学園祭Lメモ「楓祭’98/科学部出展作品(中)」 投稿者:u.g
学園祭Lメモ「楓祭’98/科学部出展作品(中)」 
「・・・・そうか・・・・外側からなら開くんだ・・・・」
安堵の息をもらすゆき
「ほう・・・ようやく一人現れたか」
極上の笑みを浮かべて頷きあう柳川とジン
「へ・・・・・?」
「では、君に協力してもらおう」
「は、はぁ・・・・・?」
突然の出来事に戸惑う丁
「ちょっと実験に助手が一人必要になってな」
「これで、ようやく取りかかれるよ。有り難う」
その隙をついて一気に攻め落とすつもりらしい
畳みかけるように続ける
「よかったなぁお前ら。これで寿命が延びたぜぃ」
ジンはジンで観客を相手に威嚇している・・・


「あの・・・え〜と・・・い、いいですぅ〜〜」
それは否定の意味だったのだろう
そして、その意図は相手によく伝わったようだ
「そうか、宇治君。やってくれるかっっ」
全く逆方向に・・・・・
「ち、違いますですぅ」
「なに、大したことじゃない。
では早速、準備に取りかかるとしよう」
柳川が言う間にジンが丁をずるずると所定の位置まで引きずって行く
「あえ・・・あぁぁぁぁぁっっっ」
添え付けられてあった巨大な棺桶状の機械の中に丁を放り込むと
「じゃ、頑張ってくれっっ」
さわやかな笑顔でそう言い残しおもむろに扉を閉める

ドンドンドンッッ
丁の叫びは分厚いドアに阻まれ他の者の耳に届くことはなかった

「宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね
宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね
宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね
宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね宇治くんゴメンね・・・・」

何だか後ろでぶつぶつ呟いているゆきはとりあえず置いていて

「そう言えばセンセェ、今日はなんの実験をすんだよ?」
今更ながら尋ねるジン
無言のまま柳川が手元の縄を引くと、垂れ幕が落ちてきた

そこには
「ぶ、ブラックホールで空間移動〜〜〜!!??」
ゆきの悲鳴が会場に響きわたったその時
「実験開始だ! では、ぽちっとな・・・」
柳川が高らかに宣言し、手元のスイッチが押される

ブゥ・・・・・・ゥゥゥゥン

低い音を立てて装置が起動するとともに発生した穴に
丁の体は急激に入り口まで引き込まれ停止する
「なぁセンセェ、変なところで引っかかってないか、あれ」
「ふ、あれでいいのだよ、ジン
ああいう回転してないタイプで、かつ
太陽の数百から数千倍の質量を持つブラックホールの入り口付近では
重力も強大なものとなる
・・・・・・(中略)・・・・・・
すると、いろいろな向きに異なった割合で力がかかり
・・・・・・(中略)・・・・・・
故にその結果運動方向に引き延ばされ
垂直方向では押しつぶされるしかないというわけだ」
「わりぃ、むずかしい話はよくわかんねぇや
東西、頼む」
あっさりと投げ出す。それでいいのか、ジン?
「つまり巨大な圧力でプレスされるのをイメージしてください」
「・・・・ようするに薄っぺらにつぶれちまうってことか?」
「まぁ、そう言うところだ」
「なるほど」
「光さえ飲み込まれてしまうからな。実質通信は不可能だ」
「・・・まさに”誰も知らない宇宙、SOSも届かない”って感じですね・・・
って、ああ・・・ほんとにのびててっる・・・・」
「ちなみに質量が太陽の10倍程度では突入時の加速度は
1億5000万メートル毎秒毎秒と大変に危険だ。
ところが1000倍程度の質量のブラックホールならば
この値は15000メートル毎秒毎秒にまで軽減することができる」
「そいつはすげぇや」
わかってるんだかわかってないんだか、
多分わかってないだろうがとりあえず歓声を上げるジン
大丈夫、書いてる本人もよくわかってないから・・・
(はじめの一秒でエベレストの2倍の高さから紐無しバンジーじゃ
どっちにしろ意味がないような・・・・・)
そうは思っても口が裂けても言わない東西である


