The Lメモ「アフロなる日々の彼方に (前編)」 投稿者:XY−MEN
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このLメモはアフロです。
ヤな人は読まない方が吉です(笑)

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今日はとても陽気のいい日だ。とてもとても陽気のいい日だ。
陽光が燦々とふりそそぎ、風は心地よい微風がほどよく流れている。
そんな陽気のいい昼放課の校庭……生徒達の歓声があるべき所。
そこにはどういう訳か、丸い固まりが四つならんでいた。
そう、人の言うところの”アフロ”が。

「Let’s だんすっ!!……ネ!!」

地面に適当に置かれたラジカセから、ノリのいいラップ系の曲が流れ出す。
と同時に、そこに集まったアフロ同盟メンバー、TaS、デコイ、Yin、とーる、
月島瑠璃子が曲に合わせて踊り始めた。
揺れる4つのアフロ達。その光景には筆舌に尽くしがたく面妖なものがある。

「ヒューッ! It’s あ だんさぶる dayデスっ!! Yeah!!」

当然、好んで近づく者などいない。
生徒達は遠巻きに、そしてあくまで横目でそれを見守りつつ、ひそひそと小声で話し合っている。
そんな中……
ノリノリで踊りまくるTaS。
ぼーっとした顔だがどことなく楽しそうに踊る瑠璃子。
不慣れながらも必死に踊っているとーる。
この三人はともかくとして……
その後ろの二人、デコイとYinは明らかに乗り気ではなく、後込み気味であり、
その様はダンスと言うよりかは、どちらかと言うと盆踊りのそれに近かった。

「ねえ、デコイさん……」
「何だ、Yin……?」
「俺達、どうして踊らなきゃならないんでしょうね?」
「さあな……勧誘かなんかのつもりじゃないか?」
「めんばぁ……増えるんですかね?」
「さあな……そんなのわからん……」
「俺達、いつまでアフロなんでしょうね……?」
「……………」
「…………?」
「……………」

何も答えないデコイ。
Yinは不思議に思って、デコイを見る。
デコイは黙って踊っていた。ただひたすらに黙って踊っていた。
さっきまでとはうって変わって激しく!…だが、Yinに背を向けて踊っていた。
Yinは見た! 彼の足下に落ち行く雫を……彼が流した一粒の涙を…

「デコイさんッ!…………」

Yinの胸に熱くこみ上げる物があった。そう、それは今日の今日まで心の奥に
しまい、積み重ね、蒸留してきた怒りと悲しみの結晶……。

「アフロはもういやだぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

Yinは絶叫した。天へ轟け地よ割れよ!とばかりに……。
アフロを被りし漢の、悲しい悲しい雄叫びを。

「ヘイ! Yinサン、ないすシャウトデ〜ス!」

だが、そんなYinの魂の叫びも、至極あっさりとラップミュージックの中に
消えて行く。
空は青かった。無情なほど青かった。


同日同刻、校内某所

『アフロ同盟め……活動が活発になってきたか。』
「そ、そうなのでしょうか? 奴ら、ただ気ままに踊ってるだけのような……」
『いや! 奴らは組織の拡大を狙っておるのだ! ……早急に手を打たねば…』
「は、はあ…」
『何か違うような……』
『おのれ、アフロ同盟! 我らが宿敵! 必ずや我らの前に屈服させてくれようぞ!』
「……………はあ。」
『……何で俺がこんな目に……』


The Lメモ 「アフロなる日々の彼方に……」


放課後。

「やれやれ、思ったより時間を食ったな。」

Yinは生物部部室から校庭へと向かう途中だった。
今日は、アイラナは図書館でレッドテイルと勉強をしている。
一方のYinは、生物部にちょいと顔を出す用があったので、二人は時間を決めて
校庭で待ち合わせすることにしたのだ。

「アイラナのヤツ、まだか?」

呟いて壁にもたれかかる。
そんなYinの横を、下校中の女子生徒達が通りかかる。
Yinに注目する。Yinに注目する。Yinに注目する。アフロに注目する。
目をそらす。
そして、ちらちらこちらを伺い、くすくす笑いとこそこそ話をしつつ遠ざかる。

