Lメモ ある日常のエトセトラ 上 投稿者:u.g
ここリーフ学園には学級というものは存在しない
自由な校風を唱うだけのことはある
しかし、それは必ずしも学業がないがしろにされるということと同義ではない
生徒は自らの判断により好きな科目を自由に履修出来る
そう、自由にである
だから、極論すればまったく授業を受けないことも理論上は可能なのだ
ただし、その結果は言うまでもなく自分の身に跳ね返る
自己責任
権利を主張するからには義務を果たす
それは本来当然の原則であり
そして、それを当然のこととして定義されているところが
この学園のこの学園たる所以ではあるまいか
もっとも、そこまで崇高な精神を掲げられていることを
自覚している生徒もそう多くはないだろう・・・
ともかく、彼らも高校生であり
当然授業を受けなくてはならないわけで・・・
故にこの物語も授業中の一コマより始まる





Lメモ ある日常のえとせとら





「はら・・・減った」
Runeのその呟きは本日何度目のものであろうか
だが、もう既に頭には具体的なイメージすら浮かばない
壊れたレコードのように条件反射を繰り返すしているだけだ
パトロンのおかげでとりあえず、衣食住は保証されている
その筈だった。本来であれば・・・
だが今は、そのパトロン自体が経済的に逼迫しているのだ
そのしわ寄せが必然的に現れた
そしてその原因を作ったのは他ならぬ彼
自業自得、因果応報
そう言ってしまえばそれまでのことである
「で、あるからしてここで筆者の言いたいことは・・・・」
――念仏まで聞こえたきやがった
「死ぬのか・・・ここで・・・・」
授業科目は現代国語
もちろん担当の長瀬源一郎は念仏を唱えてるわけではない
が、聞くものにとってはさほど大差はないようだ
――まぁ人生そんなもんだよな・・・・
諦めにも似た感情が心を浸食してゆく
――相当、弱っているらしいな
その一方で、Runeは
それを客観的に分析しているもう一人の自分に苦笑する
実際の行動は微かに唇が動いたのみであったが・・・
――いいや・・・もうどうでも・・・・
遠のく意識に身をゆだねようとしたその時
ふとその目に入って来たものは・・・


「宇治くん、ダメだよ」
「はふ?」
斜め後ろで、初音が困ったような顔をしている
「食べる? 美味し〜よぉっ」
宇治は、ドーナツを二つ袋から取ると
「あのねぇ、のーみそが疲れたときは
甘いものを食べるのが一番なんだってさ」
にっこり微笑んでさしだした
「ゆきちゃんも食べるよね」
すぐ後ろの席のゆきにも声をかける
そのとき
「宇治丁っ」
「は、はひ?」
「この問題の答えは?」
突然の指名に慌てる丁
「え、あー、え〜〜とですねぇ」
思わず手に持っていたドーナツを取り落とす
それは、重力に従って加速をはじめ・・・

ガタガタガタッ

「とったぁぁぁぁぁぁっっっっっっ」
床に落ちるギリギリのところで無事Runeの手で拾い上げられた
途中いくつかの机をはじき飛ばしているが、気した風もない
「菓子なんざ何年ぶりだっけ?」
Runeは何とはなしに思い返す
しかし、すぐには思い出すことは出来なかった
そんな自分に少し悲しくなる
「ま、いーや・・・」
目の前の戦果に集中すること
とにかくそれが今すべき最優先事項である


口に入れる前に、じっくりと吟味する
その途中で、Runeは自分を見つめる視線を感じた
顔を上げると、ちょうど目があう
落とし主はにっこりと微笑んで
袋に手を入れドーナツを掴み、それを半分に割ると
そのままに一つをおもむろに右へ向かって投げる
思わず反射的に動くRune
きわどいコースを野球部よろしくダイレクトキャッチ
「おおっ」
クラスはどよめきにわいた
間髪いれず左
全くの反対側
だがしかし、Runeはどっかのゴールキーパーの如く
三角飛びを応用して難なく追いついていた
土台になった男子生徒は吹っ飛ばされていくがそんなのは瑣末事である
「すげぇ・・・」
「ああ、でも・・・」
「宇治のヤツは、まだやる気だ」
そう、丁は既にいつでも次を放てる態勢だ
「ルーンの方は、両手がふさがっちまってるからなぁ」
「はやく食えよ〜っ」
やいのやいのと外野は騒ぎ立てる
――確かにこのままじゃ、不利だな・・・、だが・・・
Runeには分かっていた
一瞬でも隙を見せたら確実にそこを狙われると言う事を
その場合、もたらされる結果は
――一個は諦めなくちゃならないってか・・・? 冗談じゃない
二人の間を緊迫した空気が包み込む