――5分後
「なぁ、センセェ。まだ終わんないのか?」
当の本人からは異論があろうがぱっと見、
丁の様子に大した変化はない
ジンは既に飽きているようだ
「もっとちゃっちゃといかねぇとお客様が退屈しちまうぜ」
(どちらかというと)
"早くここから逃げ出したい・・・・・"
(っていってるように見えるんだけど
僕がそんなこと考えてもしょうがないよね)
しっかりと、あきらめが入っている東西
「仕方あるまい・・・・、質量上昇」

装置の音が一際高くなる

「あの・・・これ暴走したりしないですよね」
「この私が作ったものだからな」
絶対の自信を持って断言する柳川
(だから心配なんだ・・・・・)
「あ、ちゃんと事前にならしとかして調べてますものね」
普通はね
「ふ・・・、これが初の運転だが・・・そのような心配は不要」
ほらやっぱり・・・・
思わず首を傾げざるを得ないようなものだが
東西もその答えは予想していたらしい
(この自信はどっからくるんだろう・・・・?)
そう思いつつもそれ以上は何にも言わなかった
「そしてこれが、1000万倍」
「では、加速度の方も・・・・」
「うむ、150メートル毎秒毎秒まで下がるぞ」
(だったら最初からそうすればいいのに・・・・)
「何か言ったかね、東西君」
「いえ、なんでもないです・・・」
(啼かなければ雉も撃たれないんだ。そう啼かなければ・・・・)




・・・・・・光。

・・・・・光が見える・・・・・

・・・・おお・・・・、神よ・・・・・




「ようやく行ったか。
トイレが詰まって限界近くの水位になってたのが
急に流れてったみたいなすがすがしい気分だぜ」
いや・・・、そんな同意求められても・・・・
「あのあふれるかあふれないかのギリギリのとこが
またスリルだったりするんだよな」
なんだかあんまりな例えな気もするが
それよりそんな遊びしちゃいけません・・・

「後は境界付近の重力で原子が破壊された際に生じる
ガンマ線に耐えきるだけだ。
まぁ、ジンのブレストファイヤーより強力だがな」
さりげなくとんでもないことを宣う
「なんだと?」
「あああああ、ジンさん落ち着いてください」
ほら、過剰に反応してるし・・・・
「じゃ、じゃぁこれで空間移動は成功するわけですね」
ジンを必死でなだめながらも話を進めようとする東西
まったくごくろー様である
「うまく出られればの話だがな」
「と、言いますと?」
「出口がなければ出ることは出来ないだろう」
さも当たり前の事を聞くなと言わんばかりである
「さぁ、宇治くんは制限時間までに脱出できるのでしょうか?」
冷や汗混じりで言う、だいぶ混乱してるようだ
だから、マジックショーじゃないんだってば・・・・

「では、出口の方を開くとするか」
柳川がなにやら別の指示を与えると
舞台の反対側から同じく巨大な棺桶状のものが現れる
「出口と言いますと・・・」
「俗に言うホワイトホールと言うやつを発生させる」
柳川がそう言ったのとほぼ時を同じくして
「お、何かが出てきたぞ」
ジンが空間から何かが出てくるのを発見した
それは・・・・
「これは・・・・・」
「どうやら下半身の一部らしいな」
「うむ、実験は成功した」
柳川の顔に笑みが浮かぶ
「それでは皆様、盛大な拍手を・・・・」
締めに入る東西、っておひ
「もういいんだ・・・・もう帰るんだ・・・・僕・・・・」
ぶつぶつと小声で何か呟いている
ちょっと退行起こしちゃってるらしい
辛うじて残っている理性が下手に長引かせるよりとっとと
終わらせることを選んだようだ


そのころ、観客の方では・・・・

終わり・・・?
終わりなのか・・・・?
ようやく解放されるのか・・・・?