「………………うおおおおおっっ!!」

Yinは吼えた。行き場のない怒りに。

「くっ………このアフロさえ…アフロさえなければ!」

Yinは嘆いた。猛烈に嘆いた。
そして、その嘆きが既に何度と無く繰り返したものだと思い出し、なんだか無性に悲しくなった。

「ああ……俺は、ほんとにいつまでこのアフロを付けてなきゃいけないんだ……?」

『シリアス』とか、『かっこいい』という言葉はアフロの辞書にはない。
アフロが頭に居座っている限り、アフロ同盟にいる限り、Yinはあくまでギャグ要員である。
彼はその境遇を呪っていた。

「くそう、絶対に外してやる!絶対に!……でも、外れるのか?」

現在のところ、この妙に生物(なまもの)っぽい気色悪いアフロヅラを
外す方法は、生物部の総力の三分の一(即ちYin一人)を挙げた研究にも
かかわらず、発見されていない。

「……もし、一生外れなかったら……?」

その一言を呟いたとき、Yinの脳裏に恐ろしい妄想がわき上がった。

アフロなまま卒業式。アフロなまま結婚式。アフロなままマイホームパパ。
アフロなまま中年。アフロなまま晩年を過ごし、アフロなまま棺桶に入る。

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

その恐怖に耐えきれず、Yinは絶叫し、頭をコンクリート製の校舎の壁に
何度も何度も打ち付けた。
だが、忌まわしいアフロは見事にクッションの役目を果たし、その衝撃はYinの
脳に伝わってくれはしなかった。

「しくしく……アフロやめたい……」

Yinは、ついに人目もはばからず、おいおい泣き出してしまっていた。
勿論女々しくすすり泣き、である。

「ほほう、アフロがイヤか?」

ざしゅ。
Yinを覆う影、そして・・・
背後から掛けられる声があった。

「え……?」

振り向いたYinの、涙に濡れた瞳に映ったのは、目をも眩ますまぶしい閃光だった。

「へっへっへ……そりゃそうだよなあ……」
「ならば……そのアフロ……刈ってやろう!!」
「えっえっ……うああああああっ!!」



その頃、Yinを除くアフロ同盟メンバーと、(何故か)アイラナは校庭でたこ焼きを食っていた。

「タコヤキおいシーデスねー。」
「ね、なかなかいけるでしょう? ますたぁ。」
「……おいしいね。」
「うーん、なかなか……」

なんだか、アフロさえなければほのぼのとした光景だが、アフロがあるので
シュールにアットホームな光景だ。
ちなみに、彼らの食っているたこ焼きを焼いたXY−MENは、なるべく彼ら……特に
TaSと目が合わないように心がけている。
何故なら、彼と目が合うとアフロにされるという噂は有名だからである。

『こっち向くな〜こっち向くなよ〜。』

念じていたりする。
そんなことはともかく。

「うわあああああっ!! ま、ますたぁぁぁぁぁっ!!」

そんな、和やかアフロな場に、Yinが叫び声をあげながら飛び込んできた。

「Yinサン、どうシマしタ?」
「うん? Yinか、どうし…」
「?」

振り返ったその場の全員がYinを見た時の反応は、それぞれ様々だった。

「OH! まいがーっっ!!」
「ぷっ………くっ…はははははははは!!」
「……(くすっ)」
「ぷっ……ぷぷっ……あはははははっ! ま、マスターっ!」

TaSは悲痛な叫びをあげ、デコイは腹を抱えて笑い、瑠璃子はにっこりと
微笑を浮かべ、アイラナととーるは笑いをこらえるのに必死だ。
果たして、彼らの前に立ったYinの姿は……

〜 そーらをこ〜えて〜♪ ラララほーし〜のか〜なた〜♪
  ゆくぞ〜♪ アトム〜♪ ジェットのかぎ〜りぃ〜♪
  こ〜こ〜ろや〜さしぃ〜♪ ラララか〜が〜くぅ〜の子ぉ〜♪
  じゅうま〜ん♪ 馬力〜だ♪ てつわ〜んアト〜ム〜♪ 〜

手塚治虫万歳!!……それはともかくとして……

……アトムだった。そう、鉄腕アトムそのもの。
いや、髪型がそうなのである。
元々はまん丸いアフロだったはずが、頭蓋骨の形を疑いたくなる程に見事に、
まるで洋風庭園の、動物の形に刈り込まれた木を思わせるほどに鮮やかに、
Yinの髪型は変わっていた……いや、変えられていた。

「しくしくしく……うわぁぁぁぁん!! ますたぁっ!!」

泣き崩れるYin。
そんなYinの頭を、TaSは両手でしっかと抱き留めた。

「オー、カワいそうニ……ナンというコトでショウ! まいぷりちーアフロがッッ!!」
「めんばぁのことも少しくらい心配しろぉっ!! この野郎!」

Yinは滝涙を流しつつもツッコミを入れた。
まぁ、TaSと言う男にそれを期待するのも間違ってはいるが。

「Yin、Yin、ちょっとこっち向け。」

今度はデコイが声を掛ける。

「なんすか……? デコイさん?」

Yinが振り向くと、デコイは嬉々としてカメラを構えていた。

「はい、チーズ!」
パシャっ!

