)。
 あ、SSなのに思わずお辞儀してしまいました。
 挿絵がついてないから皆さんにはわかりにくかったですね。
 授業中なのにカメラ目線でお辞儀したために、隣の席の霜月祐依さんや菅生誠治さ
んが驚いていらっしゃいます。
 後ろの席では私の心の大親友(自薦)の柏木梓さんがため息をついているのが聞こえ
ました。
 梓さんはちょっと気が短いのですが、情に厚くとても世話好きな方です。
 私も何度となく助けていただきましたので、お礼を兼ねて『愛のニックネーム』を
お贈りいたしました。
 ……でも、そのニックネームを聞いたときに、梓さんはひどく狼狽されたのです。
 何が気に入らなかったのでしょう。
 アズエル。
 とてもよいニックネームだと思ったのに。

 あぁ、話がそれてしまいました。
 授業は終盤に差し掛かっています。
 梓さんの従兄弟にあたる柏木耕一先生の授業は脱線することが多く、なかなか教科
書どおりに進みません。ですが、内容そのものはとても面白いのです。
 ですが、今日はいつもの柏木先生らしくありません。
 ひどく顔色が悪いのです。まるで、これから死地に赴く兵隊さんのよう。
 あ、なぜそんなことを知っているのかというと、部活に行くと『昔、俺もこんな顔
をしていたんだよなぁ』と実際に見せてくれる方がいらっしゃるからです。
 残念なことに私以外の方には見えないようですが。
 授業のはじめから終始こんな調子で、クラスの皆さんも怪訝そうにしていました。
 こういうことは身近な人に聞くのが一番です。
 私たちの意見を総じて、霜月さんが梓さんに尋ねました。

「……なぁ、耕一先生、どーしたんだ?」
「あ、あぁ……」
「なんだよ、いいにくいことでもあるのか?」
「そーいうわけじゃないんだけど、さ」
「あんなんじゃ授業にならねえって。いったい何があったんだよ? なんなら俺が」
「あんたがどうこうできる問題じゃないよ。何せ耕一も命がけだしな」
「……は? 地上最強のエルクゥが命がけ? そりゃ穏やかじゃないな。もしかして
柳川先生と一騎打ちとか」
「そういうことなら耕一はあんな顔しないよ」
「じゃあ?」
「……今日の弁当、千鶴姉ぇの力作なんだよ……」
「……うわぁ、そりゃ耕一先生もた、のしみじゃないかなー」

 霜月さんの台詞が途中で不自然に切れました。
 ちょうどそのとき、教室の温度が不意に3度ほど下がったのです。
 体裁を繕った霜月さんはそんな冷気を感じているにもかかわらず汗が止まりません。
話をしながらキムチでも食べたのでしょうか。
 そういえば、この間梓さんが持ってきてくれたお漬物はとてもおいしかったです。
今度是非、キムチにも挑戦していただきましょう。
 そんなことを考えていると。

 きーんこーんかーんこーん♪

 今日はごく普通のチャイムが鳴りました。
 日替わりにランダムで変わるので気が置けません。
 チャイムかと思ったらジンさんとDセリオさんのコミュニケーション(と、綾香は
いっていました)だったりしたこともありましたし。
 教壇の耕一先生の顔色は蒼白、というより紙のようです。
 はふっ、と力なくため息をつくと、消え入りそうな声で授業の終了を告げました。

「今日は……ここまで」
「きりーつ、れーい」

 委員長の号令で挨拶を済ませると、梓さんは耕一先生の所に駆け寄りました。

「耕一……大丈夫か? 第二購買部にでも行って毒消しでも買ってこようか?」
「安心しろ、俺は死なない。大丈夫、俺は地上最強のエルクゥだからな」
「耕一ぃ」

 梓さんが心底心配そうに声をかけています。
 耕一先生の前でだけ、あんな顔になることは、この私も知っている周知の事実なの
です。
 普段の梓さんをよく知っているクラスメートも、その複雑な胸の内を思うと納得し
てしまいます。
 でも、肉体の頑強さなら学園随一の耕一先生が死を覚悟するほどの料理とは、いっ
たいどんなものなのでしょう。
 機会があったらぜひ手に入れたいものです。
 新しい魔術の材料になりそうですし。

「……それは、禁忌に触れると、思います……」

 あ。
 つい口から出てしまったのでしょうか。
 目の前で忠告してくださったのは、私の魂の大親友(自薦)である長谷部彩さんで
す。
 彼女は私にはない才能をもっています。
 絵を描く、ということです。
 やはり、芸術家は魔術師に通じる感覚を持っているのでしょうか。
 テンポが非常に似通っている彩さんとは、ものすごくウマがあうのです。
 JJ(J)さんに出会うわけではありません。
 彼とも魔術の話をしてみたいとは思うのですが。

「……来栖川さん、お昼……」

 言葉少なく、彩さんがお昼ご飯のお誘いをかけてきました。
 魂の大親友の言うことです。たとえ無口で言葉が少なくても通じ合うことができる
のです。
 このことを梓さんにいったら、

「芹香、それは、似たもの同士、っていうんじゃないかな……」

 と、非常に困った顔をされながら言われました。彩さんと似ている、といわれて、
私はとてもうれしかったのですが。

「……あの……」

 あ、せかされてしまいました。
 すみません彩さん、では、どこでお弁当を食べましょうか?

