Lメモ ある日常のエトセトラ 中 投稿者:u.g
Runeの放り投げたゴキ○リ、ハイドラ○ト23号が
購買部が誇る鉄壁の魔法障壁を突破せんとした

まさにその瞬間

パンッ

「そうは問屋がおろさないってね」
ハイドラント23号はスリッパの前にあっさりと潰された
「あああああああああっっっっっっはい○らんとにじゅうさんごおぉぉぉぉぉぉっっっっっっ」
そこに立っていたのは、紫の髪の美女
髪と同じ色をした瞳は何故か人を惹きつけてはなさない
身に着けているものがパン屋のロゴ入りの
ジャケットだが、その姿でさえ気品を感じさせる
トレーディングカードではレアキャラの一人
ルミラ=ド=デュラル
それが彼女の名前であった
「ご苦労さま。ちょっとだけ惜しかったわね」
悪戯っぽく笑う
「悪いねぇ、こんな事までさせちゃって」
すまなそうに言うおばちゃんに笑顔を返し
「いいえ、お気になさらずに。それよりお茶ごちそうさまでした」
ハ○ドラント23号をかたずけた後
スリッパをはき直して戻ってくる
「あんたよく働くからネェ。うちの息子の嫁に欲しいくらいだよ」
「いやですわ、おほほほほ・・・・・・」
触れられたくない話題なのかぎごちなく高笑い
いわゆる近所のお節介なおばさんと結婚適齢期の娘さんな
会話というやつであろうか

おばちゃんはRuneの方を向くと
同情をこめていった
「諦めなよ、あんたお得意さまだから
あたしだってこんな事いいたかないけどさ」
意外な気もするがRuneは購買部の常連らしい
「これ以上やるっていうんなら・・・」
一拍置いて重々しく口を開く
「今までおまけしてた消費税いただくことになるよ」
『最終宣告
その言葉にRuneは己の負けを認めざるを得なかった
完全に敗北したのだ
ここに勝者無き戦いの幕は閉じた
だが、更なる過酷な運命がRuneを襲う
果たして彼に希望は・・・未来はあるのか?!』
「って、いう風に言うとマンガの予告みたいでかっこいいと思いませんか?」
ルミラの隣でどっかから持ってきたのか、スピーカーを片手に丁が言う
その顔は一仕事終えてやたらと誇らしげであった
「いまいちね」
ルミラの評価はからい
『しくしくしくしく・・・・・』
肩を落として、いそいそと片づけを始める
ちなみに、電源を入れたままなので結構五月蝿い
「悪いねぇ、こっちも仕事だからさ・・・」
そんな彼の事は無視して周りは話を進めていた
がっくりと項垂れたままのRuneに
おばちゃんが声をかける
「消費税っていくらぐらいなんですかぁ・・・?」
丁は懲りずに横から口をはさむ
「千鶴パン一袋で・・・5円だ・・・・」
「そのくらい、いいじゃないですか・・・・」
「バカ、おめぇ一円を笑うヤツは一円に泣くんだぞっ
五円ともなれば生きるか死ぬかの瀬戸際じゃねーかっっ」
力強く断言するRune
苦労がにじみ出たその言葉には、実に説得力がある
「・・・そ、そうなんでですか。そんなに価値があるものだったなんて」
丁はただ頷くしかなかった
「硬貨なんて重いだけだからいつも募金しちゃってたけど
見直しちゃったなぁ」
少なくとも嘘をついてる目ではない
「だからあんまり持ったことがないんですよねぇ」
認めたくはないが、本気で言っているらしい
「・・・・・・・・・・・・」
Runeが恨めしそうに睨む
「バブルの時は・・・」
かつての栄華を思う
ルミラの目にも悔しさが滲んでいる
ちなみに書いてる本人は一円に笑うのを信じるタイプである・・・・


