テニス大会エントリーL「それでいいわけないだろうっ!」 投稿者:XY−MEN
夕暮れ時の校庭。
まばらな人影から長い影が伸びる時間。
落ちかけた陽が辺り一面を紅く染める中、一人の男が校庭の隅、テニスコートへと歩み寄る。
それは、XY−MENだ。
彼はコートを囲むフェンス沿いをしばらく歩くと、その端にある、やはりフェンスで構成された扉を
おもむろに開けた。
フェンス……ボールを戒めるその壁が囲うコートには、既にテニス部員の姿はなく、
ただ一つの人影が、ぽつんと立っていた。
濃緑のショートカットを夕の風に揺らしていたのは、河島はるか。
Leaf学園テニス部顧問。
XY−MENは、微かに緊張した面持ちで、彼女へと歩み寄る。
だが、はるかは相変わらず、何かを見ているような、何かを考えているような、どちらでも
ないような表情のまま、同じ場所に立っている。
はるかのすぐ横まで寄る。
はるかはやはりそのままだ。

「はるか先生……」

XY−MENがはるかを呼ぶ。
反応無し。

「はるか先生……?」

やっぱり反応無し。

「おいこら先生っ! 聞こえてるんかいっ!」

ゆさゆさ!
はるかの肩を揺さぶるXY−MEN。
ちょっとの間を置いて、はるかは「ん?」とゆっくり顔を向けた。
まるで、今気付いた様でありながら、それでいてなんの驚きもない穏やかな表情。
XY−MENは、そんな穏やかな反応に少しはぐらかされた様な気持ちになりながら、
気を落ち着け、顔を引き締めた。
ゆっくり息を吸う。そして、吸った分を吐き出すのと同時に言った。

「はるか先生、オレとテニス大会に出てくれっ!」

XY−MENの影の黒は、赤い世界の中で、くの字に曲がった。



テニス大会エントリーL「それでいいわけないだろうっ!」



遡ること少し前。
XY−MENは放課後の定位置、自分のたこ焼き屋の中で、ぼんやりとたこ焼きを焼いていた。
既に来客のピークが過ぎ、ごく偶にしか彼の屋台に近づく人間もいない。
彼は淡々とたこ焼きを焼き、ひっくり返し、あるいは鉄板を油でぬぐう作業を繰り返す。

「XY−MEN君はテニス大会に出ないんですか?」

ふと、そんな事を聞いたのは神無月りーずだ。

『暗躍生徒会主催・男女混合テニス大会』

数日前に告知されたこのイベントを巡って、校内はにわかに色めき立った空気に
包まれている。

『優勝賞品:ペアで鶴来屋温泉郷二泊三日の旅』

訳すると、『大好きなあの子と温泉旅行でラブラブの旅(チャンスですぜ、ダンナ♪)』になったりする。
その賞品を巡ってか巡らなくてか、誘い誘われ参加者は続々と名乗りを上げ始めている。

「けどなぁ……」

XY−MENはため息を付く。

「楓ちゃんを誘うにはあんまりな賞品じゃないかよぉ〜?」

そう、彼の思い人は柏木家の三女なのである。
『鶴来屋温泉郷二泊三日の旅』なんてのは、彼女にすればいつでも出来るものであり、
と言うことは、それで誘うというなら、残るは男の下心のみ、である。