ごくっ・・・

唾を飲み込むのが、やけに大きく聞こえる
「あっ」

カシャン

誰かが落としたシャーペンが床で乾いた音を立てた
それが合図になった
「これでどうっっ」
地面すれすれのきわどいコース

「「おおおっっ」」
驚愕する一同
Runeは体を器用にくねらせて、それを
「く、口でっっ」
受け止めていた・・・、のだ
中国雑技団もびっくりインド人もびっくりの実に壮観な光景であった
「・・・・・お見事・・・・」
投げた方も素直に感嘆の声をあげる
すかさず、開いた扇には”天晴れ”と書いてあった
実際、見とれていたのだ
しかし、それも束の間、すぐに不敵な笑みが浮かぶ
「でもそれはフェイントですぅっ」

ぶっっ

っと、Runeが吐き出す
「き、きたねぇっ」
光の飛沫をあげて飛んで行く、それは・・・
「ひ、ひでぇ・・・」
「あの状態で消しゴム投げるか? 普通・・・」
呆れる一同を余所に最後の一かけらを放り投げようとする丁
「こっちが、ホンモノぉっっ」
窓・・・と言うよりも窓の外に向けて

それより早く
「じゃっしゃあっっっ」
Runeの回し蹴りが過たずその方向へ丁を吹っ飛ばしていた・・・


――最初っからこうしてりゃよかったんだ・・・
涼やかな微笑みを浮かべている
「無駄な体力使っちまったよなぁ」
そう言いつつもその口調は明るい
感慨深げに己が手を見つめる
そこにあるものは、勝者たる証
じっくりと味わう
口の中に広がってゆく得も言われぬ甘さ
「平和・・・だよな・・・」
そう・・・、既に悪は滅びたのだから・・・
その顔がふっと翳る
――だが・・・、救えなかったな・・・
とどめの手榴弾によって爆死を遂げた相手を思う
――・・・・・・最後の一つ・・・・・・


教室内のざわめきは収まりつつあった
「お、俺はもうダメだ・・・」
「傷は深いぞ、しっかりしろっ」
丁の巻き添えに吹き飛ばされた一区画を除いて、ではあるが
まぁ、このぐらいはいつものことだ
「あ〜〜、とりあえず」
それまでずっと蚊帳の外だったビール樽・・・いや 源一郎は
センチメンタルな気分に浸っているRuneと
いまだ焦げたまま煙を上げているの丁を順々に見つめ
ようやく口を開いた
「二人とも廊下に立ってろ・・・・」


「いまどき、廊下に立たされるなんて漫画みたいだよねぇ」
「誰のせいだ誰の・・・・」
にっこり笑って答える丁
「無料で食料援助した人道的かつ心優しい僕をいじめた上に
とどめまで刺そうとしたどっかの非道なRune君のせい」
本人を目の前に良い度胸である
実際、所々焦げ目のついたその制服はぼろぼろ今や見る影もない
成長を考慮してか、やや大きめにあつらえられていたが
その意図が反映されることは無さそうだ
親の苦労も知らず・・・
「お前な・・・・」
悪びれた様子も全くなく言ってのける丁に
Runeはそれ以上突っ込む気も失せたらしい
「まったくぅ、周りの人が庇ってくれたから助かったけどぉ〜〜」
別に庇おうと思っていたわけではなかろう
つくづく自分に都合よく考えるやつである
「それにしても何であんなの持ってるんだか・・・」
言外に極貧のくせに、と言うニュアンスを込めて言う
コミケでも爆発物持ち込まれみ禁止が明記されている物騒なこのご時世
それ以上のモノが道を歩いてたりするのが、この学園、ではあるが。
「ああ、あれか・・・」
素っ気なく言う
「拾った」
「・・・でも、そう言うのはちゃんと交番に届けないと・・・」
「落とし物を拾ったら一割もらうのは当然の権利、
だったら先払いでもおっけーだろ」
ピンを見せながら順序立てて説明して行く
確かに全体の一割にも満たないが
はずしていいモノかどうかは、また別の問題である
「自分はその義務を果たしただけで、あれはかってに爆発したんだ。
何か問題あるか?」
筋が全く通ってないようでやっぱり全く通っていなかった
「なるほどねぇ〜〜」
うんうん、頷いている丁
「そうかぁ〜〜〜」
納得するんじゃない
「でも、あんなの持ってるなら
売ればお金になったんじゃないの?」
それでも、思いついた疑問は口にしてみる
「・・・・・しまった・・・・・その手があったか・・・・・・」
(ああ、金目のもの持ったこと無いから・・・・)
虚を突かれたようなRuneの表情を見ながら
(貧乏って悲しいよね・・・とっても・・・)
丁ははやばやとその原因を決めつけていた
それにしても・・・随分酷い想像、という気もする・・・