結局、Runeはその場を離れることにした
「諦めるんですね」
「ま、戦略的撤退ってやつだ」
「つまりは、逃げ」
「転進」
お互いに引き際と判断したのか、不毛な言い合いは打ち切る
しばらく無言で歩く二人
廊下は授業中のため、静けさに包まれていた
聞こえてくるのは先生や一部の生徒の声
そして、自分達の足音
もちろんそこには爆発音も効果音もない
彼らの知る普段とはあまりにもかけ離れていて
そこはいっそ別世界のようだ
あるいはこちらこそがあるべき姿なのかもしれないが・・・
落ち着かなくなったのか話しかける丁
「それにしてもるーんくんて・・・
ゴ○ブリさんとお友達なんだよね・・・すごいや・・・・」
とりあえず、先ほど奇跡について
「・・・・・・・だれが?」
だが、めぼしい反応は得られなかった
「るーんくんが・・・」
とぼけているのとも違うようだ
「何故・・・?」
ホントに記憶にないのだろうか・・・
「なぜって・・・さっき・・・・」
「ああ、あれか・・・」
ようやく思い至ったのか
「単なる嫌がらせだ」
つまらなそうに言った
「ふーん・・・」
Runeの返事に曖昧な表情を浮かべる
「で、これからどこへ行くの?」
的確な答えを見つけられず、
結局話題を変えることを選ぶ丁
「例えば・・・」
「例えば・・・?」
「どっかの教室火事にして
他の奴らが避難してる間にいただくとか」
一瞬、Runeが何を言ってるかに戸惑う
「あの〜〜、それって・・・」
「ああ、次の手だ」
「まだ・・・、諦めてなかったの・・・・・・」
まだ、購買部のパンが頭から離れていないらしい
呆れるよりも感嘆する丁
「でも、それって火事場泥棒っていうんじゃ・・・・?」
「生死をかけて大切なものを救い出す。男のロマンだよなっっ」
誰に向かって力説している、Rune?
突っ込みもどこ吹く風だ
自分の言ってることの意味も自覚してないのかもしれない
飢えのためか、その目はなかなかにやばげな光を宿している
もはや活動限界は、近い・・・


「どうかした・・・?」
と、急に立ち止まったかと思うと
Runeはもの凄い勢いで走り始めた
「る、るーんくん?」
丁も慌てて追いかけるが
距離は縮まるどころかどんどん離されてゆく
「す、すごい・・・」
角を曲がったところでは完全に見失っていた
「なんだ、まだまだ元気なんだ」
そうは言いつつも丁は言い様のない不安を感じていた
なんとなく、火の消える前の蝋燭を
その光景に連想してしまったから・・・

やがて階段を駆け上がる音も、聞こえなくなる
(僕とるーんくんの距離があーで、音から類推すると・・・
あの階でご飯・・・? ・・・・あー、もしかして・・・・)
目的地に当たりをつけ、
丁はのんびりとRuneの後を追いかけていく
「多分、あそこにいるはず・・・」
最後の力を振り絞りRuneが向かったところ
その場所は・・・
「やっぱり家庭科室か・・・」
開いた扇には”大当たり”の4文字
はたして丁は扉の前で
力つきてたRuneを発見したのである