悲しいかなパブロフの犬。とっさに、スマイル&ピースを繰り出すYin。
ちなみに、画面の端には、ちゃっかりTaSがダブルピースと共に映っていたりする。

「……ってなに写してるんだぁぁぁぁっ!!」
「え? もちろん記念写真。いやあ、いい絵が撮れた。」

しれっと答えたデコイだったが、Yinの瞳に宿る怒りの炎を見て、流石に
やばいと思い、とっさに話題を逸らすことにした。

「そ、それよりYin、それ、誰にやられたんだ?」
「そ、それは……」

「それは俺達だ!」

ざしゅっ!&ババァーン!
Yinの言葉を遮ってその背後に現れたのは……。

「……何だ、橋本と矢島か。」
「「何だとはなんだぁっ!!」」

だった。
そう、リーフ学園のかませ犬コンビ。
薔薇兄弟二号こと橋本&矢島である。
他にも色々言いようがあるが、可哀想なので止めておこう。
とーるは、二人に鋭い眼差しを向けた。

「あなた達、一体どういうつもりでYinさんにこんな(ちらっ)…………ぷくっ……………………
………………………………………………………………………………………………………………………
ふぅ……こんな真似をしたんですか!」

デコイも続く。

「そうだ! Yinをよくもこんな(ちらっ)…………ぷぷっ……………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
……………………………ふぅ…………こんな髪型にしやがって!」

「わ、笑うなぁぁぁぁぁっ!」

Yin、怒り泣き。

「そ、そう言われても……」
「なぁ……?」

顔を見合わせる二人。
ちなみに、これ以上笑わないよう(?)極力Yinの顔を見ないようにしている。

「しくしく……」

Yin、すすり泣き。
そんなYinを不憫に思ったらしい、瑠璃子がそっと近づいた。

「Yinちゃんかわいそう……。」

なでなで……。

「る、瑠璃子せんぱぁ〜い……」

甘えるYin。だが、

「なでにくい……」

その一言と共に、瑠璃子なでなで止め。

「る、瑠璃子せんぱぁ〜いィッッ……!!!!!」

Yin、轟泣。
そう、新たなる発見。
アトム頭は撫でにくかった!

「お前らぁぁぁっ! 俺達を無視するなぁぁっっ!!」

途中から放って置かれた橋本達が叫ぶ。
それに対して……

「だって、お前ら結局雑魚だし。」
「ですよね。」
「ていうか、さっさとボスを出せよ。」
「うんうん。」
「……。」
「〜〜♪(暇なので踊っている)」

以上が、アフロ同盟側の回答だった。
そう、所詮橋本&矢島に対する認識など、この程度である。
順当ではあるが。
今度は橋本&矢島号泣。

「しくしく……お前らなんか……お前らなんか……ボスにやられちまえ〜っ!」
「そうだそうだ、やられちまえ〜っス! ってことで、おいでませ、ボス!」

号泣しつつ、そう言う。
二人の声と共に、何処からともなく現れる影。
ざしゅっ……
陽炎立ち上る中から現れたその影……。
立派(うざったいとも言う)に蓄えられたヒゲ。
この学園ではよく見掛ける馬面。
そしてスノーキャップ。
その人は……

「「「「フランク長瀬!?」」」」

アフロ同盟’sは一斉に声を上げる。
そう、第一購買部の主、フランク長瀬。
長瀬一族の中でも比較的普通の人だと思われていた彼が、そこにはいた。

ひゅお〜。
緊張した空気が流れる。
Yinも、デコイも、とーるも、アイラナも、そして瑠璃子も(?)取るべきリアクションに迷い、
立ちすくんでいた。
TaSはだけは相変わらず、我関せずとばかりに踊り続けていたが。

