アフロがんばる! 投稿者:XY−MEN


「ああ、今日も良く働いた働いた」

 放課後の巡回を終えたディルクセンは、どっかりと風紀委員室の定位置の椅子に腰掛け
た。そして、後輩の風紀委員が笑顔でお茶を差し出すのに、「ありがとう」と一言返すと、
満足げにそれを飲み干した。
 一日の終わりにこうやって渋いお茶を飲むのが、彼にとって至福の時だ。

「お疲れさまでした、先輩。
 どうでした、校内の様子は?」

 日頃からやや過激な言動を繰り返すディルクセンではあるが、その実直な性格のおかげ
で、彼を慕う人間も風紀委員の中には意外と多い。
 この後輩もそんな一人であり、巡回を終えたディルクセンにお茶を出し、何げない会話
をするのが、彼らの日課である。

「いや、今日はまぁ、特に大した事はなかった。
 しいて言えば、例のアフロの連中がまた馬鹿をやっていたぐらいだな」

「ああ、アフロ部ですか。なんなんでしょうね、あれも。
 なんだかいつのまにか、ほとんど正式の部と同じ扱いになっているし。
 あんな連中を、仮とはいえ部として認めるなんて、どうかしてますよ。
 あんなもの、さっさと潰してしまえばいいものを」

 後輩の委員は、顔をしかめながらそう言った。
 「アフロ同盟」──つい最近手に入れた、学園公認による部活動名で呼称するのであれ
ば、「アフロ部」。
 このLeaf学園において、人々が彼らにに対して取るスタンスは、おおよそ3つほどある。

 1つは、無視ないし関わりを持つ事を避けること。
 2つは、面白おかしい集団として、遠巻きにウォッチングすること。
 3つは、奇妙奇天烈で怪しげな集団として排撃すること。

 何しろ、ここは奇人変人の類ならば事欠かないLeaf学園である。
 どんなにアフロであろうとも、わざわざ排撃の労力を割くのも馬鹿馬鹿しいと考えるの
が普通なのだ。
 だから、1が最も多く、次いで2、そして、3の態度を取る人間は少数派だ。

 その少数派である後輩に、ディルクセンは答えた。

「まぁ……そうなんだがな。だが、無駄な部活と言うのなら、他にもいくらでもある。
 それらを全部潰そうと言うのも却って無益というものだ。
 そもそも、部としての活動を保証するのは我らが校長先生その人だ。我々に反論の余地
などがあろう訳もあるまい」

「確かにそうかも知れませんが、でも、奴らは明らかに我が校の風紀を乱しているではあ
りませんか! 先輩はそれを野放しになさって平気なのですか?!」

 語気を荒げる後輩を、やや苦笑混じりに見やりながら、ディルクセンは敢えて平静とそ
れに答える。

「君は少々勘違いしてはいまいか。
 我ら風紀委員が守るべきは、まず法だ。校則だ。ルールなのだ。
 遺憾ではあるが、彼奴らは我が校の校則に反しているわけではない。
 である以上、我々が採るべき行動は静観である、ということだ」

 ひとしきり語って、ディルクセンはお茶のお代わりを飲んだ。

「あんな連中でも、そんな単純に排撃するべきではないのだよ」

 そう締めくくったディルクセンに、後輩は何か不満げな表情をしたが、特に反論は出来
ないまま、一拍の間が空いた。ディルクセンは茶の残りをすする。後輩は一息をついた。
 そこで、ふと、後輩は何かを思いついた顔をした。それ以上、同じ話を続ける無益を踏
まず、話題の転換を図る。

「そう言えば先輩、先輩あての小包があるんですけど……」

「小包? なんだ、それは?」

「それが、気付いたら机の上にあったんですよ」

 そう言って、後輩はその小包を取り出した。
 ディルクセンの前に置かれたそれは、丁寧に包装された、おおよそ20cm四方の立方
体だった。その天辺に、「ディルクセン殿へ」と、えらく立派に楷書でしたためられた宛
名が貼られている。