「何・・・? 凄い音だったけど」
どうやら、頭から倒れ込んだため
上手くノックの代わりとなったらしい
ちょうど内側からドアが開かれた
「あ、あ、あっっ」
丁のセリフははーとまーく付きになった
「あずさせんぱ〜〜い(はーとまーく)」
「抱きつくなぁっっっっ」
紙一重でかわし
梓はそのままボディーブローを決める
「げふぅっっ」
どしゃっ
カウンターをもろに受け、銀河をバックに吹っ飛んでゆく
そのまま、床で悶絶する丁
運良くお腹に漫画本を隠していたとはいえ
そのダメージは、推して知るべきものがある
「・・・・はううううううう・・・・・・」
涙と涎にまみれた顔で
エビの如く両足一緒にばたばたもがいている
「あ・・・、ごめん。つい、いつもの癖で・・・・」
ぽりぽりと、頭をかきながら梓は謝る
「ぽんぽん・・・ぽんぽん・・・・、いちゃいのぉ〜〜」
ちょっと幼児退行入っているようだ
無理もないが・・・
「うう〜〜、ひどいよぉ・・・ひどいよぉ・・・・」
愚痴を吐くあたり、元気と言えばまだ元気だ
「え〜〜と・・・」
かける言葉が見つからない梓
「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく」
「う・・・」
「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく
しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく
しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく」
「うう・・・」
「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく
しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく」
しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく
しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく
しくしくしくしくしくしくしくしくしくしく・・・・・・・」
「え〜い、男なんだからそれくらい耐えてみなよっ」
罪悪感に、思わず怒鳴る梓
「・・・そ、そんなのは・・・・秋山先輩・・・・くらい・・・ですぅ・・・」
「う・・・」
しかし本人も理不尽なのは百も承知であるため、
この反論に返す言葉もなく口をつぐんでしまう
「・・・せ・・・せんぱいがいたいのいたいのとんでけぇ〜〜、・・・・って
やってくれたら・・・・きっと直りますぅ・・・・・」
丁は目をうるうるさせながら訴える
しばし、仁王立ちのままで沈黙する梓
「・・・はぁ」
ため息を一つ
丁の傍らに片膝をつくと
「痛いの痛いの、とんでけ〜っ」
結局、望み通りにして言うとおりにしてやる
「・・・えへへ・・・わーい・・・」
涙の跡はそのままに、弱々しくも喜ぶ
「ふぅ・・・」
「せんぱい・・・・」
思わず安堵の息がでる梓をじっ、と見つめ
そして丁は囁きかける
「・・・お礼にちゅ〜って」
そのまま、目を閉じて唇を・・・・

「・・・・調子に乗るんじゃないわよっ#」

ごいんっ
「ふぇぇぇぇ・・・」
見事に拳骨を喰らう
「つぅ・・・。結構チャンスだと思ったのに・・・」
思わず声に出てしまう
いささか甘いぞ
「なんか言った?」
「いいえ〜、何も言ってないですぅ〜〜」
耳に届かないように愚痴るとすかさず何事もなかったかのように
笑顔で答える丁
切り替えの早さはさすがというか褒め称えるべきか

「で、何のようなの?」
ようやく本題に入ることが出来た
「あの・・・今日調理実習なんですか?」
「そ、そうだけど・・・」
「あのあの・・・僕たちご相伴に預からせてもらえませんか・・・?」
おずおず、といった様子でお願いする
「そ、そんなこと急に言われても・・・」
返答は歯切れの悪いものだった
「材料も足りないし、時間もちょっと・・・」
挙げられた理由は自体は至極もっともであるが
目をそらしての発言は、明らかに説得力を欠いていた
そして、その原因は呼びもしないうちに
彼らの目の前に現れたのだった
「うむ、そう言うことだ。残念だな、宇治」
部屋の中から・・・
大きくため息をはいて
梓はいつの間にか隣に立っている秋山に裏拳を決める
「ぐぉ、百点満点中千点だ」
嬉しそうに吹っ飛ばされてゆく
まぁいつもの事だ
「梓せんぱ〜〜い、早く食べないとお料理冷めちゃいますよ〜〜」
日吉かおりの声も聞こえてくる
既に紛れ込んでるらしい
大ショックのポーズのまま
「う・・・うっく・・・えっく・・・」
「・・・う、宇治?」
再び涙ぐむ丁に梓も動揺する
声もなにやら裏返っていた
「な、なんでいきなり・・・」
「・・・・・せんぱい」
丁は瞳を潤ませて訴えかける
「・・・酷いです・・・」
頬をつたう一筋の涙
「僕だけのけ者にするなんて・・・・」
「う・・・」
後ろめたさに言葉を無くす
(あ、あたしが悪いんじゃないのに〜〜〜)
罪悪感がちくちくと胸を刺している
「あは・・・ごめんなさい。迷惑・・・ですよね・・・・
・・・先輩の都合も考えず押し掛けちゃって・・・」
責めるでもなく嘆くでもなくただ淡々と
流れる涙をそのままにぎこちなく微笑んで
「ごめんなさい・・・」
もう一度、深々と謝り、背を向ける丁
がっくりと肩を落とし落胆の色を隠せない
その後ろ姿からは殊更に悲哀の色が感じられた
「あ〜〜、もう」
結局、彼女の良心はこのまま見捨てることが出来ずに
「わかった・・・、わかったわよ」
半ばやけっぱちに叫ぶ
「さっさときなよっっ。あんたの分も何とかしたげるからっっっ」
「い、いいんですか・・・?」
とたんに顔を輝かせる丁
既に体は梓のそばに30cmのところにある
「嘘じゃないですよね、ホントですよね」
手を取り、ぶんぶん振りながら念を押す
「う・・・うん」
「やった〜〜」
いま泣いたカラスがもう笑う、とはいうが
あんまりといえばあんまりの変わり様に
ちょっと後悔しないでもない梓だった