フランク長瀬の手が、その背へと伸びる。
緊張する一同。
ばっ!
その時、彼らは戦慄した。

(さっ)
『(さっ)ごきげんよう。』

説明しよう。
彼らが戦慄したのは、フランク長瀬の言葉のせいではない。
むしろ、彼のその言葉の伝達方法……即ち、コミュニケート手段に戦慄したのだ。
そして、それを見たときの反応は、まっぷたつに分かれた。

「「プラカード??!!」」
「「ら○ま??!!」」

そう、フランク長瀬の手には、プラカードが握られていた。
そして、そのプラカードに、彼のメッセージが綴られていたのだ。

「そ、そう言うキャラだったのか……。」

絶句するデコイ。
そう、そういうキャラだったのだ。作者が決めた。
ほわるば本編でも、きっとこういう手段で主人公と会話していたに違いない! ああ、違いないともさ!

しばらく絶句していた一同だったが、まず最初にとーるが我に返った。

「そっ、そうだ! それでフランク長瀬さん、なぜYinさんの頭をあんな(ちらっ)…………ぷっ
………………………………………………………………………………………………………………………
…………………………ふぅ……あんなふうに刈ったんですか?!」

とーるのその問い掛けに、フランク長瀬は不敵にニヤリと笑って(プラカードで)答えた。

『(さっ)それは我々が……』
ばっ
『(さっ)禿頭会だからだ!』

その言葉(プラカード)と共に、彼はキャップを脱ぎ捨てた。
ぴかぁ〜んっ!
光、眩しい光。
それはフランク長瀬の頭から発せられる光。
そう、光の源は……彼の頭頂の見事な真円の禿だった。

「「ザビエル??!!」」
「「カッパ??!!」」

「そ、そう言うキャラだったのか……」

もう一度デコイ。
そう、これも作者が決めた。
きっとほわるば本編でも……(以下略)

「ってことは……橋本と矢島も?」

「ふ、ふふ……その通りだ!」
「見るなら見やがれぇぇぇぇっっ!」

橋本と矢島は、それぞれ叫ぶと共に、”それ”を脱ぎ捨てた。
もはや、やけくその気合いである。
そのやけくそさ加減から、彼らもフランク長瀬に強引に仲間に引き込まれたことが伺い知れた。
ぴかぁぁん!!
光る光る。ヅラの下から現れたハゲは、さらなる輝きをもってYin達の目を直撃する。

「ふ、フランク長瀬……あなたは一体?」

目元を手で覆いつつ聞くとーる。
フランク長瀬はニヤリと邪悪な笑みを浮かべて答えた。

『(さっ)貴様らには分かるまい……若き頃から「若ハゲ」の渾名を与えられたこの私の屈辱!
 その苦しみ!悲しみ!……。
 だから私は復讐するのだよ……人類全てを禿頭に変え、禿頭の名の元に支配することで!
 ……フフフ……はぁ〜っはっはっは!!』

「わ、若ハゲだったのか……。」
「だからいつもキャップをかぶって……。」

『(さっ)そう言うことだ! 我々禿頭会の行く手にふさがるものは、全て排除する!
 まずは貴様らアフロ同盟からだ!!』

フランク長瀬は昂然と(プラカードで)宣言した。

「ほほゥ……それは聞き捨てならないデスね。」
「ま、ますたぁ?」

それまでただ踊っていただけだったTaSの、ただならぬ雰囲気に、一同は驚いた。

『(さっ)ふふん、我が挑戦を受けるか? アフロ同盟首領・TaS!』

「ワタシがアナタの間違いを正シ、アフロのスバらしさを教えてあげまショウ!」

ばばぁ〜ん!!
飛び散る火花、燃え上がる炎、轟く雷鳴、打ち寄せる大波、舞い踊るアフロ、煌めく禿。
緊迫した……いや、圧迫した空気を漂わせる二人に、双方のメンバーもまた息を飲んだ。
……ただ一人、その場にたまたま居合わせたXY−MENを除いて。

「……ひょっとして、その決闘もここでやるのか……?」

これまでの、常軌を逸したやりとりを呆然と見守りつつ、彼は呟いた。
そんな妖しげな決闘を店の前でやられては、客が引いちまうのではないか?
と心配するのも当然であるのだが、彼のそんな心配など、アフロ達と禿達の知ったことではないのだった。
フランク長瀬は言う。

『(さっ)勝負は一時間後だ!』


(後編へ続いたり)