Lメモ外伝 「始まる刻」  投稿者:東西
 ――三年前、初夏……



 ――なんだ?

  自問する。

 ――こいつはいったい何なんだ!?

  こいつ……妖魔を凍り付けにした男……





                        Lメモ 「始まりの刻」





 ――数時間前

「愚かな……」

 純白の衣を纏った男が嘲笑すら浮かべ吐き捨てる。
 彼の名はSOS……
 超能力「マスター・オブ・タイム」を駆使し、街の暗部を葬る少年。

「まったく……女性は優しくエスコートするモノだと習いませんでしたか?」

 両側をそそり立つビルの壁で遮られた狭く、暗い空間でSOSの狩りは完了し
た。
 彼の目の前には、見るからに軽薄そうな青年が、ナイフと共に転がっている。

「ちくしょう……なんなんだよ!? お前あの女と関係あんのかよ!」

 左の二の腕を押さえながら男が問う……押さえる掌から血が溢れ出している。

「別に……偶々私が嫌がる彼女を暗いところに連れ込もうとする貴方を見つけた。
 ただそれだけですよ……
 そして、貴方は私を相手に刃物を出した……
 よって私は相応の対処をさせて貰っただけですよ……こういう風に……」

 言うやいなや、SOSの目の前に、天を刺すように剣が浮かび上がる。

「ひっ」

 男が恐怖に引きつった悲鳴を上げる。
 完全に、戦意は消失している。

  ふぅ……

 SOSが溜息をつくと同時に剣がかき消える。

「これに懲りたら……女性には優しくすることですね……」

 目は口ほどにモノを言う……しかし、常に細い彼の目は、感情の表現には向か
ない、代わりに、彼の言葉は、十分な怒気を乗せて相手に届く。
 男は、壊れた人形のように首を振り肯定を示す。
 とたんに、男を包んでいたプレッシャーが消える。
 男は、SOSから目を離していたわけではないが、SOSの姿はいつの間にか
男の視界から消えていた……




「まったく……ただ散歩に出ただけのつもりだったのに……」

 先程のいざこざがあった場所から約五百メートル離れた地点の上空にSOSは
寝そべっていた。

「今日も……風が気持ち良いですね……」

 そのまま風に流され、星空を眺めていると……

   ゾクッ

「なにっ!?」

 二重の意味での寒気を感じた。
 寒さ―気温が下がることにより感じるモノ
 そして、人ならざるモノ――妖魔が放つプレッシャーから来る寒気

 ――何処だ!?

 妖魔―放っておけば必ず人に仇為す存在……
 正義感が強く、尚かつそれを止めることが出来る彼からすれば放っておくこと
など出来ない存在。

 ――そこか!

 目標を見定め急降下をはじめる。




 ――馬鹿な……

 SOSは自分の見たモノが信じられなかった……

 ”雪”

 初夏だというのにしんしんと降り、死闘を彩る美しい小道具……

「ギィィィイイィイィイィ!!!!!」

 威嚇ともとれる悲鳴に我を取り戻し、声の主を捜す。
 それは簡単に見つかった……
 ここ……雪が降り注ぐ公園に不釣り合いなモノ……いや、ある意味釣り合うモ
ノなのかも知れない。
 それは、腰まで凍り付けにされ、倒れることすら許されず、両腕を振り回して
いた。

「馬鹿な……」

 先に心中で呟いた言葉を今度は言葉を持って表現する。
 妖魔の前に立つのは、自分とそう年の変わらぬ少年……
 その少年が妖魔を前に、右手から生えるように形作っている氷の剣を妖魔の血
の色に染めていた。

「誰? 僕の玩具を取り上げに来たの?」

 少年が……妖魔の前だというのにもかまわず、SOSの方を向く。
 SOSは、その少年の瞳に射竦まれ、動けない。
 振り向いた少年の瞳は、舞い散る雪のように白く、澄んでいるように見えた。

「だとしたら……罰は受けて貰うよ?」

 少年が可笑しそうにくすくすと笑う。

 ――あぶな……!

「もっとも……遅かったようだけどね、来るのが……」

 少年が右手を一閃する。

「グギィィィィィィィ!!!!!!」

 今度の妖魔の声に威嚇の気配はない……ただ、少年を襲うはずだった右手の消
失による痛みを告げるモノでしかなかった。

 ゴトン……

 重々しい音を立てて、妖魔の腕が……凄まじい破壊力を持っていたであろう腕
がSOSの目の前に落ちてくる。

「もう……こいつ使えないモノ……」

 言うやいなや、少年は妖魔の胸に氷の剣を突き立てる。
 今度は妖魔から悲鳴は上がらない……
 徐々に…しかし確実に変化が見えるスピードで、妖魔の全身を氷が覆っていく。

 カッシャーーーーーーーン

 ガラスが割れるような音を立てて、氷と化した妖魔が砕け散る。
 SOSは動けない……

 ――こいつは異常だ……

 一連の出来事を見てきた感想は滑稽なまでにシンプルだった……
 ただ、周りにとっても自分にとっても危険だと……彼の勘が伝えていた。

「遊び足りないよ…」

 ついた血糊を払うように、剣を振るう。
 SOSが構えを取る。

「君も遊んでくれる気になったんだね?」
 少年は……親愛の情すら浮かんでいるように微笑みかける。

「丁度いいや、僕の玩具を奪おうとした罰に遊んでよ」

 SOSが能力を発動する。

「喰らえ!」

 SOSの前に発生した剣が、少年に向かって疾り、突き刺さる。

 ――殺った?