「……いい風が吹いていますから、屋上に行きましょう」

 良い考えだと思います。
 普段は中庭のベンチで食べているのですが、たまには別のところにするのも乙なも
のです。
 梓さん、あなたもご一緒にいかがですか?
 そう誘おうとしたら、梓さんは頭をかきながら、

「あー、今日はやめとくわ」
「……どうして……?」
「今週に入って昼休みは全部逃げ切ってるんだよね。だから、今日あたりの追撃は普
段以上だと思うんだ」
「……追撃?」

 彩さんが怪訝そうな顔になってます。
 そのとき、遠くのほうからドドドという何かとても重たい猛獣が走ってくるような
音が聞こえてきました。

「長谷部、来栖川! ちょっと我慢してくれよっ」

 そういうと、霜月さんが私と彩さんの頭を小脇に抱えるようにして下に向かせまし
た。
 ちょっと痛いです。
 そう思っていたら、何かが頭の上を通り過ぎていきました。

「あぁずぅさぁあああああああああっ!!!」
「あずさせんぱぁあああああああいっ!!!」
「ぃやっかましいわぁっ!!」

 どごーんっ! めきょっ。
 ざしゃっ。ごちんっ。

 耳を劈く轟音がしたかと思うと、また何かが頭の上を通り過ぎていきました。

「相変わらずすばらしい愛情だっ! 90点は堅いぞおっ!!」
「あぁんそんなっ私の愛情を受け取ってもらえないなんてかおりさびしいですぅっ!」

 肩で息をつく梓さんの脇には、2年生の日吉かおりさんが床に突っ伏し、反対側の
黒板には、これまた2年生の秋山登さんが磔になった○レート義太夫のようにめり込
んでいました。
 この間たまたま見つけた、セバスチャンの秘蔵ビデオが役に立ちました。

「……なんて綺麗な肉片のオブジェ……」

 彩さんの芸術家の感性は、秋山さん『だったもの』を見て何かを発見しているよう
です。

「……けっこー、落ち着いてるね、長谷部も来栖川も」

 なぜか霜月さんは冷や汗をたらしながら私と彩さんを見ています。

「ま、いつものことだって割り切るしかないな」

 教科書を片付けていた菅生さんが苦笑を浮かべながら霜月さんの肩を叩いています。

「それよりも」

 霜月さんの肩がぱしーん、と小気味いい音を立てました。

「痛ぇっ! 何しやがる!?」
「いーつーまーでー二人を抱きすくめているつもりだをい」

 菅生さんに文句を言うために向き直ったおかげで、私と彩さんは霜月さんの腕の中
から開放されました。

「ちっ、せっかくの感触を」
「さっきまでは非常事態だったから許容した。だーがー、必要以上の接触はセクハラ
だぞ、セクハラ」
「男が女にセクハラして何が悪いっ!」
「全部悪いに決まってるだろうがっ!」

 とても仲のよいお二人の邪魔をしてはいけませんね。
 彩さんに視線を向けると、小さくひとつうなづきました。
 さすが魂の大親友です。
 私たちはその場を静かに離れて、屋上に向かいました。
 廊下に出てからも、お二人の楽しそうな会話はよく聞こえてきました。

「俺の目の黒いうちは彼女たちにセクハラなど許さん!」
「うっせー、うらやましいならうらやましいって言いやがれこの感触……かんしょ、
く……あれ?」
「……逃げられたな」
「なっ、なぁにぃっ!?」



 お弁当の包みを抱えて、彩さんと並んで階段を上っていきます。
 中庭も好きですが、屋上も実はお気に入りだったりします。
 足元のグラウンドや中庭に人がゴミのようにうごめいているのを見ていると、つい
お約束を試してしまいたくなります。
 その話を綾香にしたら、

「ね、姉さん……姉さんがそれを言ったら、はっきりいってシャレにならないから、
私かセバスチャンの前だけにしてね」

 お約束は大事だと保科さんや赤十字さんもおっしゃっているのに。
 今度、綾香のいないときにやることにしましょう。
 そんなことを考えているうちに階段を上りきりました。

「……鍵がかかっています……」

 先に扉にたどり着いた彩さんが、ドアノブに手をかけながら私に目で訴えかけてき
ました。
 見たところ、彩さんの手は確かにノブをひねろうとしていますが、ぴくりとも動い
ていません。
 彩さんに代わって私がドアを開こうとしたそのとき、

 ばちん。

「きゃっ」

 かなり大きな音がして、彩さんがびっくりして目を大きく見開いています。
 静電気かとも思いましたが、これは違いますね。
 結界です。

「……結界……?」

 はい。
 鍵をかけるのではなく、誰かが屋上に人が立ち入るのを拒んでいます。
 いったい、誰が……?
 そう思った私の脳裏に、

 もうちょっと待ってて、芹香ちゃん。

 こんな『声』が聞こえてきました。

「……今のは?」

 彩さんにも聞こえましたか?
 これは多分、彼女の仕業ですね。
 なるほど、あの力ならこの程度、わけなくできます。

「……指示代名詞ばかりで、わかりにくいです」

 すみません彩さん、しばらくすればこの扉は開きますから、ここで待っていましょ
う。
 私は階段の一番上の段にハンカチをしいて腰をおろしました。
 彩さんはそんな私を見て、何も言わずに同じようにして隣に座り込みました。
 下のほうから小さく、お昼休みの喧騒が聞こえてきます。
 でも、屋上には聞こえているのでしょうか?

(中編(予想)に続く)