しばらくそのまま固まっていたが
「よっと・・・」
丁に背を向けてRuneは床に横たわる
「お休みですかぁ?」
「折角回復したエネルギーをこれ以上浪費したくないからな・・・」
終わったことを悔いるより
これから先、再びじり貧になるであろう事を見越して
前向きに消極策を選ぶ
戦略的に考えても実に正しい
「そーゆーわけで、もう話しかけるなよ」
それだけではなく、他人との距離をおきたがるRuneにとっては
彼のように誰彼構わず関わろうとするようなタイプの人間は苦手な相手であり
極力関わるのは避けたいというのが、実は本音なのかも知れない
「あい」
そんな気持ちをくみ取ったのか丁もおとなしく黙り込む


しばらくして

パンッ

何かの袋を開ける音が廊下に響きわたる
ばりぼり・・・
続いて何かをかみ砕くような音
怪訝に思ったRuneが振り返ると
そこには煎餅をかじる丁の姿があった・・・

再び、二人の視線が交差する
「・・・・くれ」
丁は煎餅をくわえたまま先ほどと同じように微笑み
 
ひゅん
「やっぱり放り投げやがったっっ」
半ば予想していたのか
そう言いつつも見事に素晴らしい反応を見せる
その姿に丁は惜しみない拍手を送る
「次は・・・」
そしてそのまま性懲りもなく第二投の準備
襟首を掴んでそれを止め、すごんでみせるRune
「素直に渡しゃーいいだろうがっ」
「なにか欲しいものを得るには
それ相応の対価と言うものが必要だと思わない・・・?」
さも当然とばかり宣う丁
相変わらすその顔は笑みを浮かべたままだ
”まて・・・プライド捨ててまで煎餅に固執するか、自分?”
”そんなもんで腹はふくれねーだろっ、
今は目の前の煎餅、せんべい、センベェッッッッッウィリィィィィィッッッ”
”落ち着け・・・様子を見るんだ・・・必ず隙は・・・・・”
プライドと生存本能の狭間で葛藤するRune
「廊下に出てまで騒ぐんじゃないっっっ」
それを破ったのは再び登場の長瀬先生
わざわざ教室からご足労いただいた
丁は煎餅を食べながらその一連の出来事を観覧している
まったくの人事らしい
「しかも・・・菓子まで食いやがって」
「え〜〜?」
「これは没収する」
予想外の展開
少なくとも、当人にとっては・・・だが
「あうあう、後生ですぅ」
涙して無実を訴える
しかし、当然ながら後ろを向いている源一郎に
それが見えるハズは無かった
「うう、お煎餅が・・・・」
「ああ・・・飯が・・・炭水化物が・・・」
そして、Runeの目が殺気に満ちた剣呑な光をたたえている事も・・・
「・・・・・邪魔を・・・・するなぁ」
声とも呼べないほどの微かな呟き
だが、見る者には彼の背後に複雑な呪文の”構成”を
感じることが出来たであろう
そして、それが標的たる源一郎に向け放たれんとした
まさにその時

ぐるるぅぅぅぅ・・・・
「あらあらあら」
前のめりに倒れ込むRune
その間に源一郎は教室へ戻っていった
命拾いしたとも知らず
「・・・・・・うううううう・・・・・」
呻いている
――半端に・・・食ったせいで・・・胃が・・・・・
――もう・・・ダメか・・・自分?
――ああ、なんかメタオが手ぇつないでラインダンス踊ってやがる・・・・
――幻覚・・・だよな・・・本格的にやばい・・・のか・・・・
こんなことを考えるのも本日2度目
状況は・・・プラスマイナスで悪化しているかもしれない
流石に気の毒に思ったのか、懐をまさぐる丁
「しょうがない・・・ポテチでも」
「・・・・・・・・・・ぽ・・・・・て・・・・・・・ちぃ・・・」
遠くへ飛び立ちかけたRuneの意識が辛うじて
現世につなぎ止められる
「あうっっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうか・・・・したのか」
無限にも思える一瞬を越えて
「バックの中に置いて来ちゃいました・・・」
反応は急速に弱まり
「・・・・・・・・・・・・・・」
魂はあっさりと抜け出ていった・・・・・
そんな事とはつゆ知らず、丁は時計に目をやると時間の確認
「お昼まで、まだ1時間くらいあるかぁ・・・」
Runeの魂が行く先を求めてぐるぐる回ってる下
「なんか食べにいこっと」
そそくさと立ち上がると、声をかける
「るーんくんも来るぅ? おごったげる〜っ」


  