「あぶないなぁ……でも、君も面白い能力を使うんだね?」

 邪気のない微笑み……
 剣に刺されたにもかかわらず、少年は変わらぬ笑顔を向けてくる。

「そんな……」

 目を凝らす……
 剣は、少年の目の前に形成された氷の壁に突き刺さっていた。

「物質化か……すごいねぇ
 じゃ、次のターンは僕だね、見せて上げるよ。
 もう気付いてるかも知れないけどね。
 これが僕の能力さ……」

 続けて少年が呪を紡ぐ。

 ―大気にあまねく水の精霊よ……
  我が意に従い敵を貫け!

 少年の周りに幾十もの指先くらいの尖った氷が浮かぶ。

「壊れないでね?」

 その言葉と共に、凶器と化した氷が雨のように向かい来る。

 ――速……!

「へぇ……」

 少年が感嘆の声を漏らす。

 ハァ、ハァ……

「テレポートも出来るんだ……」

 荒い息……SOSを見失った少年は、聞こえてきた呼吸音を元にSOSを探す。

「でも……結構な量を受けたようだね。
 呼吸が荒いよ?」

 くすくす笑いながら、少年がSOSに迫る。




 少年から少し離れた木陰にSOSは忍んでいた。

 ――確かに……喰らいすぎた……
 ――選択ミスか?
 ――しかし、なんなんだあいつは?
 ――氷を自由に操る?

 逃げれば良かった……SOSは一時そう思ったが、

 ――馬鹿な! あんな危険な奴を野放しに出来るか!

 掌についた血を見る。
 体中が痛い……
 出血も結構な量となっている……

 ――後一度……

 それがSOSにのこされたターンだろう。

「見つけた!」

 ここに誘われたときと同じように寒気がする。
 反射的に頭をかばい身をかがめる。

 ザァァァァッァァァァ!!!!!

 ホンの少しだけの隙間を空けてSOSの身体に触れず冷気が通り過ぎていく。

「隠れてないでさぁ、遊ぼうよ」

 ――ふざけるなよ、決めてやる!

 SOSが、木陰から出てその身を少年に晒す。

「チャンバラしてくれるの?」

 少年が喜々として尋ねる。
 知らず知らずにSOSの顔に笑みが浮かぶ。
 そのSOSの手には、剣が握られている。

「君に付き合うほど……」

 SOSが間合いをホンの少しだけ詰める。

「酔狂じゃない!」

 握っていた剣を、少年に投げつける。

「無駄だって……」

 少年が再び氷の壁を形成し、迫り来る剣を弾く。
 その時、少年の背後に剣が姿を現す。

「え?」

「チェックメイト……」

 ザシュ……

 肉を貫く音

 ――油断してるからだ……

 勝利を確信し、顔が綻ぶSOS。
 そして、緊張の糸を切ってしまったSOSは、意識を失う……

 トサッ

 SOSが倒れる音だけが静かに響く……

「いつつ、危ないなぁ……」

 そう、少年は立っている。

「抜くのに痛い思いしなくて良かった……って所かな?」

 あの一瞬……少年は身を捻ることにより、急所への攻撃をかわすことに成功し
ていた。
 差し貫いた剣は、SOSが気絶すると共に消滅している。

「お〜い、遊びの最中に眠っちゃう何ていけないんだよ〜」

 くすくす笑いながらSOSの頭をけりつける。

「くぅ……」

 痛みに少しだけ意識が戻る……

(なんだ……ダメだったのか……)

 霞んだ思考ではそう考えるのがやっとだった。
 ”戦闘中”の気絶が意味するモノ……其処までは頭が回ってはいないようだ。

「このまま……壊しちゃっても良いけど……」

 靴底でSOSの頭を踏みつける。

「勿体ないね……」

 足をどける。

「聞こえてる? ま、どうでもいいや……
 よく覚えておいてね……”氷の使い人”……
 好んで氷を使うからそう呼ばれる……僕も気に入ってるんだ」

 そこで、可笑しそうにくすくすと笑う。

「君は僕を止めに来た……なら、止めて見せなよ?
 これからの僕の遊びをね……」

 サク、サク……

 いつの間にか積もりだした雪を踏みしめる音が聞こえる。

 しばらく進んで足音が止む。

「忘れないでね?」

 そして、また、足音が定期的に聞こえ出す。

(忘れるモノか……”氷の使い人”……いつか……いつか見つけだして……
 そして……)

 ――倒す……

 再び意識が闇に沈む……




 
 ――夢か……

 Leaf学園のある木の上……

 ――懐かしい夢だ。

 苦笑する。

 ――こんな所まで追いかけてきたが……

 突出した能力者が集う場所、Leaf学園。
 ここでさえも、彼の探す”氷の使い人”の情報はなかった。
 いや、”氷の使い人”は、正しくは”水の使い人”だと言う情報は手に入れ
ることは出来た。
 相手の能力を、正しく知ることが出来ただけでも収穫である。

 其処まで考えて気を楽にする。

 ――まぁ、いい……いつか見つけだしてみせるさ。
 ――しかし、ここに来て焦ると言うことを忘れたかのようだ……

 それが良いことなのかどうか本人にもわかっては居ない。
 だが、再び眠りに入ったSOSの表情は安らかなモノに見える。


                  了

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東西 :遂に人様の過去に手を出してしまいましたねぇ(笑)
『命』:まぁ……ご本人の了承も得ましたから……
東西 :ご了承くれた、SOSさん、有り難う御座いました。
『命』:今回は何も言うことありません。
東西&『命』:では、皆さん、次の作品で……

                  終幕

登場人物:SOS
     氷(水)の使い人