「なんだこれは……?」

 ディルクセンはまず戸惑いの表情を見せながら小包みを持ち上げ、しばし躊躇した後、
丁寧にセロハンテープをむいて包装を剥がし始めた。

 包装を解くと、中からは綺麗な木箱が現れる。
 ディルクセンは、その天辺の蓋板を、そろりと取ってやった。
 白に近い薄い肌色の木板の箱の中に、黒い何かがぎっしりと詰まっていた。
 一見しただけでは、ディルクセンにも後輩にも、それが何であるか判然とはしなかった。
黒くて波打つような形の何か。
 だが、おそらくは数秒の後だろう。後輩の少年は、ディルクセンのこめかみに強い力が
張っている事に気づいた。
 木箱の中の黒い物を、眼鏡の奥で凝視していたディルクセンは、突然にその中身を鷲づ
かみにした。そして、強引に引っ張り出す。
 木箱の中から抜き出されたそれは、窮屈な空間から突然に解放され、勢い良く弾けた。

「ああっ?!」

 アフロだった。
 黒くてもこもこと、ウェーブが多重に重なり合ったかのような形状。
 木箱から引っ張り出された勢いのままに、それが、うにょんうにょんとばかりに揺れて
伸縮を繰り返している。
 ディルクセンの腕は、アフロを鷲づかみに空中に固定したまま、ぶるぶると震えている。
口元を引きつらせながら、だ。

「こ、こんな真似をよくも……誰が……」

 呟くディルクセンの傍らで、後輩の少年ははっと気づいた。

「せ、先輩、箱の底に!」

 その声に反応してばっと覗きこんだディルクセンの目に、酷く短い一節の文と、走り書
きの署名が映った。


      Fit You!
                Presented ばい アフロ部


「アフロめ……アフロめ……よくもこんな真似をッッ…………!!」

 黄昏時の風紀委員室に、ディルクセンの叫びが響き渡った。
 かくして、ここに一人、アフロ部を排撃する人物が立ったのである。





 緒方理奈は、ため息を吐いた。長く長く。
 全く、面倒な事になってしまった、と。
 本日最後の授業が終わった直後に、彼女は校長室に呼ばれた。
 そしてそこでは、果たして、非常に対応に苦慮する事態が待っていたのだった。

「たった一週間か…………」

 猶予は僅かにそれだけしか与えられなかったと言うべきか、まだ一週間の猶予を与えて
くれたと考えるべきか。いや、猶予を与えられただけでも温情措置だろう。

 確かに、そもそもそれは、かねてより存在した、解決してしかるべき問題だった。
 その解決が延ばし延ばしになっていた事に関しても、自分たちに非がある事は覆せない。
 全てにおいて、自分たちに全く反論の余地はないのだから。

「……仕方ないわ。こうなれば手段は問わないって言う事よね……」

 短い間に、速やかに山積する問題を解決しなければならない。
 ならば、大鉈を振るわねばなるまい。
 その決意を胸に、理奈はクラブ棟へとその歩を進むのであった。




「ふんぬぅぉぉぉ…………」

「くぅあああぁぁ…………」

 そこはさながら、男の意地と意地がぶつかり合うコロシアムのようだった。
 二つの肉塊が組み合い、ぎしぎしと軋み合い、隙あらば相手を地に伏せてくれようと機
を窺う。だが一方で、相手と戦う前に、己の軟弱とも戦わねばならない。それが、戦う男
達の理だ。

「くふっ……」

 息が漏れる。
 まだだ、まだ緩めてはならない。保て、耐えろ、我が肉体よ。
 そう言い聞かせて、己の脚を腕を、懸命に突っ張る。
 そうだ、苦境の中に喘いでいるのは相手も同じなのだから。
 もう、手も脚も力を失って、崩れ落ちそうなのは相手も同じなのだから。

 汗が体の表面に浮き出て体を覆い、光の帯を作っている。
 息は殺すことなどとても出来ない。ぜいぜいと喘いで疲労をさらしている。
 振り絞ることでようやく出てくるパワーの不均一な波が、全身をぶるぶると震わせてい
る。
 そのすべてが二人とも同じ。互角。

 勝負は、次の一手で決まる。

 運命の羅針盤が、動き出す。
 くるくると、最初はめまぐるしく回転していたそれは、やがて静かに静かに静止する。
 運命を収束させるように。
 天啓が、二人の元に落ちた。

「右腕。赤……」

 二人は、体を捻り、震える右手を持ち上げ、そして、赤の丸に向かって必死で伸ばそう
とした。だが、ついに踏ん張り切れず、どちらが先と言うことなくバランスを失い、ほと
んど同時に倒れて転がった。