「相変わらず、凄い人気ね〜〜」
タイミング良く声をかけられる
先ほどから様子を窺っていたようだ
「言わないでよ・・・勇希」
「こ〜ら・・・授業中は先生、でしょ」
幼なじみとはいえ、一応の
公私のけじめはつけているらしい
まじめな顔で釘を差す
「はいはいわかりました、先生」
「よろしい、柏木梓さん」
にっこり笑って、またいつもの調子に戻る
憮然とした表情の梓に
くすくすと笑うと勇希は付け足すように言った
「それはともかく・・・他にも誰かいるんじゃないの?」
「あ、ああ・・・そういえば・・・・」
それまでのごたごたですっかり記憶から失せていたらしい
「るーんくんが・・・このままじゃ・・・・」
半分干からびているRuneを見て
梓はもう一度大きなため息をついた


がつっがつっっ
はむ
ごきゅごきゅごきゅっ
Runeは何も言わずただひたすら料理をかっこんでいる
「ふははははっっっ、負けんぞぉっっっっっ」
無意味に張り合っているのは秋山である
と、
カシッ
「いかんな・・・人のものを狙うとは・・・・」
「あんたこそ横取りなんて意地汚いわよ・・・・・」
秋山とかおりの箸が火花を散らす
「「ぐぬぬぬぬ・・・・・」」
そのまま力勝負へと移行する
「はうはう〜〜、おいしいよ〜〜」
それを後目に丁はほくほく顔で
手近な皿を着実にかたずけてゆく丁
そして、
「たく・・・、何であたしがこんなことを・・・」
なし崩し的に給仕をすることになり
梓はぼやいていた
「なんだかみんな・・・凄い食欲ね・・・・」
もともとが調理実習である
そんなに余分がでるわけではないのだが
「まいったな・・・ちょっと予想外、かな」
勇希の見積もりが甘かったと言うよりは・・・
三杯目にはそっと出すぐらいの心は持て、みんな
「まっ、何とかなるわよね。きっと」
ならないときはどうにもならないが、な
さほど困ってもいないが・・・
そんな様子を他の生徒達も遠巻きにしながら見守ってる

自分の周りを食べ尽くしたRuneが
あたりの様子を窺い始めた
お大尽の如くゆうゆうと、
”大満足!”と書かれた扇子を仰いでいた丁は、
それを見て梓に問いかける
「あの・・・、お代わりないですかぁ」
「みりゃ、わかるでしょ」
にべもなく言う
「しょうがないニ」
「・・・うーん」
と、物欲しげな様子に見かねたのか
一人の青年が進み出た
「じゃ、これあげるね・・・」
今までぼぅっと眺めていた東雲忍である
「あ、じゃぁ私も」
「私も・・・」
それを機にRuneの周りに人の輪が出来た
「ああ、なんと人の情けの素晴らしきことでしょうか」
感涙にむせぶ丁
「思わず記念にこの光景を銅像にして寄贈したくなりますよね、るーんくん」
「・・・・飯・・・・・」