「あの・・・・・?」









「うーんと・・・・・・?」












「行っちゃうよ・・・・?」


言われたことの意味をようやく理解したのか
魂はあわてて体の中に戻ってゆく
Rune、奇跡の復活!!!
頭を振りながら起きあがる
「あ・・・、なんか言ったか?
すげぇ長い間夢を見てたような気がするんだが・・・」
知らないで済むならそれに越したこともない


「っていってもこの時間じゃカフェテリアはやってないですしぃ」
まだ、ウェイトレスであるたける、電芹、貴姫の3人とも
授業中のはずである
「屋台の出てる時間でもないよね〜」
これも同様の理由
「学食も今は休業中・・・」
何故か、学食は学園名物の戦闘、暴走のコース上にある
この場合先住権を主張し立ち退かないのが悪いのか
微妙なところである
「表に出るにもこのカッコじゃなぁ〜〜」
Rune、丁ともに学園の制服を着用している
(流石に補導されるのはまずいよ〜な・・・)
それ以前に通用門も開いてないであろう
「とすると購買部のパンですよねぇ」
一番無難な選択肢が何故か最後に来る
「でも、朝もパンだったんだよなぁ・・・・」
贅沢な意見
「何でもいいから早くしてくれ・・・・・」
ぶちぶち悩んでいる丁にため息、と言うよりも
もはや青息吐息でRuneが呟いた


「ごめんねぇ、授業時間中は売るわけには行かないんだよ」
購買部のおばちゃんは先ほどからずっと困った顔をしている
既に五度は同じ事を聞かされたか
曰く戦場と化すお昼休みを避けるために
授業を抜け出す生徒が一時期大量に出たらしい
それを防止するための処置だそうである
「実に理論的。・・・これじゃしょーがないか・・・」
餓死しかけてる人間には死刑宣告同然のものであったが・・・
いいかげん見切りを付けて他をあたる事にした丁が
背後にいるRuneを振り返る
「どうしようか・・・・?」
彼はそのまま一歩踏み出すと
「おとなしく渡せばよし・・・さもなくば・・・・」
右腕を突きだし低い声で言い放つ
いい加減空腹が限界を超えて
逆に吹っ切れたのか、むしろ晴れ晴れとした表情だ
「我は放つ・・・」
「あ、あの・・・るーんくん!?」
丁はとっとと端っこに避難して成り行きを見守っている
「あかりの白刃、っと見せかけて
いっけぇぇぇぇっっっっっ 雛山理緒一号ぉぉぉぉぉっっっっっ」
その手にはどこから捕まえたのか
一匹のチャバネゴ○ブリ
「食えなくなったパンは自分が引き取るからなっ!!」
ちゃっかり勝手なことをほざいているRune
だがそれは放り投げられた勢いをそのままに購買部のカウンターで

パシィッ

軽い音を立てて消滅した・・・・
「ま、魔法障壁・・・何でこんなのが・・・・」
それとも、さすが購買部と言うべきか
「く・・・雛山理緒一号・・・、お前の死は無駄にしないぞ」
観覧席で丁は思う
「・・・その名前、なんかやだなぁ・・・・」
購買部の看板娘
貧乏にもめげず健気に頑張る姿に
少なからず好意を抱いている相手である
「なんかダ○チ○イフみたいだし・・・・」
・・・・そう言う問題ではない
というか、何でそんなもの知ってる、15歳少年?
今日日は常識っぽい気もしてちょっとイヤだが。
「だが我々は友の死すら乗り越えて立ち向かわねばならん
そう言うわけで・・・」
RuneはRuneで己の世界へ入り込んでいた
涙をはらって立ち向かう
「いけぇぇぇっっっっ、ハイドラン○23号!!!」
今度は黒ゴキ○リである
「・・・・どうして23号なんだろう・・・・・」
その名前よりも、23号であることの方が遙かに不思議であった
「まぁ、イメージ的には・・・」
我が身のためにそれ以上は口を噤む
「・・・・真っ黒だししぶといし・・・ぴったりだねぇ・・・」
・・・が結局、堪えきれずに口にする
本人が聞いたら必殺の奥義を、三度は喰らわされる事であろう
「あ、別に誰とも言ってないからね〜。
攻撃したら自分だって言ってるようなもんだよぉ」
壁に耳あり障子に目あり
どこに潜んでいるか分からない相手を警戒し、釘を差しておく丁
「そういうところもアレなんだよなぁ・・・」

それはともかく、障壁にたどり着いたハイドラ○ト23号は
火花をあげつつも強行突破を試みる
「今度は魔力も込められてるからなっ」
(なんだかなぁ・・・馬鹿馬鹿しいっていうか・・・・・)

しかし、その馬鹿馬鹿しい現実の前に
生徒達のささやかな幸せが浸食されようとしているのも、また事実
危うし、購買部!!!
まて、次号!!!!
待たなくても続くけど・・・・