「うああっ!」

「し、しまったっ!」

 二人してばっと起きあがる。

「い、今のはYinが先に倒れた! なっ、そうだろっ!」

「そんなことはないっ! デコイさんが先だ、絶対にそうだっ!」

 口々に訴える二人。
 ルーレットをひざの上に抱えたとーるは、傍らの月島瑠璃子の方を見やった。

「瑠璃子さん、判定は?」

「デコイちゃんの勝ち」

 瑠璃子は、そっけなくそう言った。
 その途端、両者は快哉と悔恨の叫びを上げる。

「くぉぉおぉっ! やったぁぁぁぁぁッッ!!!」

「ちくしょおおおおおッッ!」

 両拳を力いっぱい握って喜びを爆発させるデコイと、両手で覆った顔で天を仰いで悔や
むYin。

「これで、デコイちゃんの3勝1敗だね」

 瑠璃子がほんやりと微笑する。

「はっはっは、これで、このツイスター勝負は、差し引きして俺が200円の勝ちだな、
Yin!」

「くっそう、もう一勝負だもう一勝負! 今の負けを取り戻すっ!」

「ふふん、いいぞ。ただし、負けがもう100円増えるだけだけどな!」

「なにおう! 次こそは負けないぞ、デコさん!」

 そんな風に二人が楽しげに騒いでいる傍らで、とーるは肩をすぼめ、ぼそぼそと二人に
聞こえないような小声でひとりごちた。

「こんな事やっていていいんでしょうかねぇ、我々は……」

 杓子定規な彼は、そう思わずにはいられない。
 毎日毎日違うことの繰り返し。しかも、それぞれに何の統一性もない。一言で言えば思
いつきのまま、無軌道に放埒の日々。しかし、それを疑問に思う人間は、この場には彼一
人であるようなのだ。それが何とも心細い。
 ため息を吐こうと軽く息を吸った所で、後ろから声が掛けられた。

「ダメよ! そんなのダメに決まってるでしょっ!!」

「え?」

 予想外に返答があって、とーるは思わず振り向いた。
 いつの間にか、部室の入り口に緒方理奈が立っていた。
 右手を戸に掛け、左手を腰に当て、いかにも不景気な表情をぶら下げて。

「あ、理奈先生いらっしゃーい」

 Yinやデコイは、さっきとは打って変わってへらへらと平和そうに笑って出迎える。
 が、しかし、理奈の方はなんとも苦虫をかみつぶしたような表情のままだ。

「……TaS君はいないのね」

 そう言いながら、部室の中へと入り、そして、きっと全員を見渡した。

「まったく、こんな所を見られたら、アフロ部取りつぶしのいい口実になるわよ」

「ははは、何言ってるんスか理奈先生。
 俺達なんかにわざわざ構うような酔狂な奴なんていないでしょ。
 なんせ俺達、アフロですよアフロ!
 一部では空気感染するとまで言われるくらいなんだから!」

 デコイは手をぶんぶんと振って、明るくそう言った。
 そう言い切れるデコイは、間違いなく何かを吹っ切っているのだろう……と、傍らのY
inは、ふと悲しみを覚えたのだが、それはともかく。

「それがいるのよね…………」

「まっさかぁ〜」

「ああ、なんでこんなに無駄に楽観的なのかしら、この子たちは…………」

 あまりに楽観的な反応に、理奈は、思わず頭を抱えてふぅっとため息をついた。
 流石に、ただ一人とーるだけは不安を感じて、恐る恐る問いかけた。

「あ、あの……何かあったんですか、理奈先生?」

「ああ、とーる君!
 そうよ……私が頼みに出来るのはあなただけだわ!」

 絶望の後の希望。
 理奈は、思わずとーるの諸手を握りしめてそう言った。

「あ、いえ、あの…………理奈先生?」

 握りしめられたとーるの方は、理奈の過剰な反応に、しきりに狼狽したり照れたりであ
る。
 と、なれば、残りの男二人は当然面白くない。

「理奈先生! 水くさいスよっ!
 理奈先生には俺達も付いているじゃないスかっ!」

「そーだそーだ! それを、とーるばっかり頼りにするなんて!」

 ちょっと口うるさくたってなんだって、理奈先生はみんなのアイドルなのである。
 その上、このアフロ部を構成するメンバーのうちの、とても、非常に、この上なく、か
けがえない女性メンバー二人のうちの一人である。その視線がたった一人に注がれる事な
ど、あってはならぬ事だと、少なくともYinとデコイは暗黙の了解を取り決めているの
である。それが、この二人以外に適用されるとは言い難かったが。