「そんなん出来るかってぇの。」

彼はハッキリ言って聡明ではなくおバカだし、こと楓に関しては一途であったが、その程度の思慮
はあった……と言うか、奥手であった。

「ま、確かにそうですねぇ。 それに、楓君は体を動かすのは好きでは無さそうですし。」

「だよなぁ……。」

そう言うわけで、XY−MENの結論は「出ない」なのであった。

「まぁ、イベントがあるって言うならオレにとっては稼ぎ時だ。
 せいぜい商売に精をを出すさ。」

「ですか。」

りーずは苦笑の様に笑った。

「甘いものだな……。」

いきなりXY−MENにその言葉を掛けたのは……そう、西山英志だった。
いつそこに現れたとも知れず、その場に立っていた。

「何……?」

いきなりの出現といきなりの言葉に狼狽するXY−MEN。
西山は、そのXY−MENにズバっと一枚の紙切れを突きつけた。

「俺は既にエントリーを済ませたぞ。……楓とな!」

「なっ?!」

ガガーンと効果音。
XY−MENは、愕然として西山の手から紙切れを引ったくり、目を見開いて覗き込んだ。

それは、テニス大会のエントリーシートだった。
そこには西山と楓の名、そして暗躍生徒会の判が押されている。
即ちは……二人はエントリー済み、と言う事になる。

「きっさまぁ〜っ! これをどうした!?
 偽造か?! 脅迫か!? 薬をかがせたとかっ!?」

「そんな訳あるかぁぁぁっ!!
 正当な形で楓に頼んで、OKを貰ったのだっ!!」

正確には、暴走寸前で楓に頼み込んだという経緯があるため、2番の要素を含んでいる
と言えない事もない事もない事もない。

「フン、と言うわけだ。 
 ともかく俺はテニス大会に楓と出場し、そして必ず優勝を掴み取ってみせる!
 ……残念だったな?」

西山は、にやりと笑った。
言うまでもなく、「残念だったな」の言葉の内には、「そして楓と温泉旅行だ、らぶらぶぅ!
……残念だったな?」の意が込められている。
XY−MENは震えた。

「今日はそれを言いに来ただけだ。」

西山は、ふっと鼻で笑うときびすを返した。

「さらばだ、哀れなる敗残者よ!」

わぁ〜っはっはっは!
西山は高笑いを残して去っていく。
そして、その場は元の通りの静寂に戻った。
いや、違う。
XY−MENだけが、元の通りではなかった。
肩を震わせ、瞳には炎を宿していた。
そう、怒りの炎、復讐の炎、その他諸々炎。
ともかく、彼は今燃えていた。

「りーず君ッ!!」

「は、はいっ!?」

いきなり怒鳴ったXY−MENに、りーずは縮み上がった。

「オレは出るっ! テニス大会に出るぞっ!」

「あ、ちょっと……」

XY−MENはそうとだけ言うと、ずんずんとどこかへと歩き去ってしまった。
後には呆然としたりーずが残されたのみである。

「……屋台片づけなさいなってば……」



と、言う経緯があって現在。

「頼むっ、確実に優勝を狙うためには、パートナーははるか先生しかいないっ!」

XY−MENの姿勢は「く」から「┌」に変わる(ややこしい)。
彼がこうまで人に頼む事など、空前のことだった。

「オレは、オレは絶対優勝しなきゃならないんだっ!!」

彼は、彼の熱意情熱誠意等々すべてを尽くしていた。
それに応え、はるかが口を開く。

「XY−MENくん……」

「はいっ」

「私、九条くんと組んじゃったから……」

はるかは笑顔で答えた。

「はい……?」

……ここで一句。

長い引き
待ちに待たせて
オチはそれ

いや、こんなオチを付けるつもりは無かったのだ、ホント。
ただ、作者がのろのろ書いている間に、気付いたらくまさんに先を越されただけだったりする(笑)
情けね〜。
しょーがねぇであろう。不可抗力である。
よって、予定していたストーリーは、ここから激変するのである。