少しずつ我に返ってゆく人々
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・」
それと同時にいっせいに出口めがけて殺到する
「くくくくく・・・・そうか・・・・逃げるか・・・・」
高見からその様子を眺めていた柳川は
口の端を歪めて薄く笑うと
「・・・ならば・・・狩る!」
高らかに宣言した
逃げまどう人々が狩猟者としての本能を刺激しちゃったらしい
「うほぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ」
ジンはジンで何だか吼えている
「もう・・・いいんだ・・・もぉいいんだ・・・
もおいいんだよおおおおおおっっっっっっっっっっ」
東西の心は遠くへ飛んでいってしまったらしい
自分の機転が全くの逆効果になったことすら認識していないようだ
それはそれで幸せなことかもしれないが・・・


この時会場に居合わせた小林功夫(40歳)は
当時の様子を後にこう語る

「ああ、今年娘が受験なもので見学には
ちょうどいい機会だと思いまして来たんですけどね
はい、そりゃもうとんでもない状況でした
しかも危うく手を挙げるところだったんですよ、私
はい、あの実験で・・・

ほら、ああいうのってノリとか・・・
そういうのが大事なとこあるじゃないですか
私も町内会でもようしを企画したりしてるもので
それが危うくあんな目に遭うことになったかと思うと・・・
まるでSFXのごとく扁平になってくんですよ
しかも、じっくりと
うう、さぶいぼが・・・・思い出しても寒気がする

いや〜、あれ以来人生観変わりましたよ
娘や妻との会話も増えましたしねぇ
え、この学校の感想ですか?
はい、早めにわかって良かったですよ
誰がこんなところに大切な娘をやるもんかい!!!!」
和やかな様子で話が進むうちに
だんだん興奮してきたらしい
つかみかからんばかりに怒鳴る彼の判断は実に賢明である
親子の愛情の勝利
・・・・・どこが・・・・?


あわや地獄絵図が展開されようと言うとき

ぶちっ・・・

呆然と事の成り行きを見つめていた3人の方から異音が聞こえてきた

「いい加減にせんかぁぁぁぁぁぁぁいっっっっっっ!!!」
ゆき、マジ切れ
「げふぅ・・・」
うめき声一つを残して、自らの血の海に沈む柳川

――電装脚
それはわずか0,05秒の間に
蒸着蹴、赤射撃、焼結脚の3連コンボを決める
超高速の必殺技である(CV:次元の人(笑))

その後ろではジンが空の手により静かにスタッブされていた

そして・・・・
「我は呼ぶ黒界の炎!!!!!」
人間の姿へと変化したエーデルハイド・・・・
いや、雪智波もまた己が魔術を解き放つ


柳川とジンにとどめを刺した後
3人はじりじりと東西の元へと間合いを詰めて行く
「は、はぁぁぁぁぁぁっっっっっ」
東西、絶体絶命である
まぁ、日頃の行いから言って自業自得かもしれないが
ちなみに、一般的にこのような窮鼠猫をかむ切れた状態は
長持続しないため相手が冷静になるまで全力で逃げるのが賢明である
そして弱ったときにすかさず反撃にうつるのだ!!
っていうのはおいといて・・・
「ま、待ってください」
賭に出る東西。生き残るために・・・・
「か、彼もまたこの学校の生徒。普通より生命力は高いはず・・・」
「それで」
突き放すような冷たい声で空が先を促す
「ならば全てのパーツを集め来栖川芹香さんの魔術なり
秋山さんの細胞を埋め込むなりすればなんとか・・・」
個人的に秋山細胞は却下したい・・・
「そうだよね・・・まだ希望は捨てちゃいけないよね」
「でも、バラバラのモノを集めるなんて・・・どうやったら・・・」
「こんなこともあろうかとっっっ」
ぶすぶすと焦げている柳川達を踏みつけながら
悲嘆にくれる3人の前にいつの間にやら現れたのは
別名、キ印天才少年科学者とも呼ばれるひめろくである
「次元の歪み検出装置を作っておきました」
手渡されたものはモバイルコンピュータほどの大きさの装置
「これを使えばトップクォークから徳川埋蔵金まで探すことが出来ます」
まじめな顔で言うひめろく
次元のゆがみを検出するんじゃないのか、それ?
「と、とりあえずこれで宇治くんを探しにいけるね」
何はともあれご厚意には甘えることにしたらしい
声をかけるゆきに智波と空もうなずき返す

友情って素晴らしい

(それはいいんだけどね・・・・)
当然の如く疑問が浮かぶ
(なんでこんなもの作ってたんだろう・・・?)
だが、3人ともその疑問を敢えて口にする事はなかった
彼らの知る限りにおいて科学者とは大概そう言うものだったから・・・