 二人は拳を握りしめ、今こそとばかりに身を乗り出してみせた……が、

「…………さっきは全然取り合ってもくれなかったくせに……」

と、理奈に睨まれて、すごすごと小さくなって、

「す、すいませーん……」

と呟いた。実にもって、情けないのが板についている。

「ま、ともかく、しっかりと話を聞いてよね。いい?」

 と、とーるの手を離した理奈が言うと、

「はぁ〜い」

と、四人の返事が素直に返ってきた。
 実の所、理奈は、上手にアフロ部の男達を掌握していると言えよう。
 TaSを除いてだが。



 さて、理奈が語る所によると……

 放課後に校長室に呼ばれた彼女を待っていたのは、当然柏木千鶴校長、そして、その傍
らに、何故かディルクセンであった。
 そして、

「理奈先生、実はね……」

と、千鶴校長が苦笑気味に話し始めようとした矢先、ディルクセンが猛然とばかり、機先
を制して喋り出した。その様は、さながら怒濤のごとし。

「理奈先生! 私ディルクセンはかねてより腹に据えかねている事がありますっ!
 理奈先生が顧問をなさっているアフロ部とは一体どのような活動をしている部なのです
か?! アフロ部が学校公認の部活動として仮認可されているにも関わらず、アフロ部の
活動は未だ明らかではありません。これはどういう事なのですか!?
 部活動として学校から部費だとて頂き、クラブ棟の一角に部室までもあてがわれている
にも関わらずこの状況! このディルクセンは見過ごす訳にはいきません!
 このような不実な部活動を許した日には!学園から部費を吸い上げるばかりの寄生虫の
ごとき部活動が増加してしまうのは自明の理! それには断固として対抗せねばなりませ
ん! それ故に理奈先生! 私はアフロをっ!アフロ部を!」

「え? あの? ちょっと、ディルクセン君?」

 肩をいからせ腕は突き上げ、理奈に詰め寄るようにまくしたてるディルクセン。
 さしもの理奈も、いきなりのこの塩梅に、たじろいだ。

「ディルクセン君! そのくらいにしておきなさい……」

「あ……はっ! 失礼しました!」

 千鶴校長の制止を受けて、やっとディルクセンは口を閉ざした。
 あまりの勢いに、喋った本人の息が切れている。
 一体彼に何が起こったのか?と、唖然としながらも理奈は思ったのであるが、千鶴校長
が語りだしたので、それは取り敢えず脇に置いた。

「まぁ……つまりはこういう事なのよ、理奈先生。
 仮認可とは言え、アフロ部は既に部活動として認められている。
 けれど、実際に部活動としての体裁を整えているとは言い難いわ。
 特に、活動目的が設定されていないと言うのは部として致命的ね。
 ディルクセン君の意見に反論の余地はないわ」

「あ……ちょ、ちょっと待って下さい校長、その事については……」

 ディルクセンのあまりの剣幕に呆気に取られていた理奈だったが、そこでようやく事態
を飲み込んだ。つまり、どうやら自分たちは窮地に立たされているようだ。

「部としての目標は、いずれおいおい掲げる……そう言う約束だったわね。
 でも、もうあれから大分経つものね…………」

「校長! ですからそれは…………」

 千鶴校長に抗弁しようと理奈が両手を胸元に上げた時、だん!と一つ音が響いた。
 ディルクセンが机を叩いたのである。そして、またまた力んで力んでディルクセン。

「そう! つまりはアフロ部は学校側との約束をも反故にしていると言えるのです!
 そのような部の存在を!許してはならないッ!!
 いやっ!余人が許そうとも!天地の間にこのディルクセンある限り!このような不実は
決して許しはしないッ!! 
 さぁ千鶴校長、ご英断を! 今こそ正にアフロ部取りつぶしをッッ!!
 アフロなんか!アフロなんかはぁぁぁっっ!!」

 ディルクセンは、両手をぶんぶんと上下左右に振っては振って、熱弁を揮った。

「でぃ、ディルクセン君、なんでそんなにムキになってるのよ?」

「俺は!ムキになどなっては!いませんッッ!」

 間違いなくムキになっている。
 理由は分からないが、どうやらディルクセンの目の奥に見え隠れする、怨念らしき情念
を感じた理奈は、思わずげっそりとしてしまった。
 全く、人間と言うのは、こういう感情的な部分まで全部理屈に上乗せしてしまった時が、
一番始末が面倒くさい。