……XY−MENは、肩を落としてその場を去った。
見送るはるかは、ふと思い出して呟く。

「……重複エントリーって、出来たはずだけど……」

そんな事、要項すらろくろく読んでいないXY−MENが知る由も無いのであった。



夕焼けが……ああ夕焼けが赤い。
はるかに振られたXY−MENは、ただ一人校庭をとぼとぼと歩く。

「どーしたもんか……?」

いきなりであるが、はるかがダメだったことでパートナー探しは暗礁に乗り上げた。
勝ちにこだわる以上、ちゃんとテニスを出来る相手を選びたいのだが、あてはない。

「……この際、名前が無くていいから、テニス部の女子でも頼るか……?」

何やら意味不明なような不穏な様な事を呟く。
ちなみに、それをやるにしても、あてがないのには変わりがない。

「ふぅ……八方ふさがりか?」

そんな思いが頭をよぎって落ち込みかける。だがしかし、

『……残念だったな?』

西山のその言葉を思い出したXY−MENは、もう一度猛然と奮い立った。

「いや! 諦める訳にはいかないっ! 西山の優勝だけは絶対阻止してみせるっ!!
 楓ちゃんとペアで温泉旅行などさせてなるものかぁっ!!」

「よくぞ言ったわ!」

不意に背後から掛けられる声。
握り拳に中腰で叫んでいたXY−MENは、慌てて振り返った。

そこには、長い髪をなびかせる少女が立っていた。
EDGE。
西山英志の実妹。
EDGEは端正な顔に不敵な笑みをにっと浮かべると、出し抜けに切り出した。

「兄様の邪魔をするというのなら……力を貸してあげていいわよ? 先輩。」

突然の登場に意外な提案。
XY−MENは、まず意外そうな顔をし、次に怪訝そうな顔をした。

「どういうつもりだ? 西山の妹が、なぜオレに手を貸すと?」

疑ってかかるXY−MENに、EDGEは事も無げに答えた。

「先輩、私はね……兄様をいぢめるのがだぁ〜い好きなの!
 ふふっ、楓さんと温泉旅行なんて、そうは問屋がおろさないわっ!」

「はぁ……」

……かなり、XY−MENの予想とは違う答えであった。
嬉々として話すEDGEに、なんだか疑念が薄れると同時に兄妹ってこんなもんか?
と思ったりもするXY−MENだった。

「で、先輩にはいいパートナーを用意してあげる。 カモン、レディー!」

パチン、と指を鳴らすEDGE。
それに応え、一つの女性の人影が現れる。
XY−MENはそれに見入る。
まず印象に残ったのは、その顔の上半分を覆う仮面だった。
ミステリアスな仮面の美女……と行きたいが、しかし……。
長い黒髪、すらっとした長身の女。
そして……

「お呼びでしょうか?」

冷然としたハスキーボイス。
真っ白のシャツと真っ白のスカート……いわゆるテニスルックを着、右手にラケット左手に
テニスボールを握っているているとは言え、どう見てもバレバレである。

「と、言うわけで、彼女が先輩のパートナー、仮面のテニス美女レディー・Yよ!」

EDGEが笑顔で紹介したが、XY−MENはあんまり聞いてなかった。

「あの〜……篠塚先生?」

99.99999%、間違いなく篠塚弥生その人であった。
……が、

「……違います。私は仮面のテニス美女、レディー・Y。 それ以上でもそれ以下でもありません。」

「いや、でもどう見ても篠塚先生……。」

「レディー・Yです。」

「……あ、そう。」

理由は不明だが、どうやら、どうあっても仮面の美女、レディー・Yで通したいらしい。
自分のコトを美女っていうかな〜?とか、誰が見ても分かるのにな〜とか思いつつ、
それ以上の追及を諦めるXY−MENだった。
それより……、

「まぁ……それはともかく、しの……いや、レディー・Yはテニス出来るのかよ?」

XY−MENにとっては、レディー・Yの正体より、そっちの方が問題だった。
EDGEはその言葉を聞くと、にっと笑ってレディー・Yに目配せした。
待ってましたと言う感じである。

「では、私の腕を確かめて頂きます。」

レディー・Yはそう言うと、左手に握ったボールを高く投げあげる。
XY−MENは息を飲んだ。
なぜなら、その仕草が非常に柔らかく、しなやかだったからだ。
ボールが頂点まで上がりきり、そして落下する。
弓なりに溜められた全身。
それを一気に鞭の様にしならせる。

シュパンッ!

