テニス大会エントリーLメモ 「眠り姫への招待状」 投稿者:東西
 コツ………コツ………コツ………
 ここは幻八仮眠館……

 コツ………コツ………コツ………

「うるさいぞぉ、東西……じゃ、こうだな」

 コツ………コツ………コツ………

『そうですよ、少し静かにして下さい……ポーン1歩前に』

 五センチほどの女の子の指さし命令で、チェス盤の上のブラックポーンの一つが跳ねる。

 ここ、幻八仮眠館は、ちょっとした緊張に包まれていた。



   テニス大会エントリーLメモ

           「眠り姫への招待状」



 一つは、ここの主、幻八と『命』によるチェスの対決、

 もう一つは……先程から五月蠅いと指摘されている少年、東西によるもの……

「まったく……そんなに緊張することか?
 琴音ちゃんをたかだかテニスの大会に誘うことが?
 と、これをどう防ぐ?」

 にやりと『命』を見据えながらルックを動かす。

 ビショップとルックに挟まれ、ブラッククイーンがおどおどとしている。

(『命』の術「シェイムライフ」により、『命』側の駒達は意志を持ち、
 主である『命』の意思に基づき自ら動いている)

『イヤなところに打ってきますね……ならこうしましょう。
 ビショップ、右前方に一歩』

 再び『命』の命令に従う、駒=ビショップが、右前方に一つ移動する。

『チェックメイト……です』

 幻八に向けられたような笑みを向けながら告げる。

 幻八のキングは、ビショップをかわしたとしても、ナイトと、ルックにとどめを刺される。

「ぬぅ……」

 幻八が苦い顔をする。

 このやりとりの間も、東西はコツ、コツと机を指で叩き続ける。

『もう答えは出て居るんでしょう? なら迷わないで良いでしょうに……
 たった一言、
 「姫川さん、僕とテニス大会一緒に出て下さい」
 って、言えば良いだけでしょう?
 幻八さんの打診によれば、誘いさえ来ればやっても良いって言ってたらしいですし……』

 『命』が幻八の苦渋に満ちた顔を見てから、東西に顔を向ける。

「そうだぞ、決めたのなら、突っ走れ……
 と言うわけで、この手ちょっと待ってくれない?」

『ダメです、決めたからには突っ走らせていただきます』

「よし! 決めた!」

 ガタッ

 いきなり先程まで、考え込んでいた東西が、立ち上がる。

「琴音ちゃんなら、まだ寝てるからもう暫し待てよ」

 腕を組み、チェス盤とにらめっこ状態になっている幻八が忠告する。

 が、東西はその言葉を気にせず……

  ガシャガシャガシャ………

『東西! 何をするんですか!?』

「そうだぞ! 折角面白いところだったのに!」

 本当に怒っている『命』、

 にやけながらも語気だけを荒くする幻八……

 その二人を再び無視し、今度は、ホワイトとブラック両陣営を整列させ、
盤の向きを、ホワイトを自分、ブラックを『命』へと向ける。

「おいおい、何するつもりだ?」

「『命』、勝負!」

『………成る程……うけて立ちましょう、手加減は』

「もちろん無し! 勝負運、試させて貰う!」

 真剣そのものの東西の顔に『命』が微笑む……

(ああ、そう言うことか………)

 ここに来て幻八も納得する。

『では……』

「勝負!」






「で、やっぱり手加減した?」

 幻八が頬杖をついて、『命』に尋ねる。

『いいえ、決意をした者に手を抜くのは失礼でしょう』

「だな……で、敗因は?」

『相手の気迫に押されたと言うところでしょうか……』

 はぁ……

 幻八が溜息をつく。

「成る程……ゲームと、決闘の違いみたいなもんか……」

『そうですね、それでも負けるとは思いませんでしたけど……』

 晴れやかな笑みを浮かべながらも多少悔しそうな口調になる。

「で、だけど……」

『待ったは無しですよ?』

「やっぱり?」




 一つの扉の傍らに東西が座り込んでいる。

 多少緊張した面持ちではあるが、迷いはない。

 今はまだ扉の奥で眠る「眠り姫」に、

 パーティーへの誘いをかけることに迷いはもうない。



 1時間後、東西と、姫川琴音の両名が、テニス大会出場の手続きを終了させた。



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 東西:と、言うわけで! よっしーさん、テニス大会参加表明Lメモです!
『命』:意気地なしですね……作中では……
 東西:うるさいよ、君!
『命』:しかし、SS使い多数出場のテニス大会……楽しみ以外の何者でもないですね。
 東西:やっぱお祭りって楽しみだな(笑)
東西&『命』:では、またお会いしましょう〜


                               99/05/07