 千鶴校長も同じくやっぱりげっそりとした様子だったが、それでも後を続けた。

「ともかく理奈先生、こうして生徒の側からはっきりした抗議が来た以上、そして、それ
が間違いない正論である異常、我々学園側としても、アフロ部に対してはっきりとした処
置を取らざるを得ません。分かるわね?」

「分かりますが…………!」

 が……と言ったものの、返す言葉がない。理奈は歯がみした。
 こうなる前に何か手を打つべきだった……と言うのは、正に後の祭りだ。
 どうしてかディルクセンが浮かべている勝利の笑みを見やって、理奈はうなだれた。
 のだが、

「だからそこで……アフロ部にはプレゼンテーションを行ってもらいます」

千鶴校長が付け加えたその一言に、理奈は顔を上げた。

「プレゼンテーション……?」

「……ど、どういう事です?」

「アフロ部に、アフロ部がいかなる活動をする部活なのか……と言うことを、全校生徒と
全職員の前でアピールをしてもらいます。納得の行くだけの活動内容を見せる事が出来れ
ばよし、出来なければアフロ部は廃部になるわけね。ディルクセン君は、活動内容が実は
存在してないのではないかと言う点においてアフロ部を許容していないのだから、これで
納得の行く結果になるはずよね。違うかしら?」

「え? あ…………ええ、た、確かに……」

 千鶴校長が微笑んでそう言う。
 ディルクセンは明らかに納得のいかない……頬にひきつりを残した顔で、曖昧にであっ
たが、返事をせざるを得なかった。この学園において、最強無比、尊厳無双を誇る柏木千
鶴校長にこの表情をされたなら、誰だって否やの答えを返せはしない。

「校長、それでは…………」

「プレゼンテーションは一週間後の今日とします。
 それまでに、アフロ部は然るべき準備を整えるように」

 さっぱりと、ただしあくまできっぱりと、千鶴校長は言った。




「え〜?! 一週間でどうするってーんですか、一体?!」

「そもそも、我々アフロ部の目標って未だに決まってないじゃないですか!
 そんな状態でどうしたら…………」

 口々に訴える声を聞きつつ、理奈は目を閉じながら眉間にしわを寄せた。

「みんなのその気持ちはもっともだわ。けれど……」

 理奈はぐっと目を開いて、力強く言う。

「こうなった以上、やるしかないのよ!
 このアフロ部を存続させるためには、やってしまうしかないじゃないっ!
 いや、やってしまいましょうっ! もはやっ!」

「理奈先生…………」

「理奈先生がそこまで言うのなら!俺はやるよっ!やってやるさっ!」

「うん、やろう」

 とーるが、デコイが、瑠璃子が、熱く理奈に賛同する。
 だが、ただ一人、

「俺……俺は……別にアフロ部を存続しなくてもいいけど……」

ぼそっと、Yinが言った。

「Yin、おまえ……」

「だってさ、なんだか良く分からないうちに出来ちゃった部なんだよ、うち?
 そんなの、頑張って存続させてどうするんだよ。やるだけ徒労だよ」

 そっぽを向いて、皮肉げに笑うYin。
 その頬に、デコイの鉄拳が突き刺さった。

「馬鹿野郎ッ! 分かった風な口をきくなッ!」

 Yinがどだっ!と倒れ込み、頬を押さえて起きあがる。

「な、何をするんだよ、デコさんっ!」

「お前には分からないのかっ! この部の大切さがっ!」

 そう言いざま、デコイは、Yinの胸ぐらを掴んで、ぐいと引き寄せた。

「で、デコイ君、乱暴はいけないわ!」

「理奈先生は黙っていて下さいっ!
 これは男と男の間の話なんだッッ!!」

 止めに入ろうとした理奈も、デコイの一喝の前に、思わずその場で留まった。
 デコイの、余りに凄まじい気迫だ。

「いいか、Yin!
 俺はな……このアフロ部が好きだ!アフロ部のみんなが好きだ!
 だから、みんなのために出来た、みんなのためのこの部をどうしても守りたいんだ!
 お前は、お前は違うのかっ?!」