レディーのラケットが的確に芯でボールを捉える。
全身の力を込められたボールは空を走り、XY−MENの頬をかすめて後ろの地面に突き刺さった。

XY−MENは、あごを抜かした。
ひとしきり呆然とすると、慌ててあごを入れ直す。
EDGEは満足げな笑顔をみせた。

「どう?先輩。 これだけ出来るパートナーはそうはいないわよ?」

そう声をかけた。
見ると、XY−MENは震えていた。
そう、それは武者震い……。

「これなら……これならきっと西山の優勝を阻止出来るっ!」

……と、非常に短絡的に喜ぶXY−MENであった。
EDGEはうんうんと頷く。
ただし、その頷きには「優勝出来るわね」の意味でなく、「ほ〜ら、はまった」の意味が
込められている事に、XY−MENは永遠に気付かないことであろう。

「では、特訓ですね。」

盛り上がっている二人の間に入り、出し抜けにレディー・Yが言う。

「特訓?」

「はい。勝つための特訓です。
 特に、あなたはテニスの経験が無いですし、限られた時間の中で、完璧な
 コンビネーションを完成させなければなりません。
 ……死ぬほど特訓してもらいます。」

やはり冷然と言うレディー。
だが、既に脳味噌に上昇気流が渦巻いているXY−MENは、二つ返事なのだった。

「おう、任せとけ! 早速特訓だ!」

そう言うと、EDGEに礼を言うのも忘れ、XY−MENはレディーを引っ張って
テニスコートに消えていった。

「頑張ってね〜」

EDGEはそんな二人を見送った。
後には彼女だけが残される……いや、もう一人。

「上手くいきましたね、師匠。」

何時からそこにいたのだろうか?物陰から現れたのは、ハイドラントだった。

「ま、ね。 これで後はハイドくんと私が出れば……」

「役者は揃う……ですね。 俺はゆーさくと綾香の優勝を阻止するため……」

「私は兄様を妨害するため……」

師弟はがっしと手を握り合い、ニヤリと顔を見合わせた。
と、ハイドラントはふと神妙な顔をする。

「何よ?」

「いえ、あいつ、本当に死ななければいいんですがね……まぁ、死なないか……犬だし。」

レディー・Yこと篠塚弥生が「死ぬほど」と言ったからには、至極本当に死ぬほど特訓するだろう
事は、身に染みて知っているハイドラントだった。

「にしても、何で仮面付けるんだろーか? 弥生さん……。」




次の日。
とある放課。
生徒達が忙しく行き交う中、廊下の壁の掲示板に見入る西山がいた。

「ふ、やはり来たな。」

口元をゆがめて笑う。
掲示板に張り出されたのは、テニス大会の追加エントリー者の名だった。

『XY−MEN・レディー・Y組』

その一行を見つめる。

「そう来なくてはな……」

そう、西山はそれを望んでいた。
XY−MENとの対決を。

西山は、風見を止めるためにもテニス大会に出なければならなかったし、だったら
パートナーは楓で無ければならなかった。
SS不敗、マスターカエデとして譲れない意地である。
だがしかし、例え早い者勝ちが今回の……そして恋のルールだとしても、彼はそれを
自分自身認める気にはなれなかった。
所詮は出し抜いたに過ぎないではないか、と。
だから、彼はXY−MENを挑発したのだ。
XY−MENなら、その挑発を必ず受けるだろう事を信じて。

「そして、来た。」

西山は満足そうな表情を浮かべた。
後はコートの上で決着を付けるのみ。
格闘家(おとこ)は所詮拳と拳で語ることしか出来ない不器用な生き物。
彼の信念である。
そして、これはそれが形を少々変えただけのものに過ぎない。

「……一度、奴と心ゆくまで戦り合ってみるのもよかろう!」

西山は、闘気を全身に漲らせた。
まだ来ぬ対決に心を躍らせて。

「ところで、何でコイツらまで出るんだ?」


『ハイドラント・EDGE組』



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テニス大会参加L完成。
と言っても、いつもにも増していい加減な出来ですが(笑)

あ、何で弥生さんがテニスできるかは謎です。
多分、昔やっていたのでしょう、うん(笑)
ちなみに、何で仮面を付けるのかはそれ以上の謎です。なんでだろ?(笑)

と言うわけで

「XY−MEN&レディー・Y組(自薦)」

「西山英志&柏木楓組(他薦)」

「ハイドラント&EDGE組(他薦)」

を推薦します。一気に三組増やすか、自分(笑)
西山さん、ハイドさん、EDGEさんには了解を取ってありますので。