「で、デコさん……そりゃあ、俺だって……………………」

「だったら、この部を、この場を、守らなきゃならないだろっ?!
 みんなのために、自分のために、何か行動しなきゃならないんだ!違うかっ?!」

 デコイは、Yinの顔を正面から見据えて、そう怒鳴った。

「デコイさん、そこまで…………」

「デコイ君…………」

 とーるがその意気に感じ入り、理奈が思わず涙ぐむその中……
 デコイはこっそりと自分の口元を一同から死角に隠して、Yinだけに聞こえる声でぼ
そぼそと言った。

「馬鹿。アフロ部が解散になっちゃったら、理奈先生がいなくなっちゃうだろ?!
 そうなったらどうなる? 俺達の中から、女の子が2人から1人、半分に減っちゃうん
だぞッ?!」

「あ、いや、そりゃ確かにそうだ……」

 同じく、Yinもデコイだけに聞こえる声で答える。

「Yin……お前、アフロになってから……いや、アフロになる前も、いやいや、人生こ
れまで生きてきて、女性と尋常にお付き合い出来た事ってあるか? 俺はないッ!」

「デコさんは志保と仲いいじゃないかぁ……」

「あんなのは数に入らん!いや、入れてくれるな!
 ……いいか、理奈先生だぞ?! 現役アイドルにして我が校の女神!
 そんな人が、俺達とこんな風に親しくしてくれるって、なんてステキなんだろうと思わ
ないか?!いや、思うだろうが!」

「ま、まぁ、確かにね…………」

「俺、アフロになって悲しかったし情けなかったし悔しかったけど……けど、最近、ちょ
っとだけその辺いいなーって思ってるんだよ。お前もそう思わないか?!いや、思うだろ
うが!」

「ま、まぁね……」

「しかも、部室まで俺達専用にもらえちゃって、他の連中の邪魔が入らないんだぜ!
 何かこう……このままこの状況が続けば、イイことがイロイロあるんじゃないかとか、
思わず期待が湧いて来ないか?!来ないわけがないよなっ?!」

「う、うん、確かに、それはする。大分する」

 ちらっとデコイの肩越しに覗いた先に、瑠璃子がぽーっと微笑んでいるのが見えた。
 確かに。いいコトあるかも知れない。何かいいコトあるかも知れない。
 Yinの中に、ふと助平根性がもたげた。

「よし、なら……いいな?」

「お、おう。心が決まったよ、デコさん」

「うむ!」

 ……と、算段が決まった所で、デコイは寄せていた顔を引いた。
 と、同時に、Yinがさもそれらしく、

「デコさん……俺……俺……間違っていたよ。うっうっ……。
 俺、みんなのために、アフロ部のために、頑張るよ! 頑張れるんだ、俺!」

なんて、瞳を充血目尻に涙を浮かべつつ、言ってのけたものだ。
 思わず理奈も、

「Yin君……」

とばかり、その手を押し抱いた。

「よし! そんじゃあいっちょ頑張ろう!」

「……ですが、それで、一週間後に我々は一体何をするんです?」

 そう聞いたとーるに対し、理奈は腕組みをして唸って答えた。

「うーん、それなんだけど。
 まず第一に部活動として説得力が無くてはならないこと。
 それから私達の人数で可能であること。
 あと、一週間で準備が出来そうなものであること、なんかの条件にあてはまるものでな
いとね」

「うーん、なかなか難題だよなぁ」

「そうですよね……」

 それぞれが、腕を組み、頭をかき、あるいは天を仰いで思索に耽り、彼らの、彼らによ
る、彼らのための部活を存続させるための知恵を振り絞る。
 が、部活動の成り立ちとしてはどう考えてもイビツであることなど、すっかりと頭の中
から抜けおちているのである。本来抑え役である理奈ととーるがその役目を忘れてしまっ
ている以上、アフロ同盟は既に、無敵の迷走ぶりを発揮しつつあると言ってもよい状態な
のであった。

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えーと。見ての通り、未完です、これ(笑)
実の所、この作品で書きたかった場面って、賭けツイスターのところなので、
それを書き終わった時点で意欲が失速して、そのまま放置すること幾年って
状態だったりします。まぁ、HDDの肥やしにしとくだけってのもなんとなく
勿体ない気がしたので投稿してみたのですけど。
続きは……さてねぇ(笑)